Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
asaumi
2025-12-05 20:44:31
6749文字
Public
Clear cache
風邪をひいたしのぶちゃんを看病する
童磨が書きたかった
身体がだるい。ベッドに横たわったまま動けなかった。寒気は増すばかりで、毛布を抱き込むも震えが止まらない。頭が重く、ボーっとしていた。
朝より、さらに熱が上がっている。
体温がどれくらいなのかわからないのは、ベッド脇のナイトテーブルに体温計が置いているにも関わらず測っていないからだ。それを手にとることすら億劫ならば、リビングの冷蔵庫から新しい水を持ってくるなど、途方に暮れるほどの苦行だった。
こういう時に、誰かいてくれたら
……
。
空虚な眼差しで、顔のすぐそばで転がる空のペットボトルを見つめた。
ーーガチャ。
夢か現か朦朧とする意識のなか、玄関の鍵が回る音を聞いた。
姉さんが来てくれた、そう思った。この部屋の合鍵を持っているのは姉しかいないからだ。これで冷蔵庫から水を持ってきて、薬をとってもらえる、近くのコンビニへ買い出しにも行ってくれるだろう。安心感が込み上げる。
そんな矢先に、ハッと目を見開く。
廊下に響く重い足音、これは姉のものではない。けれども足音の主は部屋の間取りを完全に把握していて、迷うことなく寝室の方へ向かってる。
ドクドク、と鼓動の早まり心臓が破裂するのではと心配した時、寝室のドアが開いた。
「しのぶちゃん
……
っ」
伏せるベッドから仰ぎ見ると余計に大きく見え、男の頭はドア上すれすれだ。虹色の瞳を向けるや心配そうに見つめ、はねた白橡の髪の毛を揺らして駆け寄り屈んだ。
「
……
具合が悪いんだね」
熱、あるの? と言いながら額に手のひらを当てるや否や、口を歪ませてすぐさま体温計を脇の下に潜りこませる。
男は一度、寝室を出た。そしてリビングから物音が聞こえた後に、ミネラルウォーターのペットボトルと保冷剤をタオルで巻いて持ってきた。
大きな手で壊れ物のように優しく頭を包みあげて、保冷剤を挟みこむ。その冷たさが、熱に苛まれている頭に心地よかった。
ピピっ、体温計を見ると虹色の瞳はますます険しくなる。
「39度5分
……
」
苛立たしく言う男を、なぜか他人事のように見つめた。タートルネックにいかにも高級そうなジャケットとスラックスが、病人に対峙するには場違いで、どこか出かけるところだったのかなとかどうでもいいことを思っていた。
「こんな高い熱、市販の薬じゃ下がらないよ」
「
……
なんで
……
貴方がここに
……
」
高熱に魘されているが、有耶無耶にしてはいけない。なぜ、この男がいるのだ。
「なんでって、一日連絡が取れなくて心配したからに決まってるでしょ」そういうとナイトテーブルに無造作に置かれているスマホを手に取った。「ほらぁ、充電なくなってる」と嘆き充電器に挿した。
「誘拐されちゃったんじゃないかとか色々考えたんだよ。でも、GPSはしのぶちゃんの自宅で止まってて、つけてる監視も自宅に入ったきり出てないって言うし
……
でも様子見にきて良かったよ!」
GPS? 監視? 幻聴だろうか。
「それもそうですが
……
、聞きたいのは」
「声、掠れてるから喉が痛いんでしょ。無理して喋らない方がいいよ」
喋らざるを得ない状態に陥らせた元凶が何を言うのだ。
「聞きたいのはなんでこの家に
……
入れたのかって」
「合鍵で」
目の前に鍵をぶら下げる。そこには蝶のキーホルダがつながって宙に揺れていた。そのキーホルダーは、いつもつけている髪飾りと同じデザインだ。
「
……
っ、渡してないですよね」
腹の底から唸るような声で言う。
「あ、そうそう! 玄関のドア、一つしか鍵かかってなかったよ。ちゃんと、二つかけてチェーンもしなきゃダメだって言ってるでしょ」
玄関の鍵も実は、一週間前に付け替えたばかりだった。理由は激務の末で記憶を失い寝て起きた朝、リビングを開けたら満面の笑みで三つ星レストラン顔負けの豪華ビュッフェを用意した男に戦慄したからだ。その時も一日二日連絡がないから、来たと言っていたか。
「いくら俺がいるからって、危機管理が甘すぎるのは良くないよ」
「本当
……
チェーンをかけるべきでした」
「俺ははずし方を知ってるから心配しなくて大丈夫だからね」
諭す男に、どんどん熱が上がってきた気がした。心を掻き乱し、煽りに来たのだろうか。
言い返したかったが、声が出ない。空咳ばかりが出て、男は急いで腕で上体を抱えてペットボトルを口に宛てがう。ゆっくりと流し込むが、水は口の中を湿らせるだけで喉を通らない。痛すぎて、飲み込めないのだ。唇の端から、水が溢れていく。
「
…………
、ふ」
はあ、はあ、荒く速い呼吸を継ぐ。
「水が飲めないなら、薬を飲むことなんて到底無理でしょ」
再び、ベッドに横たわらせると、その傍に腰をかけて座る。スマホを操作している姿をぼうっと見る。そんな自分の頭を、大きい手が何度も撫でる。
ーー俺だけど、しのぶちゃんが高熱で倒れてーーあの医者捕まえてよ。うん。10分で来てって伝えて、住所も送るからーー急ぐように、少しでも遅れた時には、君の家族はーーそれじゃ、今から時間測るからねーー
「しのぶちゃん。医者を呼んだからね。あと十分で来てくれるよ」
通話を切ると、スマホの画面で進むタイマーを見ながら、何度も頭を撫でる。唾液を拭って、咳をすれば口を湿らせるために水を流し込む。しかし、それくらいしかやれることはないのがわかっていて、歯痒さから口元が歪んでいる。タイマーを見ては珍しく貧乏ゆすりをした。
玄関のチャイムが鳴った時には、「9分5秒」と囁いて、医者を迎えに立った。
夜中に叩き起こされた医者は男に萎縮しているのが、同じ病人かと思うほど顔色が悪く変な汗を流している。点滴をするため針を刺す時には、ぶるぶる手が震えていた。
真横で、男が瞬きひとつせずに凝視している圧力といったらない。同情した。
点滴が終わるや否や、早く解放されたいと言わんがばかりにすぐさま抜く。
「こ、抗生物質と解熱剤を点滴で入れました」
「これで良くなるよね」
「ヒィっ」
「ねぇ、どれくらいで効くの?」
「ど、どれくらい
……
点滴なので、飲み薬よりは早く
……
」
「具体的な時間が知りたいんだけどなあ」
医者を見下ろして言う。
「朝には熱が下がるかな。もし、しのぶちゃんの具合が良くならなかったら
……
どうしよう」
「
……
っ、」
巨躯が近づき、医者は慄いて後ずさりナイトテーブルに背が当たる。
「苦しみは分かち合い、救われるべきものだ」手元の扇子を弄びながら、低い声で呟く。「俺、何するかわからないよ」
医者の呼吸が荒くなり怯えていた。脅して威圧をかける男のジャケットの裾を手で握り引き寄せる。といっても、力は入らないから揺らす程度だが、男は気づいて顔を振り向かせた。
「ど、ま
……
童磨」
名前を呼ぶと、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「
……
やめなさい」
「うん、わかった」ニカーっと笑う。「お疲れ様。帰っていいよ。請求書は俺に送っておいてね」
先程の殺気はあっという間に霧散した。今のうちにと言わんばかりに素早い動作で医療器具を片付けて、跡形もなく去っていく。そして、男も医者に興味がなくなりもう気にすることはなかった。
「薬効いてくれるかな」
新しい保冷剤に変えながら、言う。薬が身体を巡っているのだろう、高熱に苛む感じはしなかった。
「貴方も、帰ってください」ひとりで大丈夫だ、おそらくは。「
……
して、もらったことには、礼をいいます」
「嫌だ」
ベッドに腰をかけたまま、動く気配はない。
「
……
で、帰れ
……
と言って」
「なら力づくで帰してごらん。出来ないでしょ」身体の上で腕を跨がせ、上体を捻り屈む。「ずっと、一緒にいる」
困惑する半面、どこか心強いような、なんとも微妙な心境に陥る。
「
……
そんなに近づくと私の風邪が移ります」
「わぁ」なぜか、男は目を輝かせる。そして嬉しそうに恍惚とした表情をする。「それって、しのぶちゃんの体内にいるウィルスが俺の体内に回ってことか。それも悪くないね」
唖然とする。この男の感性は全くもってわからない。
「頭、大丈夫ですか?」
「ねえ。俺に移して」顔を近づけ、唇が触れるか触れないかの距離までつめる。「しのぶちゃんの風邪をもらってあげるよ。少しは楽になるかも知れない」
「後悔しますよ」白橡の髪の毛が垂れるなか、横を向く。「もう、知りません
……
寝ます」
そっぽを向いた額に男は優しく口づけをする。
「うん。おやすみ、しのぶちゃん」
決して、深い眠りではなかったから何度かは起きて覚えている。男が保冷剤を変えるとき、優しく抱える。暑ければ布団をとり、寒気に震えれば毛布で包んだ。喉が渇いて目を開けると、身体を起こして口もとにペットボトルが差し出される。再び眠りにつくまで、広い手がゆっくり背中をさする。そうやってくれたのは、母と姉に続いて三人目だな、とぼんやり思ったりもした。
男の腰掛けてる方に横向き、猫のように手足を丸める。無意識に男の手を握った気もするが、良く覚えてないから夢だったのかもしれない。
体温を測る音で、目が覚めた。
「熱、下がったね」
やっと、まともな睡眠が取れて、身体から痛みが引いていた。自分の身体を動かすことが苦ではない。頭も軽く、思考が働く。自分のことのように嬉しそうな男を前にして、処置してくれた医者の首が繋がったことに安堵した。
医者といえば。
「治療費はいくらですか」
「俺が払ったよ」
被せて言い聞かせられた。
「体調は? マシになったかな」
「ええ、大丈夫です」
「良かったぁ」
安心した声を出して、太い腕に絡めとられて、大きい体躯に抱きしめられる。頬を何度も擦り寄せ、当たる白橡の髪がくすぐったい。まるで大型犬に戯れつかれているみたいだ。
「高熱で水も飲めないなんて、心配したよ」
「すみません
……
迷惑かけました。結局、貴方は
……
徹夜だったんじゃないですか」
「一晩中寄り添えて、幸せだよ。俺にはしのぶちゃん以上に大切なものなんてないからね」
男の声で耳元で囁かれれば、思いもせず顔が熱くなった。今はもうかぎ慣れた男の香水が漂うのに、はっとする。
「は、離れてくださいっ」
「え、なんで?」
「熱で汗かいたまま、一日シャワーに入ってないので
……
」
首筋に顔を埋めて、すんすんと鼻を動かす男に血の気が引いて「嗅ぐな!」と荒げた声で叫ぶ。
それでも効果はなく「しのぶちゃんの匂い、好きだよ」うっとりした笑顔で言う男に口から変な悲鳴がでた。
身体を捩るが、抱え込んでいる腕からは微動だにできず逃れることができない。腕を胸板につき離そうとするが、男にとってなんの抵抗にもならず「ねえ、一緒にお風呂入る?」などとほざく。暴れれば、暴れるほど、どんどん腕が締まっていく。筋肉で盛り上がる二の腕が胸に苦しく、このままでは潰されてのではと恐怖すら覚えた。
「ーーいい加減に、しろ」
襟元を乱暴に掴み、男の顔を引き寄せては、顔を上げてその唇に唇を押し付けた。口づけとは言えない荒々しく雑な行為だったが、合わせてるうちに男の腕から力が緩まっていく。
唇を離して、男から身を引いた。
七色の色彩を持つ瞳孔に光を散りばめて、唇を指でなぞりながら陶酔して呟く。
「しのぶちゃんに唇、奪われちゃった
……
」
好きな想い人に身を捧げる覚悟をした処女の如く、無垢な身に手をつけられたように反応する男に苛立った。どの口が言ってやがる。
「その言い方やめなさい」
苛立つこと千番だが、今回はこの男がいて良かったと思っていた。決して、口には出さないが、辛く苦しい時に一番そばにいて、して欲しいことを言わなくてもやってくれた。一睡もせずにだ。その想いが温かくて、考えるぎゅっと胸が締め付けられる。
「でも、世話になったのは事実です。その借りは返します」
「借り?」
「一晩寝ずに看病してくれましたから、何かお礼を」
「してくれるの?」
「はい。貴方のような人に借りがあるのは落ち着かないので、早々に返したいですね」
「
……
わぁ」
ぱあぁ、と嬉しさに顔を綻ばせて、頬をあからめる。広い肩幅に、厚い胸元とそんな巨躯に似つかわしくないほどの愛らしい表情をしてみせる。そんなところがあざとい。
デートでも付き合おうという気になってしまう。
「食事でもしますか? あまり高いところじゃなければ奢ります」
「しのぶちゃんと食べれるなら、邪魔が入らないようにお店まるまる貸し切るよ」
「話が噛み合ってないですね」
「まぁ、食事も悪くないけど、今一番望んでるのはこれかな」
男は床に転がっていた、ここら辺で一番大きなドラッグストアのビニール袋から何か箱を取り出して、自分の両手に乗せる。
「はい、じゃあこれ。開けておいてね」
渡されたのはコンドームの箱、12個入りだ。ひゅっと息をのむ。
「しのぶちゃん、体小さいから一応ローションも買っておいたよ。あったほうがいいよね」
Lサイズを越えた当社最大直径を最高極薄で実現の文字に動揺して、床に放った。
「え、無しの生でしてもいいの? 俺はそっちの方が嬉しいけど」
「ーーっ、つ」
急いで、拾い上げるしかなかった。その目の前で男はローションの大容量と書かれたボトルの封を切っている。
「まさか、い、いまですか」
きょとん、とした顔をして言う。
「早々にって言ったでしょ?」
「無理ですよっ
……
いくらなんでも、私は仕事があります」
そういえば何時だろうか、時計を見たところでほっと胸を撫で下ろす。
朝七時ーー今、出れば仕事の出勤時間に間に合うし、この崖っぷちの状況から逃げられる。
「あ、職場には今日は体調不良でお休みしますって連絡しといたからね。お大事にしてください、だってさ」手を広げて、さも胸に飛び込んでこいといわんばかりに言う。「良かったね! 今日一日、俺と過ごせるよ」
「勝手に
……
! いえ、知らない男がかけた、ただの悪戯電話だと言えば何とかなります」
相手にしないかもしれない。
「しのぶちゃんの婚約者です、て」
「
……
は?」
「しのぶちゃんの仕事が落ち着いてから籍を入れて報告するつもりだったと言ったら、そうだったんですかぁ! ってさ」
「お、お前
……
」
怒りに震える自分に、しれっと平然とした態度でいる。
「しのぶちゃんが悪いんだよ」
おもむろに、スマホを操作して画面を見せた。そこには飲み屋で両隣前方をがっちりと隙間なく職場関係の男集団に取り囲まれている自分が写っている。デレた男たちの表情とは裏腹に、自分は真顔だったが、側からみればよりどりみどりの逆ハーレム状態だ。
いつの間に、撮られていた? 驚愕に目を見開いた。
「俺に何も言わずに、職場の同僚に誘われて合コンなんて行くんだから」
「こ、これは」
「恋人を見つける出会いの場ってやつでしょ? この男達、しのぶちゃんから離れなかった」
確かに男がずっとしつこかったが、俄然とした態度を貫いた。そもそも、ただの飲み会でキャンセルが出てお金が無駄になるから、どうしてもと片腕をとられて引きづられ連行された場だったのだ。
「数合わせのためにどうしてもと誘われただけです」
「断ることもできたんじゃない?」
「う
……
」
「連日、仕事の徹夜明けで飲み会なんて行ったら体調崩すのは当たり前だよね。あんな高熱出せば懲りたと思うけど、俺は悲しいよ。他の男と仲良く食事なんて裏切られたみたいで、傷ついたなぁ」
男は自分の小さな手を取り、己の頬に押し付け撫でさせる。
「俺はこういう感情には慣れてないから、どうしていいかわからないんだ。男たちをどうにかすれば収まるのかな?」
「そんなこと言うのは冗談でも許しませんよ」
「だったら慰めてよ、しのぶちゃんには俺しかいないって安心したい」
「ちょっ
……
」
待って、という言葉も虚しく、ベッドに押し倒される。スプリングが重く軋んだ音を奏でる。
「喜ばせてくれるよね」虹色の瞳に鈍い欲が映る。「借りは返すって、俺のお願い、聞いてくれるんでしょ」
心臓が早鐘のように打ち続け、暴れている。
「一晩寝ずに相手してくれるなんて、俺も頑張らないといけないよね。もう一箱買っといって良かったなぁ」
二箱あれば足りるよね、などと一人浮きだって言う男を、仰ぎ見る顔に変な汗が流れる。逃げ道を探すべく目線を逸らせば、それが気に入らない男は低い声で囁く。
「でも病み上がりだし、なるべく加減してあげたいと思ってる。本当だよ、俺は優しいから」
そう言いながら、脅してるかのようだ。男の虹色の目に取り込まれていく。
「でも結局はしのぶちゃんの心持ち、それ次第だよ」
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内