もちゑ
2025-12-04 21:39:13
1170文字
Public 🖊️:文字
 

【墓参】墓にもうでること。はかまいり。

VOID現未✖ シナリオから一年後くらい? ぼよんから非公開NPCへ💐

 10月も末となると日の入りが遅い。まだ薄暗い公園を行く。
 トレーニング中なのだろうランナーが私を追い越していった。ランナーの荒い息が白く煙った。私の息が色づくことは無い。
 遠ざかる後ろ姿を見送りながら小道に入る。
 此処から先は霊園だ。騒がしい客は来ない。仕事前に来ようと思うとどうしても早朝になる。昨晩用意した花束を抱え直した。気温が下がって来たから花はまだ萎れない。
 木立を抜けると開けた丘に出る。斜面には等間隔に墓石が並ぶ。丁度日が差してきて、遺族が刻んだ碑銘が白く照らされている。
 目的地に到着した。
 目当ての墓の前には枯れた花が数本あった。相棒が訪れた名残だろう。
 私は枯れた花を取って持参したビニール袋に入れ、落ち葉を払い、辺りを掃除した。小さな墓前は直ぐに綺麗になる。
 花束を供える。
 仏花をそのまま、というのも何となく気が引けて、でも白菊を中心に、年頃の女の子にプレゼントするようなラインナップで組んでもらった。注文を聞いた花屋の店員が嬉しそうに微笑んだのが印象的だった。人間の店員だった。花屋が選んだ洋菊は白色でも可愛らしい出で立ちだった。
 たまには好みの花を持っていっても良いかと思ったが、私は彼女の好みなど一つも知らなかった。
……
 やることを終えてしまって立ち尽くす。
 日差しが強くなってきた。辺りはもう十分明るい。
 何となく手を合わせた。
 日に日に冷たさを増す風が花束を留めるリボンを揺らしている。視界を落ち葉が過ぎっていく。
 当然何も起こらない。
 いや。
「なぜ、…………
 言葉が零れた。
 あれ、と思う。バグだろうか。明確な思考を行っていた訳でもないし、語って聞かせる相手もいないのに。
 まあいいか。釈然としない思いはすれど、致命的な故障ではなさそうなので特に制御はしないことにする。
 人工筋肉が小さく唇を動かす。人工声帯が震える。
「生きていた貴方がどうして」
 白い髪に縁取られた笑顔が浮かぶ。
 記録の中の貴方は色んな表情をしているのに、想起されるのはいつも笑顔の場面だ。
 そう言えば、貴方の髪型もポニーテールだった。憧れの人を真似たのだろうか。
「命を持たない私を助けたのですか」
 貴方はこの世界で唯一無二だったのに。
 貴方を愛する人達がいたのに。
 貴方も世界を愛していたのに。
 なぜ代替品の私を助けたのですか。
 貴方は、レオは友達だから置いていけない、と言った。あの状況下でどうして私は貴方の友達たり得たのか。
 スタックが破損したからメモリーが消去され自覚が無いだけで、私は、貴方の友達だったのか。そうだとしても。
 私が人の形をしていなければ、貴方は自分を優先して生きられたのだろうか。


 墓前のビニールが乾いた音を立てている。