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ニイナ
2025-12-02 00:56:12
4675文字
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寄り添うきみがいるということ
さらに続きというかショタ🦩視点の引っ越し前までの話その一。これは続きます。
書きたいところまでたどり着かなくて、どうして?となっているところです。
ローの監視下にでも置かれるのかと思ったドフラミンゴをよそに、ローがずかずかと踏み入ってくることはなかった。二度目の再会をした翌日にもドフラミンゴの顔を見に来たものの、それで満足したらしい。玄関先でローの訪問に身構えていたドフラミンゴを拍子抜けさせたという自覚もおそらくないようだった。
「いるな」
「昨日の今日で消えたりしねェよ」
「おれは仕事に行くが、何かあれば連絡しろ」
「
…………
」
ドフラミンゴを脱力させたことなど知る由もないローがドフラミンゴの存在を確認し、その後淡々と話を続けて真新しいスマホを差し出したのでドフラミンゴは額を押さえた。このスマホはなんなのか、と問い質すのも不毛すぎ、ドフラミンゴは大人しくそれを受け取るしかない。ピカピカの真新しいスマホは光沢のあるベビーピンクで、いつかのファーコートを思い起こさせるだけだった。
「帰ったらまた見に来る」
「来なくていい」
「お前に拒否権はねェよ」
「
……
あるだろう、それは」
拒否権もなにも、ローの訪問もドフラミンゴが受け入れなければ何の意味もないものである。このドアを開いたのはドフラミンゴであり、その権利こそドフラミンゴにあると思っていた。けれどもローの引く気がない様子を見てドフラミンゴはため息をつくしかない。
「それにお前が出なくても、鍵なら開けられるぞ」
「は?」
「そこに放置してあったしな」
「
…………
」
そういえば鍵が無かったかも知れない、と今更なことを思ってドフラミンゴはローの行動に呆れてしまう。そこにあったから取った、なんてどこの泥棒の言い分なのかとも思ったものの、それも口にするには不毛であり、どう考えても窃盗だとしてもローと言い合う気も起きなかった。沈黙したドフラミンゴをよそに、ローは腕時計で時間を確かめ、そろそろだな、という顔をした。
「それじゃあ、行ってくる」
「
……
いってらっしゃい」
その言葉をかけるべきなのか一瞬迷い、けれども黙って見送るのは落ち着かず、ドフラミンゴは挨拶を返してローを送り出した。それを受けたローの驚きを露わにした顔に、間違っていたかも知れないと感じたのだが、もう気にもしないことにする。驚きのまま固まりそうだったローを無視してドアを閉め、ドフラミンゴは大きく息を吐いた。ローの気配がなくなると、途端に部屋はシーンとして、音がしなくなっていた。
ひとりきりの部屋はひどく静かで、なんとも言えないほど現実味がない。男と女がいる時は二人のやりとりが聞こえ、男がひとりの時は湿度の高いしつこい手付きと声がしていて、女がひとりの時はヒステリックな声も多かったのが、今はドフラミンゴひとりきりである。いないものとして扱われていた時とは違い、ドフラミンゴ以外の存在がこの部屋にはなく、どこか別の世界のようだった。現実逃避じみたことを考えながら、ドフラミンゴはリビングに戻り、改めて部屋の散らかりように眉を寄せた。
部屋の手入れは雑にしか出来ておらず、洗い物はシンクに重ねられていて、洗濯物も洗面所に積まれている。ゴミはそれなりに出されているため、そう溜まっていなかったのが幸いかも知れないとドフラミンゴは思い、洗濯をしようとして手を止めた。ドフラミンゴの衣服の替えはこの場にはなく、あるのは男と女の着ていたものだった。それを見ると洗うということも問題で、ドフラミンゴはゴミ袋を手にして積まれていたものを躊躇なく放り込んだ。
着ていた薄着にも程がある服を脱いで、かろうじて着られる長袖の服を着たものの、薄くてそこまであたたかいとは言えなかった。それでも半袖よりはいくぶんかマシで、ドフラミンゴはよしとした。脱いだ服は一応洗濯にして、今度は部屋を片付けることにする。放置されている空の総菜の容器を捨て、テーブルの食器を運んで洗い物をした。背の高さは一応届くのだが、余裕とは言えずドフラミンゴはつい舌を打っていた。過去の今ぐらいの歳なら、身長もそれなりだったのに、という考えても仕方のないことを思いドフラミンゴは洗い終わった食器を水切りのカゴに並べた。
散らかったゴミクズを拾って捨てて、掃除機をかける。古めかしい掃除機は吸いが悪く、音もうるさいものだったのだが、そういえばこの音をあまり聞いたことがなかったなと思ってしまった。水回りも一通り綺麗にしてドフラミンゴはリビングへと戻り、開けられていることが珍しいカーテンを引いてガラス戸を開けた。途端に陽の光が目に刺さって痛み、ドフラミンゴはすぐに目を閉じて手のひらで目元を覆う。陽の光にここまで弱いのには原因があるだろうが、それを今のドフラミンゴにわかるはずもない。
よろよろとした足取りで寝室まで歩き、女が使っていた化粧台の横にあるチェストの引き出しを開けた。中を手で探り、指の感覚でサングラスを掴み取ってかけてみる。そうして化粧台をふと見遣り、そこに映る姿に笑いたくなった。当たり前なのだが、鏡に映るのは幼いドフラミンゴで、それが過去と同じだというのがおかしくてたまらない。陽射しを避けるサングラスは黒く塗り込められていて、本当に過去のドフラミンゴと同じだったのだ。ただ女のものであっても子どものドフラミンゴには少し大きいため、すぐにズレてしまうのが難点だった。
サングラスのつるを押さえつつリビングへと戻り、開け放たれたガラス戸から入り込む空気を感じて、ドフラミンゴはほぅ、と息を吐いた。今になってようやく、正しい呼吸ができた気がする。部屋に溜まっていた目に見えない澱みが、洗い流されていくようにも思えた。冷えた空気を肺に吸い込んで、ドフラミンゴはリビングに射し込む陽の光に目を細めた。
空気の入れ替えを終えカーテンを閉じ、終わった洗濯物を干してから空腹を訴えた腹に、さてどうしたものか、とドフラミンゴは思う。おそらく食料はなにかしらあるだろが、あまり食べようと言う気にはなっていなかった。それでも誰に構うこともなく食事ができるのは幸いなので、ドフラミンゴはサングラスを外してから、再びキッチンへと足を踏み入れる。シンクを片付けた時は気にしていなかった棚や冷蔵庫を見て、作り置きの総菜と高そうな食パンを見つけ、総菜を躊躇なくゴミ箱へと捨てた。高そうな食パンは、男が好きだから、と女が買っていたものだった気がするなと思いつつ、他を探すのも億劫でドフラミンゴは袋の留め具を外した。
やわらかくふわふわとした食パンは香りがよく、確かに高級そうだなと思う。それに食欲がそそられるかどうかは別として、口に入るものとしては良いものなのだろうとドフラミンゴは判断した。リビングのローテーブルに落ち着き、食パンをちぎって食べてみる。小麦の香りが立っていて、意外ともっちりとした食感が歯を伝ってきたものの、美味しいのかはわからなかった。やわらかい食パンでも胃には重たく、ドフラミンゴは冷蔵庫にあった牛乳でそれを流し込んだ。半分ほど食べて疲れを感じ、残りはそのままゴミ箱に投げ込んだ。食事が済むとやることがなくなり、ドフラミンゴはごろりと床に寝転んだものの、ひんやりとしたフローリングに眉を寄せ、ハッとする。服は替えたというのにベッドのシーツなどは替えておらず、ドフラミンゴはのろのろと仕方なく起き上がって寝室へと足を向けた。
久しぶりに寝る前にベッドの周りも整えておけば良かったと思いつつ、シーツを外して新しいものに替え、今までのものをゴミ袋へと詰める。この際なので部屋にある男と女の服も捨ててしまおう、と決めてドフラミンゴはクローゼットを開いて片端からゴミ袋へと入れていった。ドフラミンゴが使えていたものなど微々たるもので、古くなった教科書やちいさくなってしまった衣服があるぐらいである。それらは捨てるのを躊躇して、一旦保留にすることにした。
いくつも出来たゴミ袋の塊に息を吐き、ゴミの日が明日なのを確認して玄関まで運ぶ。ゴミ置き場まではどうにか運べるだろうと決めて、ドフラミンゴは寝室に戻りガラス戸を開けて空気を入れ替えた。いやな澱みがこの部屋からも薄れた気がして息を吐き、開いたところを閉めてベッドに横になる。新しくなったシーツは清潔なにおいがして落ち着き、ドフラミンゴは目を閉じた。
眠ったりぼんやりしたりしているうちに時間はすぎて夕方にはローがまた顔を覗かせた。ドフラミンゴの顔を見ると安堵を浮かべるローにまだ理解が追いつかない。
「このゴミどうするんだ」
「捨てるに決まってるだろう」
「なら、持って行ってやる」
「は?」
玄関に置かれたいくつものゴミ袋に目を向けたローの問いかけに何を当たり前のことを、と呆れつつ返せば思わぬ返答を受けドフラミンゴは目を丸めた。そんなドフラミンゴを気にもせず勝手にローの手がゴミ袋を掴んで外に運び出す。想像していなかったローの挙動に制することもできずローがゴミを捨てていくのをただ眺めるしかなかった。
「今ので終わったな」
「何をやってるんだ、お前は
……
」
「子どもに手を貸すぐらいするだろ」
「そういう話はしてない」
「あァ、それから、明後日に事情聴取がある。迎えに行くから待ってろ」
「
…………
は?」
いつまで経っても上手く会話ができないローに苛立ちよりも呆れが浮かんでしまうようになっていれば、また驚くことを告げられてドフラミンゴはローを凝視する。事情聴取が行なわれることについては否もないのだが、問題はローが付き従おうとしていることだった。そう言われていなくとも、ローの言外には送り届けるだけではないという意思が見えていた。
「無理に答える必要もないからな」
「わかった。もう、いい」
ドフラミンゴを気遣う言葉をかけて頭を撫でていくローに理解が及ぶはずもなく、ドフラミンゴは考えることを放棄する。無理などするはずもないし、そこまでやわでも弱くもなかった。見た目が幼いからといって、精神も幼いわけではないのだ。けれどもそう反論したところで取りつく島もない気しかしなかった。
「戸締まりには気を付けろよ」
「
…………
」
「おやすみ、ドフラミンゴ」
「
…………
おやすみ」
ドフラミンゴへとやさしい言葉を投げて、ローがドアを閉める。眠る前の挨拶には目を見開いていたものの、その後に表情がゆるんだのでドフラミンゴはただ何とも言えない気持ちになっていた。こんなふうにドフラミンゴに構うのはやはり見た目に引きずられているからでは、という思いにしかならない。ローとの過去のことを考えればローがドフラミンゴに気遣いをみせるのはおかしな話だった。過去が凄惨で確執にまみれていたせいで、幼くなったドフラミンゴを捨て置けないのだと、ドフラミンゴは思うしかないのだ。そうでなければ、何にも説明がつかない。もちろん捨て置けない理由には監視というものも含まれているに違いはないのだろう。けれども、だからといって、ドフラミンゴの様子を見て安堵するローが全くもって理解できなかった。
静かに閉じられたドアをじっと眺めて息を吐き、ドフラミンゴは眉を寄せる。隣にローの存在を感じることに勝手にほっとしてしまう自分も理解できず、ドフラミンゴは舌を打った。落ち着かない気持ちのままで入浴してからベッドに入る。また明日もローと顔を合わせることになるのかと憂鬱になりつつも、そこにわずかな期待が籠もっているのにドフラミンゴは頑なに目を逸らした。
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