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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第27回お題「風邪」or「看病」
両片想いの赤安。無自覚れいくんが少しずつ自覚中。風邪を引いたれいくんの家にあかいさんがやってきて…というお話です。
諸々捏造しています。
やわらかな陽の光が降り注ぐ、昼下がり。
降谷は久しぶりに自宅へ帰り、シャワーを浴びてすぐ布団の上に寝転がった。
冬のはじまり。陽の光でぽかぽかとした暖かさはあるが、降谷は悪寒に苦しめられていた。
「
……
寒い」
ここ最近、庁内でも風邪やインフルエンザが流行っている。ほぼ全員がマスクをしているような状況だ。
病院に行き検査をしたが、いわゆる感染症の類には罹患していなかった。とはいえ、まだまだ油断はできない。陰性であっても、後日、再検査で陽性となるケースも多いからだ。医師からも、症状が悪化するようであれば再度受診するよう言われている。
仲間にうつしてもいけないため、降谷は症状が落ち着くまで休暇を取ることになった。とはいえ、会議はリモートで参加し、メッセージアプリや電話などで連絡は取り合うつもりだ。なるべく仕事に穴は開けたくない。もちろん緊急時には現場へ赴くつもりだが、直近でその必要性が生じることはおそらくないとみている。
降谷は布団の上に寝転びながら、窓の外をぼんやりと眺めた。会議もなく、スマホも鳴らない。穏やかな時間が流れていた。
今頃、みんなはどうしているだろうか。
ふとそんな考えが浮かんだとき、降谷の脳裏にまっさきに現れたのは、赤井秀一の姿だった。
以前、赤井と同時期に風邪を引いたことを降谷は思い出した。
先に治った方が看病をする、そんな約束をしたりもした。その後、現場で汗だくで暴れ回っているうちに二人とも症状が落ち着いたので、約束が果たされることはなかった。
もしあのとき、自分だけ風邪が長引いていたら、赤井はどんな風に看病してくれていたのだろう。想像しただけで、降谷は身体がさらに熱くなるような心地がした。いや、実際に体温が上がり始めているのかもしれない。降谷は体温計を取り出し、熱を測った。
三十八度七分。処方された薬を早く飲まなくてはいけない。しかし処方された薬はいずれも食後に飲むものだ。薬を飲む前に、何か腹に入れる必要がある。しばらく買い物に行っていないため、冷蔵庫に食材は何も入っていない。米はあるので、粥くらいは作れるだろう。だが、身体がだるく作る気力がなかなか湧かない。
「
……
デリバリーでも頼むか」
降谷はスマホを手に取った。スマホの冷たさを指に感じていると、音が鳴って通知が表示される。
メッセージアプリを開くと、そこには赤井からのメッセージが届いていた。
『これから君の家に行くよ』
「え?!」
予想もしないメッセージに、反射的に上半身を起こしてしまう。熱のせいか、ぐらりと視界が揺れたので、熱い額を手で支えた。
久しく家にいなかったので、掃除もろくにできていない。しかも体調を崩しているこの状態では、赤井をもてなすことはできないだろう。
今は家に来ないでほしいと、すぐに返事を書かなければと降谷は思った。しかし、最初の文字を打ちかけたところで、インターホンが鳴ってしまう。
まさかもう着いたのか。降谷はゆっくりと立ち上がり部屋の入口へと向かった。インターホンの画面には、赤井の姿が映し出されている。
降谷はおそるおそる通話ボタンを押した。
「
……
はい」
『降谷君、具合はどうかな』
どうやら赤井は、自分が体調を崩していることを把握したうえで、ここへ来たらしい。
「
……
知ってたんですか」
『ああ。中に入れてくれないか』
来客を受け入れる準備が何もできていないので、赤井を自宅に入れることには抵抗がある。
しかし、自分を気にかけてここまで来てくれた赤井を、追い返すことはできないと降谷は思った。
「
……
わかりました」
インターホンの解錠ボタンを押す。赤井がここにやって来る。どうしよう。緊張か不安かよくわからない感情を抱えながら、慌ててマスクを口に当てる。冷たい廊下を歩いて、降谷はドアの前に立った。遠くから足音が聞こえてくる。降谷はひとつ深呼吸をした。その足音が自分の部屋に辿り着く直前、降谷はドアを開く。
赤井はこちらの顔を見るなり、眉をひそめた。
「随分と、具合が悪そうだな」
「ちょっと熱が上がってしまって
……
」
どうぞ、と赤井を部屋の中に招き入れる。
「ありがとう」
赤井はマスクをしているが、屋内、しかも密室にふたりでいると、自分の風邪がうつってしまうかもしれない。降谷は慌てて、部屋の換気をするために窓を開けた。ぽかぽかと暖かい陽の光に混じって、少し冷たい風が入り込んでくる。熱があるためか、ひんやりとした空気が心地よい。
「薬は飲んだのか?」
「まだです。食後に飲まなきゃいけない薬なんですが、まだ何も食べられてなくて
……
」
「ちょうどよかった。色々買ってきたから、君の食べたいものを選んでくれ」
ビニール袋を手渡される。中を見ると、飲み物、レトルトのお粥やスープ、ゼリー飲料、桃の缶詰、冷却シートなどが入っていた。
「ありがとうございます。
……
僕、お粥にします」
「台所をかりてもいいだろうか」
「え?」
「湯煎が必要なタイプだからな、湯を沸かすよ。鍋はあるかな?」
「鍋なら、そこに
……
」
シンクの下にある扉を指差すと、「了解」と赤井がこたえる。そこで降谷は我に返り、「自分でします!」と声を上げたが、赤井は構わず小鍋を取り出すと、ジャケットを脱いで腕を捲った。赤井のたくましい腕が露わになり、一瞬どきりとする。
気持ちが追いつかず、シンクの脇に置いてあるハンドソープで手を洗う赤井を、降谷はぼんやりと眺めた。
赤井は小鍋に水を入れて、火にかけた。沸騰するのを待つ間、赤井は大きな掌で降谷の額を覆った。
「かなり熱いな
……
熱は測ったか」
「はい」
「何度?」
「
……
三十八度七分、です」
赤井はビニール袋の中から冷却シートを取り出し、パッケージを破ると、降谷の額にゆっくりと貼り付けた。身体が熱を持っているせいか、びっくりするほど冷たく感じる。
「あとはこちらで準備するから、君は少し横になっているといい」
「あ、あなたにお茶のひとつも出さずに休むなんて
……
」
「そんなこと気にしなくていい。触られたくないものや使われたくないものはないかな?」
「ない、です」
赤井に促されて、降谷は寝室に戻った。かちゃかちゃと食器の音が遠くから聞こえる。この部屋の中に自分以外の人間が、しかもあろうことかあの赤井秀一がいるとは、にわかには信じがたい。
しばらくすると、赤井がトレイを持って寝室へやってきた。レトルトのお粥の入ったお椀。その横には水の入ったグラスと、漬物の入った小鉢。漬物は冷蔵庫の中に入れておいたものだ。偶然だろうが、米に漬物は降谷の好物でもある。ちょうど味の濃いものを欲していたので、漬物はちょうど良い。
「自分で食べられるか?」
赤井が今にも食べさせるような素振りをみせたので、降谷は慌てて断る。
「自分で食べられます!」
トレイの上に置かれたレンゲを手に取り、お粥を口に運んだ。ほっこりとして温かく優しい味がする。時折漬物を齧りながら、降谷はお粥を残さず食べきった。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「ああ」
降谷がグラスに入った水で薬を飲み終えると、赤井がトレイを持って台所へと戻ってゆく。赤井がシンクで水を出し始めたのがわかり、降谷は声を上げた。
「そのまま置いておいていいですよ!」
「いや、これくらいさせてくれ。君は早く休んだほうがいい」
有無を言わせない、赤井の声。
「わ、かりました
……
」
言われた通りに、降谷は布団の上に寝転んだ。マスクと自分の口元を行き来する呼吸が熱い。だが、食事をとって薬を飲むという、やるべきことをやって安心したせいか、瞼が重くなってきた。部屋の向こうからは、赤井が食器を洗う音が聞こえてくる。
しばらくすると、赤井が寝室へと戻って来た。身体が布団に吸い込まれてゆくような心地のなかで、かろうじて「すみません」と声が出る。
「君が謝ることは何もない」
自分の気のせいだろうか。普段とは少し違う、優しい赤井の声が降りてくる。布団のすぐそばに、赤井は腰を下ろした。
「ところであなた、仕事は?」
「ああ、あの三人に任せたから心配はない」
三人とは、最近、日本に配属されたFBIの新しい仲間のことだろう。
「
……
皆さんに、お礼を言っておいてください」
「ああ」
他にも、赤井に言うべきことがあるはずなのに、言葉が何も出てこない。
「ごめんなさい。僕、今すごく眠くて
……
」
「俺のことは気にせず、君は眠ってくれ」
「
……
あなたは? あなたはこのあと、どうするんですか? 仕事に戻ります?」
きっと仕事に戻るだろうなと思いながらも、ここに引き留めたい気持ちが滲み出たような口調になってしまった。
「そうだな
……
君の熱が下がるまでここにいるよ」
「え?」
「迷惑、かな?」
降谷はゆっくりと首を左右に振った。
窓際で風に揺れるカーテン。暖かな陽の光。そして、優しい眼差しで自分を見下ろす赤井秀一。
体調を崩しているというのに、ささやかな幸せが自分のすぐ目の前にあった。
普段身に纏っている鎧が解けて、胸の内から言葉が湧いてくる。降谷は独り言のように呟いた。
「あなたがそばにいると、僕は嬉しい」
眠気に抗えず、降谷は目を閉じる。
ふと、マスク越しに柔らかな何かが触れるのがわかった。その正体を突き止める間もなく、降谷は眠りに落ちた。
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