ジョアンは誇り高いが、レシーへの忠義に厚い男である。いつかトルガの得たものを、丸ごと自分のものにするつもりだという打算もあるだろう。ともかく、今は殺すよりも他の使い道がありここで排除するのは得策ではないと思ってくれればいい。
だからその場でカッとなって殺しにくるとは思ってもみなかった。最初の実戦経験が身内との切り合いというのは、いかにも幸先が悪い。
どうしてそうなる。お前は馬鹿なのか。敵はトルガではなく、主には他の五名家である。気に入らないとて、家の中で強調するのは当然ではないのか。
そう言いたくなるのをぐっと堪えた。煽っても仕方がなかったからだ。
それにこんな展開を予期していないと顔に出すのは、身を守る未知を引き剥がす。
一度刃を抜いた男に、刀を納めさせるのは簡単ではなかった。
それでも結論として、幸運にもなんとか場は納まった。
彼と話す間、トルガはずっと内心を外に出さないように注意深く振る舞っていた。
焦り、もっと息をくれと逸る肺を無視して、深く呼吸をする。
こういうとき、人は無意識に早口になる。意図してゆっくりと話して余裕を演出する。声が震えないように、腹に力を入れた。
殺さないのは弱腰だからではない。こちらが合理的なのだ。
背を向けて立ち去るとき、本当は恐ろしかったのだ。
全てのことに確信はない。
背を向けた瞬間に、刃を拾って襲いかかってくるかもしれない。油断をさせるために納得したふりをしただけかもしれない。家の利を解かれてもやはり己の誇りを優先するかもしれない。トルガの話を理解せず、利を認めないかもしれない。
それでも振り返れば、その瞬間に虚勢が虚勢だとバレる。
馬車に戻り、人目を気にしなくともよくなると疲労が一度に押し寄せてきたのだった。
宿は抜け出していないことになっている。ここからまた夜通しで元の宿に戻り、朝になれば素知らぬ顔をしてディルストーンへの旅程を進めるのだ。
「綱渡だな」
不規則に揺れる馬車の中で、トルガは項垂れて顔を覆った。
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