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望月 鏡翠
2025-12-02 01:05:02
1450文字
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日課
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#1922 ジョアンの耐えがたい主人について12
#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作
トルガの滞在は予定よりも伸び、一ヶ月半あとにリュネストの居城に帰還した。
ジョアンはそれが、彼が出発前にした謀によるせいだという事を知っていた。往復で一月程度かかるという言葉に嘘はなかっただろう。しかし彼は最初から嘘の日程を教えていたのだ。
説明されれば飲み込める理由があったのに、あえて反発するような事をして、家の中から反対派とその動きを炙り出そうとする目的もあったのではないだろうか。
一月という時間も絶妙だ。実際、焦ったジョアンたちは、仮初の当主が家を開けてすぐに行動を起こした。
実際は王都の滞在が伸びたのではなく、最初から嘘の日取りを伝えていたに違いなかった。リュネストが、呼び出しに遅れて礼を失する行動をとったという話は、幸いにも聞こえてこなかったからだ。
あの夜の会話は、なかったことになった。
トルガは屋敷を出発したあと戻ってきてなどいない。家令は秘密裏に屋敷から抜け出した。その懐にある書状はリュネストの紋章で封をされていて、港の管理をする役人に向けられたものだった。
港の監視を強化する内容で、トルガの出した令に逆らうものではなかった。最初からそうだったということになったのだ。
リュネストの居城は、海を背負って立っている。その屋敷は常に、海の向こうから来た当主を出迎えてきた。現地の風習を心得ない主人であっても、屋敷は優秀な家令と仕事をよく心得た使用人が一人いれば、つつがなく回ってゆく。
今の家主は異物だ。
トルガはその事をわかっていながら、平気な顔をしてこの家の主人たる顔をする異常者だ。自由な振る舞いと余裕に満ちた表情を崩さない。
その男が、出迎えた家令を見て絶句したときは気分が良かった。
あの男が心底驚くと、あんな顔をするのか。日頃の溜飲が下がるようなよい心持ちだった。
「お前
……
髪が、ねぇんだけど」
繕うことを忘れた言葉遣いで、ジョアンを指さす。
人を指差すのは、礼儀に敵わぬ振る舞いだ。自室に案内してから指摘して差し上げると、トルガは酷く頭が痛いという顔で、眉間を押さえた。
貴族の家で頭皮が見えるほど髪を切り詰めているのは、投獄直後の罪人か捕虜か、病持ちか世俗を捨てて戻らぬ者くらいのものだ。リュネストの家においては一層異様に映った事だろう。
「誰に、やられた。それとも、病にでもなったか」
「私が自分で行いました」
「理由を聞かせてくれ」
「私の事を罰さず、地位も動かさないと言われたので、自らを辱めることで罰としました」
「ウン
……
、お前ちょっと、気持ち悪いな」
トルガは、当惑した様子で椅子に沈み込む。容貌の変わった身内の顔を覚え直すようにじっくりと見ていた。
「私は貴方のことが嫌いだ」
不躾な視線は、軽蔑のこもった視線を投げつけるとようやく元の調子に戻った。
「わかってるさ」
面白がるように笑う顔は、やはり腹立たしい。
「しかし、レシーの意向は私の意向。だから主人と頂く振りくらいの協力はして差し上げましょう。他の者を黙らせるのに、このくらいのパフォーマンスは必要でしょう」
「俺が使用人を虐待しているみたいで嫌なんだが」
「実際、貴方に仕えるということは、それに近い恥辱です。トルガ様」
「なら、あえて自罰せずとも良かったんじゃないか」
「そんなことより、仕事の話をしましょう」
「話を逸らすなよ。その坊主、さてはお前の趣味か?」
ニヤつく男の視線を手で払い、ジョアンはトルガの手にペンを握らせた。
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