紫輝
2025-12-07 10:16:11
2218文字
Public リとヌと御仔の話
 

作品No.××『パパのシチューのうた』

(リと)ヌと御仔とオリジナルソングの話。作詞作曲自分のお歌をご機嫌で歌う御仔は可愛いしご両親は使えるもの全部使って録音・保管して聞き返しては悶絶したりにっこりしてるんだろうなと思うとみんな可愛いね

「きょおの、ごはんは、シチュー♪
とろとろおにく、ほくほくおいも、にんじん、の、おほしさま、きらきら♪」
 繋いだ手をふりふりと揺らされるまま、弾む足音を伴奏にした愛息子の歌にヌヴィレットは耳を傾ける。
 時々個性的な音の外し方をするメロディと、自宅で待つ本日の夕食への期待を己の語彙で目一杯表現している可愛らしい歌詞はどちらも愛息子の自作だ。芸術に触れる機会が多いからか、『おねえちゃん』や『おにいちゃん』たちの影響か、最近レヴィはふとした時に作詞・作曲共に自分の歌を披露してくれる。愛らしい声と可愛らしい笑顔でもって歌われるオリジナルソングの数々はそのどれもがヌヴィレットとリオセスリの心を鷲掴み、アルバムを保管するための棚には近頃レコードを保管するためのスペースが新設されたところだ。
「ほかほか、つやつや、パパのシチュー♪ おなかすいたねぇ、とうさま」
っふふ、そうだな」
 唐突に終わるところも子どもらしくて可愛らしい。すり、と腹を撫でながら向けられたアイオライトに、ヌヴィレットはつい笑みをこぼしてしまいつつ同意を返す。
「今日はシチューですか。寒くなってきましたし、煮込み料理が美味い季節ですね」
「きょうね、ごはんね、パパのシチューなの」
 明日あすのサラダの材料を買い求めるべく足を止めた青果店の店主が、お上手ですね、とレヴィの歌を褒めてくれてからにっかりと笑う。のに、レヴィはにこにことうなずいた。
「おもたいおなべでね、ぐつぐつってするとね、おいしいシチューができるんだよ!」
「なるほど。人参のお星様ってのは?」
「我が家のシチューに入っている人参はルエトワール型なのだ。野菜を抜ける金型があるのでな」
 ひょいと投げられた疑問にゆるりと口角を上げて答える。メロピデ印の金型は、野菜やクッキー生地、スポンジなども綺麗に抜ける万能型抜きだ。レヴィの好みを反映して海の生き物たちとその他諸々で現在五種類ほどになろうか。レヴィが特に気に入っている海獣と狼のモチーフは家庭用とは思えないクオリティを誇っている。国内最高峰の技術力を遺憾なく発揮して作られたそれを見た我らが友人の白い相棒が呟いた「技術の無駄遣いなんだぞ」に、伴侶は「愛情の塊と言って欲しいな」と笑っていた。
「ああ、そりゃあいいですな。見た目が華やかだと何倍も美味く感じますからね」
「あしたになったらね、ごはんにかけて、チーズのっけて、チンしてくれるの。だからね、いっぱいたべないように、がまんするの!」
 ヌヴィレットの指した野菜達を袋に詰めながら呵呵と笑う店主に、レヴィが高々と表明する。くふくふと弾む声に、店主はうんうんとうなずいた。
「ドリアですね。それも美味そうだ。けど、今の坊ちゃんはたくさん食べて元気に大きくなる時期ですからね。ヌヴィレット様と公爵様も、我慢せずいっぱい食ってくれた方が嬉しいと思いますよ」
う〜〜〜……
「パパは、おまえがたくさんおかわりをしてもドリアができるくらいシチューを作ってくれている。店主殿も言うように、我慢せずにたくさん食べてくれた方が私たちは嬉しい」
 ちら、と見上げられて、ヌヴィレットは眦をゆるめる。小さな頭を撫でてやると、蒼い二筋がふよと揺れた。
ん! じゃあ、いっぱいたべる!」
 たのしみだなぁと頬に手を当てるレヴィに、そうだなと相槌を一つ。そういえばと店主が発した言葉に揃って目を向ければ、彼は卵を手にしていた。
「ドリアに卵をのせて一緒に焼くとこれがまた美味いんですよ。召し上がったことは?」
ぼく、ない」
「そうだな。私の記憶にもない」
「なら是非。半熟卵のとろっとした黄身がソースと絡んで最高なんですよ」
 きゅ、と力を込められた右手に、ヌヴィレットはそっと肩を揺らす。
「店主殿は商売の上手だな。では、卵も頂こう」
「はいよ、卵三つ! 毎度あり! ああ、破裂することがあるんで、黄身には二箇所ほど穴を開けてから焼いてくださいね」
「了解した」
 野菜達の上に包装された卵が乗った袋を受け取って、レヴィがばいばいと手を振るのを見届けて、ヌヴィレットは帰路へ戻るのだった。
 二人を見送った店主が、二人と店主のやりとりを見ていた商店主達がしれっとシチューの材料を店頭へ押し出したのも、居合わせた客達が吸い込まれるようにそれらを手にしたのも、もちろん二人が知る由はないことだ。

「レヴィ」
「あい!」
「先ほどの歌を、アンコールしても良いだろうか」
 相も変わらずふりふり揺らされる手をそのままにご機嫌で歩を進める愛息子に声をかけると、ぱちりとアイオライトがまたたく。あんこーる、と言葉を転がしたレヴィはこてりと首を傾げ。
「えと、もういっかい?」
「ああ。おまえの歌を聞いていると、とうさまもパパのシチューがもっと楽しみな気持ちになるのだ」
 どうだろうかとレヴィのように首を傾けてみる。ぱあ、と笑顔が咲いて、こくこくとちいさな頭が振られて。
「いいよ!」
 あんこーるする!と、元気いっぱいにされた宣言に、ヌヴィレットはぱちりと一度指を鳴らす。ふわと形を結んだ泡――水元素が自らを揺らした音を記憶することのできる特殊なものだ。詰まるところ録音装置のようなものである――がレヴィの頭上に落ち着いたのと同時に響く愛らしい声に、ヌヴィレットはやわりと笑むのだった。