早馬を飛ばすならともかく馬車の旅はのんびりとしたものだ。一週間ほどかけて王都に向かう。一人旅よりも時間が掛かるのは、主に共周りの移動に時間が掛かるためだが、道中は館から目の届きにくい領地内の査察や、領主としての示威行為も兼ねている。
であるならば、もっと仰々しく出立するべきなのだが、今回は途中で抜け出すという謀があった。トルガとしては少人数の方がいい。早々に動くだろうと予想はしていたが、もし初日でジョアンが動かなければ数日は無能ぶってわがままを言うか、尊大な態度を取るかして引き延ばし、日程を遅らせなければならなかっただろう。
ジョアンがせっかちな気の短い男で助かった。
一週間ほど、旅程に余裕ができたことになる。
ともあれ、暇なわけではない。時間があればいくらでも使う。
新しく領主となった。困り事があれば相談してくれ。
そう社交辞令じみた挨拶を交わしながら、ディルストーンの領地に向かって進む。
数日後と、後方に土煙が見えた。
後方というのはつまり自分の領地から追いかけてきているということで、敵であった場合もはやできることはあるまい。自分たちに向かってきていることに気づいていたが、その一行について警戒はしていなかった。速度を上げて追いついてきたそれは、家からの使いで、ジョアンからの書状を携えており、トルガがディルストーン領に入る前に追いつくべく、数日前に館を出たのだという。
馬車の中で書状に目を通すと、乗り物酔いを催すくらいに長ったらしかったが、噛み砕いていうとリュネストの代表ならば、もっと偉そうに出かけて行けと、そう言うことなのである。そのために身の回りの世話をする人間を追加したらしかった。
トルガに向ける敵愾心が、他の家に対して向くようになったのならいいことだ。
ジョアンがトルガのところに人を寄越した。その行動の動機が本当のところなんであっても、構わないのだ。プレッシャーをかける目的であれ、監視であれ、リュネストの見栄であれ、その判断は役に立っている。
特にジョアンが荷物に忍ばせた毛皮のコートは大いに役に立った。レシーと比べれば、バンデイアの土地そのものが北に位置する。
故郷を離れてしばらく経つが、いつまで経ってもディルストーンの領地に入ると、異国にきたのだという感慨が強まった。
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