かつての俺が今のルシフェル様のお顔を見たら何と言うのだろうか?いや、このお顔はかつての俺でさえ見せたくないかもしれない。今の俺だから引き出せた特別なものだから。
* * *
「サンダルフォン、何か気になっている事があるのか」
ルシフェル様が問いかけて来た。俺達は今、グランサイファーの一室に共に住んでいる。夜も更け、ベットに入り語らっていたところだった。
「ルシフェル様、申し訳ございません。少し考え事を
……」
「そうか。私が協力できる事があれば言って欲しい。勿論、君が話したくないのであれば無理に話す必要はないが」
ルシフェル様に気を遣わせてしまったようだ。他の者達からすれば些細にも取れる願い。それを俺は長い間抱えていた。普段はその願いを奥底にしまっているのだが、夕飯時の出来事もあり考えを止められなかった。
「
……今日の夕飯時にビィが取っておいたリンゴがなくなっていると暴れていたのを覚えていますか?」
「うん?勿論、覚えているよ。団長とルリアから贈られた大事な物だったのにとかなり怒っていたな。盗んだ犯人は見つかったのだろうか?それがどうかしたのだろうか。
……まさか犯人は
……」
ルシフェル様から訝しげな眼差しを向けられた。
「ちっ、違いますよ!俺じゃありません!」
「ふふっ。だろうな」
そう言った後、暫く沈黙が続いた。ルシフェル様は俺が話そうとするのを待っていてくださっている。願いは問い。少し気恥ずかしいが言わなければ。
「
……実は、以前より貴方が怒ったらどの様なお顔をなされるのか気になっておりました」
「私の、怒った顔?」
キョトンと首を傾げられた。とても可愛らしい。
「はい。かつて、俺の役割を知った時のことです。貴方の役に立てないのなら、せめて貴方の特別になりたいと考えていました。公明正大、誰にでも慈悲深い貴方が唯一憎む存在に
……、と。」
ルシフェル様はそれを聞いて俯かれてしまった。
「急に言われても困りますよね。忘れてください」
「いや、そんな事はない。かつての私は君の劣等感に甘んじてしまっていた。本当にすまない
……」
何故だろう。想定より重たい雰囲気になってしまった。その後もルシフェル様の俺に対する懺悔の言葉が続いた。
「
……君が私に怒りを覚えるのも当然だ。君の怒りが済むのであれば私は何でもしよう」
ん?今何でもするって言いました?
いやいや、とても魅力的な言葉が聞こえたが、問題はそこじゃない。間違った方向に話が進んでしまっている。ルシフェル様に怒って欲しいのに、俺が怒っている話になっている。訂正しなければ。
「ルシフェル様!話の趣旨がズレています。俺は貴方に怒っていただきたいんです!」
「ああ、そうだったな。だが、君に怒るというのは
……難しそうだ」
「そうですよね。ルシフェル様が怒りなどという感情を持つなんて事ないですよね」
ルシフェル様の恋人となってからはかつては見られなかったルシフェル様の様々なお顔を知る事が出来たが、こればかりは諦めるしかないようだ。
「
……言われてみると、ここに来る前には経験しなかった感情を君に対して持つ時がある」
「えっ?どのような感情でしょうか?」
かつてのルシフェル様は感じなかったもの
……。何だろうか。何だか緊張してきた。
「そうだな
……。例えば、喫茶室で君と団長が仲睦まじそうに珈琲を飲んでいた時があっただろう。その様子を見ると、上手く表現できないのだが、少し胸が苦しくなるのだ」
仲睦まじそう??何だそれは。確かに出会った当初と比べると団長とは良好な関係を気付けているが、仲睦まじいと表現されるような事をした覚えはない。
「身に覚えが全くないのですが
……。具体的にはどのような?」
「団長が珈琲とミルクを一対九で入れて欲しいと言っていた時だ」
……あの時か。うちの団長は珈琲が苦手だからミルクたっぷりのものを注文する。相変わらずのお子様舌だと揶揄ってやった。あのやりとりにルシフェル様のかつて経験したことのない感情を抱かせる要素があるようには思えないのだが
……。その後も話を聞くと、団長だけでなく他の団員達との会話でもその感情が出るという事が判明した。
「君は他の者達とは心置きなく話しているようだ。それが羨ましい。君が私の事を大事に思ってくれているのは分かっているのだが
……」
「
……」
ルシフェル様はもしかしてやきもちを焼いているのだろうか。あの誰にも慈悲深いあのお方が俺に対して?一つの可能性に辿り着くと口元が思わず緩んだ。
「サンダルフォン、どうして笑っているんだ?私は真剣に君に相談しているんだよ」
ルシフェル様は眉を顰めていた。見た事のない表情だ。あの時の俺に教えてあげたい。ルシフェル様はこの様な表情をなされるのだと。
終わり
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