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傘道
2025-12-06 10:29:50
3452文字
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ビリイト
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時空を超えて手紙を送ろう
【お題投稿〈2回目〉】
お題①: 今もたまに痛むけれど
お題②: 映画みたいにドラマティック
から書きました。
#billighter1w
今という茨の道を進んでいる貴方へ
負けそうで心が折れてしまいそうな貴方へ
苦しい中を生きている貴方へ
伝えたいことがあります。
鋼鉄の手が苦しげに呼吸している青年の額に置かれる。
ひんやりとした感覚が心地よいのか翡翠色の瞳が細められる。
「大丈夫か?」
「
……
あんまり良くないっすね。」
どうやら軽口を叩く余裕すらないらしい。
身体中の古傷が痛みと熱を帯びて、ライトを苦しめている。
それは目にも現れているのか、ぎゅうっと苦しそうに瞼を閉じていた。
ビリーは優しく深緑色の髪を撫でながら、窓の外を見た。
雨が激しく降っており、窓ガラスに雨雫が叩きつける。
仲間を殺した天罰ではないかと錯覚するほどの痛み。
それは郊外にたまに訪れる雷雨の時に訪れる。
『雨の日は古傷が痛む。』
その迷信は現実となりライトを襲っていた。
古傷が傷んで、過去の罪を叩きつける。
痛み止めはあまり効果がない。
ライトはそんな苦しみに耐えるしかなかった。
「すみません.今日はデートの予定だったのに
…
」
「気にするなよ。今度いっぱい楽しもうぜ。」
毛布にくるまって痛みに耐え続ける恋人を放って置けなかった。
ビリーはライトを1日看病することに決めた。
押入れの奥から取り出した冬用のふかふか毛布に包まれたライトを撫でる。
「今、あったかい飲み物作ってくるからちょっとだけ待ってくれるか?」
「パイセン
…
嫌です
…
一人にしないで、ください。」
迷子の子供が親を探すように手を伸ばし、ライトはビリーに縋りつく。
いつもの生意気な後輩はどこに行ったのか?
古傷が悲鳴をあげるような痛みをもたらすとライトの心はガラスの如く脆くなる。
身体の痛みだけだったらここまでチャンピオンは脆くならなかっただろう。
心にヒビを入れる罪の叫びだから強さが崩れてしまうのだ。
「
……
ライト、必ず戻ってくるから。そうだ、お守りでこれ渡すぜ。」
ビリーは赤いジャケットを脱いで、震えるライトに渡した。
オイルと硝煙の香り。
それがお日様のように感じるのは、恋人で憧れの先輩の匂いだからだろう。
雨の中でそれは陽だまりだった。
ライトは大事な宝物のようにジャケットを抱きしめた。
「お留守番できるか?」
ビリーの優しい問いにライトはコクリと頷いた。
「いい子だ。」
ヨシヨシとビリーはライトの頭を撫でる。
普段なら照れ隠しで振り払われるのだが、今はおとなしく撫でられていた。
「すぐ戻るからな。」
ビリーは立ち上がり、キッチンに向かった。
キッチンに着いてすぐにケトルに水を入れてお湯を沸かす。
お湯を沸かしている間にココアの素をスプーンで掬って、サボテンが描かれたマグカップの中に入れた。
雨音の中、ポンとお湯が沸けた音が聴こえた。
ケトルのお湯をマグカップに適量注いで、くるくるとスプーンでココアの素をお湯に溶かす。
かき混ぜる間、雨音が集音器モジュールに響く。
苦しんでいる恋人。
今は自分が隣に居るけど、地下闘技場に居た時は一人で耐えていたのだろうか?
もし過去にタイムスリップできるなら
…
そうぼんやり考えているうちにあったかくて甘いココアが完成した。
マグカップを持って寝室に戻るとジャケットを握りしめたままベッドの上で待っているライトが居た。
「大丈夫か?」
「パイセン
…
」
「ココア飲もうぜ。パイセンお手製だ。」
ほらっとビリーがライトの肩を優しく叩くと、ライトは名残惜しそうにジャケットから手を離した。
そしてマグカップを受け取り、程よく冷めたココアを飲む。
そんなライトの背中をビリーはさすった。
どうか少しでも痛みが和らぐようにと。
ライトが眠りについたのを確認してから寄り添うような位置でビリーはシャットダウンをした。
いわゆる添い寝という形だ。
「ん?」
ビリーはシャットダウンしたはずなのに、何故か意識があった。
しかし様子がおかしい。
ライトの寝室に居るはずなのに真っ暗な空間になっており、自分が立っている場所しかスポットライトが当たっていない。
そこにビリーがたった一人立っているのである。
アイライトを細めて、なんとか視覚情報を得ようとしていると突然前方にスポットライトが差す。
「
……
ライト?」
スポットライトが照らされた先に居たのはベンチに座っているライトだった。
ボクサー用のトランクスと包帯しか身に纏っていない傷だらけの身体。
顔は俯いたままでどんな表情をしているのかわからない。
「
………
あんた、誰だ?」
ライトが顔を上げた。
翡翠色の瞳は見えない。
目は包帯に覆われていた。
ボクサーの格好をしていた時点で察していたが、どうやら過去のライトのようだ。
一人で苦しんでいた地下闘技場時代のライトだ。
こんな映画のようなことがあるのだろうか?
「俺は◾️◾️◾️って言うんだ。」
ビリーはちゃんと名乗ったはずなのに、何故か上手く空気の振動にならなかった。
まるで名前だけはぼかされたみたいに。
そんなおかしい状態にも関わらず、ライトは表情を変えない。
全てを諦めたような、早く仲間の元へ行けないか待っているような顔だった。
「ずっと言いたかったことがあるんだ。」
ビリーはすうっと吸気モジュールから酸素を取り込み、言の葉を紡ごうとした。
「慰めにしか聞こえないかもしれないけど
…
」
この言葉が届かなかったらどうしようという不安はある。
それでも届けたかった。
「辛くて苦しくて、生きてて辛いとは思う。それでも生きて欲しいんだ。ライトが生きてくれて、未来で幸せになる人がいっぱい居るから。」
「
………
」
初めてライトの表情が僅かだが変わった気がした。
ビリーは言葉を届ける。
それはもし過去のライトに届けられるならと考えた手紙だった。
「苦しいし、痛いし、本当によく耐えたと思う。そしてまだ耐えてくれって酷いお願いしてるんだ。あとでいっぱい俺に怒っていいから
…
生きてくれ。」
「今は夢物語にしか聞こえないと思う。未来で待ってるから
…
ちゃんとお前の苦しみを受け止めて幸せにするから。とにかく、未来で俺が待ってるんだ。」
「いや、俺だけじゃない。◾️◾️も◾️◾️◾️や◾️◾️◾️◾️◾️も
…
◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️のみんなもライトが好きで待ってるんだ。」
だから
…
ビリーはライトのそばに立った。
そして苦しみに耐え続けた青年を抱きしめた。
「生きてくれてありがとう。生きて欲しい。」
ハッと包帯越しにライトの瞳が開いた気がした。
「仲間のために頑張った。これからも償いは続くけど、それでも
…
ライトが笑顔になれる未来が待ってるから。」
包帯が涙で濡れる。
返事はなかったが、それでもビリーは良かった。
時空を超えて手紙は届いたのだから。
雨音が止んだ。
ビリーは夢から醒めた。
「あれ?」
ビリーはすやすや眠るライトの寝顔を見た。
目に包帯が覆われていない現代のライトだ。
あれは夢だったのだろうか?
「本当に届いていたらマジで映画みたいだな。」
雨が去って、痛みはひいたようだ。
もうライトは痛みで苦しんでいない。
翡翠色の瞳が眠そうに開かれる。
「パイセン
…
」
「おう、おはよう。」
「なんか昔の夢を見ました。」
「昔?」
傭兵団の夢だろうかとビリーは首を傾げた。
「地下闘技場で見た夢なんです。」
「地下闘技場
…
」
ライトが苦しんでいた場所だ。
そんなところで見る夢なんて辛いものではないか?
「目を怪我して何も見えない俺に誰かが話しているんです。種族も名前も分からなくて
…
ただ男だったのはわかるんですけど。『未来で待ってるから生きて欲しい』って言われたんすよ。」
「
………
っ!」
「そいつに抱きしめられたんですけど、なんか硬くて
…
でも温かった。夢から醒めた時にあれはなんだったろうってなって
…
現実でもそいつに会いたくなって。苦しいけどもう少し生きようと思った矢先におやっさんに拾われたんですよ。」
ライトがじっと見つめる。
「パイセン、俺はその人に会えてますかね?」
「会えてるぜ!ライト、生きてくれてありがとう!」
ビリーは夢の中みたいにライトを抱きしめた。
今という茨の道を進んでいる貴方へ
負けそうで心が折れてしまいそうな貴方へ
苦しい中を生きている貴方へ
伝えたいことがあります。
生きてくれてありがとう。
未来で貴方を待っています。
時空を超えて手紙を送ろう。
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