みずあめ
2025-12-02 23:44:58
2457文字
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ゆづあい

ワンライお題「ワイン」

俺が迎えに行った時にはすでにだいぶ酔っている様子だった逢さんは、助手席ですこし眠って休んだからか家に着く頃には手を貸さなくても歩けるくらいには落ち着いた様子だった。玄関から順に電気をつけて明るくなっていく部屋の中、先に靴を脱ぎこちらを振り向いた逢さんの顔はまだまだ赤く、俺は両手に荷物を持ったままくすっと笑った。
「ゆづる」
「はい、ここにいますよ」
「ん」
……はい?」
「荷物はそこらへんに置いていい」
ん、ともう一度声を出し、逢さんは俺に向かって手を伸ばした。もちろんそれが、俺に抱きしめてほしいという要求だとは分かっているけれど。俺へのお土産だと言っていた高そうな紙袋や逢さんの上着を床に置くのは躊躇われ、ひとまず笑みだけ浮かべて首を傾げて見せる。むっとした逢さんは大股で近づいてきて、そのまま俺のことを抱きしめた。玄関框の分、靴を履いたままでも逢さんの方が数センチ背が高く、いつもと違う見上げるような体勢で俺の心臓は高鳴っていた。
持っているのが自分の荷物なら迷いなく荷物を床に落として抱きしめ返すのに。ぐりっと額を肩に擦り付けてくる可愛い仕草に一瞬両手から力が抜け、だけどすぐに握り直してふぅーっと深く息を吐いた。
「逢さん、ちゃんとぎゅうってしたいから、むこうの部屋まで行きましょう? コートもかけないと、汚れてしまいますから」
……そんなの、どうだっていい」
……お水も飲まないとですね。気持ち悪くはないですか? ねえ、ちょっとだけ俺のこと見て? ……ん、顔色は良くなりましたね。でもやっぱり心配だから、一緒にお水飲みましょう?」
……いっしょに?」
うん、と優しく頷いて見せて、唯一自由な顔をそっと逢さんに寄せる。頬にキスをすればすぐに唇が塞がれ、熱い吐息が混ざり合った。
……ゆづるも、みず、のむのか」
「あいさんがのませて」
ちゅっとキスをして言うと逢さんは俺から荷物をまとめて奪い取りさっさとリビングへと行ってしまった。一人残された玄関で隠すことなく笑い声を溢しながら手早く靴を脱ぐ。
いつだって可愛い人だけれど、酔っている時はいつもよりも数段素直で、甘えたがりだ。玄関から上がってリビングへ行くと、荷物はソファーに放り投げられるように置かれていて、扉のすぐそこにいた逢さんが待ちきれなかったように俺に抱きついてきた。今度こそその体を抱きしめて、耳やこめかみにそっと唇を触れさせる。顔を上げた逢さんは思い出したように「みず」と呟き、抱きしめる腕の力を緩めた。
「ゆづるも」
「はい、いただきます」
逢さんに引っ張られるままキッチンについて行き、グラスを一つだけ出す横顔を見つめて微笑んだ。逢さんは冷蔵庫から冷たいミネラルウォーターを取り出しグラスに注ぐと、それを飲みすぐに俺に向き直った。
一緒に、の曲解を分かっていながら否定するどころか肯定したのだから、冷たい唇を避けるつもりはカケラもない。唇の隙間から少しずつ与えられる水を何度か受け入れ、グラスが空になってからは水の意味があったのか聞きたくなるくらいに熱い舌を絡めて逢さんを抱き寄せた。もっとちゃんとお水を飲んでもらわないと、明日二日酔いになってしまうかもしれないのに。
今夜はAporiaとは関係のない、逢さんが個人で呼ばれたパーティーだったからそばにいることもできなくて、それなのにこんなに酔って呼び出されたから心配と嫉妬でどうにも離れがたかった。最後まで逢さんに手を貸してくれていた人にお礼を言って逢さんを抱き止めた時、俺はきちんと笑えていたかな。
……由鶴」
「はい。お水、もうちょっと飲みましょうか」
「いや、もうだいぶ、酔いはさめた」
……そうですか?」
閉じていた目を開けると、俺を見つめる逢さんと目が合った。ワインのような美しい瞳は確かにずいぶんと落ち着いているように見える。ちゅっとキスをして見せればすぐにキスを返されたけれど、それは深くなることなくただ触れるだけで離れた。
「二次会だ」
「え?」
「おまえを、酔わせる」
……えっと?」
「こっちに」
再び手を引かれて部屋の中を移動する。テーブルのすぐそこで逢さんは俺の手を離し、ソファーの上に散らばった荷物の中から俺へのお土産だと言っていた紙袋を拾い上げた。細長い紙袋からは、想像していた通りワインボトルが出てくる。
「今日のパーティーの主役だった」
「? ……あ、ボジョレーヌーボ」
「ああ。普通の赤より飲みやすくて、つい飲みすぎた。美味かったから由鶴にも飲んでほしくて」
「わぁ、ありがとうございます」
「チーズや乾き物なら適当につまめるものがあるはずだから付き合え」
「え、今からですか?」
逢さんはこれ以上飲まない方が。言い掛けた言葉は逢さんの視線を受けて飲み込み、俺はどうしようかなと視線を逸らした。
逢さんが俺にって言ってくれるのは嬉しいし一緒にお酒を飲むことだって好きだけれど、今日は、これ以上逢さんが酔ったら困る。そういえばさっき俺のことを酔わせるって言っていたな。でも残念ながらこんな状態の逢さんと飲み始めて俺が酔うなんてありえない。
「逢さん、明日にしませんか? 今日はもうお腹いっぱいでしょう?」
「まだ飲める」
「うーん……、えっと、じゃあ俺がお腹いっぱいなので」
「夕飯は何時に何を食べたんだ」
…………お風呂、一緒に入りませんか?」
…………
「あ、でも逢さん酔ってるから、お風呂は明日にした方がいいかな……
「酔ってない」
「じゃあ、一緒に入る?」
……はいる」
よし、と心の中でガッツポーズをして、逢さんが持っていたワインボトルをそっと取り上げる。手を繋いで引き寄せ、ダメ押しのように優しく「のぼせないようにお水もう少し飲んでくれますか?」と言えば、逢さんは小さく頷いた。言外に匂わせた行為を、するつもりはないけれど。酔った逢さんが心配だからって言い訳をしてすこし触れるくらいなら許されるだろう。