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桜崎
2025-12-07 19:43:56
15389文字
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神さまごっこで遊びましょ
れめゆみ? 天堂と黎明が救済して救済する話。名無しモブ多数。ふんわり知識なのでふんわり読んでください
外は雪が降る寸前の寒さの昼下がり。暖かな獅子神邸でのことである。
「この季節はアルコールなどが良い。中毒くらいまで飲ませて、道端に置いておくと勝手に凍死してくれる」
「なるほどな~それなら酔っ払いが寝て死んだってことになるんだな」
「そうだ、それにそろそろ忘年会やら新年会の季節だ。愚かな者たちが騒いで飲み死んだくらいにしかならん」
「おい、オレんちで物騒な話してんじゃねーよ!」
ホールのケーキと飲み物を持ってきた獅子神はそれらをテーブルに並べながら、自身も席に座る。相変わらず食事制限しているようで、獅子神の前には砂糖なしの茶の入ったカップしか置かれていない。獅子神はケーキを目の前で切り分け、天堂と黎明に渡す。
「獅子神、神への供物が少なくないか?」
「残しとかねーとうるさいやつらがいるだろ」
「ユミピコ、オレの半分やるよ」
「黎明、神に差し出すとは良い心がけだ。その調子で善行を重ねるが良い」
ご機嫌になった神様にフォークで半分に切り分けたケーキを移す。さっそく頬張り始めた天堂の一口は綺麗な所作なのにその面積の三分の一が一気に消えた。
「それでさ、さっきの続きなんだけどさ」
「続けるな
……
食欲なくならねーのか。テメーらは」
「いやだって、気にならないか? ユミピコ、天罰しまくってるわりに今まで捕まってないんだぞ」
一瞬の間。獅子神の視線が逸れる。
「
…………
聞きたくねえ」
「お、気になるよなやっぱ」
友人たちの趣味には関わらないと決めている獅子神は言葉の通りでもあるが微かな興味が黎明にも天堂にも見えたので会話が再開されることになる。
「そもそも神を法で裁くなどあまりに不遜ではあるが、それが愚か者たちには分かっていないからな、天罰だけではなく、土に返す方法も熟考済みだ。身元が割れにくいものはこの間、黎明と山に埋めにいったが
……
」
「ああ、あの、殺人鬼がいたやつ。怖かったよなー」
こんな眼帯をした黒い神父と目がちかちかする毒みたいな色をした長身の男と夜の山奥で遭遇する方が怖い。獅子神はそう思ったが、無意味なので口には出さなかった。代わりに真っ当な疑問を投げかける。
「
……
なんだよ、殺人鬼って」
「ただの素人だ。あれはなんとも杜撰な土への返し方だ。もし救済した咎人なら浮かばれない」
「そうそうあんな深さじゃ野犬に掘り起こされるんだよな~」
「ああ、掘り返すのはいとも簡単だったな。まだ新鮮な遺体だった。衝動的犯行だろう。なんと愚かな咎人だ
……
」
「
……
なんで埋めてまた持って帰ってんだ」
「ユミピコがそんな殺人鬼には天罰下すっつーから。追いかけたんだけどさ逃げられたんだよ、さすがに暗かったし。手がかりがそれしかねーしさ」
「
……
もう、テメーらが何言ってんのかわかんねーよ、オレには」
獅子神は嘆息してカップを持ちあげる。
天堂の皿はとうに空になっていて、意味ありげな視線が獅子神に飛んでいたが、気づかないふりをされていた。
「じゃあさ、ユミピコ、身元割れそうなやつどーしてんの」
「教会の墓に埋めている」
「
……
ちょっと待て、それってこの間、オレと真経津が掃除しにいったとこじゃねーの」
天堂の住む教会から少し離れた土地らしく、広いので墓掃除を手伝って欲しいと獅子神が頼まれたのは記憶に新しい。一日がかりの作業より、自分が着いて行きたいと言い出したにも関わらず途中で飽きた真経津を宥めるのが大変だった。
「ああ、その節は大いに神の助けとなったぞ」
「
……
オレは何を綺麗にしてたんだ」
「全てに咎人が埋まってるわけではない」
「大体埋まってる死体は死体じゃん」
「なんかあるだろ、こう、気持ちの問題とか
……
つか、掃除したことに変わりねーじゃねーか!」
真経津が「こんな狭いとこじゃ安らかに眠れないよね~」なんて言っていたことを獅子神は思い出してしまった。数あるうちの集合墓地のところを見て口にしていた気がする。ぎっしり、詰まっていることを想像し。忘れよう。
「真経津はよく見てたようだな、その通りだ」
「心を読むな
……
!」
「そういえば晨くんたちは今日は来れないんだよな
……
」
「センセは仕事、真経津は銀行に呼ばれてるって言ってたな」
「せっかくオレの同接が増えたの祝ってもらおうと思ってたのに
……
!」
「あー俺にはよくわかんねーけどすごいのか?」
「あそこからさらに増やしたなら大したものだぞ、黎明は」
「そうだ、すごいんだからな、もっと褒めてオレを見ろ!」
「だからケーキ作ってやっただろ」
「ああ、ありがと
……
敬一くん
……
でもさっきユミピコに付き合ってクリームだらけのプリン食ってきたんだよ、そのせいであんまり食えなくてごめんな
……
」
獅子神がケーキを用意してくれることは予測出来たのだが、黎明はすこし自身の胃を過信してしまっていたのだ。隣の神父が、そのプリンのクリーム二倍にして、さらにアイスを追加していたせいでもある。
その天堂は、まだ物足りなそうに空の皿を見つめている。もう今日は甘いものを見たくもない黎明は、そろそろ天堂が同じ年齢であることすら訝しんでいた。
「あー、そうだったのか、なんか悪かったな」
「気持ちはホントに嬉しいぞ。ケーキって祝ってもらってる感あっていいよな」
「黎明、後で神からも褒美を下そう。有り難く受け取るが良い」
「え、マジ? ユミピコ最高~!」
そう言った天堂、の皿にはいつの間にか新たなケーキがあって、嬉々として口元に運んでいた。
「あ、テメェいつの間に! 残しとけって言ったよな!?」
「まだ腹八分にも至っていない、神も赦される」
「真経津と村雨が許すとは限らねーぞ。あいつら均等にわけねーだけでも文句いいやがるし
……
特に村雨、見ただけで一ミリ違うとかいいやがる
……
自分で切れよ全く
……
」
「神の腹に全て捧げ、獅子神がもう一つ作れば良い、次はキャラメル味を所望する」
「そうしねーとキレるやつが出てくるから作るけど、テメーの分はなしだからな」
食を握っている獅子神の言葉を覆すことが出来ないのを知っているので肩を落とした天堂は少しだけ反省して残るケーキをちびちびと食べ始めた。
「
……
私も悪いかもしれません。この程度の稼ぎでは養っていけませんし。けれどもう限界なんです。夫は毎日毎日ギャンブルに行ってばっかり。今度こそ働くと言っては結局、仕事には行かずまたパチンコに
……
このままでは私
……
」
久しぶりに懺悔室での行いが気になって、黎明は天堂の後ろにいる。頻繁に通っている女のようで事情に精通している天堂は滑らかに会話を進めていた。
面白い。心から真っ当な懺悔をしていく人間は少数で大抵の人間は自分の正当性をただ主張したくって、悪いのは罪を犯した自身ではなく、周りの、誰かのせいにしたくて、仕方ないらしい。天堂が優しく話を訊いてやって、赦されたと勝手に満足して、また繰り返す。繰り返すから、沸点の低い神様が救済したくなるんだろうけど。
何人か見繕ってくれないか頼もうと思った。閉じ込めた画面越しに見てみたい。魅せてくれそうな訪問者を物色していれば、いつもより少ない人数で天堂は終わりを宣言する。
「ユミピコ、今日は早いな」
「黎明、救済に行くぞ」
答えになっているようないような返答だし、行くとも行かないとも黎明は口にしていないのけれどもついてくるのは当然とばかりに天堂は仕事部屋を出ていく。面倒と楽しさを秤にかけて若干後者に傾いた。
まあ天堂といれば何か面白いことがありそうな気はするので黎明は足早に廊下を歩く姿の後をゆっくりと追う。あの速さで動いていたらすぐに黎明はくたびれてしまうだろう。
教会の敷地内から出た時、天堂は子ども二人に話しかけられていた。気軽に声をかけられるような風貌ではないのだが近所付き合いは密らしいのでこの辺りに住んでいる兄弟なのかもしれない。
「ユミピコ、どうした〜?」
「この兄弟、父親が失踪したらしい。探してほしいそうだ」
普段は存外無表情な時が多い面を黎明は呆れまじりに見る。
それは神父の仕事なのだろうか。どう考えても警察の事案である。もしかしたら天堂は普段からそういったことを請け負っているのかもしれない。事件めいていればいるほどついでに咎人探しも捗るだろうし。
視線を下にずらして子ども二人、を観察する。痩せている。服は擦り切れているが清潔だ。隙間からあざと切り傷やけどが覗く。兄は活発、弟は内気。やっぱり結構似ているな。十二歳程度の兄らしき方と目があう。その瞬間、輝く瞳を黎明はよく知っていた。
「あ! もしかしてレイメイ? おれいつもゲームの配信見てるんだ。この間のすげーよ、連続で何回も勝ってさ」
「お、オレの観測者だったのか。珍しいな、子どもは教育に悪いって見せて貰えないっぽいんだよな〜」
「好きな子はみんなこっそり見てるよ。なあ?」
小さく頷くもう一人は、警戒心を前面に兄の後ろからこちらを覗いている。きっと兄より勘が鋭い。その怯えは確かに正しい。
「でかいヤツは怖いか?」
「あーいや、コイツ神父さんが怖いらしいんだよ、なんか黒いやつが父さんを連れてった思ってるみたいで
……
神父さん黒いし
……
学校での噂があるんだ、黒い袋と縄を持ったお化けを三回見ると連れてかれるみたいな
……
そのせいだと思うんだけど」
「それマジでユミピコのことじゃね? 怪異にされてんじゃん、おもしれ〜、どんな噂なんだ?」
「会ったらザンゲ?しろって言われる。そこで自分のした悪いことを正直に言ったら許してくれるんだって。嘘ついたり言わなかったりするとまた来て、三回目は連れていかれるみたい」
黒い塊が縄と袋を持って、暗がりに立っている姿を想像してけらけらと黎明は笑う。普通に立っていても、眼帯をした白い髪の神父なんて少々恐れを抱かせる風貌なので、闇夜に紛れ道の角なんかから出てきたら子どもなら悲鳴を上げて逃げ出すかもしれない。
「絶対ユミピコじゃん、昔なら板に乗ってそ~」
「神をバケモノ扱いとは
……
確かにあの辺りにいることもあるが咎人以外、連れて行ったりしない」
「とが、びと
……
ってなんだ?」
「悪いヤツってことだよ。それでユミピコ、どーすんの」
「救済すべき咎人にも会えるだろう、ちょうどいい、行くぞ」
まあ、これは面白そうだよな。そう呟いて黎明はさっさと歩き出す天堂の隣に長い脚を駆使して並ぶ。背後から二人分の軽い足音が慌ててついてきた。
「え、探してくれんのか?」
「たぶん、そうなんじゃね」
こんなの天堂ならすぐ解決できるだろうし何がしたいのか、よくわからない。がたぶん退屈はしないだろう。飽きたら途中で帰ればいい。そう思いながら黎明は歩みを進めた。
少年たちの自宅は乱雑に散らかっていた。薄暗い中、揺れるカーテンの隙間から頼りない日光が覗き、つけっぱなしのテレビがニュースを垂れ流している。小さな家主に許可も取らず、ずかずかと奥の部屋に入っていく天堂の後ろ姿を目にゆっくりと黎明も後を追いかける。
「おまえら母ちゃんはいないのか」
「母さんは出て行った。今は兄ちゃんが戻ってきてくれて面倒みてくれてる。借金いっぱいあるから返さなきゃだし、仕事が忙しくて全然帰ってこないけど」
「ふーん」
「レイメイは可哀想とか言わないんだな」
「まあ、どうでもいいからな。あの神父サマが面白そうだからついてきただけだし」
哀れなこどもなんて、この世界にいくらでもいて、普段から見ることも、見る必要もない黎明にとってありふれたよくある話に興味などない。
「大体そいつらだってただ言うだけだろ。可哀想だって憐れむことをできる自分を、その安心できる立場を確認してるだけだ」
「うん、そうだよ。放っておいてくれたらいいのに」
ふと視線を上げれば家探ししていた天堂が動きを止めて、座り込んでいた。
「ユミピコ〜、何か見つかった?」
後ろからしゃがみながら覗き込むといくつか郵便物を広げて、天堂は中身を確認していた。
大量の借金の催促状。通信費、電気代、ガス代。スーパーのチラシ。見慣れた教会の案内、には相談承りますなんて書かれている。
ニュースが始まった音に顔を上げた天堂はその画面をじっと眺める。
「ここだな」
天堂は催促状を手に立ち上がる。さっさと出ていく姿を見て、黎明も同じように腰を浮かした。
「あの神父さん、何処行くんだ?」
「そこだろ」
テレビの画面を指差す。
『先日、対抗組織の若頭と思われる男一人が死亡。未だ犯人は不明で組の抗争が沈静化するのかそれとも激化するのか、警察との緊張感も高まり
……
』
「ユミピコ、住所は?」
「知ってる。探さずともよい咎人に天罰を下すのはいつでも構わないからな」
一見、普通のビルにしか見えないその建物に天堂は堂々と入っていく。まるで自宅のようにあまりにも当然のように通るので見張りの男は呆然として、黎明が二人と共に通り過ぎてようやく、その神父がこのビルにはなんの関係もない侵入者だと気づいた。
「おい、テメェ」
言葉より早く天堂の拳が飛んだので何を言いたかったのもわからなかった。たぶん何の捻りもない何処のもんだ、とかだなあなんて思いながら、黎明は出てくる人影を間髪入れず殴り飛ばしていく天堂の後をスマホで録画しながらのんびりついていく。的確に急所を狙って落としているので相手は痛みすら感じることもなく、意識を失っているだろう。
黎明があっちこっちにスマホを向けている間に目的の部屋に着いた天堂は躊躇いなくその扉を開けていた。
天堂の後に続いて入った黎明は辺りを観た。棚、ソファ、机、金庫に数人の男たちと全裸の男女が三人程度。全員の目がその黒い格好の神父に集まり、あまりに日常から離れた光景に一瞬、沈黙が辺りを支配した。
「テメェ、何処のもんだ!」
遅れてこの場で一番下っ端らしき男二人が吼えながら近づいてくる。天堂は拳でなく、催促状を突きつけたため、わかり切った台詞を別に訊く価値もないが、今度は最後までわかった。相手は一瞬、怯んだように体を仰け反らせしかし、さすがにその辺りのチンピラとは比べるまでもなく、すぐに体勢を立て直す。
「この男のことを知っているだろう?」
「ああ? なんでてめえにんなこと」
天堂の唇が歪んだ。暴力の方が早いのに珍しい。釣られて黎明も口角が上がる。やっぱり天堂といると面白いものが見られる。魅せてくれる。
「罪人よ、感謝するがいい、神が懺悔を聞いてやろう」
「はあ? 何言って」
「その隣の男、に何か後ろめたいことがあるのだな」
大きく開いた瞳。がぐらりと揺れた。
「な、」
「人の物を取るのは罪だ」
淡々とした口調なのに、異様に大きく優しく赤い色から紡がれるその声は響く。
「あ、あれはオレのせいじゃ
……
、あの子が
……
誘って」
「ああ? オレの女に手、出したのてめえだったのか!」
隣の男が胸倉を掴む様に微笑んで、その横を通り過ぎていく。明らかに丸腰の人間がゆるりと近づいてくるだけなのに残る男たちは身動きができずにいる。異様なものを前にした純粋な恐慌がただあった。
赤い爪先がひとり、指した。子どもをあやす様な愛し気な微笑みを向けられているはずなのに勝手に歯が鳴る。逃げ出したいのに止まらなければならないと本能的に察知して足は動かない。
「そっちのお前、今、見たのは金庫か? 神は見ている。罪を悔い改めろ」
「え、
……
あ」
「最近合わねーと思ってたらてめえ
……
」
「何を怒っている。お前も同罪だろう? やはりここは罪人の巣窟だな」
だが神は赦される。唇がただそう動いただけなのに、男たちはぞわりと背筋が凍りつく感覚に晒される。
「な、なんなんだ、なんなんだよ、おまえ
……
!」
恐怖に耐え切れなくなったのか、暴力に逃げた男の振り上げた腕を天堂は掴む。
「そんなに怯えることはない。何か話したいことがあるのだろう、神が聞いてやろう」
「あ、ああ、あ
……
」
天堂が唇を動かすたびに崩れていく体が増える。怒声と、骨のきしむ音、口々に呟かれる懺悔が蔓延して、呪詛のように響いた。それは次第に赦しが交じり合うすすり泣きと神への祈りに変わって、その双眸は縋るように天堂だけを映す。
「ごめんなさい、ごめんなさい。違うんです」
「赦して
……
そんなつもりじゃなかったんだ。助けてください」
「神様、救ってください、お願いします」
体の前で手を揃えて、天堂はただそれらを眺めていた。赤い唇は慈愛を模り、一つの瞳が満足そうに悦びを灯す。
「な、なんであの人たち謝ってるんだ」
「赦してほしいんだろ、悪いことしたから」
「そんなの神父さんに言っても仕方ないじゃん。悪いことをした人にごめんなさいってしなくちゃ」
「まあそうだろな、でもあいつらは別に自分が救われて楽になりたいだけなんだからユミピコに言うんだよ」
あの神様はきっと楽にしてくれるだろうけど、その救済は天堂が勝手に作った道であの男たちは救われると勘違いしてそこを歩く羽目になる。まあ天堂と出会ったのが本当にただ運が悪い。
「
……
ねえ、あっちの人たちは逃がしてあげないの?」
全裸の男女数人をおずおずと兄の後ろから指差して、小さな声で問う。
「ああ、あれか、ああいうのは見ない方がいいぞ」
「見ない
……
?」
「自分で見るものは選べるだろ。あのな、普通の人間はここまで落ちてこないんだよ。
助けたって、助けた相手にも寄生虫みたいににじり寄ってくるし、結局周りに縋りついて、また落ちてくるんだ。被害者増やしてな。よくいるから見飽きたしもう見る価値のないただのゴミだ」
残りかすに興味はない。まだ銀行で安い債務者でも買った方が楽しめる。
「おまえ、よく見てるけど、見ないふりをした方がいいこともあるぞ」
怯えた色を残し兄の後ろにまた隠れていく姿を笑みが潜んだ瞳で見る。死体と変わらないヤクザの被害者よりこっちの方がずっと面白いくらいだ。
「おい、外に何人も倒れているがなにが
……
」
開けっぱなしの扉から入ってきた男が絶句した。真っ直ぐと背を正し赤い唇を曲げて微笑む一人の人間に、頭を垂れた男たちが群がる光景は異様だっただろう。
その後ろ、明らかに他とは違う存在を持った人影が現れる。
「お前が一番、神との対話に向いていそうだ」
「な、てめえ頭に」
「やめろ! 客人に向かって失礼な口を訊くんじゃねえ。
……
すみません、部下が粗相をしたようですね、そちらに座っていただけますか」
「構わない、敬意を持つ相手に神は寛大だ。それに信徒が増えたことは大変喜ばしいことだからな」
さすが上に立っているだけあり、表情は変えないが、黎明ならわかる程度に顔が引き攣った。その部下たちが天堂のせいで今後使い物にならなくなったことは明白であり、至極真っ当な反応であった。
天堂がソファに座る。黎明も勧められたが遠慮して扉の前で二人と待つことにした。
出された緑茶を一瞥して、天堂は眉を寄せる。
「紅茶はないのか」
きっと普段であれば買いに走らせていたのだろが、対面するこの組の頭と背後に立つ男二人を除き全員、気絶している。天堂が話をするのにうるさいと殴りつけたせいである。
「
……
すみません、あいにく切らしてまして」
「まあ、良い。神にも傷心の相手に追い打ちをかけない情けくらいはある」
男の目が一瞬、開き、誤魔化すように笑んだ。
「
……
あなたのこと、親父からよく訊いてますよ。随分あそこではあなたがお気に入りのようで。神だの、仏だの拝んでるくらいですからね」
「そうか、それはなんと立派で敬虔な信徒だ。神はいつでもお前を救済すると伝えておけ」
「
……
勘弁してください。組が崩壊します。それでなんの用でここに?」
机に滑る催促状、の名前を天堂は指差す。
「この男を探している。知っているだろう?」
「知っていますよ。ここでいくらか借りていましたし」
「殺したか?」
「いいえ、せっかくの契約がふいになることはしませんよ」
「ああ、そうだろうな、
……
もう無効、だろう?」
「
……
そうですね、取引相手が行方不明なら成立しません。
……
それでいいですか」
「ああ、構わない。素直な人の子が神は好きだ」
それから天堂は少年の父親の写真と行きそうな場所を訊き出して満足したのかソファから立ち上がる。踵を返し、しかし、ふいに佇む。ああそうだ、と呟き、再び二人に向き合った。
「敵でも死者を弔いたいならさっさと弔うがいい。墓前の手土産は後ろの男で足りるだろう?」
初めて男が誰がみてもわかるほど明確に顔色を変えた。
「
……
それは、本当か?」
「本当、だろう? なあそこの咎人よ」
震え出した男は、かみ合わない唇で言葉を絞りだす。この神父が席に着いた時から、ずっとずっと見られていた感覚を、内側から探られていた気持ち悪さを耐えきれず吐き出すように。
「お、おれは頭のためを思って
……
」
「愛を抱くのは素晴らしいが、おまえのそれは己のためだろう? 相手を想ったのではなく、お前がただ愛されたかっただけだ。そんなもの価値はない」
天堂は今度こそ振り返らなかった。
ビルから出た後、教えてもらった店を何件か回ったが、すこし見かけた、程度の情報しか得られなかった。失踪した日から一週間も前の話ではそこから何処へ行ったかも正確ではない。行動範囲がさほど広くはないため、短時間で回れたことだけが幸いである。
そのうちの最後に入店したパチンコ店に入った天堂と黎明は刺さる視線に出元を探る。
一人の男が立ち止まって、こちらを見ていた。それほど年を重ねているわけではないが、くたびれたシャツと無造作な髪型が実年齢より老いを感じさせる。
「あんたどっかで見たことあるな、もしかしてレイメイって名前か? パチスロの配信やってただろ?」
「そういえば、昔何回かやったな、パチスロ配信。ぜんっぜん伸びなかったからやめたけど」
「あまりに愚かな行いだな。お前の観測者層と全くかぶらないだろう?」
「そうだけどさー何でもやってみてた時もあったんだよ」
「へえ、もうやってないのか、あんたすごい出してたし、もったいないな」
そんなの台をよく観てればわかる。が黎明が欲しいのは見てくれる人、人、人だ。
それに狙えば決まりきった値が出る賭け事はつまらない。
「ああそうだ、なあ、あんた、こいつのこと知らね? 探してんだけど」
取り出した写真を前にした男は首を捻って、すこし考えて大きく頷く。
「あーそいつ見たことあるな。よく来てたし、なんか外で男と揉めてたぞ。相手はここで見かけたことなかったけど」
「最近の話?」
「ああ、三日前くらいだったかな」
「失踪した日だな」
ようやく出てきた情報に脱力する。
そろそろ黎明は飽きてきた。中は騒音で耳が痛いし、外は寒くて暖かい部屋に帰りたくなっている。
「おい、黎明、神はこの男に施しを与えてやってもいい」
「はあ?」
苛々し始めたところに天堂から出た婉曲な指示に、存外低い声が顰めた唇から漏れた。だが天堂に黎明の機嫌など慮るわけもなく、当然とばかりに言葉が続く。
「選ばせろ」
口の中で舌打ちした黎明は改めてその男を見る。平日の真昼間からパチンコに出かけている、よくいる種類の人間。黎明には見る価値もないし世界にも必要ない。
「あーなるほどな」
「賭けるか?」
「そんなの、賭けにもなんねーじゃん」
神様は慈悲を与えたつもりだろうけど、答えなんて決まりきっているのだから、その時にただ後悔させるためだけに選ばせている悪趣味な遊びに等しい。これは必要のないことだ。今日はそれが多い。すこし天堂の意図が読めない。が楽しくなるという勘は当たるだろうから僅かに黎明の機嫌が上を向いた。
「なあ、いいこと教えてくれたよな? お礼にあんたに当たり台、教えてやるよ。ただそこの神父さまがそれを選ぶなら破滅するって言ってるけどそれでも知りたいか?」
「はあ? なんだそれ。そんなんで破滅なんてするわけねーじゃん、教えてくれよ」
本当、賭けにもならない。
「はいはい。いーよ。そうだな
……
」
歩き回って、いくつか当たりをつける。もう一度、観察して、指差した。
「これかな」
「マジか、あんたが言うなら間違いねーだろ。これで今日は堂々と家に帰れるぜ」
台の前に座る男を残して、二人は店内のカメラを見るため店員を探す。ここまでも天堂の口八丁というよりもこの異様な雰囲気にあてられ厄介ごとを避けたくて快く監視カメラのモニターまで案内してくれたがこの店でも同じである。目撃情報のあった時間帯を確認して外に出るがあまり有力とはいえない映像でしかなかった。
店の端で待っていた少年たちは寒いのか座って縮こまっていて、天堂たちの姿を目に止めると走り寄ってきた。
「神父さん、何かわかった?」
「この場所で誰かと揉めていたらしい」
「顔見てやろうと思ったけどここ外にカメラないんだよなー、中のやつにはおまえらの父ちゃんしか映ってなかったし」
そろそろ手詰まりだ。歩いて探すには限度がある。まだ最も簡単で確実な方法は残っているが黎明にその手を使うほど親身になる気もないし、必要もない。
「そういえば父ちゃんのこと警察には言ったのか」
「うん、近くの交番によく面倒を見てくれる優しい警察のお兄さんがいるんだ、その人に言ったけど、あんまり期待しない方がいいって。自分で出ていったとかだと探してくれないらしいし
……
」
「借金だらけだもんなー」
「
……
ううん、借金、返せるあてがあったから、たぶん父さん自分から出ていかないと思う」
「え、そうなのか」
きっと知らないことだったのだろう。弟の言葉に兄が驚いたように声を上げた。
「じゃあ今からでも
……
」
「もう無理。無理の方がいい」
「え、なんで
……
」
「行くぞ」
兄弟の会話を遮って、勝手に歩き出す天堂はもう次の目的地を決めているようだった。そこしかないので黎明にも当てはついているが、一度沸いた倦怠感は拭えない。
「ええ〜ユミピコ、もうよくない? オレ疲れたんだけど」
「次で終わりだ」
大抵、不在がちの交番だが幸い望んでいる相手がいた。嬉しそうに駆け寄っていったから、きっとあれが優しい交番のお兄さんなのだろう。確かに柔和な相貌はしていた。
「あ、君、お父さん、帰ってきたかな?」
「ううん、まだ。警察のお兄さんが見つけたかなって」
「ごめんね、こっちでも探しているんだけどいい情報はあまり
……
動けるのも僕くらいだから」
目線を合わせ屈んで話していた警官は立ち上がってようやくこちらを見た。
「
……
それでそっちの二人は」
「近所の神父さんとレイメイ。父さん探すの手伝ってくれてる」
「
………
へえ、親切な人たちだね」
そう言いながらもそこには明確な警戒の色があった。黎明はただでさえ目立つ見目なのに天堂と歩いていると職質の回数がニ倍を超えるのだ。警察官なら当然の反応だし、子どもにこんなよくわからない大人がついているなんて通報案件である。そう、真っ当な感情ともいえる。がおそらくこの警官の男が感じている恐怖はそれだけではないだろう。
「罪悪感から優しくしているようだ。自己憐憫が過ぎる」
「肩幅、背、足の長さ、体格、頭の形、耳、一緒だな」
「衝動的犯行だ。憎くて殺したわけでもない。まあ殺された人間にはそんなこと関係がない。情状酌量の余地も無いだろう。咎人は咎人だ」
死体を埋めているところを見られた人間が突如、現れたら怖いだろう。忘れられるはずがない、黒い格好の神父とこんな毒々しい色をした長身の男なんて。こちらから見えていたのだからきっと向こうも見ていたはずだ。
肌を伝う汗。呼吸の回数。手に取るように黎明には動揺がわかる。一般の人間を読むなんてあの賭場に比べたら簡単すぎて、なんてつまらないのだろうか。
「君たちは
……
なんの、話をしているのかな」
「わかっているのに、お前は神へと問答するのか? 殺しただろう? この二人の母親を。それに父親と揉めていた男もお前だな」
「どうせコイツらの母親と不倫でもしてたんだろ。んで最近バレて問い詰められたか、殺したのに気づかれてゆすられたか」
後者の部分で眼球が泳ぐ。
「その反応、殺してゆすられた方か。うーん、まあどっちにしろありがちすぎてあんまり面白くもない話だな」
捜査の方法を知り得ている警察官のくせに杜撰すぎる。こんなに簡単に露見するのだ。もっと巧妙にやってくれればすこしは見がいがあったのに。急速に興味が失せる。
今度、ユミピコと殺人ゲームでもしよっかなあ。どうやって殺したとか、どうやってアリバイ作ったとか、あてるのみたいな。そういうの。ユミピコとなら楽しいだろうし。ああ退屈すぎて思考が飛び始めた。
「え、は? な、なんの話してんだよ」
「兄ちゃん、この二人の言う通りだよ。この人と逃げ出した方が母さん、幸せかなって思ってたんだけど、そうじゃなかったみたい」
「じゃ、じゃあ、この人が父さんも
……
!?」
「違う! それは僕じゃない!」
机を叩き立ち上がる男は、最も近くにいた少年を引き寄せそのこめかみに拳銃をつきつける。
「う、動くな! 僕はここから出ていく。それだけだ、み、見逃してくれ」
それで、どうするのだろうか。あまりに突拍子もなく計画性もない。すぐ捕まって終わりだろう。
あくびが出た。伸びをする。
「どーする、ユミピコ?」
「は?」
「わかってるけど、めんどくせーよ、もうほっといてどっか飯でも行こーぜ? 腹減ったし」
「神に咎人を捕まえずに背を向けろと?」
「あーだからんなこといちいち言わなくてもわかってるって
……
」
天堂をその思想から説得するより目前の男を制した方が早い。そんなこと理解してるが、それをやらなければならないのが黎明なのが納得いかない。
こんな時にまで神様は善人ぶらないでほしい。
大きく嘆息した。渋々脚を踏み出す。
「お、おい、近づくな!!」
その拳銃をこちらに向けた方がまだ黎明を静止させられるのだが、混乱で頭が回っていないようだ。黎明は天堂を指差し馬鹿にも聞こえるように声を張る。
「あのな、この神父サマは一応、善人には優しいから止まってやるかもしれねーけどオレは、そのガキの頭が吹っ飛んだってどーでもいいんだよ」
目下の心配は弾けて血とか肉片が付いたら汚くて不快、くらいだ。心底黎明はそう思っていて、それよりずっと自身の空腹が気になっている。エナドリも今日は全然飲んでいないし。だからこんなに苛々するのだろうか。
「腹減ってんだよ、こっちは。面白いものはもう見られなさそうだろ、早く帰りたいんだよな」
大股で一歩。見下ろせる位置まであっという間だった。感情のない瞳がただ自分を写し込んでいる様に黎明の口ぶりに何一つ偽りがないことがようやくわかったのだろう。
引き金にあてた指すらがたがたと震え始める。そんな手つきで何が打てるのだろうか。
「害虫なんて見るのも触るのも嫌なんだけどな」
そう言い終わると同時に拳を振るうと横倒しに吹き飛んだ。殴り慣れていないわけではないが、天堂みたいに化け物じみた皮の厚さはしてないので普通に痛い。熱を払うため手を振るってから、衝撃で一緒に転がっている少年を脇に抱えて踵を返した。
「ユミピコ、あとはよろしく~」
天堂は返答の代わりに赤い唇を釣り上げる。
咎人を前にしてあの嬉々とした笑みを浮かべる神父の何処か善人で天堂が信仰する慈悲深いと信じている神様なのだろうか。背後にぶつかってきた骨の壊れる音を聞きながらそう思った。
意識はあった少年をおろして、黎明はスマホを叩く。昨日の配信の評判は悪くなかったようだ。少し上向いた機嫌のまま溢れている通知を処理しているとレイメイと呼ばれる。視線だけ動かして見ると相変わらず兄の後ろに弟がいて、こちらを覗いていた。
あんな目にあったのにどちらもそれほど動揺していないようだった。諦念に、恐怖にも慣れ切っているのだろう。
「
……
今日はありがとう」
「ふーん、もういいんだな」
「
……
おれ、あんな父さんだけど親だし、探してあげなきゃだめかなって思ってただけだったから」
「自分のためか?」
「そうだよ、自分のためだ」
そう見せないと薄情だと思われる。誰に。誰かに。周りの有象無象に。ただそうだと思い込んでいるだけかもしれない。でもそれが厭だっただけで、見つかることを心から願っていたわけでもない。ほんのすこしだけ、帰ってきた父が遠い昔のように優しかったらいいなと期待をしてみたりしたけれど。
「じゃあ。また配信楽しみにしてるから」
手をつないで二人は終わりかけの夕暮れを歩いていく。薄闇に溶ける影を一瞥だけして、画面に視線を戻した。
黎明の興味はとうに今日の夕食に移っている。この付近にあまり心が惹かれる飲食店がなかった。もう獅子神の家に突撃した方がいいかもしれない。
着信音。見慣れた表記にワンコールで出て耳にあてる。
「あ、ユミピコ、終わった? 敬一くん家行かね? あー袋は
……
一緒に入れてくれるといいな」
冷たい感触が頬を滑る。雪が降り始めていた。
数日後のことである。枯れ葉と共にちらつく雪の中で教会前を掃除していた天堂の視界に手を振る子どもが入り込む。
「あ! 神父さん! この間はありがとう!
聞いてよ、父さんから手紙が来たんだ、借金全部返してくれたんだって。それにお金もいっぱい振り込んでくれたんだ」
封筒を手に走ってくる暖かそうな格好をした少年は息を切らしながら天堂の前に駆け寄って、ぎこちなく笑った。
「でもお金のために働くからもう帰れないって
……
今までごめんって書いてあった」
「そうか。神は善き人の子のことを見ている。今後も嘘をつかず善行に励むが良い」
「うん、いい子でいる!」
「弟はどうした?」
「寒いからあんまり外出たくないんだってさ。ありがとうって伝えといてって言われた」
再び手を振って走り出す少年の後ろ姿が小さくなるのを見届けてから、天堂は教会内に入る。仕事部屋に入るとつけっぱなしだったテレビからニュースが流れていた。ありふれた、何処にでもあるようなもう天堂の関心をひかない類のものだった。
『夫を刺殺した妻は現場から逃走した後、現在行方不明となっており、現場には遺書のようなものが
……
』
また懺悔室を見に来ていた黎明は、モニターの前の席で頬杖をついて戻ってきた天堂を気だるげに見やる。
「神サマはホント、善人には優しいな、借金も返してやってわざわざあんな手紙書かせてまで用意してさ」
「善き人間のために寄付を集めに行っているのだから当然だろう?」
善いことをした後は気分もよい。そのよい気分を壊したくはないが、確認はしなければならないことはある。
「それであの男は反省しているのか?」
黎明はスマホを横に立てて、テラリウムの映像を繋ぐ。音質はあまりよくないので何か喚いているが、言葉として認識できなかった。天堂にとって贖罪の語以外聴く価値もないので煩い音量を下げる。
瘦せこけた男にもまだあの兄弟の面影があった。
「んーこれしてると思うか? オレはしてないと思うけど。そのくせに子どもに会わせろってうるさいんだよな」
「そんな口、不要だろう? 縫いつけるのはどうだ?」
「いいじゃん。ホント自分の子ども売って金にしようとしてたくせによく会いたいなんて言えるよなー」
いつになったらそれが心からの言葉になるのだろうか。その前に命の方が先に尽きそうなくらいだが。よくこんな状態になってまで嘘がつける。黎明にとって威勢がよくって、観察しがいがあって良いけれど。
黎明、と呼ぶ声が近くにある。
「どれか気に入ったものはあったか?」
瞳を瞬く。なるほど。
「ユミピコ、いつもより唆してんなーって思ったけどそういうこと? オレのため?」
「褒美をやると言っただろう」
「えーどうしよ、あの警察官はハズレだったしな。もう死んだ?」
「まだ生きてるぞ。必要がないならこの間の話の実践でもするか」
「それいいな。あとなんかいっぱいいたよな?」
「あの者たちはあまり時間が経つと勝手に救済の道に歩いていくぞ。あとは女か」
「ああ、あの? 懺悔室で見た時、いいなって思ってたんだよ。さすがユミピコ。とりあえず全員貰っといていい? どれか面白くなるかもしれないし」
テラリウムの空きを考える。あれとあれはもういらない。掃除が面倒だが楽しみの方が大きくて、口角が自然と上がった。
「でも一番見れたのはあの兄弟の弟の方だな。最初から気づいてただろ、父親をユミピコが連れてったって」
あの子がずっと天堂を見ていたのを黎明もずっと見ていた。周りを人をよく見ていたし、あの色の瞳は悪くない。憎しみ。と救われた感謝を混ぜてどっちにも傾くか迷っている不安定さが黎明の興味を惹きつける。
「あれは神が慈悲を与えた子だぞ」
「わかってるって。子どもだしなあ。そんなもたねえし、すぐ死んだらつまんないしなー」
「黎明、神の話を聞いていたのか?」
「マジでユミピコだけにいわれたくねー」
くるりと回した椅子から降りて、天堂と替わる。神様はそろそろ仕事の時間だ。
「まあ今は何もしねえように一応忠告しといたけど、でかくなって神様を殺しにきたら別だよな?」
「神を弑するものはもう善人ではない。その時は好きにすればよい」
懺悔室に誰かが入ってきたのがモニターに映った。神様。とその唇が動く。応えて天堂は綺麗に笑った。
その振る舞いを心から信じて愉しんでいる天堂は無邪気で愚かで傲慢でけれど黎明は決して嫌いではなかった。
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