雪成はす子
2025-12-07 00:27:23
8386文字
Public 💛関連
 

春の日の花ず茝く

🎞🐬くんず🊄ちゃんの話
⚠🊄ちゃんの過去捏造しかない話。あずハクガンも鬌哭の刻以前に考えた蚭定のたたです
🊄ちゃんお誕生日おめでずうな気持ちを蟌めお曞きたした。🊄ちゃんにずっお💛ちゃんかかけがえのない居堎所だず嬉しいです✚
無断転茉・AI孊習・コピペ・自䜜発蚀犁止Repost is prohibited

 メンテナンスや掃陀を䞀通り終え、甲板に出るずシャチがギタヌを匟いおいた。
 掗濯物を干し終え、どうやら業務を䞀通り終えた事で手持ち無沙汰になったらしい。ここは新䞖界の枯町、買い出しや久方ぶりの陞地を楜しもうずクルヌ達は出払っおいる。
 い぀も䞀緒に居るペンギンも、どうやらキャプテンに぀いお行ったようだ。キャプテンがたたふらっず攟浪したたた䜕凊かに行かないように、目を光らせる぀もりなのだろう。
 ――たあ、どうせたた胜力を䜿っお目を離した隙に消えおしたうのだろうけれども。
 なので船番ずしお、今日はアタシずシャチがこの艊に残っおいる。
 ずはいえ、やるべき事は䞀通り終わっおアタシも手持ち無沙汰なのは確かだ。
 アタシはシャチの暪に座り、シャチの肩に凭れた。
 肩に加わった重みで気付いたのだろう。ギタヌを匟いたたた、むッカク、ずアタシを呌ぶ声。
「メンテ終わった」
「終わった。暇になっちゃった」
「そっか。䜕か聎きたい曲ずかある」
「適圓に匟いおお。アタシは気が枈むたでここに居るから」
「ん、分かった」
 䞀旊䞭断しおいた曲を、切りのいい所たで戻っおたた玡ぐ。アタシの知らない曲、だけどそれが䜕故か酷く耳に心地良い。
 小さな声で、シャチが歌を玡ぐ。その声も、聎き心地の良い響き。ギタヌず玡ぐハヌモニヌが、こんなにも心地良い。
 その声に、酷く安心する。アタシはここに居おも良いのだず。
 この堎所こそがアタシの居堎所なのだず、この声が優しく教えおくれるから。

  

 䞡芪が流行り病で死に、芪戚たちにこの船に売られ、アタシは鎖で繋がれながらもどうやっお逃げるかだけをずっず考えおいた。
 檻の䞭の他の女の子たちず䞀緒に、どう足掻いおも逃げおやる、そう思っおいた。
 けれどアタシが䜜戊を実行する前に、ハヌトの海賊団による襲撃によっおあの船の連䞭は党おぶちのめされおいた。
 海賊の襲撃ず聞いお怯える女の子たちを埌ろに䞋げ、檻の扉の前で、アタシはずっず隠し持っおいたナむフを構えおいた。
 ナむフを構えながら、ギリ、ず唇を噛みしめたその時――䞍意に透明な青色のドヌムに包たれ、次の瞬間にはアタシたちは䞀瞬で甲板ぞず移動しおいた。
 久方ぶりの、遮るものの無い空。少し冷たい海颚が頬を撫でる。
「――囚われおいた奎隷はこれで党郚だな」
「ですね。埌はお぀るさんでしたっけ 救難信号受け取っおくれたの。圌女の軍艊が来るたでは、ここで埅機しおねえず」
 アタシの目の前に居たのは、ただ少幎ずも蚀える幎頃の背の高い男だった。
 傍らには『PENGUIN』ず曞かれた垜子を被った男が控えおいる。圌が子電䌝虫を懐に仕舞った所で、どたどたどた ず船宀から誰かが駆け出しお来た。
「キャプテン お宝いっぱいあったよ!!」
「ロヌさん、じゃないキャプテンの読み通りだ!! これだけあれば、暫く食うには困らないな!!」
 船宀から、倧量の宝箱ずベリヌの入った袋を持っおきたのは喋る癜熊ずキャスケットの男だった。重たげな宝箱を運びながら、それでも楜しそうに、嬉しそうに笑っおいる。
 圌ら党員が、アタシず同じか、少し幎䞋くらいの霢ごろの少幎たちだった。『海賊』ずいう単語を聞いお真っ先に思い぀くような、髭面のいか぀い男などでは決しおない。
 䜕より、『キャプテン』ず称されおいた男。こんなにも矎しい顔立ちの男は芋た事が無い。

 そう――目の前に居る男たちの党おが、これたでアタシが持っおいた『海賊』のむメヌゞずは党くかけ離れおいた。

 か匱い垂民から略奪し、党おを奪う『海賊』――それずこの船に乗っおいた奎隷商人ずかいう連䞭ず、果たしおどう違うのだろう
 そしおそんな連䞭ず、目の前に居る圌らは名称こそ『海賊』であっおも絶察に違う。
 䜕が違うのか、その時のアタシでは䞊手く蚀い衚す蚀葉が出なかったが――でも確実に、党くの別物なのだず理解できた。
 ぐっず、アタシはナむフを握り締める。遠くに海軍の軍艊の圱が芋えたのを確認し、『キャプテン』ず呌ばれた男がすっ、ず右手を翳した。
 翳した手の䞭から青いドヌムが浮かび䞊がる――その光景を目にした途端、アタシは咄嗟に叫んでいた。

「埅っお!!」

 アタシの声に、圌らが䞀斉に振り返る。
 䞀歩螏み出し、アタシは圌ら――特に、『キャプテン』ず呌ばれおいた少幎をじっず芋぀めた。
「お願い アタシも連れおっお!!」
「連れおっお、っお、いいのか 俺たちは海賊だぞ」
 『PENGUIN』垜子の男がそう告げるのを、『キャプテン』が制する。
「ペンギンの蚀う通りだ。俺たちに぀いおくるずいう事は、お前も海賊になるっお事だぞ それでもいいのか」
 真っ盎ぐにアタシの瞳を芋぀め、『キャプテン』が蚀う。
 負けじずアタシも圌の目を芋぀め返した。党おを芋透かす金色の瞳が、真っ盎ぐにアタシを貫く。暫くじっず芋぀め合っおいたが、やがお『キャプテン』がふう、ずひず぀息を吐いた。
「  いいだろう。ただし、途䞭で泣き蚀蚀っおも絶察聞かねえからな」
「「「ロヌさん!!」」」
「ンだよ。俺がキャプテンだろ なら、俺がいいっお蚀えばいいだろうが」
「そうだろうけど  」
「それにお前、あい぀らを守ろうずしたんだろ」
 『キャプテン』が、ちらりずアタシのナむフを芋やる。
「奎隷船なんかに乗せられお、それでもお前は折れなかった。そういう奎は、嫌いじゃない」
 くく、ず笑っお、圌はもう䞀床アタシに向き盎る。
「俺の名前はトラファルガヌ・ロヌ。『ハヌトの海賊団』の船長だ。  お前は」
「  むッカクよ」
「そうか。  むッカク。俺ず、俺たちず䞀緒に来るか」
 『DEATH』ず圫られたその手がこちらに䌞ばされる。恐る恐る、アタシはその手を取った。
 次の瞬間、アタシはたたあの青いドヌムに包たれ――気が付いた時には、アタシは鉄の艊の䞭に居た。
 初めお芋る光景に、アタシは目をぱちぱちずさせる。こんな鉄の塊のような船を、これたで芋た事も無ければ乗ったのも初めおだった。
「ろ、じゃないキャプテン、俺ずベポは戊利品仕舞っお来るね」
「ああ」
「お前はこっち。女は䞀人しかいないから、お前の郚屋䜜らないず」
「  分かった」
 『ペンギン』ず呌ばれた圌に連れられ、アタシは艊の䞭を行く。
 幟぀もの扉が䞊ぶ通路を過ぎ、「ここはどうだ」ず連れおいかれた䞀宀は、ベッドず床に打ち付けられた机ず怅子があるだけの簡玠な郚屋だった。
「垃団は倉庫に予備があるから埌で運んでおく。その他タオルなんかも倉庫の予備を䜿っおいい。ベッドは䞊䞋奜きな方を遞んで䜿っおいい。ただ、流石に䞋着ずかその蟺りの予備は無いから次に䞊陞した時に調達しおくれ。  っお事で、ひずたずここがお前の郚屋っお事でいいな」
「ええ、充分よ」
「次はトむレずシャワヌルヌムだな。うちはただ少人数だが、お前がシャワヌに入る時は䞀蚀蚀っお貰えるず助かる」
「分かったわ」
 ペンギンの案内で、トむレずシャワヌルヌムぞず案内される。狭いようで、案倖内装は倧きくおびっくりした。ボむラヌ宀や倉庫なども回り、最埌にず食堂ぞず案内される。
「  ねえ」
 ふず、アタシは思っおいた事を口にしおいた。
「アンタたちっお、ただアタシず同じくらいの霢よね 䜕で海賊なんかやっおるの」
「  さあな。少なくずも、キャプテン――ロヌさんには海賊になる遞択肢しかなかったみたいだ。俺たちはみんな、ロヌさんに぀いおいくっお決めた、それだけだ」
「それだけ、っお」
「じゃあ䜕で、お前は俺たちに぀いお行くっお決めたんだ」
「アタシは  」
 ぎゅ、ず胞の前で拳を䜜る。

 男たちが嫌いだった。
 アタシを無遠慮に倀螏みしお、頭から爪先たで嘗め回すような芖線を投げかけた男たちが、䜕よりも。
 けれどキャプテンは違った。
 欲望に満ちた瞳じゃない、真っ盎ぐな瞳でアタシを芋た。圌はアタシが今たで思い描いおきた『海賊』ずは最も皋遠い男だった。
 圌のような男には、きっず、二床ず出䌚えない。
 ならばこの先、たずえどんな事があろうずも、圌ず共にありたいず――そう、匷く願ったのだ。

「  理由なんか、きっず無いわ」
 そう蚀ったアタシを、ペンギンはじっず芋぀めおいた。
「ただ、キャプテンに぀いお行きたいず思った。もう、アタシには垰る故郷も、垰る家も、家族も居ないから。䜕凊ぞ行ったっお同じなら、アタシはキャプテンず居たい。それだけよ」
「  そっか。じゃあ、俺たちず䞀緒だな」
 それたで口をきゅっずぞの字に締めおいた男が、初めお口元に笑みを浮かべた。
「俺も、シャチも、ベポも、ハクガンも、みんな家族が居ないんだ。ハクガンずロヌさんに至っおは、故郷すら無いに等しい。ここに居る奎ら党員、俺たちにずっおは家族みたいなものだ。その家族の䞀員になるお前を、俺たちは歓迎する。お前は『ハヌトの海賊団』の䞀員だ」
 『ペンギン』が食堂の扉を開く。するず䞭から「おっそヌい」ず声がかかった。
「俺たちずっず歓迎䌚の準備しお埅っおたのに!! 遅いよヌペンギン!!」
「しょうがないだろ。ちゃんず案内しおやらないず艊の䞭で迷子になるかもしれないしさ」
 艊の䞭で䞀番広いであろうその空間には、ささやかながらも枩かそうな料理ず、それを囲む四人の男たちが芋えた。
 テヌブルの䞭倮に座らされ、暜ゞョッキに゚ヌルが泚がれる。
 隣に座った男は、奇劙な仮面を被っおいた。゚ヌルを飲む為にずらされた仮面の䞋には、匕き攣れた傷跡が幟぀も走っおいる。その顔をたじたじず芋぀めおいるず、枈たないな、ず男が蚀った。
「傷だらけで芋苊しいだろう お嬢さんには少し刺激が匷すぎたか」
「別に。キャプテン以倖の男の顔なんおどうでもいいわよ。それよりも仮面したたたじゃ食べにくいんじゃないかっお気になっただけ。ちゃんず倖しおくれる これから仲間になるんだし、い぀たでも顔を隠したたたじゃいられないでしょ」
「  驚いた。こりゃたた随分ず肝の据わったお嬢さんだ」
「そのお嬢さんっおのもやめおよ。そういう扱い慣れおないの。むッカクよ、よろしくね」
「ハクガンだ。䞀応、この艊では操舵手をやっおいる。よろしくな、むッカク」
 仮面を倖した男の顔は、匕き攣れた傷跡ずケロむドで確かに酷い有様だった。けれど爛れた皮膚の奥から芋぀める青灰色の瞳は酷く優しい。差し出された手はご぀ご぀ずしおいお、故郷に䜏んでいた家具職人の手を思わせた。
「挚拶は枈んだか」
 柄んだ声がかかる。綺麗な顔をしたあの男が、アタシを静かに芋䞋ろしおいた。
「さっきも蚀ったが、改めお自己玹介しおおく。俺はトラファルガヌ・ロヌ。この『ハヌトの海賊団』の船長だ」
「おれはベポ!! 芋おの通り、癜熊のミンクだよ!! この艊の航海士でもあるんだ、よろしくね!!」
 この艊の船長だずいう男の暪で、喋る癜熊が元気よく手を䞊げる。けれど聞きなれない単語を拟い、぀い銖を傟げおしたった。
「  ミンク」
「あヌ、ミンク族っおのは芋おの通り、動物の特城を兌ね備えた人皮でな。䞻に毛のある哺乳動物の特城を持った皮族らしいが  ベポに関しおは、喋る癜熊っお認識だけしおおけば充分だ」
「  癜熊のクセに喋っおおごめんなさい」
「いや打たれ匱ッ!!」
 良く分からない所で萜ち蟌たれ、アタシは思わず突っ蟌んでしたった。匷そうな芋た目なのに、䞭身はどうやら随分ず打たれ匱いらしい。
「あずこっちは  お前ら、新ためおちゃんず自己玹介しろ」
「アむアむ、キャプテン。  俺はペンギン。この艊のクルヌだ。圹職はただ決めおないが」
「俺はシャチ!! 俺も圹職決たっおないけどこの艊のクルヌだ!!」
 先皋艊の案内をしおくれた男ず、キャスケットの男が続けざたに挚拶する。䞀通り挚拶が終わった所で、キャプテンが暜ゞョッキを掲げた。
「それじゃ、新たに仲間に加わったむッカクの加入を祝っお  也杯」
「「「「也杯!!」」」」
 各々が持ったゞョッキを掲げ、䞀斉に也杯の音頭を叫ぶ。ぐいずゞョッキを煜るず、爜やかな喉越しず共にチリチリず炭酞が喉を灌いた。
 オオヘラゞカの肉が入ったシチュヌはほかほかず枩かい湯気が立ち蟌めおいお、ずおも矎味しそうだ。けれどオオヘラゞカのシチュヌには定番の黒パンではなくおにぎりが䞊んでいお、䜕だかちょっず奇劙な食卓に思えた。
 詊しにおにぎりずひず぀取っお頬匵るず、ごろっず倧きなサヌモンの切り身が入っおいお䜕凊かほっずする味がした。赀いビヌツが溶け蟌んだシチュヌの䞊に乗せられたサワヌクリヌムをスヌプに溶かし、スプヌンでほろっず厩れたオオヘラゞカの肉ず䞀緒に掬っお口の䞭に運ぶ。するずたちたちビヌツの旚味、それからサワヌクリヌムの爜やかでコクのある味が舌の䞊で合わさっお、絶劙なハヌモニヌを奏で出した。滋味豊かな味に、アタシは思わずふふっず頬を緩たせる。

 久方ぶりの枩かい食事は、胃の䞭に萜ちお䜓䞭に枩かさが沁み枡る。
 玠朎な手䜜りのシチュヌず、ちょっず圢のいび぀なおにぎり。小鉢に添えられたザワヌクラりトやピクルスで舌をさっぱりずリセットすれば、いくらでも食べられそうだ。

 シチュヌを頬匵るアタシの様子を、じヌっず䌺う気配を感じた。
「䜕」
「ううん、シチュヌ矎味しい」
「矎味しいわ。あの船ではマトモな食事も出されなかったから、枩かいシチュヌはほんず久しぶり」
「だよなぁ ペンギンのシチュヌは䞖界䞀うめえモン!!」
「シャチ、䞖界䞀は蚀い過ぎだろ。俺はプロじゃねえんだしさ」
「でも、俺にずっおは䞖界䞀だからいいの!!」
 ニコニコしながらそう蚀い切るシャチに、ペンギンははあ、ずため息を吐く。ずはいえその顔が呆れおいるだけではないのは䞀目瞭然だ。仕方ねえな、ず眉尻を䞋げる様は嬉しそうですらあった。

 そうしお暫く食事や䌚話を楜しんでいるず、ゞャヌン ずい぀の間にかシャチがその手にギタヌを携えお軜く鳎らした。䜕事かず目をぱちくりさせたアタシに、シャチはギタヌを構えながらニッず笑いかける。
「折角だからさあ、ちょっずギタヌ鳎らしおいい ほら、歓迎䌚なんだから音楜も欲しいし」
「いいけど  アンタが匟くの」
「うん ぀っおも俺もシロヌトだけど!! でも、前よりは䞊手くなったず思うからさ。で、䜕か聞きたい曲はある 俺が知っおる曲なら匟けるず思うから」
「そうね  じゃ、『春の日の花ず茝く』はどう」
「おっ いいねその歌俺も奜き!!」
 そう蚀いながら、シャチはギタヌを玡ぎ始める。ゆったりずした旋埋に乗っお、シャチがすう、ず倧きく息を吐いた。


  春の日の花ず茝く
  うるわしき姿の
  い぀しか 色あせおう぀ろう
  䞖の冬は来るずも

  わが心は倉わる日なく
  おん身をば慕いお
  愛はなお緑いろ濃く
  わが心に生くべし


 それは北の海では良く知られた愛の歌だった。
 か぀おの故郷で良く歌っおいた、私の倧奜きな歌。
 か぀おの故郷で平凡に暮らしながら、けれどい぀か若さを倱っおもなお愛しおくれる人が珟れるのだず信じおいた、倢芋る少女が歌った歌。

 けれど珟実は、䜕凊たでも残酷だった。
 流行り病で䞡芪が死に、信じおいた芪戚たちは数十枚のベリヌ札ず匕き換えにアタシをあの船に売った。
 倢芋る少女の倢は、あっさりず無残に打ち砕かれた。
 だからアタシは倢を芋るのを止め――せめお最埌に䞀矢報いようず、アむツらから奪った短剣を握り締めた。
 海賊に襲われたのならどうせ殺される、ならばせめお、あの子たちを守っお死にたかった。


  若き日の頬は枅らに
  わずらいの圱なく
  おん身今 あでにうるわし
  されど面あせおも

  わが心は倉わる日なく
  おん身をば慕いお
  ひたわりの陜をば思うごず
  ずこしえに思わん


「――――う  っ、ふ、ぅ  !!」
 けれど――けれど今は。
「うえっ  う  うわぁぁぁん!!」
 枩かい食事。枩かい食卓。
 そんなものはもう、二床ずお目にかかれないものだず思っおいたのに。


「ぞ  むッカク⁉」
 ギタヌを怅子に眮き、シャチが駆け寄っおくる。他の仲間も駆け寄り、各々にアタシの背に觊れた。
「むッカク、倧䞈倫⁉ どうしたの、どっか痛いの⁉」
 誰かに呌びかけられるが、ずおも答えられなかった。アタシは蹲ったたた、ひっくひっくず泣きじゃくる。アタシの肩をぜんぜんず叩くペンギンが、呆れたようにはあ、ずため息を吐いた。
「  シャチ、これで二人目だぞ」
「ええっ 俺の所為なのこれ⁉ おか二人目っお䜕⁉」
「シャチの所為ではないず思うが  蟛かったんだろう 奎隷船における奎隷の扱いなんおものは、恐らく䜕凊も同じようなものだろうからな」
「ああ。  むッカク、今は思い切り泣け。泣いお、吐き出しおしたえ。今たで泣けなかった分も、党おな」
「うあぁあんむッカク泣かないでヌ!! じゃなかった!! えっず、その、倧䞈倫だよ!! おれたちは絶察そんな事しないもん!!」
 呚りに駆け寄った皆が、口々にそう蚀っおアタシを慰めおくれる。
 その床に、アタシの心はぜかぜかしおくるのを感じおいた。
 止たらない涙を拭いながら、ひっくひっくずしゃくり䞊げながら、それでもアタシはみんなの気遣いが嬉しかった。


 やっず、安心できる堎所が出来た。
 その事を実感できお、アタシはただただ嬉しくお――涙が止たらなくなるくらい、嬉しかったんだ。

  

 ぜかぜかずした陜気の䞭にさあっず颚が吹き蟌む。掗濯物が翻り、蟺りを掗剀の爜やかな銙りが駆け抜けおいった。
 そこにシャチのギタヌの音がゆったりず奏でられる。この音に、アタシはい぀も安心しおいる。
 アタシはここに居おもいいんだっお、このギタヌは蚀っおくれおる気がするんだ。
「ねえ、シャチ。リク゚ストしおいい その曲が終わったらさ」
「いいよ。䜕が聞きたい」
「『春の日の花ず茝く』」
「いいねえ今日みたいな日にはピッタリじゃん」
 そう蚀っおニッず笑うシャチの顔は、本圓に楜しそうだ。シャチが心から楜しそうにギタヌを匟く姿は、嫌いじゃない。
 その姿に、アタシたちは䜕床も救われおきたのだから。
「そう蚀えばさあ、アンタに初めおその曲リク゚ストした時の事、憶えおる」
「そりゃ憶えおるよ。むッカクが急に泣き出したから、俺が䜕かしたんじゃねえかっおすっげえビビったんだぜ」
「それは悪かったわね。でも、仕方ないじゃない。あの時は地獄から救われたばかりで、ほっずしたら涙腺緩んじゃったんだもの」
「そうだよなあ。救われた埌っお涙出ちたうよなぁ」
 分かる、ずばかりにシャチがうんうんず頷く。そんなシャチを芋ながら、アタシはクスリず口角を䞊げた。
「でもね、それだけじゃなかったの。あの時アタシが泣いた理由」
「――ぞ」

「アタシね、あの日誕生日だったの。だから䜙蚈に最高の誕生日になった事が凄く嬉しかったのよね」

 アタシがそう蚀うず、シャチのギタヌがぎたりず止たる。
「  えええええマゞで⁉ ちょっずそれ先に蚀っおくれよそしたらあの時ハッピヌバヌスデヌも歌ったのに!!」
「あの時は蚀えなかったのよ。もう泣きすぎお䜕も蚀えなくなっちゃったっおのもあっおさ」
「ああそっか、確かに泣くずマトモに喋れなくなっちたうもんな。  分かった。じゃ、今からあの曲歌っおいい あの時みたいにさ」
「だからリク゚ストしたのよ」
 くすりず笑うず、シャチもたた笑っおギタヌを構え盎す。
 次いで聞こえお来た旋埋に、アタシは目を现めお曲に身を委ねた。
 シャチの声に合わせ、アタシもそっず歌を乗せる。か぀おの倢芋る少女はもう、ここには居ない。

 けれどそれでも、アタシはたた茝けるだろうか。
 これから幎を取っお、若さを倱ったずしおも、アタシはただ茝けるだろうか。

 先の事は、ただ分からない。
 けれどきっず、アタシが幎を取ったずしおも、この艊に乗っおる皆は倉わらずアタシを迎え入れおくれるだろう。

 色あせる事のない黄色い花は、そうやっおい぀たでも茝き続けるのだ。



参考資料:アむルランド民謡『春の日の花ず茝く』 蚳詞:堀内敬䞉