net20156
2025-12-04 21:13:01
1252文字
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【縛り】




「また歌姫の舞が見たいな」


つい口から零れた言葉は本心だった。

新宿決戦の後、3か月の昏睡を経て覚醒した僕の前には歌姫がいて。
壊滅状態だった東京支援のため、京都校を一時閉校してこちらに人員が集められていたらしい。検査だなんだで退院できない僕に、なにかと世話を焼いてくれるのは十年来のくされ縁だからと分かっているが、それでも毎日が楽しかった。

今日も、僕がお願いしたお気に入りの甘味を買って病室に持ってきてくれた。
お茶を淹れている彼女の背中を見ていると、あの日、渋谷で僕のために舞い、歌った後ろ姿を思い出してしまった。

もう一度、あの美しい舞を見たい。


「いいけど、術式効果は期待しないでよ」
「なんで」

歌姫の術式を全身に浴びた瞬間、想像を遥かに超えた愉悦に包まれた。
僕と歌姫の呪力が溶け合い、彼女の術式が細胞のひとつひとつに染み渡り、本当にセックスしてひとつに交じり合ったかのような恍惚に近い感覚を覚えた。

あの時まで歌姫の術式を受けたことはなかったが、今まで彼女と同行して支援を受けた男の術師達を根絶やしにしたい。

もう一度、あれを味わえるなら今すぐに前線に出たいくらいだ。


しかし、彼女の口から出たのは予想もしない答えだった。


「あんたにバフかけた時、このさき生涯、誰にも術式かけないって縛りを結んだから」




――――マジかよ。

頭を殴られたような衝撃で言葉を失う。

確かにあの日の歌姫の術式は通常使用の範囲を超えていた。
準1級と位置付けられていても、それは単独任務が難しい補助的な術式の性質ゆえのもので、1級相当の実力があるのは誰もが認めていた。

それでも、あの日の僕への増幅効果は普段の彼女の力量からしても桁違いだった。


その理由が、今ようやくわかった。
あれ程の恍惚を味わえたのは、後にも先にも僕だけだったのか。

歌姫の、生涯一度の術式を。


「術師が術師にするお願いは"一緒に命を懸けてください"でしょ。今さらなに言ってんだか」

歌姫がこともなげに、呆れたようにお茶を差し出してくる。
反撃される危険をおしてまで共に前線に出ただけでなく、術師としての命を、僕に賭けていた。

それだけの覚悟で、あの日。



……そんなのさぁ、もう僕がお嫁にもらうしかないじゃん」
「なんでそうなる!?」

はぁぁ……とベッドの上で深い溜息が出た。
歌姫のことを分かってるつもりで、全然分かってなかった。
そこまで僕に賭けてくれてたなら、僕も人生をかけて返さないとね。

「僕もこのさき生涯、歌姫以外とセックスしないからさ」
「今までも一度もしてねーんだが!?!?」


歌姫が熱い湯呑を投げてきたけど、掌印で無下限を展開した僕には当たらない。
その代わり、お茶でずぶ濡れのシーツに慌てて駆け寄った彼女を思いきり抱きしめた。


歌姫のことは、僕が一生縛ってあげる。
だから僕とも、縛りを結んでよ。

ね、歌姫。