ぽふむん
2025-12-03 08:35:38
1128文字
Public 童しの
 

救済

Webオンリーのアンソロに出稿した作品です。

天井裏の隙間から見える光景は信じ難いものだった。
眼下には外国人のような……いや一体の見目麗しい青年鬼が居る。この教団の教祖だ。
その前には三人の男女の骸。
皆自分から身を捧げた。
大人しく身動ぎしなければ、痛みすら感じず瞬殺らしい。だが、もし身をすくめたりなんぞしようものなら急所を外す。
絶妙な刃さばきだ。


今眼下に転がる者以外に この館には二百人程の人がいる。
皆この教団の本性と、教祖の正体を知っている。
自分が鬼に喰われる。殺されるとわかった上で集まっている。
全員いわゆる自殺志願者。この世に失望した者ばかりだった。

信者の振りをし潜入した当初は、皆騙されているだけと思っていた。
だから、隠に指示し昼間の内にまずは二人程逃がそうとした。
途中で事態を理解した女に金切り声で大暴れされ、手こずったのがまずかった。
その隠は狂信者の群れに捕まった。そして、殺され山に捨てられた。
生きていた痕跡すら残さず死ぬつもりだったものは無敵だと言う事をこの時に知った。
鬼ではなく人によって隠は殺され、身ぐるみ剥がれた。
追い剥ぎが出てもおかしくない山だから、これで十分な証拠隠滅になるのだろう。

その遺骸を鬼は喰わなかった。
喰うのは自発的に集まり、教義を知って、なお共鳴した自殺志願者のみ。

今宵、三名の“救済”とやらが執行された。
眼下で鬼は、今殺したばかりの人を喰らいながら、補佐官らしき男に語る。
「今宵は怖がる子は居なかったね」
……ええ、大体一人はいるものなんですがね。今まで誰一人自分の話を聞いてくれなかった。でもここに来たら話を聞いてもらえた。同じ思いの者が他にも居た。その事実を知るだけで生への執着が芽生えるのでしょう」

そして死が恐ろしくなるという。

「そんなものかねぇ。生の苦悩から解放されたい。でもひとりじゃ寂しいと言うから叶えてあげていると言うのに」
青年鬼は人を喰らいながら言う。その口調は穏やかなもの。

「明日の夜、麓の大店の若女将が“救済”をお待ちです。病で身を起こすこともままならず。だと言うのに、夫である若旦那は女遊びにうつつを抜かし……もうそれを直視するのが辛い。消えてなくなりたいと」
僧形の秘書官らしき男の言葉に、青年教祖はさめざめ泣いた。
「可哀想に。さぞ辛かったろう。明日望み通り助けてあげる」

白々しい……姉は言う。
鬼のくせに人を救済?笑わせるな。
その娘は生きて幸せを手に入れるべきだ。
小さく、気高くつぶやくと隣のしのぶに囁いた。
「明日の夜、奇襲をかけます。挟み撃ちにしましょう」
しのぶは小さくうなづいた。
鬼がこちらをちらりと見て、ニィっと笑ったような気がした。