kuraba
2017-06-10 23:11:10
938文字
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神箱 そらがもえる

6月10日(土) 『朝焼け』
#神箱ワンライ_ワンドロ

この箱庭では現世のものがそのままに在るという。住宅街、ビル群、線路……今居るこの場所、図書館もその一つである。活字はおろか文字や教養といったものに触れる生を過ごさなかったラウルスにとって、ここは謂わばとっておきの場所であり、知ってからというものの時間を問わず訪れている。
図書館は良い。来るものを拒まない。ある人は疑問の答えを探しに、ある人は紙の質感を楽しみに、ある人は征く当てもなくただ気紛れに立ち寄りに来る。自由の象徴ではなかろうか。誰から聞かされるまでもなくそう感じるのも難しくはない程に。


初めは疑問そのものすらも解らなかった。その概念が無かったのだ。何せ生前は奴隷の身の上、人に使われ、人の思い通りに動くことが常であったから。
空が橙に染まる光景は幾度となく目にしてきた。ある者が「見てみろ、あれは夕焼け」と。夕焼けがあるとその翌日は晴れる、とも付け加えた。
(何故そんなものから翌日のことを考えられるんだ?)
長い事この世界に入っていながら初めて聴く『ゆうやけ』の言葉は新鮮なものであった。
その疑問は易くラウルスの脳内で渦を巻き、足を本の聖地へと向かわせたのだった。

空、雲、天気。書架にそれらの文字を見つけると片っ端から手に取り、頁をめくり、なぞりながら文字を追う。箱庭にやってきた他の人間からすると酷く効率の悪い読み方である事は間違いない。それ以上に空の色が変わるその事実を知りたい。何故変わるのか? 何故明日の天気が分かるのか? 調べる内に『朝焼け』が対で存在するとの文に目が止まった。
「『朝焼け 太陽が昇る時、東の空が赤くなること。また雨の前兆ともされる』……ふぅん、あさやけ」
知識欲というものは単純な欲求ながら一度灯ると熱く、太陽が東から西へと向かう程の時間を奪うものだ。目立ちたがりな腹の虫が現実へと引き戻す。窓の外は既に仄暗く、日没の時刻はとうに過ぎたようだった。どうぞ借りていって、汚しては駄目だよ、と司書は快く見送った。


本物の朝焼けを目の当たりにするのはその10時間ほど後であり、降り出した雨の匂いに驚くのはそのまた1日後の事である。




※6/11
《調べる内に〜あさやけ」》までがコピペミスで抜けていたため修正。






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