匣舟
2025-12-06 16:00:16
4227文字
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おまえだけが愛せる獣

今年満月最後の日に上げたかった遅刻こへ乱です。
獣シリーズの続編を書いてみました。独占欲を出すこへとそれを受け入れる乱の話です。

 最近、なんだか六年生の先輩方に話しかけられることが多くなった気がする。と乱太郎は心のどこかで感じ始めていた。忍術学園に在籍している六年生はいろはで分けられている組にそれぞれ二名ずつ在籍し、乱太郎が所属する保健委員会保健委員長である善法寺伊作も六年生で、乱太郎と同じは組でしかも保健委員会で同じことから六年生の中では一番伊作と関わることが多かったのだが、最近そうではなくなってきているのだ。
 乱太郎は生粋のトラブルメーカーであるから、どの一年生よりも六年生たちと関わっている自信はそれなりにある。伊作はさっきも言った通り委員会が一緒で関わりがあるし、伊作と同じは組の留三郎は薬草採取を手伝ってくれたり、乱太郎がいつも一緒にいるしんべヱが所属する用具委員会委員長であるからそれなりに話している。
 続いてろ組の長次は乱太郎がいつも一緒にいるきり丸が所属する図書委員会委員長であるから話したことはあるし、もう一人の小平太には殺気を出されながら鬼ごっこをさせられるまでになぜか異様なまでに気に入られているから関わりはあると言っても過言ではない。
 この上記の四人に比べてあまり関わりのないのがい組の文次郎と仙蔵なのだが、文次郎はよく留三郎と喧嘩しているときに巻き込まれたりするし、仙蔵にはしんべヱと喜三太を絶対私の前に近づけさせるな!と目が据わった状態で念を押されているので関わりがないわけではない。ちなみに乱太郎は仙蔵のその願いを達成したことが一度もないのだが。
 話が逸れたが、つまり乱太郎は生粋のトラブルメーカーであることからどの一年生よりも六年生たちと関わっていてもなんらおかしくはないのだ。だが、それにしたって最近やけに話しかけられることが増えたなと感じるようになったのだ。
 伊作とは委員会が一緒であるから今まで通りであるし、この前に本気の鬼ごっこをした小平太とは二日に一回追いかけっこをする羽目になっているのだが、仙蔵には呼び止められてなぜか膝に乗せられて撫でられまくりながら自分の得意武器である宝禄火矢の話をされるし、文次郎にはよく呼び止められてなにか叱られるのでは!?と思っていたら自分の得意武器である袋槍の話をされるようになったし、長次には会うたびにこの本を読むと良い。と本を押し売りされるようになったし、留三郎は以前にも増して薬草採取を手伝ってくれるようになってそれはありがたいことなのだが、行き道も帰り道も欠かさず留三郎の得意武器である鉄双節棍の良いところを延々と説かれるかと思いきや伊作の得意武器である乱定剣の話になったりと……と、とにかく今まで以上に六年生たちと関わることが多くなったのだ。
 なんでこんなに関わることが多くなってしまったかなど、乱太郎には考えても考えても分からなかった。日常生活で変わったことは中在家先輩が本を押し売りしてくるものだから読まないと申し訳ないと思って読んでいたらいつの間にか視力検査並みの点数を取ることが少なくなってきていて、土井先生によくやったなあ。と泣きながら頭を撫でられることが多くなったぐらいだろうか。
「も~!毎回背後に立って連れ去るのやめてくださいっ!」
 心臓がいくつあっても足りませんから~!と俵担ぎされている人物の背中を痛くないグーパンチで叩いている乱太郎と対照的にわはは~!気づかないお前が悪い!と言いながら裏山を颯爽と乱太郎を抱えて走っているのは、彼のことを二日に一回は追いかけっこをしたり攫う常習犯である小平太だった。今日も放課後終わりに一人で自室に帰ろうとした瞬間に背後からいきなり担がれてしまい、今に至る。
 毎回担がれた瞬間、抵抗はするのだが流石六年生というか彼の技術力と腕っぷしに負けてしまいこうしていつもの鍛錬場所である裏山に連れて行かれるのだ。
 結局こうなってしまえば逃げも隠れもできないので最近はこうして担がれているときに小平太に対して恨み言を吐くことが毎回の乱太郎のルーティンになりつつある。
 今日も毎度同じようにいつも小平太と乱太郎が鍛錬場としている場所についたのか下ろされ、そのまま手に苦無を渡された。
「今日はマラソンじゃなくてもいいんですか?」
 いつもならば下ろされた途端、強制的に準備運動が始まってそのまま乱太郎が息を切らすまで走り続けるというスパルタ特訓をさせられているのだが、今日は違うことをするらしく、乱太郎は自分の手に持っている苦無を見つめながら首を傾げた。そんな乱太郎を見て小平太はわはは!と笑った後、違うぞ!と答えた。
「今日はお前に苦無を教えようと思ってな!」
 目の前にいる小平太の破天荒さは今に始まったことではないが、最初は体力増強をしなければいけないな!と言ってずっとマラソンをしていたのにどうして苦無を教えるという突拍子もない方向転換に乱太郎の頭はこんがらがるばかりである。
 どうしていきなり?という乱太郎の心の声を読み取ったのか小平太がずいっと乱太郎の顔に自分の顔を近づける。乱太郎はその近すぎる距離に思わず身体がびくりと跳ね上がってしまい、半歩ほど下がってしまう。だが、小平太は乱太郎の反応を気にすることなく笑みを浮かべながら口を開いた。
「最近、よく私以外から自分の得意武器の話をされているだろう?」
「えっ、はい……
 確かに小平太の言う通りである。最近六年生と関わる回数が増え、毎度のように他の六年生から得意武器の話を聞かされるようになったのは紛れもない事実だ。
 でもそれが苦無を教えるということと何の関係があるというのだろうか。と乱太郎が困惑しながら小さく頷くと小平太は面白くなさそうな表情を浮かべながら次の言葉を発した。
「私はな、それが、面白くないのだ。」
「へ?」
 まさかそんなことを言われるとは思っていなかった乱太郎は目を丸くしながら素っ頓狂な声をあげてしまった。そんな乱太郎の反応に小平太は笑みを崩すことなくそのまま話を続けるが、その笑みはいつも見る豪快で眩しい太陽のような笑みではなく、夜闇に紛れて獲物を捕らえようとする獣のようだった。乱太郎は小平太の雰囲気が変わったことに気づきながらも何も言えないまま黙って聞くことしかできなかった。
あいつらは知らないだろう、あの満月の夜、私の殺気を挑発して私の瞳を射抜いたお前を、私がそれに対してどんな感情を持ったのか、など。」
 そう言う小平太の眼はまるで獲物を見つけた猛獣のようで、乱太郎は怖くなって思わず一歩後ずさってしまった。しかし小平太はそんな乱太郎の行動を見逃すわけがなかった。一歩後ずさった乱太郎を逃がさないとでもいうかのように自分の腕の中に閉じ込めた。
「ぁ、」
 突然のことで驚いた乱太郎は反射的に身を捩って逃げ出そうとしたが、すぐに小平太の強い力によって抑え込まれてしまう。そして小平太は乱太郎の耳元で低い声で囁いた。
――私だけが、知ってる、私だけが知っているのだ。あの、一瞬にして魅入られたあの力強い瞳を。ほかの奴らなどにお前を、取られたくないのだ。」
「っ、ん、ぅ、」
 ドクンと乱太郎の心臓が大きく脈打つのを感じる。乱太郎は恐怖と羞恥でいっぱいいっぱいになっていたが、それでも小平太から逃げようと必死にもがいていた。
 だが、やはり小平太の方が力は上で乱太郎は簡単に抑えつけられてしまい身動きが取れなくなってしまった。それでも諦めずに抵抗しようと試みるものの、一向に拘束が緩まる気配はない。むしろますます強く抱きしめられていく一方で抵抗するのも無駄だと知った乱太郎はとうとう観念して大人しくなるしかなかったのだ。
 そんな乱太郎の様子を見た小平太は満足げに微笑むと乱太郎の首筋に顔を埋めて、そのまま乱太郎の首を甘噛みしてきたのだ。痛くはないもののくすぐったくて変な声が出そうになるのをなんとか堪える。しかし小平太は乱太郎の様子などお構いなしといった風に何度も歯を立ててくるものだから、流石に耐えきれなくなった乱太郎は涙目になりながら懇願するように声を上げた。
「っ、も、せんぱ、やめっ、ん、ゃ、」
 やめてくださいと口に出そうとした乱太郎だが、次の瞬間にはまた強く抱き締められ、さらに密着させられたため息も出来ないほどの苦しさに襲われる。このままでは窒息してしまうかもしれないと不安になり始めた時のことだった。不意に小平太の拘束が緩んだので乱太郎はこれ幸いと言わんばかりに勢いよく離れようとしたが、それよりも早く腕を掴まれ引き寄せられたことでバランスを崩してしまった。
 結果的に小平太の方へ倒れ込んでしまった乱太郎は慌てて体勢を立て直そうとしたが、それよりも早く小平太に押し倒されてしまい、今度は地面に縫い付けられてしまう形となってしまった。そして小平太は乱太郎に覆い被さると耳元で囁くように呟いた。
……らん、たろう、乱太郎、おまえは、わたしだけのものだ。」
 小平太の囁きと共に耳に熱い吐息がかかりゾクリとする感覚に襲われた乱太郎は思わず肩を震わせる。そして小平太の顔を見ればまるで獲物を前にした捕食者のようなギラついた目をしていることに気づき、慌てて視線をそらした。
 しかし小平太はそれを許さないと言わんばかりに両手でしっかりと乱太郎の顔を固定すると無理やり目を合わせてきた。乱太郎の潤んだ瞳に映るのは自分だけであり、自分が乱太郎の特別であるという事実に小平太は満足げに笑みを深めて、先ほどまで甘噛みをしていた首筋に顔を寄せたかと思えば強く吸い付いた。
「この印はおまえが私のものであるという証だ。分かったか?」
 また、この印が無くなった時、こうしてまた付けてやるからな。とするりと自分が乱太郎の首筋に散らした花弁を愛おしそうに撫でると乱太郎は潤んだ瞳をこちらに向けて顔を赤くさせながらこくんと顔を縦に振った。そんな姿が可愛らしいなと思いながら小平太は乱太郎から離れると最後に額に軽く口づけてから立ち上がり、彼に苦無を教えるために鍛錬場所へと戻っていくのだった。
 このあと、乱太郎の首筋に噛み跡と花弁が散らされていることに気づいた伊作が他の六年生に招集をかけ、小平太と共に質問攻めにされることなど露も知らない乱太郎はただ小平太の背中を見つめがら歩くことしか出来ないのであった。