haru_haru0704
2025-12-04 22:33:21
7821文字
Public
 

仇遠の休暇

仇遠(ちょこっとカカロもいる) CP要素なし 全年齢

梁様が仇遠にお仕事(という名の休暇)を与える話

梁東園は思った。
仇遠という、真面目で従順すぎるきらいがある部下に、楽しい休暇を取らせてやりたいと。
というのも、仇遠は放っておいたら一切の休暇を取らずに働き続けるタイプである。
本人に尋ねてみると、「仕事の合間に適宜休息は取っておる」だの「疲れてはおらぬ」だのと言うし、実際のところそれは真実であるように思う。しかし、いくら疲れていないとしても休暇は取るべきだ。
そもそも休暇とは、体を休めるためだけに存在するものではない。
普段は行かない場所に行って、様々な文化や遊びに触れる。普段とは違ったものを食べる。偶然出会った人々と会話をする。そういった行為は心を豊かにし、見聞を広めるのにも役立つ。だから、たまには休暇を取りなさい。
梁がそう言うと、仇遠は心得たというように頷いた。
分かってくれたか。なら、お前からの休暇申請を待っているからね。
──そう思ったのに、待てども待てども申請は来ない。どうして。
やがて痺れを切らした梁は、仇遠に無理矢理休暇を取らせることにした。より正確に言うなら、仕事に見せかけた休暇である。

✦✦✦
「仇遠、次の仕事だ。よろしく頼むよ」
梁は、仇遠のデバイスに情報を送りつつ『休暇』の説明を始めた。
「まず、行き先は越州。詳細な場所は地図情報を見るように。仕事の内容は3つ。ひとつ、釣り堀の経営が健全であるか確認すること。適度に魚が釣れるか、釣れた魚はきちんと食べられるものか、確かめてきなさい」
言いながら、梁は内心ドキドキしていた。
いくら従順な仇遠といえども、「それは鎮撫司の仕事ではあらぬ」と拒否するのではないだろうか。いつもの仕事と比べると、かなりしょぼい内容だし。
温厚な彼のことだから、いきなり怒り出したりすることはないだろうが・・・もし疑いの目で見られたりしたらどうしようか。
「拝命いたす」
あ。大丈夫だった。
仇遠が従順な性格で良かった。
梁はこっそりと安堵の息を吐き、次の内容を告げる。
「ふたつ、温泉街で怪しい取引がされていないか確認すること。温泉の中だとか、土産屋の中だとかもしっかりと確認してきなさい。冷やかしにならないように、ちゃんと温泉に浸かったり品物を買うのも忘れるな」
「拝命いたす」
よし。ひとまずここまでは順調だ。
しかし、次もこの調子で乗り切れるだろうか。
「みっつ、ふれあい牧場に行くこと。これは仕事というよりは・・・修行だな。ほら、お前は修行が好きだろう。動物と心を通わせる修行だ。ね。やってきなさい」
うん、我ながら無理がある。
最後のひとつだけは、どうしてもいい口実が思いつかなかったのだ。でも仇遠は動物が好きなようだから、是非ともふれあってきてほしい。できたら写真とかも撮ってきてほしい。
いや、しかしこれにはさすがの仇遠も文句を──
「拝命いたす」
言わなかった。
えっ、ちゃんと私の話聞いてる?さっきから「拝命いたす」しか言ってないけど大丈夫かな?
「梁様から直々にいただいた仕事。この仇遠、全力を尽くして任務に当たろう」
「ああ、ええと・・・そんなに肩肘張らなくても構わないよ。適度に気を抜いて、行っておいで」
この子、従順すぎて少し心配になるな。私が血迷って、本当に変な仕事を与えたらどうするつもりなんだろう。

✦✦✦
仇遠は早速、越州のとある釣り堀を訪れた。
従業員から支払い体系や規則等の説明を受け、釣り具や餌などの一式を借り、いざ釣り堀へ。
梁様の命は、「適度に魚が釣れるか確認せよ」、それから「釣れた魚が食べられるものか確認せよ」というもの。その命を果たすためには、まず魚を釣らねばならぬ。
仇遠は普段、釣り竿でも何でもないただの竹で釣りに挑み、魚を逃し続けている。しかし今日は、そんな悠長で分の悪い事はしていられない。
彼は小さな椅子に腰を下ろすと、釣り針に餌を付け、釣り糸を垂らした。
「・・・・・・」
そして、じっと待つ。
仇遠は、指先に魚の気配を感じ取った。釣り針の近くを泳いでいる。
「兄ちゃん、釣り堀は初めてか?」
不意に、隣に座っていた男が仇遠に問いかけた。仇遠が「うむ」と頷くと、男は嬉しそうに助言をし始める。
「竿をな、たまにこうやってちょいちょいと動かしてやると魚の食いつきがいいんだ。試してみな」
その言葉と共に、ちゃぷちゃぷと水面が動く音がする。仇遠には男の動作を見ることはできないが、その言葉と音から十分察することができた。
仇遠は自分の竿を軽く上下に動かす。
「そうだそうだ。上手いぞ」
「助言、感謝する」
竿を動かすと、魚の気配がより近づいてくるのを感じた。やがて、魚がつんつんと餌をつついている感触が指先に伝わってくる。
仇遠はじっと我慢し、魚が餌に食らいつくのを待った。
待って、待って──不意に、竿先が強くしなる。
「!」
仇遠は竿を強く引き上げた。魚の口に、針がぐっとかかる手ごたえ有り。
「おお、巻け巻け!糸をたるませるな!」
隣の男が囃し立てる。仇遠はリールを素早く巻き上げた。
しかし、魚の方も逃げようと必死だ。暴れ回り、抵抗する力が腕に伝わってくる。
この勝負、負けるわけにはいかぬ。

短い格闘の末、仇遠は見事に魚を釣り上げた。
彼の人生において、魚を釣ったのはこれが初めての経験である。常に物静かで平穏な彼も、人生で初めての経験には多少心が躍った。
「でかいの釣ったなあ、兄ちゃん!」
「うむ。上々だ」
仇遠は釣り針から魚を外し、水が入ったバケツの中に放した。そして再び釣り針に餌を付け、釣り糸を垂らす。
全ては梁様の命のために。

✦✦✦
それから約2時間後。仇遠は釣り堀のすぐ隣にあるバーベキュー場で、釣り上げた魚の燻製を作っていた。
その傍らでは家族連れの父親が巨大な魚を捌いて切り分け、母親が様々な料理を作っている。その料理は、出来上がったそばからどこかへと持っていかれ、遠くからは子供の喜ぶ声が聞こえた。
「はい、あなたもどうぞ。釣り上手さん」
そんな言葉と共に、仇遠の前に皿が差し出される。皿の中では、調理された魚の切り身が湯気を立てていた。
香草焼きだろうか?スパイスのいい香りがしている。
「いただこう」
仇遠は拱手をした後、その皿を受け取った。
──なぜこんな事になっているかと言えば、理由は至って単純である。仇遠が、80cm程もある釣り堀のヌシを釣り上げてしまったのだ。
仇遠は最初、ヌシを釣り堀に返そうとした。しかし、大物を釣り上げた彼の姿を見て沸いた人々の熱はそう簡単には収まらず、あれよあれよという間に「皆で食べよう」ということになってしまったのである。
仇遠ほどの技量があれば、途中で人の輪からするりと抜け出すことも可能ではあった。しかしそうなると、梁様からいただいた「釣れた魚が食べられるものか確認せよ」という命が果たせない。
魚種を見るに、食べられることは間違いないのだが・・・念には念を。中途半端な報告では梁様も不満を覚えよう。
仇遠は魚の香草焼きをもぐもぐ食べながら、燻製器の火加減を確認した。
彼が燻製しているのは、ヌシの身ではなく、彼が最初に釣り上げた普通サイズの魚の身だ。
自身で釣り上げ、自身で捌いて燻し、自身で毒見を行ったものなら、安心して梁様に献上できる。証拠品の提出も兼ねた、良き土産となることだろう。

✦✦✦
燻製を作り終え、ヌシの身で腹を満たした仇遠は温泉街へと移動した。なかなか広く、そして賑わっている街だ。
梁様の手配で、宿には2泊できることになっている。それだけ、念入りに調査をせよという事なのだろう。
さて、まずはどこから調べるべきか。
「お兄さんお兄さん!」
「む・・・」
仇遠はさっそく声をかけられた。
どうやら、酒屋の店員のようだ。酒の香りがする。
「お酒の試飲、していきませんか!」
仇遠の頭に、『仕事中』の3文字がよぎった。
「・・・いただこう」
よぎったが、仇遠はそれを無視した。一杯程度飲んだところで、仕事に支障が出るほど酔いはしない。
それに、犯罪や裏取引はどこに潜んでいるとも知れないのだ。こういった誘いに乗った結果、思わぬところで悪事を発見するという事もあるだろう。
仇遠は、店員から受け取った紙コップの中の酒を飲み干した。
「いい飲みっぷりだねお兄さん!」
「うむ。良い酒だ」
「でしょう?お兄さん、ぜひウチの店に寄ってってよ!他にも美味しいお酒の試飲ができますよ~」
「すまぬが、今はあまり酔っておられぬのだ。用事が済んだ折には、寄らせていただこう」
店員の誘いは魅力的だったが、仇遠は奥ゆかしく辞した。
酒の強さには自信があるものの、やはり仕事中にたらふく飲むというのは憚られる。仕事が一段落し、時間があればまた訪れるとしよう。
「また寄ってってくださいね~」とにこやかに手を振る店員に会釈を返し、仇遠は再び歩き始めた。

大通りから少し離れると、人の喧騒は遠くなった。おそらく、この辺りにはほとんど民家しかないのだろう。
仇遠は何気ない雰囲気で歩きながら、周囲の音に耳を澄ませる。
すると・・・何やら、こそこそとした話し声が聞こえてきた。
「ほらな、行ってよかっただろ」
「ああ、まさかこんなヤバいブツが手に入るとはな・・・」
あからさまに怪しい会話だ。仇遠は音の聞こえる方へと近付いていった。
話しているのは、声からして若い男2人。手提げ袋を大事そうに抱えながら歩いているようだ。その袋の中に、何か疚しいものでも入っているのだろうか?
これは是非とも、確認するべきであろう。
「そこなお二方。少し良いだろうか」
仇遠は、その2人組に声をかけた。

10分後、仇遠は大量のレトロゲームに囲まれていた。
理由は単純。2人組に話を聞いたところ、『ヤバいブツの入手先』としてこのレトロゲーム店を紹介されたからだ。
店主は若者の訪問に興奮しているのか、この機種の起動音がどうの、旧文明時代のデザインがどうのと勝手に喋り続けている。
2人組の手提げ袋の中身もそれとなく確認したが、家庭用レトロゲームの本体が入っているだけだった。つまり、怪しい裏取引などはされていなかったということだ。
「ところで、あんたはここに何を探しに来たんだ?」
不意に、店主が仇遠に尋ねる。
「ただ、ふらりと立ち寄ったのみ。珍しい物を置いておる店があると、小耳に挟んだゆえ」
「なんだ、そうなのかい。道理でレトロゲーマーっぽくないわけだ。長々と語って悪かったね・・・」
「否、興味深い話であった。教えていただき感謝する」
仇遠はそう言いながら拱手した。
裏取引を発見することはできなかったが、残念ではない。犯罪など、無い方がいいに決まっているのだから。
それに、あまり知らない分野の話を聞くというのは中々愉快なことである。
「これも何かの縁。盲人であっても楽しめるものが有れば、買わせていただきたい」
「盲人でも楽しめるもの・・・ああ、あるよ。協力して重さを当てる、古いボードゲームがね」

✦✦✦
その後も仇遠は土産屋や飲食店を巡り、怪しい取引がなされていないか調査した。
しかし、犯罪の気配は全くと言っていいほど無く、仇遠はただ美味いものを飲み食いし、土産物を買っただけに終わった。
これではただの観光客と同じである。が・・・仕方あるまい。
仇遠は調査を一旦切り上げ、宿で夕餉を取った。そして一日中歩き回った汗を流すべく、大浴場へと向かう。

仇遠は湯に浸かり、ふぅと息を吐いた。良い湯だ。
賑わう温泉街だけあって、大浴場にはたくさんの人がいる。仇遠は寛ぎつつも、人々の会話を聞き逃さぬよう耳を澄ませていた。
「お、ここ空いてるぞ」
「やった~」
そんな声の後に、ざぶざぶと湯が動く音がした。どうやら、若い3人組の男たちが仇遠のすぐ隣に座ったようだ。
彼らはしばし他愛のない話をしていたが、やがて妙な内容に変化していく。
「風呂から上がったら、あれキメようぜ」
「おっ、賛成~」
「俺は3本キメてやる」
「バカ、それはさすがにキメすぎだろ!」
仇遠は分かっていた。これは薬物の話ではない。酒か、もしくは煙草の話だろう。
だが、そうと分かっていても確かめたくなってしまうのは職業病だろうか。
「・・・お三方。少し良いだろうか」

30分後、仇遠は風呂上がりのいちご牛乳をキメていた。
理由はもうお分かりだろう。若者たちが話していたのは酒でも煙草でもなく、いちご牛乳とコーヒー牛乳とフルーツ牛乳の話だったのだ。
「はぁ・・・」
仇遠はいちご牛乳を一口飲み、ゆるりとその甘さに浸った。
少し休憩をしたら、夜の街を見回ろう。

✦✦✦
翌日、仇遠はふれあい牧場を訪れた。
梁様の命は・・・「修行とかしてきなさい」というものだ。
修行。・・・修行?
仇遠は疑問を感じたが、すぐにそれを振り払った。梁様のことだ、きっと何か深いお考えがあるに違いない。
ひとまず、彼は牧場を端からぐるっと回ってみることにした。

「・・・む」
牧場の隅、人通りの少ない場所に誰かがいる。その人物は、地面にしゃがみ込んで犬を撫でているようだった。
仇遠はその人物を警戒しつつ、ゆっくりと歩み寄っていく。
警戒の理由は、その人物の特殊に過ぎる周波数だ。特殊というより・・・丸きり、残像と同じ周波数を持っている。
不意に、ワン!と犬が吠えた。そして、その人物は仇遠を見る。
「俺に何か用か?」
・・・この男、ただ者ではない。荒事慣れした雰囲気と、隙のない動作。堅気の人間でないことは明らかだ。
「お主、何者だ」
「・・・幽霊猟犬という傭兵団の団長をやっている。お前こそ、役人か何かか?勘弁してくれ・・・」
「幽霊猟犬・・・」
その名に、仇遠は聞き覚えがあった。ごく最近、ネオユニオンから渡ってきた一団がいるのだと、明庭内でも噂になっていたような。
ワン!ワン!と犬が吠え、男にじゃれつく。彼は「わかったわかった」と犬を宥めるが、犬は彼の顔をべちゃべちゃと舐め始めた。
「・・・お主らのことは聞き及んでおる。正当な手続きを踏んで瑝瓏に入国したのであれば、咎めることもない。ただ少し、お主の周波数が特殊であったゆえ、声をかけた」
「そうか。変な周波数で悪いな。・・・ところで、お前はこんなところに何しに来たんだ?あまり、遊びに来た雰囲気じゃないが」
その問いに、仇遠はざっくりと事の成り行きを話した。すると、彼は「なるほど」と苦笑する。
「その修行とやら、写真か動画を撮った方がいいぞ。俺が撮ってやろうか?」
「ふむ・・・?」
唐突な助言に、仇遠は首を傾げた。だが確かに、梁様への報告として何かしらのものはあった方がいいだろう。
仇遠が頷くと、男は立ち上がった。別れを察したのか、犬がクンクンと鳴いている。
「また後で戻ってくるから。な」

15分後、仇遠は大量の小動物に囲まれていた。
低い木製のベンチに腰掛けた彼の太腿にはモルモットがみちみちと乗っかり、長い髪は兎に齧られている。
ぷいぷいぷいぷいぷいぷい・・・と喧しい鳴き声に、仇遠は遠い目をした。不快ではないが、とにかく喧しい。
「はは、これはいい写真が撮れそうだ」
男は笑いながら、デバイスで写真を撮っている。
これで・・・これで良いのであろうか?梁様、某には梁様のお考えが分からぬ。
修行とは一体・・・鎮撫司の仕事とは一体・・・人生とは一体・・・

✦✦✦
梁様の執務室の扉を二度叩く。「入れ」という声が聞こえた後、仇遠は静かに入室した。
「仇遠、ただいま帰参」
「ああ、おかえり。どうだった?」
「報告申し上げる。まず、釣り堀の調査について」
仇遠は釣り堀で釣れた魚の数、魚の種類、そして釣り堀を訪れた客たちが釣りを楽しんでいた事を簡潔に報告した。
「どうやら健全な釣り堀のようだ。報告ありがとう」
「証拠品を兼ねた土産として、こちらの燻製を献上いたす。某の手作りゆえ、毒などは入っておらぬ」
「美味そうな燻製だ。ありがとう」
「続いて、温泉街の調査について」
仇遠は温泉街の土産屋、飲食店、大浴場などの調査結果を簡潔に報告した。そして一瞬迷った後、レトロゲームといちご牛乳、それから酒の試飲について申し添える。
「どうやら温泉街も健全なようだ。報告ありがとう」
「土産として、こちらのレトロゲームと酒を献上いたす」
「土産多いね?ありがとう」
「最後に、牧場の調査・・・修行・・・?について」
仇遠は色々な動物とふれあったことについて、やや言葉に詰まりながら報告した。ついでに、幽霊猟犬の団長と名乗る男に出会ったことも申し添える。
「証拠品として、こちらのものを確認いただきたく」
仇遠は自身のデバイスを操作すると、いくつかのデータを送信した。梁のデバイスが震え、受信を知らせる。
彼はデバイスを操作し、早速そのデータを確認した。どうやら写真が何枚かと、動画がひとつあるようだ。試しに写真を1枚開いてみる。
するとそこには、モルモットと兎に囲まれて虚無顔になっている仇遠の姿が写っていた。
「ふ、っくく・・・可愛いな。いい写真だ」
「・・・梁様のお気に召したのであれば、何より」
仇遠は不満げな顔でそう言った。彼にしては珍しい表情に、梁はますます笑みを深める。
「こっちの動画は何かな?」
デバイスを操作し、動画を再生する。するとそこには、ヤギの群れに囲まれて呆然と立ち尽くしている仇遠が写っていた。
ヤギは彼の周囲を意味もなくぐるぐると周り、何匹かは彼の衣服のひらひらとした裾の部分をむしゃむしゃ食んでいる。そしてなぜか、肩や頭に乗っているヤギまでいた。どうやってそこまで登ったのだろう。
動画の撮影主は笑いを堪えているのか、時折画面がぷるぷると震えるのが余計に愉快だ。
「ふっ、ふふ、ふふふ・・・!」
梁は口元を手で覆いながら笑った。
駄目だこれ。面白い。仇遠は元からぽやっとした顔をしているけれど、その比じゃないくらいボケーッとしている。
「ど、どうしてこんな事に?お前、動物好きじゃなかったかい?撫でるとかなんとか、したらよかったのに」
「あまりに数が多く・・・どうすれば良いか分からず・・・」
「そうか、そうだな、多いな・・・ふふふ」
笑いの止まらぬ梁に、仇遠は最後の土産を差し出した。それは、可愛らしい兎のぬいぐるみだ。
「まだ土産があったのか。ありがとう、折角だから机に置いておこうか」
梁は執務机の端にぬいぐるみを置いた。ちょこんと収まりの良いサイズ感だ。
「報告は以上。何か不足などあれば、申しつけていただきたく」
「いや、今回も完璧な働きだった。助かったよ」
梁がそう言うと、仇遠は一礼して退室しようとした。その背に向かって、「たまには休暇を取るように」と念押しする。
「・・・梁様のお心遣い、ありがたく頂戴する」
そう言い残し、彼は部屋から出ていった。
やれやれ。次こそはちゃんと休暇申請が来ると良いんだが。
梁は肩を竦めた後、再びデバイスを操作し始めた。まだ見ていない写真を、ぜひとも見なければ。
きっと、そこには仇遠の可愛らしくも愉快な姿が写っているに違いないのだから。