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2025-12-01 20:51:15
5782文字
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燭鶴「きらきら」

なんか光坊ってきらきらしているんだよな〜と思っている鶴さんが光忠くんを観察したり、そのきらめきの根源を見つけたり、恋が成就したりする話です。
ドーナツの穴から光忠くんを覗く鶴さんを書きたかったんですね。

 鶴丸が縁側でお裾分けしてもらった洋菓子を食べていたら、視界の端になんだかきらきらしている気配を感じた。この気配を知っている。
 ぱっとそちらに視線を向けると、遠征に出ていた光忠が帰還の報告を終えたのか、廊下を歩いているところだった。どちらが先に相手を見たのか分からないけれど、二人の視線がぴたりと合う。

「おーい、光坊」

 鶴丸は少し離れた廊下の彼に向かって大きく手を振った。声をかけられた光忠は、その体格にしては控えめな手の振りで鶴丸に応えて、少しだけ戸惑っている。鶴さんだ、どうしたのかな、と思っているようなところだろう。

「長時間の遠征だったから腹が減ったんじゃないか?鶴さんのおやつを分けてやろう」

 おいで、と手招きすると、彼は嬉しそうにやわらかく笑って、やや早足で鶴丸のいる縁側へとやってきた。鎧などはすでに解いているけれど、まだ遠征帰りの少し土埃のような香りを引き連れている。鶴丸が置いていた盆の反対側に腰を下ろした光忠が、わぁ、ドーナツだ、と呟いた。

「鶴さんがおやつ食べてるのめずらしいね」
「鯰尾たちが買いすぎたらしくてな、あちらこちらに配り歩いていたんだ。トッピングが綺麗できらきらしていてうまそうだろう?せっかくだからと思ってもらってみたってわけさ」

 僕ももらっていいの?と光忠が尋ねるので、鶴丸は大きく頷いた。

「もちろん。帰ってきた光坊に食べさせてやろうと思って多めにもらっておいたんだからな」

 鶴丸がそう言ったら、光忠は隻眼を丸くした。嬉しそうにも見えるし、戸惑っているようにも見える。どうしてだろう。

「鶴さん、いつもこういう――えっと、何か綺麗なもの?とかそういうのを、僕に共有してくれるよね。どうして?」
「おっと、すまん、迷惑だったか?」
「ううん、優しくてありがたいなって思ってるけど、ただなんとなく、どうしてかなって思って」

 どうして。鶴丸は首をひねった。

 どうしてだろう。ただなんとなく、何かきらきらと綺麗なものを見るとき、頭の中で光忠の存在が浮かぶ。
 鶴丸の頭の中で光忠はいつもきらきらしているから、同じようにきらきらしている綺麗なものを見つけたとき、共有したくなるのだ。でも、その感覚を上手く説明できなくて鶴丸は首をひねったまま渋い顔をしてしまった。

「あっ、ごめん、なんか変なこと訊いちゃったね。忘れて。えっと……、どっちが僕の分とか、ある?」

 皿の上には二つドーナツが残っている。鯰尾藤四郎たちにもらったドーナツは三つで、一つはもう鶴丸が食べてしまった。残っているドーナツはアラザンやカラースプレーが散ったきらきらと楽しいチョコがけドーナツと、つやつやとした砂糖の膜(グレーズというらしい)が綺麗なドーナツの二種類である。

「きみが好きなほうを選んでいいぞ?」
「あっ、そうなんだね、じゃあ……、こっちにしようかな」

 光忠はチョコがけドーナツのほうを選んで手を伸ばした。彼の大きな手で掴まれたドーナツは急に小さく見える。一口食べて、おいしい、と彼が笑った。
 その様子がなんだかとてもきらきらと眩しくて、鶴丸は目を細めた。まただ、と思う。光忠はいつもこうしてきらきらと眩しい。それがどうしてなのか、鶴丸はずっと知りたいと思っている。

 鶴丸は光忠の放つきらきらした気配――きらめきを気に入っていた。とても綺麗で独り占めしたい気持ちになるのだ。だから、それがなんなのか、確かめたい。なんなのか分かれば、独り占めできるような気がして。

 だから、いろいろなものを通して鶴丸は光忠をこれまで観察してきた。たとえば。

 一、カメラのレンズ。審神者に使わなくなったデジカメをもらったので、しばらく光忠を撮りつづけてみたことがある。分かったのは、写真に写った光忠もまたきらめいているように見えるということだけで、なぜ光忠がきらきらしているのかについては分からなかった。

 二、虫眼鏡。これは少々失敗だったと言える。光忠は何もしなくても大きいから、虫眼鏡で拡大して見ると何が何やらという状態だった。どこを拡大して見ても、きらきらしていることには変わりなかったけれど。

 三、万華鏡。これはテレイドスコープと呼ばれる手合いで、レンズの先の景色が万華鏡の模様のように見えるものだ。それを通して光忠を覗いてみたら、きらきらした彼が増殖してとても眩しかったことを覚えている。結局、これでも光忠の何がきらめいているのかは分からなかった。

 以上のような観察を思い返しながら、鶴丸は目の前のどうにもきらめいているとしか思えない光忠がドーナツを食べているのを眺めていた。やっぱり、どう考えても光忠はきらめいている。けれど、その理由が分からない。でも、このきらめきが好きだ。だからこそ、きらめく理由が知りたいのだ。

 自分の分のドーナツをとりあえず食べるか、と思ってドーナツを手に取って、ふと思いついて、ドーナツの穴越しに光忠を眺めてみた。穴を覗いていないほうの片目を瞑る。何か分からないことを知りたいとき、常識にとらわれていてはいけない。ドーナツの穴越しに、光忠のきらきらの理由が分かるかもしれないのだ。

 ドーナツの穴をレンズのようにして光忠を見る鶴丸を、最後の一口を食べた光忠が不思議そうに見つめてくる。

「何してるの、鶴さん」
「光坊を観察してるんだ」
「えっ、なんで?」
「なんでだろうな。俺もよく分からないんだが、どうもきみはいつもきらきらしているから、その理由を知りたいのさ」
「僕が、きらきら……?」

 光忠はまた不思議そうな顔をして、首を傾げている。それをドーナツの穴から眺めて、しかし、何か分かりそうではなかったので鶴丸は手にしたドーナツを一口食べた。今日も光忠のきらめきの正体を掴めずじまいとなりそうだ。残念。

「貞ちゃんなんかがきらきらしてるっていうんならよく分かるんだけど……、僕、か。どうしてだろう?最近、戦装束の手入れをしたからかな?」
「いや……、光坊は内番着でもきらきらしている」
「えぇ……?そうなんだ」

 鶴丸がドーナツを食べながら答えたら、光忠はさらに不思議そうな顔をした。しばしお互いに無言。むしゃむしゃとドーナツを食べている鶴丸は、光忠の視線を感じるので、ちらと上目でうかがった。

「あっ、ごめん、じっと見て。おいしそうに食べてるなって思って。……ふふ、おいしい?鶴さん」
「ん、うまいぜ」

 鶴丸は溶けた砂糖が親指の先に残ったので、それをぺろりと舐めた。

「だが、そうだな……、たぶん既製品より光坊が作ったもののほうがうまいと俺は思う。今度きみの作ったドーナツが食べたい」

 鶴丸が添えてあった紙ナプキンで指先を念のため拭きながらそんなことを口にしたら、光忠がぱっと目を輝かせた。

「鶴さん……!そんなふうに思ってもらえるのは嬉しいよ。今度作ろうね」

 少年のように嬉しそうにしている光忠の瞳がきらきらしている。それを見ながら、鶴丸は不意に、これだ!と思った。
 突然、光忠のきらめきの観察の成果を掴めそうな感覚があった。彼のこの金の隻眼こそが、彼のきらめきの根源のような気がする。

 鶴丸は少し腰を浮かせて、身を乗り出して、光忠の頬を両手でしっかりと包んだ。

「!?」

 戸惑う光忠をよそに、彼の顔をしっかりと両手で固定した鶴丸は、ずい、と彼に顔を寄せた。額同士がくっつくくらいに。そして、光忠の瞳をじっと見た。その瞳は、火花を散らしながら燃える美しい火の灯りのように、きらめいている。

「見つけたぞ!」
「えっと、……、な、何?」
「光坊のきらきらの出処をやっと見つけた!いつも、きみのこの目が!輝いていたんだな」

 鶴丸はようやく謎が分かったことで嬉しくなった。嬉しくて言葉の語尾が跳ねてしまう。鶴丸はしばらく光忠の瞳を覗き込んだ。こうして見ると、本当に彼の瞳は美しいし、きらきらしている。

 しばらくそうしていると、なんだか鶴丸は両手で包んでいる光忠の頬が熱を持っていることに気がついた。最初は気のせいかと思ったけれど、確かに熱い。

……?」

 鶴丸は不思議に思って、両手を離して彼を解放すると、少し距離を取った。解放された光忠は、ぱっと片手で口元を――顔の半分を覆って鶴丸から目を逸らした。けれど、そうやっても、彼が耳まで赤くなっていることを隠しきれていない。

「どうした?光坊」
「い、いつから……?」
……?」
「いつから、その、鶴さんの言う、僕の視線のきらめき、みたいなのに気づいてた、の?」

 ぽそぽそ、と光忠は普段の自信と余裕のある調子とは違う調子で喋る。ここで鶴丸は、彼が何かに照れているのだ、ということを理解した。どうしてかは分からないけれど。

「うーん、いつから、だったか……。ちょっと分からんが、あるときふと気づいたんだよな。なんだかきらめく気配を感じて、そちらを見ると光坊がいるんだ。だから、きみ全体がきらきらしているんだと思っていたんだが……、そうか、俺はきみの視線にきらめきを感じていたのか!そりゃあ、瞳がきらめきの出処になるわけだよな」
「う……、気づいてたんだ、いつも僕が鶴さんを見てること」
「そりゃ気づくさ!こんなにきらきらしているんだぜ?……しかし、出処が分かったとはいえ、不思議だ。どうしてきみの視線や瞳はこんなにきらめいているんだい?」

 鶴丸は持ち前の好奇心で尋ねた。光忠の視線や瞳のきらめきは、これまで見たことがあるほかのきらきらしているものと少し違うように思えている。だから、そのきらめきがなんなのか正体を、あるいは、きらめく理由のようなものを、鶴丸は知りたかった。

「えっと、ね……

 光忠は視線を鶴丸に向けたり、また逸らしたりするのを繰り返しながら、言葉を選んでいるようだった。

「もし僕の視線や瞳が、鶴さんの言うようにきらきらしてるんだとしたら、その……、きらきらしている人を見ているからだと思うんだ」
……?きらきらしている人?」
……鶴さんのことだよ。鶴さんはいつもきらきらしているから」
「俺?」

 うん、と光忠は頷いた。鶴丸は首をひねった。

「きらきらしているのはきみじゃなくて俺だったのか?よく分からんな……。まぁ、そうだとして、じゃあ光坊は、俺がきらきらしているから、俺が気づくくらいにずっと見ていたのかい?……、待て待て、なら、なんで俺はきらきらしているんだ?」

 鶴丸が逆方向に首をひねって腕を組んだら、今まで困ったような照れたような顔をしていた光忠がようやく力が抜けた様子で笑った。

「鶴さんがきらきらしてるのはね、僕が、あなたのことが好きだから。好きだから、僕にはきらきらして見えるんだ。だからいつも鶴さんのことを見てた。まさか僕の視線が、鶴さんのきらめきを反射してきらきらしているなんて思わなかったし、それが鶴さんにばれているとも思ってなかったよ」

 鶴丸は光忠の言葉を聞いてぽかんとしてしまった。

「光坊が俺を好き?」
「うん。もう、ばれちゃったも同然だからはっきり言うけど、僕はずっと鶴さんのことが好きなんだ。えっと、笑わないでね、……あなたに恋をしているんだよ、ずっと。ずっと前から」
「恋を、……

 なるほど、光忠から感じていたきらめきは、言うなれば恋をしている視線の輝きだった、というわけである。

「とすると、……きみのきらめき、は、俺に対してだけあらわれるのか?」
「うん、そうだよ。僕がそういう特別な目で見ていることを、鶴さんは『きらめき』として感じてたんだろうし」

 光忠の答えを聞いて鶴丸は自分の中に喜びが満ちるのを感じた。

「そうか!」

 鶴丸はまた身を乗り出して、両手で彼の肩を掴んで、ぐっと二人の距離を縮めた。

「それは嬉しいぜ、光坊!もっときみのきらめきを見せてくれ。俺は、きみの視線のきらめきがあんまりにも綺麗だから、俺だけのものになればいいと思っていたんだ。そうか、もうずっと!俺だけのものだったんだな!」

 至近距離で破顔する鶴丸を見上げる光忠は、初めこそ困惑と照れのあいだみたいな顔をしていたけれど、最終的になんだか嬉しそうな笑顔に変わった。

「へへ、……それって、鶴さんも、僕のことが好きってことで、いい?」
「あぁ」

 鶴丸は自信に満ちた声で答えた。今、光忠の瞳に映る自分自身の瞳は、光忠がこちらを見る視線と同じようにきらきらしている。つまり、鶴丸自身も、恋の輝きできらきらした瞳で、彼を見つめていたのだ。

「俺はきみのきらきらした視線が好きだった。俺だけのものにしたいと思っていた。それってもう、恋だよな。俺は俺の知らないうちに、きみに恋をしていたんだ。俺はきみのことが好きだ、光坊。今、分かった」
……ふふ、嬉しいな、ありがとう」

 光忠が嬉しそうに、それでいて照れくさそうに笑う様子がとても愛しくて、鶴丸は片手を頬に添えてから彼に顔を近づけて、その唇に自分の唇を軽く触れ合わせた。
 まだほんの一瞬。初めての口づけだから。
 唇を触れるか触れないかのあたりに離して、その距離でじっと光忠の隻眼を見る。

「なぁ、きみが好きだ、光坊」
「うん、僕も」
「だからきみのその綺麗なきらきらした灯りのような目で俺を見つめ続けてくれ」
「もちろん、僕にとって鶴さんはいつでもきらきらしてるから、その鶴さんを見る視線はきっとずっときらめいているよ」

 だから、僕のこともずっと見ていてね、と光忠がかわいらしいことを言うから、鶴丸は彼の頬から手のひらを離して、ふっと微笑んで頭を撫でた。

「もちろんさ、俺のきらめきはずっときみにやろう。きらきらを交換しつづけようぜ」
「うん、鶴さん」

 ありがとう、と言った光忠の瞳のきらめきが本当に綺麗で眩しくて、鶴丸は目を細めた。光忠も同じように目を細めていたから、自分の瞳もきっときらきらしていたんだろう。

 恋のきらめきを交換して、それは二人のあいだで愛になっていく。