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葉野レカ
2025-12-02 18:55:54
3525文字
Public
sgdz
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好きなタイプは?
sgdzの日2025 おめでと
⚠️シショいる
「太宰先生ってどんな人がタイプなんですか?」
「えぇ〜? 俺の好み? 気になっちゃう?」
「はい。最近よく聞かれるんですよ。あの赤い髪の職員さんカッコイイよね! みたいな」
「さっすが俺。モテちゃうんだなぁ」
助手の仕事中、司書らしくない突然の質問には驚いたが、そういうことならこの仕事第一の堅物というような性格の司書でも納得だ。おそらく図書館内での仕事の最中に利用者の方から聞かれて上手く躱すことも出来ず、仕事を進める邪魔でもされたのだろう。わからないなら聞いておけばいい。見た目通りに真面目だ。メモの準備もしているし。
「では早速質問に移りましょう。可愛い系と綺麗系だったらどっちが好みですか?」
「そうだなぁ
……
可愛いと綺麗だったら綺麗系かな」
「でしょうねぇ」
「でしょうねってなに?!」
「芥川先生が綺麗な顔してるじゃないですか」
「いや、まぁ、そうだけど」
確かに芥川先生はとても綺麗な顔をしているし男前だ。ただ俺は芥川先生がどんな顔でも尊敬していると思う。だって芥川先生だし。
「料理は? できた方が好みですか?」
「それは、まぁ、うん。俺はあんまり料理とか上手くないし」
「ふむ
……
年齢は? 年上? 年下?」
「俺今年齢どうなってんの?」
「
……
頼れるお姉ちゃんタイプか頼ってくる妹タイプということで」
「じゃあ頼れるお姉ちゃんタイプ」
「年上ですね、ってことはどちらかというと好きな人には甘やかされたい派、と」
「うん」
「綺麗系、料理ができる、頼れる、年上、甘やかされたい
……
」
書き留めたメモを元に司書が言葉を羅列していく。そして少し考える素振りを見せた後、司書は恐ろしいことを口にした。
「これ、志賀先生では?」
あまりにも衝撃的な言葉に思考が止まる。しがせんせい、志賀先生。
……
俺の知ってる志賀という人物はこの図書館には志賀直哉しか存在しない。つまり司書は、俺のタイプが、あの志賀直哉なのではないか、と言っているわけだ。ちょっと意味がわからない。真面目な顔してなんてことを言うんだこの司書。
「
……
えっと、なんで、アイツが出てきちゃうの?」
「顔はどっちかというと綺麗系ですし、料理もこの前いただきましたが非常に美味しかったです。頼りになる人ですし、甘やかすことに関しては周囲の人間関係からの推測ですが、好きな人に関しては激甘だとみています」
「うっ
……
」
どうだ、冴えてるでしょう、と言わんばかりの司書の発言はどれも否定ができない。顔もかっこよくないわけではないし料理は確かに美味い。頼りになるのも一緒に潜書したことがあるからわからなくはない。今の見た目の年齢は近いかもしれないが、前世のことを考えると間違いなく年上だ。甘やかすことに至っては「しゃあねぇな」と武者小路あたりを甘やかしている姿が目に浮かぶ。
「い、いくら俺のタイプが志賀かもしれなくてもさぁ! まず、俺は、大前提として! 俺は俺のことが好きな人が好きだからね?」
「じゃあ問題ねぇな」
「しっ、志賀直哉?!」
ほとんど悲鳴だった。なんでここに? さっき俺が色々考えてたとき? それとも司書に志賀先生じゃないですか、って言われたとき? いやどちらにせよ急に志賀がタイプなんじゃないかとか言われて動揺してたし、司書室の扉が開いたのに気が付かなかったのも無理はないと思う。突然現れるこいつが悪い。
「司書。さっき館長が探してたぞ、今度は何したんだ?」
「身に覚えが
……
ありますね」
ちょっと行ってきます、と司書が部屋を出る。そうなると当然、俺は志賀と二人っきりになるわけで。嫌でも意識をしてしまう。志賀の方を向けない。気まずい。志賀が俺の好みってことは、俺は志賀が好き? まさか。志賀と恋人になるなんて
…………
あっ、ダメだ、なんで志賀が恋人になってる想像しちゃったの俺。
「アンタ、俺がタイプなんだな」
「お、お、お前じゃない!」
志賀が近づいてくるから反射的に飛び退いてしまった。「説得力が欠片もねぇ」なんて志賀は勝手なことを言っている。というか、俺だけそんなこと言われるのは腹が立つ。
「そういうお前は、どういう人がタイプなんだよ」
「お前」
「冗談やめてくれる?」
まっすぐ俺のことを見つめた志賀がなにかを言う前に、司書が置いていったメモを手に取る。俺にされたものと同じ質問をすればある程度は本当に好きな相手が絞り込めるだろう、という作戦だ。
「はいまず第一問、志賀の好きなタイプは可愛い系? 綺麗系?」
「
……
可愛いとは思うがたまに綺麗だと思うときもある」
「ベタ惚れじゃん。第二問、料理はできた方がいい?」
「できるに越したことはないが、作ったものを美味しく食べてくれるならどっちでもいい」
「第三問、頼れる姉タイプか頼ってくる妹タイプ、もしくは年上か年下か」
「年下はつい甘やかしちまうな」
「つまり
……
」
ふっ、わかった。俺ってばやっぱ天才なんだよな、その条件に当てはまるのはアイツだ。ちょっともったいぶってから志賀にビシッと人差し指を突きつける。
「武者小路!!」
「アンタだって言っただろ」
やんわりと指を退かされる。可愛くて料理美味しく食べてくれる年下なんて、武者小路とか他の白樺の誰かとか可愛がってる弟子とかであって俺じゃないはずだ。
……
いや、でも、そうでもない、のか?
「
……
たしかにお前の言う通り、作ってくれた料理は美味しければ食べるし俺はお前より年下。それは認める」
その辺は事実だ。反論できない。というかそれよりムカつく部分がある。
「でも可愛い顔っていうのは気に入らない!!見ろこの顔!!どう見てもかっこいいだろ!」
ぐっと志賀の襟ぐりを掴んでよく見えるように顔を引き寄せれば少し驚いたように目が見開かれて、志賀の瞳の緑がよく見えた。しかし視線は逸らされずに、じっと俺を見つめている。負けるものか、としばらく一方的に睨んでいた。それにしてもコイツの顔、本当にムカつくぐらい整ってるな。
「
……
そろそろわかった?」
「いいや」
志賀は真剣な表情でこちらに視線を合わせてくる。
……
そんなに俺の顔は見所があるんだろうか。まぁ俺は顔面も天才だからな。美人は三日で飽きても俺の顔は三日以上経っても飽きないかもしれない。
「
……
なぁ」
でも返事もなく、ただ見つめられるというのも居心地が悪い。無言で志賀と見つめ合う。なんだこの時間。不安から少し志賀の襟を掴む手に力がこもる。
「流石に、わかったでしょ」
眉間に皺を寄せて睨めば志賀は俺が苛立っていることに気がついたのか、やっと口を開いた。
「アンタの顔をこうして近くでじっくり見る機会なんてなかなかないからな」
「は? 普段俺の顔ちゃんと見てないの?」
「俺に怒ってる顔はよく見る」
「それでよく可愛いって思うな
……
」
「惚れた欲目かもな」
思わず目を見開いてしまった。タイプの話じゃなかったのか、いやでも? まぁ? 俺の顔はめちゃめちゃ良いので顔が好き、っていうのはわからなくもない。
「すみませんねぇ俺の顔がよくって!」
「好きなのは顔に限った話じゃない」
やけに真剣な声で思わず身体が強ばる。なんだか聞いてはいけないもののような気がして、好意を向けられてるのに落ち着かない、なぜなら志賀直哉がそんなことを俺に言うのはありえないので。
……
もしかして侵蝕されているのでは?
「
……
補修室行った?」
「行った」
「ソウデスカ」
つまりこいつは正気で俺とそこそこ長い時間見つめあっているわけだ。こんなに長く見る理由なんて俺の顔面のかっこいいところを探している、というよりはこいつの言う通り俺が好きなのかもしれない。
……
と、思い至る。まさかな、と思いながら疑問を口にした。
「
……
お前が目を逸らさないのは、俺の顔をこうして見てたいから?」
疑問に答えるかのように志賀の表情が柔らかくなって、それを直視してしまった俺の心臓がうっかり跳ねた。
「よくわかったな」
「ああ゛ぁーっムカつく!!」
大声を出して苛立ったことにして、志賀から手を離して背中を押して司書室から追い出す。きっと今の俺は耳まで真っ赤だ。
「司書室に用がないんだったら帰れ!」
そう吐き捨てて扉を閉めた。一人になったからか、やけに速くなった自分の心臓の音がよく聞こえる。
――
あいつ俺のこと好きじゃん!
……
絶対に、絶対にときめいたわけではない。
そう、あれは怒りによる苛立ちなんだ。
……
そうにきまってる。絶対あいつなんかタイプじゃない。あいつだけはタイプじゃない。
……
はずなんだ。
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