吾妻
2025-12-08 00:00:00
7649文字
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Happy Wedding Planning

ユスジタちゃん。甘さはないけど付き合っている。ふたみさん、お誕生日おめでとうございます!

 真っ白なテーブルクロスの上には、瑞々しいフルーツがふんだんに使われたタルトと、カップの中で湯気を上げる赤橙色の紅茶。
 本来、笑顔をもたらしてくれるはずのそれらを前にして、イルザは先程から神妙な面持ちをしている。
 彼女の向かいに座す女もまた、物憂げな顔をして俯いていた。
……すみません、教か――イルザさん。私のほうからお願いした話だったのに……
 かつての教え子は、ひどく気落ちした様子で向かいの椅子に縮こまっている。数ヶ月前、同じ店で会った時とは何もかもが違っていた。
 あの日の日替わりはベリーソースのかかったレアチーズケーキだったし、飲み物もアイスティーだった。何より、向かいに座った教え子は、幸せそうにはにかみ笑いを浮かべていた。
「それでお前は、式を取り止めると?」
 居心地の悪い沈黙の末、イルザはゆっくりと口を開いた。
 元部下は、訓練で怒鳴りつけられた時よりもよっぽど怯えた様子で、「……はい」と震える声を絞り出した。
「私だけならまだしも、彼や、彼の家族に危険が及ぶかと思うと……。身寄りもなく、経歴すら怪しい私を家族として受け入れてくれた人たちを、危ない目に遭わせたくありません……

 数ヶ月前。この店を訪れた時点で、イルザは彼女――ミーナの頼み事が何であるかを察した。
 これまで幾度も同様の依頼を受けてきたがゆえに、否応なくわかってしまう。隠しきれない幸せオーラに、思わず相好を崩したものだ。
 『組織』を離れ、新たな土地で新たな人生を歩み始めたミーナは、どうやら良い出会いに恵まれたらしい。近々行われる結婚式でイルザに司会を頼みたいのだという。
 もちろん二つ返事で了承した。『敵』の計略によって家族を喪い、いつ命を落とすとも知れぬ戦場で生き抜いてきたのだ。これからは幸福な日々を送ってほしい。その門出を祝えるのであれば、多少の労力は苦にもならない。……そのはずが。
 今日再びこの店で向かい合った彼女は、前回とは打って変わった物憂げな顔をして、「結婚式を取り止める」と言い出したのだ。

……私が悪かったんです。ただのドラ息子だと思ったのに……
 先日ミーナは、しつこく言い寄ってきた男を素気なく振った。それがすべての始まりだった。
 裕福な両親に甘やかされ、我儘放題に育ったその男は、著しくプライドを傷つけられたのだろう。金にものを言わせてチンピラを雇い、彼女に嫌がらせを始めたのだという。
「チンピラの襲撃なんて私にとっては子供の遊びみたいなものです。でも、結婚式をめちゃくちゃにしてやるなんて脅されたら、さすがに……
 ミーナは悔しさの滲んだ顔でうつむき、膝の上で両手をきつく握り合わせた。その仕草を見れば、彼女が自身の決断を飲み込みきれずにいることなど一目瞭然だ。
 イルザはしばらく教え子の顔を見つめ、その後に盛大に溜息をついた。
「情けない……
「自分でもそう思います。でも――
「苦境を乗り越えるためには、仲間との連携が必要不可欠だと何度教えた?」
……え?」
 ミーナはゆっくりと顔を上げ、かつての教官の顔を見つめる。
 イルザは戸惑いに揺れる教え子の瞳をまっすぐに見つめ返し、わざとらしく渋面を作った。
「せっかく私を呼び出したというのに、もっとましな頼み事はできないのか?」
「で、でも! 私はもう『組織』を離れた身です。これ以上教官に迷惑を掛けるわけには……
「それが水臭いと言っているんだ馬鹿者!」
 イルザが思わず声を荒らげると、ミーナはひぃっと情けない悲鳴を上げ、店内は水を打ったように静まり返る。
……ともかく、だ」
 小さく咳払いをし、乗り出した体を再び椅子に収めてから、イルザはようやくフォークを手に取った。せっかくのタルトが乾いてしまってはもったいない。
「まずは事の仔細を共有しろ。対応を考えるのはそれからだ」
 宝石のごとく輝くフルーツタルトにフォークを差し込みながら、イルザは教え子が口を開くのを辛抱強く待つことにした。


            *


 ギデオンは激怒した。
 必ず、かの失礼千万な娘に思い知らせてやらねばならぬと決意した。
 ギデオンは乙女心がわからぬ。ギデオンは町一番の豪商の息子である。余りある小遣いを与えられ、ガラの悪い連中を従えて暮らしてきた。
 けれども――だからこそと言うべきか。
 すげなくあしらわれる屈辱には人一倍敏感であった。

 某日。
 ギデオンはチンピラどもを従えて、町外れのとある廃教会前に立っていた。
 ある情報筋から、先日彼を手酷く振った失礼な女が、この廃教会でこっそりと結婚式を挙げるつもりだと報告を受けたのだ。
 何をこそこそと。潔く諦めればいいものを。気の強いところが好みではあったが、これではあまりにも可愛げがない。
 あれだけ目をかけてやったのに、よりにもよって公衆の面前で恥をかかせるとは。
 大体、人を雇うのにどれだけ金がかかると思っているのか。ただでさえ最近は父からの援助も減らされているというのに。
 今回はこっそりと父のへそくりを拝借したが、息子の面子を守るためだ。きっと父もわかってくれるだろう。

 廃教会の扉は既に半分が失われており、中の様子が丸わかりだった。
 早く暴れたくてうずうずしている荒くれどもを片手で押し留め、ギデオンは内部を窺う。
 ステンドグラスも割れ、チャーチチェアも横倒しになり、内部は惨憺たる有り様だったが、かろうじて残った講壇の前にはふたつの人影があった。
 背の高い男と、ドレス姿の女。男は白のモーニング姿で、白銀の髪とは釣り合いが取れているようだが、ひとつ気になるのは頭部についた焦げ茶の耳だ。ミーナの婚約者は果たしてエルーンだっただろうか?
「おいおい、いつまで待たせりゃ気が済むんだ?」
 扉の影にへばりつくギデオンに、大柄なドラフが歩み寄る。
「中の奴らを脅かしゃいいんだろ? コソコソ隠れてなんになる? それよりちゃんと報酬は全額払ってくれるんだろうな? 前金だけじゃ全然足りねぇよ」
「は、払うに決まっているだろ! 僕を愚弄するのか!?」
「ふん、わかってりゃいい。大人しくそこで待ってな。今あの女をここに連れてきて土下座させてやるからよ」
 ドラフはギデオンを追い越すと、わざと地響きじみた足音を立てながら教会の中へ踏み込んでいった。剣呑な得物を携えたチンピラどもが、巨大な背中にぞろぞろと続く。
 室内の人影は、既に物騒な参列客に気づいているはずだが、取り乱すどころか振り返る素振りもない。
 恐怖におののいて身動きも取れないのだろうか? いや、ミーナはやけに肝が据わった女だ。小動物のように震える姿など見たことがない。だったら、なぜ――

「よう嬢ちゃん、こんなボロっちい教会で何してんだ? まさか、結婚式だなんて言わねぇよなぁ?」
 チンピラの頭目は、ヴェールをすっぽりと被った女の肩に岩の如くゴツゴツとした手を乗せた。
 しかし女は一切の反応を見せず、ドラフのほうを振り向こうともしない。
 頭目は苛立ちを覚えた。彼の声は、これまで数多の人間を震え上がらせてきた。ひとたび怒鳴り声を上げれば、誰もが縮み上がって頭を抱え、意味もなく詫びの言葉を繰り返す。この女もそうあるべきだ。だというのに。
「おいおい、人と話をするときは、相手の目を見るのが礼儀だ、ろ!?」
 力任せに女の肩を引き、自分の方に振り向かせようとしたものの。
 慣れた身のこなしで身を沈められ、あっさりと頭目の手は空振ってしまう。勢い余ってつんのめったところで足を払われ、次の瞬間には瓦礫まみれの床に転がされていた。
「な、な……
 これまで幾度となく誰かを転ばせては来たが、自分が地面に転がるのは初めての経験だ。足をかけた相手を呆然と見上げれば、先程まで微動だにしなかった花嫁がヴェールを脱ぎ捨て、たくしあげたドレスの内側から細身の剣を取り出すところだった。
「お前は……
 ヴェールの下から現れたのは金の髪だ。
 ギデオンを振った女の髪の色は茶色だったはず――
 慌てて教会の入口に目を遣れば、ギデオンもまたあんぐりと口を開いて硬直している。依頼主にとっても想定外の展開だったのだろう。
 そんな間抜け面を晒しているギデオンの背後から、ぬうっと巨大な影が現れた。
 天を衝くほどの巨体に、悪鬼と見紛う兜。自身に覆いかぶさる影を恐る恐る見上げたギデオンは、声を裏返らせて悲鳴を上げ、腰を抜かしたまま逃げ出そうとしたものの、あっけなく首根っこを掴まれてしまった。
「こちらは確保した」
 ギデオンは子猫のように吊り下げられたまま、地の底から響いてきたかのような野太く低い男の声を聞いた。どうやらその声は、自分を捕らえている背後の男のものであるらしかった。
「了解」
 別の男の声が応える。ざらりと乾いた声音だった。
 声の出どころを辿れば、これまで沈黙を保っていた花婿姿のエルーンが、華やかなジャケットの内側から剣呑な短銃を取り出すところだった。
 その銃口が自分のほうへ向けられたのを見て、ギデオンは縮み上がる。他者をいたぶるのは好きだが、いたぶられるのは御免被る。命の危機など以ての外だ。
「何してるんだお前ら! こっちは金払ってんだぞ!」
 威厳たっぷりに怒鳴りつけたつもりだったが、喉から飛び出したのは情けなく上ずった声だけだった。
 それでも、チンピラどもを焚きつけるには充分だったようで、頭目はやっと立ち上がり、自失していた男たちもそれぞれの得物を握り直す。
「ナメた真似しやがって! てめぇら、タダで済むと思うな――
 しかし、頭目がいかにも悪者らしい口上を述べ終わるよりも早く。
 白装束のエルーンが手にした短銃を天井の方へ向け、慣れた手つきで引鉄を引いた。
 乾いた銃声が教会内に響く。悲鳴も上がらず、血も吹き出さず。代わりに、天井から巨大な網が降ってきて、下っ端たちを絡め取った。
「なんだ、これ……!」
「体にへばりついて、取れねぇ……!」
 あちこちから苦悶の声が上がる。頭目は呆然と、網の下でもがく部下たちを見つめた。不思議なことに、チンピラたちがもがけばもがくほど、網は収縮し、彼らの自由を奪い取ってゆく。なんらかの呪術でも施されているのだろうか?
「ど、どうなってんだ……
 得体の知れぬ恐怖が頭目を襲う。恐れなど、既に忘れてしまったと思っていたのに。今となっては、金のことも部下のことも、ましてや依頼主のことなどどうでもいい。この状況を打開する方法が、どこかに転がっていやしないか。
 うろうろと視線を彷徨わせる頭目の前に、ひとつの人影が立ち塞がった。
 細身の娘だった。少女のあどけなさと、女性のしなやかさ。そして、何より強い意思の宿った瞳。
 その目を見た瞬間、頭目は理解した。誰よりも場違いだと思っていたこの娘は、誰よりも――自分などよりは遥かに――〝場数〟を踏んできているのだろうと。
 たとえ腕力で彼女を圧倒できたとしても、おそらく彼女に勝つことはできないだろうと。
 それでも、頭目にはチンピラなりの意地があった。伊達に裏道を選んで生きてきたわけではない。ここで尻尾を巻いて逃げるなど、できるわけがなかった。
 血管が浮き出るほどきつく拳を握り、しっかりと両足に力を入れて立ち、そして。
「う、うおおおおお!」
 自身を鼓舞するために猛々しく吼え、頭目は眼前の娘に殴りかかる。
 凛とした娘の眼差しに、一瞬鋭い光が走ったのを、男は確かに見て――
 結局、拳を振り下ろす間もなく、昏倒する羽目になったのだった。


            *


 チャペルの鐘の音が晴れ渡った空によく響く。
 イルザは無事に本日の役割を果たし、チャペルの前に立つ新郎新婦を眺めていた。
 式を終えた二人は、和やかに招待客たちと語らっている。式の最中、何度も感極まって泣き出した教え子の顔は、せっかくの化粧も崩れてしまっていたものの、今まで一度も見たことのないほど晴れやかだった。
 花嫁らしくもないというか、むしろ花嫁らしいと言うべきか。『組織』にいた頃は天涯孤独の身ゆえか、やや投げやりな一面も見え隠れしていたものだが、今後はそういった兆候も形を潜めていくことだろう。

「イルザさん!」
 朗らかな呼び声が背にかかり、イルザは振り返った。
 軽快な足音と共に、パーティ用に着飾ったジータが小走りに駆け寄ってくる。今回の功労者に微笑みかけようとしたイルザは、少女の後方に仏頂面の保護者の姿を見つけて苦笑を浮かべる羽目になった。
「ミーナさんの結婚式、無事に終わって良かったですね」
 騎空団の誰かに結ってもらったのか、さほど長くはないジータの髪は綺麗な編み込みになっていた。淡桃のリボンが巻き込まれており、大変愛らしい。
「君のおかげだ。面倒事に巻き込んですまなかったな」
 ジータは「お役に立ててよかったです!」と笑っているが、背後に控えたユーステスの視線は冷ややかだった。その顔にはデカデカと「まったくだ」と書いてある。最終的にはジータの説得に折れて花婿役を承諾したのは誰だったか。
「そういえば、ミーナさんにつきまとっていた男の人はどうなったんですか?」
 ジータの問い掛けで、イルザはギデオンの存在を思い出した。バザラガに宙吊りにされ、借りてきた猫のように大人しくうなだれていた姿を。
「家の金を随分と使い込んでいたようでな。その証拠と共に父親に突き出してやったら、真っ青になっていたよ。父親が経営する別の島の工場に放り込まれたようだから、しばらくは戻ってこれないだろう」
「そっか。じゃあ、報復の心配はなさそうですね」
「後顧の憂いは断っておく必要があるからな。その場凌ぎの対処は、ただの自己満足にしかならない」
 力任せに追い払うのは簡単だ。だが、それでは根本的な解決たりえない。ああいった輩は何度でも金に物を言わせて嫌がらせをしてくるだろうし、イルザたちはこの島に定住しているわけではない。いつでも手を差し伸べられるわけではないのだ。
 ゆえにイルザは、元凶であるギデオンの無力化を第一に行動した。甘やかされて育ったドラ息子の不正を暴くのは、赤子の手をひねるより容易かった。決して諜報活動が得手とはいえないゼタとベアトリクスが、あっさりと証拠を見つけ出してくる程度には。
 なるほど~と頷いているジータは、歴戦の騎空士の顔をしている。嘘の結婚式を催すことでギデオンを誘き寄せようと言い出したのは、他でもない彼女だった。作戦が終わってみれば、これ以上ないほど効果覿面だったわけで、改めて騎空士としての彼女の手腕に舌を巻くことになったのだが、それはそれ。
 イルザにはどうしても、気になることが一つあるのだ。
「だが、本当に良かったのか?」
「ん? 何がです?」
「作戦遂行のためとはいえ、ウェディングドレスを着たわけだろう?」
 こういう考え方は古いのかもしれないが、結婚式といえば人生の晴れ舞台のはずだ。新たな門出として憧れる者は決して少なくないだろう。かくいうイルザもその一人ではある。
 だからこそ、ジータに協力を頼むのは気が引けたのだ。歴戦の騎空士である以前に、彼女はまだ嫁入り前のお嬢さんなのだから。
 ジータはしばらくピンと来ない様子できょとんとしていたが、やがて「ああ」と声を上げた。
「前にコルワさんが言ってたんですよ。ウェディングドレスは何度着てもいいものなんだって」
 ぴんと人差し指を立て、凛々しくも得意げな顔で、ジータはかのデザイナーの言葉を暗誦する。曰く――

――結婚式前にウェディングドレスを着たら嫁き遅れになるなんて、そんなのはただの迷信よ。私のお客さんにはね、数年ごとにドレスをオーダーしてくる人だっているわ。旦那さんと、色んな場所、色んな形式で何度でも結婚式を挙げたいんですって。その時その時のハッピーを更新していく、それって素敵なことだと思わない?

 なんともコルワらしい言葉だ。そしてジータは、その言葉にいたく感銘を受けたのだという。
「だから私も、したくなったら何度でもお祝いしちゃおうと思って!」
 朗らかに宣言する姿は、年相応の無邪気な少女のものだった。
 心の底からの本音かもしれないし、もしかしたらジータなりにイルザを気遣った上での発言なのかもしれない。だが、彼女が明るく笑っている以上、殊更に申し訳なさを示すのも逆に失礼に思えてきて、イルザは再び苦笑を浮かべた。
「ならば私も、何度でも司会を務めなければな」
 軽い口調でイルザが応じれば、ジータもまた笑顔を返す。
 和やかな空気が流れるなか、渋い顔をしている男がひとり。
 彼だけは、ジータを巻き込んだことに納得はするまい。番犬として、そうあるのが彼らしい立ち位置だ。ただでさえジータは抱え込みがちなのだから、誰よりも傍にいるパートナーは慎重なほうがいい。
……誰も呼ぶとは言っていないが」
 だが、次に男の口から放たれた言葉は、イルザの想定とはいささか異なるものだった。
 イルザは思わず目を瞬く。言葉の意味を理解するまで、一拍置く必要があった。
 つまり、この男は。
 ジータは自分と結婚式を挙げるのだと、当然のように考えているということだ。
 それはまた、なんというか。随分と気合の入った惚気ではないか。
 さすがのジータも気恥ずかしさがあるらしく、頬や耳を赤らめているのだが、当のエルーン男性はというと至って大真面目な姿勢を崩さない。頑固で気難しい男だとばかり思っていたが、付き合いが長くなるにつれ、実はこの男天然なのではないかという疑惑も強まってきた。
「お前に招待されずとも、花嫁に呼んでもらえればそれで済む話だからな」
 冗談半分に応じれば、普段からくっきりと刻まれた眉間の皺がひときわ深くなった。
 なんともからかい甲斐が――いや、見守り甲斐がある。

「イルザさーん!」
 遠くから、ミーナの呼び声が聞こえた。
 振り返ってみれば、チャペルの前で花嫁がこちらに手を振っている。どうやら呼ばれているようだ。
 ジータたちに軽く挨拶をし、イルザはその場を離れた。
 しばらく歩いてから肩越しにそちらを見れば、華やかに着飾った一組の男女が和やかに会話している姿が目に入った。
 共に死地を駆け抜けていた頃は、想像すらできなかった光景。
 願わくは、この穏やかな日々がいつまでも続くように。
 そして、本当に彼女たちの結婚式を司会の席から祝えるように。
 胸の内でそっと祈りながら、イルザは再び歩き出した。



【おわり】