望月 鏡翠
2025-12-07 23:01:51
848文字
Public 日課
 

#1930 ミノーフィッシュの男たち8

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作


 大人として扱われるようになり、相応の立場を得てからついぞ口を出ることのなくなった悪態が車室の中に満ちた。外にいるエリセオには聞こえなかったはずだが、聞こえても構うものかと思った。吐き出さねば心臓が鎮まりそうになかったのだ。
 首筋に手をやると、冷や汗でびっしょりと濡れていた。夜闇の魔法は、虚勢を真実にして、人を望んだ通りの姿に見せてくれる
 夜の女を助ける魔法はトルガ自身も助けてくれただろうか。この動揺を隠し、肉薄した一瞬も見抜かれはしなかっただろうか。
「クソ、貴族だの騎士だの、どうしてああもすぐに殺し合いたがる」
 馬車の座面を殴りつけ、そのまま手をかけてようやく床から身を起こす。
 手がまだ震えていた。押し殺すように拳を手で握り締め、まだ恐怖が抜けない我が身を嘲弄した。
 見ろ、結局このざまだ。
 だが、これは誰にも知られてはいけないことだ。
 未知だけがトルガを助ける。
 〝理由はわからない〟が、トルガに動きが漏れていた。見透かされていた。先回りされていた。だから、それがわかるまで、下手な企みはできない。
 〝誰かわからない〟が、屋敷の中に協力者がいて人を動かすことができる。本国にトルガを支持する層がいる。だからそれが誰なのか明らかになるまでは、下手に動くことができない。
 実際のところどうなのかをジョアアンが本国に尋ねるような事態になってはならないし、本当は協力者がトルガに惚れているメイドとエリセオくらいしかいないのだということを、知られてはならない。
 底は深い。見えている部分は、ほんの一部だと思わせることが、敵対的な動きを牽制する。
 他勢力が、いきなり戦に踏み切らないのと同じだ。勝ち筋を見つけ準備が整うまでは、動かない。かわりに底の浅さが見抜かれた瞬間に、牙を剥くだろう。
 そうなる前に本当に力をつけなければいけなかった。
 ディルストーン家との交渉を成功させて、家に利益をもたらし、リュネストが玉座を取るのに絶対に必要な男なのだとわからせる。