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横井
2025-12-07 19:11:13
2869文字
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CONCLAVE
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ベニロレ(9)
親友がぽっと出の男にとられそうでムム…てなってるアルド。ベニロレ+アルド。lawrenitez & bellini
【友達】
コンクラーベの親友との衝突は、避けられないものだった、とアルドは結論づけた。アルドとトマスの友情は、張り詰めた糸の上にあるようなものだった。神学校時代に知り合い、数十年が過ぎ二人ともあらゆるしらがみを背負った老人になってしまった。アルドは政治家になり、そしてトマスは教皇庁にいるには誠実過ぎた。
親しく付き合いながらもどこかお互い腹を探り合い、プライドから本音を隠す。そういった小さなすれ違いが、ついに爆発した結果なのだろう。だが、トマスの目に浮かんでいた失望と悲しみは、アルドの心に抜けない棘のように残り続けている。
それでも、アルドはあの男の親友だと自負している。今でもたまにどちらかの家に集い、夕食を共にする。青白い頬をワインで赤くしたトマスから、滅多に聞くことのない職場の愚痴を聞かされるのは、アルドの特権だと思っていた。
「すまない、アルド。その日は先約があるんだ」
「おや、そうか」
トマスが心底申し訳なさそうな顔で首を横に振る。コンクラーベも終わり落ち着いてきた頃、久しぶりに食事でもと誘ったのだが、断られると思っておらず、アルドは出鼻を挫かれた。
「珍しいな。パーティなんかは、最近断っていると聞いたが」
「いや、いや。そうじゃないんだ。聖下から、食事をと誘われてね」
「
……
ほう」
親友の口から出た相手に、アルドは目元をひくりと引きつらせ、短く答えた。
「アルド、君もよかったらどうだい?ヴィンセントも喜ぶと思うよ」
はにかみながら、トマスが早口で言う。表情は明るく、青白い頬には赤みがさした彼は、初めて神学校で出会った時のような初々しささえ感じる。
「いいや、遠慮しておくよ。聖下は君に声をかけたんだろう。邪魔しては悪い」
「邪魔だなんて、そんな」
トマスは頬を染めて目を伏せた。アルドは親友のそんな表情を、苦々しい思いで見ていた。
§
まったく、とため息をついてしまうそうになるのを、アルドはかろうじて耐えた。執務室に来たものの、顔を寄せ合って楽しそうに笑っている教皇とトマスは、アルドの存在に気づいていないようだった。アルドがわざとらしく咳払いをすると、頬をさっと赤くさせてトマスが振り向いた。ヴィンセントはというと、すました顔のままだ。
「ああ、アルドか。ヴィンセントごめんなさい、話し込んでしまって。仕事の邪魔になる前に退散します」
「おや、帰ってしまわれるんですか。いてくださってもいいのに」
「そうだぞ、トマス。帰ることなんてない。楽しい楽しい、回勅の原稿の見直しだからね」
「いやいや、国務長官の君にまかせるよ。君の仕事はいつも完璧だ」
トマスはそう言って、執務室から出ていった。アルドはヴィンセントの向かいに座り、皮肉っぽく口の端を上げる。
「ずいぶんと、トマスに目をかけておりますね。礼を言いますよ。あいつは最近、笑顔が増えて楽しそうだ」
「ええ。信仰を取り戻し、祈りも安らかになったとおっしゃっていました。本当に喜ばしいことです」
「
……
へえ」
ふうん、そうか。祈りに困難があると、ヴィンセント・ベニテスには話したのか。数十年来の友人であるわたしにはなにも話してくれなかったのに、会って間もないこいつには話したのか。
嫌味を言ってしまいそうになるのをどうにかこらえ、いや、と首を横に振る。自分がトマスの立場だったら、どうだろうかと考える。おそらく、打ち明けなかっただろう。プライド、しがらみ、立場、そういったくだらないものが邪魔をして、ひた隠しにしたに違いない。
アルドは開きかけていた口を閉じ、持ってきた原稿に目を落とす。嫉妬しているというのか。このわたしが。まるで、お気に入りのおもちゃを取られそうになっている子どもだ。
「今度、トマスと夕食を共にする予定なんです。よろしければ、ベリーニ枢機卿も一緒にどうですか。あなたがいれば、トマスも喜ぶ」
アルドは顔をあげ、ヴィンセントを見つめた。ブラウンの思慮深い瞳は、おそれを知らないように真っ直ぐに見つめ返してくる。彼の言っていることは本心だ。それが余計に気に食わない。そう、アルドはヴィンセント・ベニテスという人間がどうもいけ好かないのだ。
聡明で、理性的で、穏やかであるが胆力のある彼は、理想の教皇であると認めざるを得ない。だが、アルドが数十年間培ってきた友情を一息で超え、トマスの隣に立つ彼が、どうしても受け入れられないのだ。
「いいえ、結構です。どうぞお二人の時間を楽しんでください」
「わかりました。では遠慮なく」
そう言って微笑む顔が、またアルドの神経を刺激する。どうにかして原稿にケチをつけてやろうとするのだが、どうやっても見つけられないのであった。
§
使徒宮殿の見事な庭に、親友と教皇の姿を見る。バラの絡まったガゼボに、白い法衣と黒いカソックが並んで座っているのが見える。肩を寄せ合って話し込む二人の距離は、アルドから見たら不必要に近い。
――
おいおいおい、近過ぎやしないか?
アルドが眉をひそめた矢先、ヴィンセントの手がトマスの膝の上に置かれ、身を乗り出して顔を寄せ合い喋り出す。
――
おい、トマス!抵抗しろ!その不埒な手を払いのけろ!
トマスは俯きつつも、襟から見える首筋や耳が赤く染まり満更でもないようすだった。
ヴィンセントを見つめるトマスの横顔は、輝き、幸福に満ちていた。
神学校時代のトマスを思い出す。女性に番号を書いた紙を握らされ、男性からはこっそりと恋慕をささやかれ、そのたびに陰鬱な顔をしながら、どう対処すべきかアルドに相談しに来るトマスのことを。
まだ二人が若かった頃、トマスは、己のせいで人の欲望を駆り立ててしまうことや、己の中にもひそむ欲望を、ひどく罪深いと感じている、とアルドに吐露しては、苦しみの中祈りに没頭していた。食事を抜き、冷たい石の床に何時間もひざまづき、己を傷つけるような祈りに救いを求めるトマスを、ずっと見てきた。
数十年かけても、アルドでは取り除いてやれなかった苦しみだった。
アルドは肩の力を抜き、手の中でくしゃくしゃになっていた書類のしわを伸ばした。庭に降り立つと、ズカズカと二人に歩み寄る。
「やあ、トマス、それに聖下。偶然だね」
「アルド」
トマスが出迎えるために立ち上がる。ヴィンセントの手が、膝の上からするりと落ちた。それをちらりと横目で見て、トマスの肘をつかむ。
「あとで君の執務室に行っていいかな?相談したいことがあるんだ」
「ああ、もちろんだとも。十五時からは会議があるから、その前に頼むよ」
「わかった。じゃあ、あとで」
顔を寄せ、トマスの頬にキスをする。トマスは少し驚いたようだったが、嬉しそうに微笑んでアルドにキスを返す。離れる一瞬、トマスの肩越しにヴィンセントを見る。目を細め、無表情にこちらを見つめる顔は、面白くないとデカデカと書かれていた。
――
まあ、これくらいは許せよ。
こらえきれず笑い出したアルドに、トマスは首を傾げていた。
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