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雪成はす子
2025-12-08 22:01:30
3037文字
Public
ポメガバース
I'm not LILY
🐧🐬(🐧不在)
ポメガバース設定で🐧不在でポメラニアンになったシャチと船番ゆえにシャチのお世話をしているクリオネくんの話
👼くん視点でかつて島に降りた時に遭遇した嫌な事件を回想してるだけです。🐧はほぼいません
ポメ🐬、絶対一回はこういう事あったんじゃないかなーって思ってたらつい出来心です←
無断転載・AI学習・コピペ・自作発言禁止Repost is prohibited
シャチはポメラニアンである。
……
否、今のシャチはポメラニアンである、と言った方が正しいだろうか。
オレの膝の上で、ポメラニアンのシャチはもふもふの体を丸めてオレにブラッシングされている。ふさふさの尻尾が左右にブンブン振れていて、どうやらシャチは随分とご機嫌らしい。
シャチの毛は長い。茶色の毛が全身に広がって、まんまるの毛の中にちょこんと短い足とふさふさの尻尾が出ている様は、とても可愛らしいと思えるのかもしれない。
けれど騙されてはいけない。
コイツはあくまで人間で、あくまでゴツイ肉体を持ったれっきとした成人男性だ。
たまたま今はポメラニアンになっている、それだけだ。
コイツはあくまで生まれつき『ポメガバース』という体質であったが故にポメラニアンになってしまっただけの、ただの人間なのだ。
……
そう、分かってはいるのだ。シャチはあくまで人間なのだと。
けれどコイツのふわふわの毛並みは、島に上陸すればたちまち島のお姉さま方を魅了し、子供たちにもみくちゃにされ、年寄りからはおやつにとジャーキーを咥えさせられてしまう。
普段のシャチの姿を知っていても、ポメラニアンになったシャチにはうっかり触れずにはいられない、そんな魔性の引力を持っている。
それも全て、シャチの毛がふわふわなのがいけない。
普段から髪の手入れを怠らないシャチがポメラニアンになるのだ。入念に手入れされた手触りのいい髪の毛(とは言ってもオレはシャチの髪にちゃんと触った事は無い。あくまでペンギンがそう自慢していたのを聞いていただけだ)を持つシャチがポメラニアンになれば、その毛がふわふわになるのは必然とも言えた。
奔放に外側に跳ねる癖毛はそのままに、つやつやの手触りがポメラニアンの毛にそのまま反映されている。
動物好きならば一目見ただけでよく手入れされた毛並みなのが分かるだろうし、それが分かれば触りたくもなるだろう。
そうして島に降りる度にもみくちゃにされ、果ては連れ去り未遂にまで発展したという珍事もあった事により、現在はポメラニアンと化したシャチの島への上陸は禁止されている。
ポメラニアンと化したシャチは艦の外へ出してはいけない
――
いつしかそれは、シャチを含めた全員の暗黙のルールとなった。
ポメガバースという体質が希少だという事以上に、ポメラニアンになったシャチがあまりにも無防備かつ無力すぎるが故に、万が一連れ去られたりしたらとんでもない事になるだろう事は明白だからだ。
そのルールが決められる原因となったシャチ連れ去り未遂事件
――
そう、あれは実に嫌な事件だった。
泣きじゃくる幼女がポメラニアンのシャチを抱いたまま「やだー!! この子はあたしと一緒に住むの!! リリーちゃんはもうあたしの子だもん!!」と泣きじゃくった事が発端だった。
シャチの奪還は難航し、その子の母親共々途方に暮れていた所で幼女の懐に抱かれていたシャチは一枚のコインに変わった。腕の中のポメラニアンが突然いなくなった事で幼女は更に大泣きし、母親が「今度ワンちゃんを貰いに行こっか?」と慰めていたがそれでも中々泣き止まなかった。
繰り返して言うが、あれは本当に嫌な事件だった。
艦に戻った時にはシャチは元の姿に戻っていたが、シャチはがっくりと項垂れたまま食堂の隅で蹲っていた。
「俺、リリーちゃんなんて可愛い名前じゃねえし
……
」
と落ち込むシャチを、ペンギンはぽんぽんと頭を撫でながら慰めていたのを憶えている。
リリーちゃんという可愛らしい名前が付けられそうになった事もそうだが、何よりシャチが落ち込んだ原因はひとえに小さな女の子の手から逃げる事も叶わなかったという事実があまりにもショックだったのだろう。
小さな女の子の腕の中ですらまともに逃げる事も叶わない。
否、シャチの運動神経ならポメラニアンだったとしても逃げられただろうが、逃げる際に彼女の腕をポメラニアンの爪が傷をつけてしまう可能性もあった。幼女の腕でまともに動く事も叶わず、キャプテンが能力を使ってシャチを救出するまでシャチは動けなかった。
その事が、シャチにとっては何より堪えてしまったようだった。
そうして今は、こうして島に停泊している時でもシャチがポメラニアンになってしまった場合はシャチは艦に待機する事が決まっている。
なお、その事についてシャチは特に不満は無いようだった。
むしろ島に降りる度にもみくちゃにされるのが相当嫌だったのか、心の底からほっとしたような表情を浮かべていた。
「俺はそもそも犬じゃねえんだから散歩させなくていいし!! というか知らない奴にあちこち触られたくねえ!! あちこちモフモフ触られてマジ不愉快なんだからな!!」
というシャチの主張には、ベポがうんうんと大きく頷いていた。
「シャチ、終わったぞー。どっか散歩行くか? 艦内だから場所は限られるけどさ」
ブラシを置いてぽんぽんとシャチの頭を撫でると、シャチは嬉しそうにオレの顔を見た。
シャチを膝から降ろすと、シャチはぶんぶんともふもふの尻尾を振りながら 短い足でトコトコを艦内を歩いていく。
船番として残っているのはオレと、舵のメンテをしているハクガンくらいか。
シャチの後を追うと、どうやらハクガンの所へ向かっているらしい。小さな足でチョコチョコ移動する様は、シャチが人間だと分かっていても可愛らしいものだった。
ペンギンが任務で抜けてから今日で四日、ペンギンが居なくなる度に寂しさのあまりポメラニアンになる癖に、ポメラニアンと化したシャチは何とも呑気だ。
ポメラニアンになると精神も犬に引っ張られると言っていたが、恐らくそうやって一時でも犬の精神を借りる事で精神の安定を図っているのかもしれない。
オレはポメガバースという体質に詳しくはないし、何より専門外なのだが、ペンギンが居なくなる事で発生する心の穴を、ポメラニアンの精神が守っているという事なのだろう。
「
……
ま、悩み過ぎるシャチには丁度いいのかもしれねえなあ」
ぽてぽてと歩くシャチの後ろ姿を見ながら、オレはやれやれと肩を竦めた。
ポメラニアンになったシャチははっきり言って足手まといだ。
この姿では戦えないし、艦の整備も何も出来なくなってしまう。
いつものシャチは戦闘でも日常でも頼りがいがあるし、出来る事ならポメラニアンにはならない方が絶対いいってのは、俺も他の艦の奴らも全員分かっている。
けれどそれでも、今だけは。
いつもはペンギンが独り占めしているシャチの髪も、今だけはもふもふの毛になって触れる事が出来る今だけは
――
そこまで考えて、止めた。
シャチにとっても、ペンギンにとっても、この状態のままで居続けるのは良くないってのは、オレたちが一番よく知っているから。
「だから早く帰って来いよな、ペンギン」
もふもふの後ろ姿を追いかけながら、オレはそこにいない奴に向かって密かに呟く。
操舵室の扉を開くと、プルプルプルプル、と電伝虫が鳴っていた。
ハクガンが受話器を取ると、電伝虫がペンギンのぬいぐるみを頭に付けた防寒帽を被る。
『こちらペンギン。あと一時間ほどで戻れそうだ。シャチはどうしてる?』
ペンギンの問いに、シャチは元気よく「ワン!!」と答えたのだった。
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