ろことか浪老子とかロギュンとか
2025-12-08 23:14:49
3149文字
Public 東ディバ
 

【東ディバ】Just a ” ”

20251208 諦められない彼ら
ギムレット……遠い人を想う
ラスティネイル……私の苦痛を和らげる
アメールピコンハイボール……分かり合えたら

 ドアを開けばカラン、と小気味良いベルが鳴って来客を迎え入れる。
 ここはオブスキュアリ寮。その内部で個人的に運営されているバーだ。
 
 入口から入って広くはないスペースを道なりに進めば、そこには見知ったバーカウンターを切り盛りする見知った男と、相変わらず飲んだくれている見知った客が一人いた。
「あー! いらっしゃいロミロミ☆ そろそろ来るかな~ってちょうど話してたんよ~」
「おーロミオ! 近頃すっかり冷えてきたけえ、おめえの席も温めといたぞ。わしのケツでな! ガハハ!」
 カウンターの内側でグラスを拭く観月累。
 既にできあがっている酔っ払い艸楽陽。
「相変わらず揃って欲しくない時に限って揃ってくれてるねぇあんた達は」
 そして最後の客が、機嫌の悪さを隠そうともしないロミオ・S・ルッチである。
「大体、何で俺がそろそろ来るなんて話になるわけ? 今夜ここに来ることは誰にも言ってないんだけど」
「いやほら、俺ちゃん今日たまたま校舎に用事あってさ? そこで聞いちゃったんよね~。シノストラ寮生の話」
 ロミオが問うても、苦笑する累からは明確な答えが得られない。
 わかったのはただ、処罰すべき寮生がいるということだ。
「へえ。どんな噂だか知らないけど、内容次第じゃこっちにも考えがあるってもんだ。そいつ、何喋ったの」
「そうカリカリせんでええと思うがの~。むしろ心配しとったらしいぞ?」
「だから何の!」
 
「大我とやり合うて、おめえが泣かされたって」
……はぁ?」

 それまで厳しい視線で陽を見ていたロミオの表情が、やり場を失ったように呆気に取られて脱力する。
「泣かされたって、何? 俺がボスにってこと?」
「大我は俺様じゃからな~! 大方おめえと喧嘩になって、なんや酷いこと言いよったんじゃろ。そんな時は累の酒が恋しなるっちゅうもんじゃ、うんうん」
「ちょっと、酔っ払いの頭で勝手に話作んないでくれる!?」
「ロミオもそうやって素直になれんけえ、喧嘩になってまうんじゃなぁ」
「違うって言ってんだろ! 肩組むんじゃないよ!! 酒臭い!!」
 呆気に取られていたのもつかの間、陽が絡み酒に及び肩へ腕を回そうとすると強制的にその腕を解いた。
「ミっくんも、俺の酒いつまで待たせるつもり!?」
「ああ、ごめんごめん! で、今日はどの気分? いつものでいいの?」
 完全に貰い事故で怒りの矛先を向けられた累だが、いつものことなので驚いたりはせずそのまま注文を聞く。変わらない態度に少し落ち着きを取り戻したのか、ロミオは目を閉じて一息ついた。
……はあ。今日こそ一人で飲みたかったのにさ」
「そう言わんと! 悩みなら聞くけえ飲み飲み!」
「あんたはさっさと酔い潰れてな。……ギムレ、」
 陽を適当にあしらって注文を入れようとしたロミオが、不自然に固まる。
「ん? ギムレット、でいいの? あるけど」
…………いや。ラスティネイルにしといて」
「了解☆ ちょい待っててね~」
 ロミオが注文を変えた理由は特に聞かず、累は手元のグラスに氷を四欠片、更にドランブイとスコッチ・ウイスキーを注ぎ入れてゆっくりとステアする。混ぜられた氷がたてる緩やかな音がバーに流れるピアノ曲と合わさって、ロミオの思考を凪いでくれるようだった。
「はい、ラスティネイルお待ちどうさま」
「ありがと。…………
 カウンター越しに渡されたカクテルを受け取ると、ロミオは静かに一口だけ飲んだ。しかし、それ以上は飲まずにグラスがテーブルへ戻される。
……悩み、ってんじゃないんだけど」
 いつの間にかあれだけ騒いでいた陽が静かにテーブルに突っ伏しているのを確認して、ロミオが呟くように口を開く。
「ん。やっぱりタイちゃんのこと?」
「とりあえず、泣かされたとかじゃないから。でもあいつ、よりによって……!」
「あ~……なんか誤解されちゃった感じ?」
「別に、今更誤解されたって痛くも痒くもないけど。言っていいことと悪いことってもんが……っ」
(これ、長くなりそうだな……
 聞き過ぎず、踏み込み過ぎず、無関心過ぎず。累は少しずつ零れ落ちるロミオの愚痴の聞き役に徹することにした。

 累から見る限り。そして陽も凡その見方は同じで。
 犬猿の仲とされている大我とロミオだが、根本的には今でも互いが特別であることは言うまでもないと思っているのだ。
 ただ、様々なことが行き違って、すれ違って、不本意に溝が深まってしまっているだけで。銃口を向けあうほどの溝の深さでも、どうやら彼らの間には切っても切れないものがあるように感じられて。それが感じられる限りはどれほどの大喧嘩をしたとしても、二人の関係が切れてしまうことはない……という見方をしていた。
 今回の件もそうだ。またいつものことだろうと。
 寮生が見たらしいという『泣いたロミオ』についてだけは気にかかるが。

「タイちゃん信じてるんだよね、ロミロミはさ」
 ロミオから一通りの愚痴が零された後、累は手元で新たなグラスを用意しながら続ける。
「はあ!? あんた人の話聞いてたのかい!?」
「だってそうじゃない? 信じて、期待してるから、裏切られる度に喧嘩しちゃう。でもほっとかないじゃん、タイちゃんのこと」
「仕方ないだろ……うちのボスはあいつだし、いてくれないと困るし。いても問題ばっか起こすけど」
「わかる~~☆ うちの頭領も全然仕事しないかんね~~」
 寮長として全く信用ならない(と、少なくとも副寮長は思っている)大我とエドワード。折につけその苦労に共通点を見つけては、累も度々共感を示してきた。今日もその流れだったはずだ。
 
……知ってるからさ」
 ぽつりと、独り言のように零された言葉。
「ほんっと迷惑でしかないし、諦められたら楽なのもわかってるけど。……知ってて諦めるのはできないから」

「知ってるって、昔のタイちゃんのこと?」
「それもだけど。それ以外も」
「へぇ」
 短く返事をした累が手元で作業していたグラスをカウンターに上げると、ロミオの方へ差し出した。
「何これ」
「アメールピコンハイボール! 俺ちゃんからのサービス☆ この深い赤、お洒落でしょ」
「ハイボールなんて寄越すんじゃないよ……まあ貰っとくけど」
 赤い炭酸のカクテルをロミオが飲む姿を、累は満足げに見ていた。
「なんだかんだで諦め悪いロミロミのそういうとこ、俺ちゃん嫌いじゃないよん」
「それ褒めてるつもり?」
「ロミオの欲深さはグール一じゃからの~」
「あんたには言われたくないよ!! そのまま寝てな!」
 ロミオに頭を叩かれると、「暴力反対じゃぁ~」などとぼやきながら再び寝落ちる陽。――ここまでの話を聞いていた辺り、本当に寝落ちているのかは怪しい限りだが。
「はぁ……何か喋り過ぎた気がする。今日はそろそろ帰るよ」
「はーい。ハルりんは……一人で帰れそうにないし、今日は泊まってってもらおっか」
「ったく、こいつ大丈夫なの? 前より悪い酔い方してる気がするけど」
「あはは……俺ちゃんもちょっと心配ではあるんだけどね。まあ、ハルりんもいろいろあるんでしょ、きっと」
 カウンターでぐっすり寝ている陽と、それを見下ろす累を順に見て、ロミオはひとつため息をつく。
「ほんっとに、どいつもこいつも。まともな奴がいやしない」
「たしかしー!」
「笑い事じゃないんだよ!」
 
 諦めようとして、諦めきれないものに振り回されて、どうしようもなくなりそうな。
 危ういものを抱えたまま、彼らの夜は今日も更けていく。

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