匣舟
2025-12-07 00:25:41
5948文字
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いじわるな僕はお嫌いですか?

秋リクエストで頂いた金木犀を取りに行く伊乱を書かせて頂きました……!!お待たせ致しました!リクエストありがとうございました〜🫶🫶🫶🫶

 サッサッと足を駆けて裏山を走っているのは一年は組の猪名寺乱太郎である。彼が得意とするスケッチ道具を両手に持って裏山を駆ける姿は宛ら豹のようである。どうしてこんなにも彼が速く走っているのかというと秋に旬を迎える金木犀の群生地を前の一年は組の実技担当である山田のマラソン授業の時に見つけたからだった。マラソンをしていたときに香ったあの金木犀特有の甘い香りを頼りにして乱太郎は足を動かした。
 しばらく走っていると、乱太郎は目をパッと見開いてその方角へと足を進める。すると、多分マラソン大会で見かけたであろう金木犀の群生地を見つけた。金木犀の群生地は一箇所ではなく何箇所にも分かれてあったため乱太郎は一つ一つ群生地を見ていった。秋の空は高く澄んでいて気持ちがいい。
 そんな中で濃い山吹色の花たちがひしめきあって咲いている様子はとても愛らしい。乱太郎は持ってきていた紙を広げて、その上に筆をさらさらと滑らせた。金木犀の花をメインにして少し背の高い木も描いた。後ろに白い雲があるとより引き立つので、白い雲もある程度入れ込んでみる。
 風が吹くと金木犀の甘い香りが辺りに散ってとても良い匂いがした。目の前に景色と画材道具を広げながら一生懸命に筆を動かす。
日差しが強く照る青い空の下で舞う金木犀の花びらを描き終えて、乱太郎はよしっ!と呟いた。今日も上手く描けたと思う。乱太郎は出来上がった絵を見て満足げに微笑んだ。
「やっぱり秋は良いなぁ。」
 そう言いながら顔を上げると、金木犀の甘い香りが鼻腔をくすぐった。金木犀特有の甘ったるい匂いが乱太郎を掠める。そういえば前、いつも一緒にいるきり丸が図書委員会の仕事があるときに着いていって暇つぶしに植物図鑑を眺めていたときに金木犀の紹介ページがあったような、それを読んでいたような気がする。どんなことが書いてあったっけ?と腕を組んで唸る乱太郎。
「多分、薬としても使えるとか書いてなかったかな。」
 顎に手を当てて考えてみたもののやはりそれ以上の考えが出ず、段々日が暮れてきたので忍術学園へと帰ることにした。日が暮れてしまったらいくら見知ったところだとしても危ないからだ。なぜなら乱太郎は忍者だからである。
 そそくさと乱太郎は立ち上がって画材道具を持ち、そして歩き出した。忍術学園に向かう途中でまた金木犀の甘い香りが漂ってきた。まるでこちらに来るように誘われているような感じがして、ふわふわとした心地になりながら、また来ようと乱太郎は走り出した。
「へえ、そんなところがあるんだねえ。」
 金木犀をスケッチしに行った翌日、乱太郎は保健委員会の根城である医務室で保健委員会の委員長である善法寺伊作に昨日描いたスケッチを見せていた。
 伊作は興味深そうに紙を受け取って見てみる。そこには綺麗な秋晴れの空を背景に金木犀の花びらが舞っているように描かれていた。まるでその景色を切り取ったかのような描写に伊作は思わず感嘆の声を漏らすと、乱太郎は恥ずかしそうに笑って言う。
「えへへ……ちょっと自信作なんですよ。」
「よく描けているねぇ、やっぱり乱太郎はすごいよ!」
「えへへ……ありがとうございます。」
 褒められて嬉しくなった乱太郎は笑顔になる。そんな乱太郎を見て、伊作もまた優しい笑みを浮かべた。可愛い後輩がこうやって頑張っている姿を見るのは何よりも嬉しいものだ。それにしても本当に上手に描けている。
 もし自分が描いてもここまで上手くいかないだろうなあ。なんて思いながら、伊作はまた描いてくれたら貰いたいなぁと思った。伊作がそんなことを思っていると、乱太郎が何かを思い出したように言った。
「あ!そうだ伊作先輩!実はお聞きしたいことがあるんです!」
「ん?なんだい?」
 乱太郎の質問に伊作は首を傾げる。すると乱太郎はこう続けた。
「金木犀って何かの薬になりますか?私、何か図書館で金木犀が薬になると読んだ記憶があって……でもそれがどういうものか思い出せなくって。」
ああなるほどね。いいよ、教えてあげる。」
 そう言って伊作は棚から分厚い本を取り出すと机の上に置いた。その本をペラペラと捲り始める伊作。その様子を見ながら乱太郎は黙って待つことにした。やがて伊作はある頁で指を止めて、ある箇所を指した。そこには乱太郎が探していた記述があったようで、彼は喜んだ表情でそれを見る。
「ここだよ。ほら、このページに金木犀のことについて書いてある。」
「本当だ!!ありがとうございますっ!!」
 二人で金木犀のページを覗くと、金木犀について咲く時期、そして名前の由来など色んなことが書いてあったが、特に伊作と乱太郎が見ていたところは金木犀の効能についてだった。金木犀は花を薬として使うらしく、干して乾燥させたものを生薬「桂花(けいか)」と呼び、効能としては胃炎や腹痛の改善低血圧の改善、鎮静作用やリラックス効果があるという。乱太郎が特に見ていたのは、いまから来たる冬に備えられる体を温める効能についてだった。なるほど、金木犀は薬になるんだな、なんて納得している乱太郎に伊作は笑いながら言う。
「乱太郎がいま、考えていること当ててやろうか?」
「えっ?」
 キョトンとした顔をしている乱太郎に対し、伊作はニヤリとした表情をする。そしてそのまま乱太郎の方に顔を近づけると、彼は耳元で囁いた。今からその群生地に行って金木犀を採取してこようと思ってるんでしょ?という伊作の言葉を聞いた途端、乱太郎は自分の思考が覗かれたのと、突然耳打ちをされた恥ずかしさからボンッと顔を真っ赤にして慌てて距離をとる。しかし時既に遅しというように伊作はクスクスと笑っていた。
「も、もう!伊作先輩!いきなり耳元で囁くのやめて下さい!!」
「いやぁごめんごめん、つい面白くて……。」
「むぅ……。」
 ぷくりと頬を膨らませて怒る乱太郎を見てまた笑う伊作に乱太郎は頬をさらに膨らませながらなんで私の考えていること分かったんですか?と聞くと伊作はふふ、と笑って乱太郎が考えていることは何でもわかるよ。と答えた。ふうん。と言いながら乱太郎は少しだけムッとした顔をしてそっぽを向いた。どうやら拗ねてしまったらしい。
「あれ、拗ねちゃった?」
拗ねてないですもーん。」
「じゃあこっち向いてくれるかい?」
……。」
 さっきまで元気いっぱいにしゃべっていたのに、しーんと黙ってしまった乱太郎を見て、伊作は苦笑いを浮かべる。
悪かったよ、謝るから機嫌直してくれないかい?可愛い顔が台無しだよ?」
 そう言って乱太郎の頭を撫でると、彼はゆっくりとこちらに向き直ってくれた。まだ少し不機嫌そうな様子ではあるものの、きちんと返事をしてくれるだけましか。と思いながら伊作は続ける。
乱太郎、案内してくれる?一緒に金木犀、取りにいこっか?」 
 ちょこんと座っている乱太郎に目線を合わせるように座った伊作に乱太郎は渋々といった様子で口を開く。
「いじわるな先輩とはいきません。」
 そう言いながら乱太郎は少し頬を膨らませており、未だに拗ねている様子だ。そんな乱太郎に伊作は困ったように眉を下げると乱太郎を抱き寄せた。そしてそのまま優しく抱き締めて耳元でね、許して?と甘く囁いた。
 すると途端に乱太郎は顔を赤く染め上げてわたわたと慌てる姿を見せる。相変わらず初心で可愛らしい反応をするなぁと思いつつ、伊作は更に追い討ちをかけるように言葉を重ねていった。伊作に耳元で囁かれ続けて限界になったのか、乱太郎は降参するように両手を挙げて敗北宣言をした。
「わ、わかりましたっ、一緒にいきますからあ!」
ほんと?」
 コクコクと必死に頷く姿を見て、伊作は満足気に笑うと、ありがとうと言って乱太郎を解放した。解放された瞬間、乱太郎は安心したように息を吐くと胸に手を当てる。バクバクと脈打っているのがわかるほど早い鼓動を感じながら、乱太郎は顔を赤くして俯いたまま口を開いた。
「も、もう……先輩は意地悪なんですから……。」
「ごめんごめん、あまりに可愛くてつい。」
 そう言って乱太郎の頭を撫でると、彼は小さくうぅ……と言った。完全に翻弄されている自覚があるのか、悔しそうな表情を浮かべている彼を見て、伊作は心の中で密かに思う。やっぱりこういうところも含めてこのかわいい年下の恋人が好きだなぁ、と。
「じゃあ行こうか、案内してくれるかい?」
はあい。」
 そんなやり取りを交わしながら二人は保健室を後にして、二人で外出証を取りに行き門の前まで集合しようか。と言って解散して着替えに行くのだった。
「ふふ……ここの金木犀、綺麗でしょう?」
「うん、すごく綺麗だ……。」
 乱太郎の案内で手を繋ぎながら金木犀の群生地まで二人で歩いて行くと、そこには乱太郎が絵を描いたあの場所があった。見事に咲き誇っている金木犀は、辺り一面にその甘い香りを振り撒いており、まるで別世界のようであった。ここが金木犀の群生地なのだと言う乱太郎に伊作は感嘆の声を上げる。本当に素敵な場所だ。
「こんなところがあったなんて知らなかったな。」
「私もマラソンの授業をしてた時に見つけたんですよ!」
「へぇ……。」
 その時、ふわりと風が吹いてきて金木犀の花弁が舞い上がる。それに触発されて伊作は手を伸ばした。掌に落ちてきた小さな橙色の花弁をそっと摘まむ。その花弁からは何とも言えない優しい甘い香りがした。そしてそれはどこか懐かしさすら感じるものであった。
ねぇ乱太郎。」
「なんですか?」
「この花で薬を作ったら、きっと素敵なものができるだろうね。」
 ちゃあんと持ち帰らないとね。と言って伊作は微笑むと、乱太郎もまた嬉しそうに笑って頷いた。
 それから二人は暫く金木犀を眺めた後、早速薬作りの材料となる金木犀を摘み始めたのだった。金木犀の群生地で花を集めている乱太郎の横で伊作はしゃがみ込む。そして彼は慎重に花びらを摘んでいる乱太郎を見て、くすりと笑みを浮かべた。先程までの緊張しながら花びらを摘まんでいた面持ちとは打って変わって、今は楽しそうに花を集める乱太郎を見ているだけで伊作も楽しくなってくるのだ。
 だから伊作はこうして無防備な乱太郎を盗み見るような形になってしまってもいいと思いながら、じっとその姿を見つめていた。するとその視線に気付いたのか、乱太郎がこちらを向いて恥ずかしそうに頬を掻く。そして少し遠慮がちに口を開いた。
「あのぉ……伊作先輩?」
「うん?」
「そんなに見られるとやり辛いんですが……?」
「ああ、ごめんごめん。」
 だって、金木犀の花を一生懸命集める乱太郎がかわいいんだもの。と言いながら謝るものの伊作は変わらずこちらを向いたままなので、乱太郎は困ったように眉を下げた。そんな乱太郎に伊作は目を細めて笑うと、彼は乱太郎の隣に並ぶように腰を下ろした。
 そして同じように花を摘み始めた伊作を見て、乱太郎は何だか擽ったい気持ちになりながらも何も言わずに作業に戻ることにした。
 しばらくお互い無言のまま金木犀の花を採取していると、伊作が乱太郎に寄りかかった。突然のことに驚いてビクッと肩を跳ねさせる乱太郎に対して構わず体重をかけてくる伊作に、乱太郎は戸惑いながらもその身体を受け止めた。
 すると伊作は乱太郎の肩に頭を乗せて甘えるように擦り寄ったかと思うと、そのままぐりぐりと押し付けてくる。乱太郎は恥ずかしさから顔を真っ赤に染めながらもされるがままになっていた。その様子に伊作はくすりと笑みを零すと、おもむろに口を開いた。
乱太郎。」
「ひゃ、はい?」
「僕のこと好き?」
 それとも、いじわるな僕は嫌い?そう問われて乱太郎は顔を更に赤くする。その質問は予想外だったようで、言葉に詰まってしまう。まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったのだ。しかし伊作からの問いかけに答えなければいつまでもこの状態のままだということは分かっていたため、乱太郎は意を決して口を開いた。
……そ、そりゃ好きですよっ、先輩は、わ、わたしの恋人ですから。」
 乱太郎の回答に満足したのか、伊作はそっか。と言って笑った。そしてそのまま乱太郎の首筋に顔を埋めるとスンスンと匂いを嗅いでみせる。擽ったさから身を捩る乱太郎だったが、それでも伊作の拘束からは逃れられずされるがままになっていた。
 そんな乱太郎の様子に伊作はクスリと笑うと、さらに密着度合いを増していく。そしてとうとう耐え切れなくなったのか乱太郎はせ、せんぱい?声を上げた。だが伊作は気にせず乱太郎を抱き締めている腕の力を強めるだけだった。そして耳元で囁かれる言葉に乱太郎は震えることしかできなかった。
「ねえ乱太郎。」
「は、はいっ!?」
「僕もね、きみのことがだあいすきだよ?」
 そんな伊作の言葉に乱太郎は顔を真っ赤に染めて、わ、わたしもです。と俯きながら言った。そんな顔が真っ赤に染まった乱太郎を見て、伊作は笑みを深くし、そして再び乱太郎の首筋に顔を埋めると、今度はそこに唇を落とす。
 ちゅっ。とリップ音を立てて離れていく感触に乱太郎は顔を赤く染めたまま固まってしまう。さらに顔が真っ赤に染まった乱太郎に伊作はクスリと笑うと、再度口付けを落とした。今度は先程よりも長く、そして何度も角度を変えながら啄むような口付けを繰り返す。最後にぺろりと舐め上げられてしまえばもう完敗だった。
 完全に蕩けきった表情を浮かべている乱太郎を見て満足気に微笑むと、伊作はそっと身体を離した。突然解放されたことで呆然としている乱太郎に向かって彼は告げる。
「さて、これくらいで十分かな?」
 その言葉に乱太郎はハッとなって我に返った。伊作の方を見ると伊作が持ってきた籠には摘まれた金木犀の花々がたくさんあった。伊作の方を見て自分の籠を見ると、まだ半分も入っておらず、そのことに気が付いた途端恥ずかしさが込み上げてきて、乱太郎は顔を伏せた。そんな彼の様子を見ながら、伊作はくすくすと笑う。
さあ、帰ろうか、さっきの続きもしたいだろうし、ね?」
 そう言って伊作は立ち上がる。そして乱太郎に手を差し出し、乱太郎はその手を取ると立ち上がった。そして二人は手を繋いで忍術学園へと帰ることにした。
 その道中でもずっと二人は手を繋いだままで、時折どちらからともなく絡めるように指を動かしたりして遊びながら忍術学園への帰路を颯爽と駆けるのだった。