幸希(ユキ)
2025-12-07 20:32:21
3524文字
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思いつき。いつかどこかで、「吉行の刀は槍もあったし長物の扱いも出来そう」という話を見たのを思い出したら浮かんできた。
刀剣男士の身体能力の高さを見せつけられたい。
タイトルは思いついたら追記します。


※個人的に刀で人外とはいえ、人の形をとる以上鼓動は聞こえてて欲しいという願いがあるので、そこからくる表現があります。弊本丸はそういう感じです。

六花本丸。【りっか】じゃないよ。【むつのはな】。
この本丸の手合わせ道場は奥まったところにある。普段は内番で当たった子達が使うが、時々自主鍛練したい子が使用することもある。

『勢いが凄まじいせいで危ないき、主は来る時誰かに同伴してもらうこと』

そうむっちゃんと約束している。実際、いつだかに手合わせを見に行ったら、ちょうどその時は肥前とたぬがやってて、風圧がすごかった。殺気もすごくて、呆然と見つめるしかなかった記憶。危ないと言われるのも納得の光景だった。

(あの時すごかったなぁ。)

思い出したらまた見たくなって、たまたま近くを通った巴を捕まえて道場に行く事にした。



道場に近付いてくるとカン、カンと木刀の打ち合う音が聞こえてきた。

「今日の手合わせは鯰尾藤四郎と静形だったな。」
「そう。でももう終わってるはずの時間なんだけどな。」

そう、道場は使用希望者が多いから時間制限を設けてる。内番とはいえ占有はよくないし。だからそれに則れば、もうずおと静の手合わせは終わってるはずの時間なのだ。

「誰が……あ。」
「ん?おや。」

道場から聞こえていた木刀の音。それを発していたのはずおと、むっちゃんだった。

「普段っと!使う長さ、違うのに!なんでそんなに動けんの!?」
「まはは!戦術研究の結果じゃ!そぅら!!」
「おっと!?あぶなー!」
「避けられてしもうたか。」

むっちゃんからの攻撃を危なげに避けるずお。よくよく見れば、むっちゃんが握る木刀はいつもと長さが違う。明らかに脇差のものだ。

「ねぇ巴。」
「なんだ。」
「むっちゃんの持ってる木刀、打刀のじゃないよね?」
「あぁ。長さで言えば脇差だな。扱えたのか。」

一般的な打刀の長さは60~80㎝。対して脇差は30~60㎝。長さが違えば当然踏み込む間合いも変わる。むっちゃんが今使ってる物の長さがどれくらいかは分からないが、少なくとも本体を使うより明らかに短かった。

「脇差使える打刀とかズルじゃん~。」
「言うたろう?戦術研究の結果じゃ。」
「おれ達の日々の苦労をこう易々とやられたら、立つ瀬なくなるってー!」

文句を言いながらもずおは再び木刀を構える。

「お?ほんでもやる気やにゃ。」
「この本丸の初脇差はおれなんで?プライドくらいは守りたいよね!」

瞬間、一気に間合いを詰めて逆袈裟で振り抜く。それを察知して先に半歩下がっていたのでそれはむっちゃんには当たらず、空を切る。

「チッ!」
「舌打ちなんぞ行儀が悪いにゃあ。」
「さっきから全部避けんの腹立つー!!練度変わんないだろ!!」
「ほれほれ剣筋がブレちゅう。そのままやと当たらんぜよー。」

むっちゃんの煽り文句にカチンと来たのか、ずおの移動スピードが上がる。

(早すぎて目で追えん。)

感じるのはいつかと同じ風圧だけ。

「刀剣男士の本気怖ぁ。」
「まだ本気ではないぞ。」
「え、マジ?」
「マジだな。」

断続的に響く木刀の打ち合う音。最早黒い筋というか残像くらいしか見えてないずおと、それをいなすむっちゃん。

(むっちゃん、ほぼ動いてない?)

半歩下がったり、半身ひねって避けたり、最小限の動きだけでずおの攻撃をかわしたりいなしたりしている。かと思えば一歩踏み込んで突き技をしたり、横様に振ってずおが距離を取らざるを得ない状態にしたり。
ずおに視線をやれば、軽く息が上がっている。

「どういた?息が上がっちゅうようやけんど。」
「はー冷静さ欠くと陸奥守さんの思うつぼだな。必要以上に動かされた。」
「気付いた事は褒めちゃろうかの。」
「その余裕剥ぎ取ってやるよ!」

そこからは2人とも打ち合う音はするものの、動きが激しすぎてまともに目で追えなかった。巴がまだ本気ではないって言ったのがやっと分かった。

「いつも手合わせってこんな感じなのか。」
「毎回本気でやっていたら消耗してしまう。あれを毎回やって平気なのは一部の者くらいだろう。」
「たぬとか?」
「同田貫正国のスタミナは俺でも驚くな。」
「へー。」
「しかし得物の扱いが違っても陸奥守吉行は普段と変わらぬ動きだ。」
「戦術研究の結果って言ってたけど、いつやってたんだろ。」

昔の記憶を手繰ってみるものの、むっちゃんの後を付いて回っていたことと、本丸の運営にヒーヒー言ってた事しか思い出せない。形は違うけれど、ずっとむっちゃんの傍についてたから、少なくとも日中にやってるならどこかで見たはず。それが少しもないという事は、夜や本丸ではない場所でやってた可能性がある。

(見えない努力ってやつかなぁ。え、誰にもバレないようにやってたの?強くあるために?それとも初期刀だから?どっちにしたって並大抵の努力じゃないよね?いやでも待てよ?刀工吉行の刀自体脇差もあるから、そこからの影響?分かんない。)

ぐるぐる考えている間にも打ち合いは激しくなっていく。2人とも相手に集中しているからか、こちらに気付く気配も全くない。

「邪魔したら悪いし、そろそろ戻ろっか。」
「あい分かった。」

くるりと巴が背を向ける。その背を追いかけるために踵を返そうとした時だった。



“ガアン!!”


突然響いた大きな音。振り返った瞬間には既に飛んできた木刀が目前に迫っていた。

(当たる!)

スローモーションのように見えるそれ。多分巴も間に合わない。痛みを覚悟して目を閉じた。

「主!!!」

グッと力一杯引っ張られたかと思ったら、大きな何かに包まれた。

(痛く、ない?)

目を開けても真っ暗で見えない。分かるのは温かい何かにぎゅうぎゅう抱き込まれている事だけ。

「主来てたの!?気付かなかった!てか怪我してない!?」
「主すまぬ!陸奥守、主は怪我はしていないか?」
「なんとかの。肝が冷えた。」

厚い胸板越しに聞こえるドッドッという速くなった鼓動。熱く感じる体温。ぎゅうっとより腕の力が強まる。そろそろ痛い。

「力つよ痛い。」
「っ、あ、すまん!」

パッと手を離される。一瞬視界が眩んだけどすぐにはっきり映る。

「怪我はしちょらんかえ。」
「するかとは思ったけど、むっちゃんが庇ってくれたから大丈夫。てかむっちゃんの方が怪我してない?」
「払い落といたき大丈夫じゃ。おまさんに怪我がのうてえかった。」

さっきまでの好戦的な顔と打ってかわった優しい顔。無事を確認するように、するすると頬を撫でられる。

「主、すまなかった。おれが背を向けたばかりに。」
「いやいや、俺が木刀から手を離さなかったらこうはならなかったし!」
「それ言うたらそもそもわしが鯰尾の木刀弾いてしもうたからになるけだ。」
「責任云々言い出したらキリないね?無事だったから良し!事の発端思えば私が見に来なきゃ良かったんだしね!」
「「「それは絶対違う」」」
「総ツッコミ。」

なんだよお前ら仲良しか。


「こがな事になってしもうたし、ここまでにするかえ。」
「結果見たら俺木刀飛ばされてるし、俺の負け?えー。」
「何とか勝てて良かったぜよ。ギリギリやったきの。」
「嘘だ絶対嘘!もー!骨喰と訓練して絶対次負かしてやる!」
「待っちょるがよ!がっはっは!」

和やかな空気になりホッと力が抜ける。

「え?」

カクン、と膝が折れてそのまま倒れそうになった。

「主!?」

咄嗟にむっちゃんが支えてくれたお陰で倒れ込む事は避けられた。でも足に力が入らない。

「ど、どういた?」
「腰抜けたみたい。思ってたより怖かったのかも。」
「もうわし何回ヒヤヒヤすればえいがよ。」
「私が知りたい。」

立つ事が叶わないのでそのままむっちゃんに抱っこしてもらう。俵担ぎとかおんぶとかでも良かったんだけど、「そがな扱いをわしがすると思うかえ」とお姫さま抱っこになった。めっちゃはずい。

「苦しゅうないがか?」
「大丈夫。」
「ほんまに怪我がのうてえかった。」
「手合わせ邪魔してごめんよ。久しぶりに見たくなって。」
「いや、本丸の戦力確認も大事な事やき責めちゃあせん。気付かんかったわしらもいかんかったきに。」
「そーそー。夢中になりすぎもよくないなー。」

ぎゅ、と壊れ物を持つように抱え直される。

「守れて良かった。」
「!」

愛しい者を見る目に頬が熱くなる。視線を逸らして肩口に顔を伏せるけど─

(あ。)

庇われた瞬間が蘇る。

(ダメだこれ。)








かっこよすぎて無理。死んだ。