白殊皎(しらよし こう)
2025-12-01 18:00:00
4181文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

杜の灯りの消えぬ間に


FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
この作品はぐだ鯖WEBオンリー『ボイラー室横より愛をこめてW 』に連動して、白殊が勝手に考えた【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけよう】企画にてリクエストいただいたものになります。

◆リクエスト内容
「現代のお祭り会場にレイシフトした歳勇で、お祭りの屋台に興奮して突撃していく近藤さんと、手のかかる兄貴に付き合うことになる苦労人土方さん」

「近藤さん楽しいことやイベント好きそうなので、お祭りに大興奮しそう」とのコメントもいただきました。
確かに、本当の近藤さんはそういうことが大好きではしゃぎそうだな、と思いながら書きました!
振り回されるけれど、ちゃんとお世話は焼く土方さん。
放っておけませんものね、大切な方ですから!


 微少特異点調査の指令が下った。
 場所は二〇〇〇年代初めの日本。
 レイシフト適正のあるサーヴァントはマシュ、ロビンフッド、近藤勇、土方歳三の四名。
「やぁ、ちょっと多いけど、その分楽に調査・解決ができると思うよ」
 最近面倒くさいのが多かったからね、とダ・ヴィンチちゃんは微笑んだ。


 そうして飛んだレイシフト先は、かなり大きな神社を抱える都会の街だった。
 珍しくマスターとはぐれることもなくサーヴァント四名、きっちり揃っての到着だった。
「珍しいこともあるもんですね」
 すぐに索敵モードに入ったロビンフッドが周囲を見回す。
「そうだな、いつも大抵誰かはぐれたりするもんだが」
 土方も拍子抜けしたように言って首を捻った。
「そんなにいつも事故があるのかい?」
 ほぼ初めてのレイシフトの近藤は、その言葉に驚いた様子だ。
「まぁ、いろいろだな。空中に放り出されたり、全員バラバラだったり、座標が狂ってえらいことになることが多い」
……恐ろしいね、それは。今回は相当、運がよかったのかな」
 近藤はそれを聞いて眉をひそめる。
──うん、よくあることだから大丈夫。さ、まずは情報収集!
 少女マスターは肝の据わったもので、自分からサクサクと歩みを進めた。
「はい! 行きましょう先輩」
 マシュも同意して歩を進めようとするが……
「ちょっと待て、俺たちはこの格好だと目立つ」
 今日の土方は近藤が一緒ということもあってか髪を結い上げた浅葱の羽織だ。
 当然近藤も浅葱の羽織である。
 都会の、例えば東京秋葉原などなら新選組のコスプレコンビ、で済むかもしれないがこの街ではそれは少し難しそうだ。
「そうなのかい? じゃあ姿を……
「あんたはそっちのが目立つ。まぁ、羽織を脱げばなんとかなるか」
 周囲の様子を図り、神社の近くとあって、着物姿の観光客らしき人々がいるのを見てそう判断する。
「魔術で無難な姿に見せるようにもできますが」
 マシュがそう言ったが土方は首を横に振った。
「一応ここはレイシフト先だ。無駄な魔力は使わない方がいい。ということで俺と近藤さんの羽織、預かってくれ」
「はい、ご配慮ありがとうございます。お預かりしますね」
 土方は近藤にも羽織を脱ぐよう目配せをして、二人分の浅葱の羽織と鉢金をマシュに預けた。
 そうしたところで身長が百八十センチ台の美形二人に一七五センチが一人、それに挟まれて可憐な少女が二人いれば、嫌でも目立つよなぁとロビンフッドは思ったが、黙っていることにした。




 まずは人が集まりそうなところ、と神社の方へ向かう。
 そこは縁日なのか、賑やかな屋台が参道に所狭しと並んでいた。
「歳、あれはなんだい?」
 見慣れぬ光景ではあるが、楽しそうな様子に近藤は目を輝かせて土方に聞く。
「あぁ、あれは神社や寺の縁日とかに出る食い物や玩具を売ってる店だな。くじ引きなんかもあるぞ」
「そうなのか」
 そわ、とそちらを見遣る近藤は、今が任務中でなければすっ飛んでいきそうな感じだ。
──お祭り楽しいよね。終わったら覗けるといいね。
 それに気付いたかマスターがニコニコと頷いた。
「はは、お恥ずかしい。確かに任務を終わらせるのが先ですね」
 微かに頬を染めて近藤は答えた。

 改めて情報収集に移る。
 マスターの護衛はマシュ、ロビンフッドは単独で、土方と近藤のペアで、と三手に別れることになった。
 落ち合う時間と場所を決め、それぞれに別れる。
 土方は慣れた様子でその辺りの人間に尋ねていくが、初めてに近い近藤はそのあとを黙ってついていく感じでなんとも居心地が悪そうにしている。
 それに、時々土方が女性に声をかけるのも気になるというのが本音でらしく、時々唇をとがらせてそっぽを向いている。
 どちらかというと女性の方から二人に興味を示して近づいてくるというのが真相だったりするが、それに気付くの余裕は近藤にはないようだ。

「さて、こんなもんだろう。時間も近い。戻るか、近藤さん」
 何回目かの逆ナンパを土方が退け、近藤に声をかける。
「あ、もうそんな時間かい」
 やっとこの気まずい時間が終わるのかと近藤がほっとする様子を見せると、土方は軽く笑った。
「なんだい、歳?」
「いや、あんた借りてきた猫みてぇだなと思って」
「な……! だって仕方がないだろう、時代も違うし、初めてのことなんだし!!」
 回数を重ねれば慣れる! と近藤は頬を膨らませた。
「そうだな」
 まるで子供な兄貴分に土方は余裕を見せて背を叩いた。



「俺と近藤さんで得た情報はそれくらいだ」
「ほぼオレの情報と一致しますねぃ」
 落ち合った先での情報交換はすぐに終わった。
 三組の情報はほぼ合致し、目指すべき先がはっきりしたのだから。
 あとは、必要ならば敵を倒し、目的を遂行するだけだった。



『お祭り? 楽しそうだね。うん、少しの間だったら大丈夫だから、楽しんできなよ』
 通信の向こうのダ・ヴィンチちゃんはそう言った。
 聖杯を回収したあと、寛大なマスターは時間が取れないか伺いをたててくれたのだ。
──だそうです、近藤さん。土方さんと一緒に楽しんできてください。私もマシュと一緒に行きますので。
 それを聞いて戦闘のあとで厳しい表情をしていた近藤の顔が、雲の切れ間から太陽が覗いたように輝いた。
「ありがとうございます、主! 歳、行こう!!」
 戦闘の時は着ていた羽織と鉢金を再びマシュに預け、近藤は土方の腕を掴むと引きずるように神社の境内に向かっていった。
「子供みたいっすね」
 あんなに綺麗な大人の顔してるのに、とロビンフッドが溜息をつく。
──あれが本来の近藤さんなんだと思うよ。
 背中を見送りながらマスターはにっこりと微笑んだ。
「私も先輩といろいろ見て回りたいです。ロビンフッドさんはどうされますか?」
「じゃあオレはお二人の虫除けになりましょうかね。こういう場では不届き者がわきやすいですし」

 そして、一行はお楽しみモードで二手に別れた。




「近藤さん。近藤さん!」
 巧みな力でしっかりと腕を掴まれているのでほどくこともできず土方は近藤に呼びかけた。
「そんなに慌てなくても、祭りは逃げやしないぜ」
 改めて土方に言われ、近藤はぴたりと足を止めた。
「そうだな、ちょっとはしゃぎすぎた」
 ぺろっと舌を出して照れたように笑う。
「仕方ねぇなぁ。かっちゃんは」
 懐かしむように昔の呼び名で答えた。
「それは言いっこなしだ」
 近藤は花のように笑い、行こう、と土方を促した。

 まずはと神社の本殿に参拝して、来た道を下っていく。
「歳。あれは何だ?」
「あれはチョコバナナだな。バナナって果物にチョコ……前食ったろ茶色くて甘いやつ。それを溶かしてかけた食い物だよ」
「じゃあ、あれは?」
「あんたが虎徹で切ったカステラを丸く焼いたやつさ。ちっこいからベビーカステラってな」
「なるほど、あの茶色い蕎麦みたいなのは!?」
「あれは焼きそばってな……
「歳! あの赤くて丸いのは!?」
「それはりんご飴……
「歳!」
……
 近藤にとっては見るもの全てが新しく、新鮮なので目を輝かせて矢継ぎ早に土方に聞いていく。
 食べ物と知るや土方に財布を取り上げられているので、その場で強請ねだり倒す。
 その都度やれやれといった顔をして、それでも代金を支払う土方に、店の人も笑いを堪えているようだ。
「ははっ、あんちゃん大変だな。弟分か? それとも彼女か? どこから出てきたんだよ」
 終にはすこーし柄の悪いおっちゃんにまでそう言われる始末だ。
「いや、一応あっちが兄貴分だ。代金はこれでいいか?」
「おぅ、毎度あり。まぁ、大事にしてやりな」
「言われなくてもだ。おい、近藤さん! 走るな危ないぞ」
 そうこうする間にまた何かに興味を示した近藤がそちらに向かうので、慌てて後を追いかける。
 土方の手元はいつしか食べ物を中心に袋やら何やらでいっぱいだ。
「歳!」
 だが喜びを全身で表し、幼い日のように自分を呼ぶ近藤の前には、その苦労などちっぽけなものに思えた。
「次はなんだ? 近藤さん」
 やっと追いついて近藤が熱心に覗き込むものを見れば、それは金魚すくいの桶だった。
「金魚か。欲しいのか?」
「いや……あそこカルデアで飼うのは、ちょっと無理があるだろう? 見ているだけだよ」
「まぁ、一~二匹なら問題ないんじゃねぇか? ちゃんと世話するのなら、だが」
 死なせたらかわいそうだから、と近藤は露店の主人に頭を下げてその前を辞した。
「当世は本当に、いろいろあるんだな、歳」
「そうだな」
 土方に持たせていた食べ物を少しずつ口にしながら近藤は歩く。
「近藤さん」
 そのままふわふわと何処かへ飛んで行ってしまいそうな近藤の腕を掴んで引き留めた。
「とひ?」
……あんた、危なっかしいぜ」
 一言言って、端正な顔についたりんご飴の蜜を指で拭ってやる。
「そうかな?」
「あぁ、しっかり縛り付けとかねぇといけないと思っちまうぜ」
……それは、ごめんだな」
 ふっと寂しそうな目をして近藤は土方を見つめた。
「じゃあ……
 しばし見つめ合ったあと、近藤は土方の手を取った。
「こうして手を繋ぐだけにしておくれ。私はもうどこにも行かないから」
 俗に言う恋人つなぎというやつで、しっかりと指を絡み合わせた。
「あぁ……
 土方はその手を自分の方に引き寄せ、近藤の指に口吸いを落とした。

 いつしか周囲は夕闇に包まれ、約束の刻限まであと少しになる。
「戻ろうか、近藤さん」
 手を繋いだままゆっくりと集合場所に歩を進める。
「うん。──歳……だよ……
 少し後ろを土方に手を引かれるようにして歩む近藤の言葉は、宵闇に打ち上げられた花火の音でかき消された。
「?」
「なんでもない。行こう、主がお待ちかねだ」
 行く先には二人の少女が年相応の表情で手を振っている。
 二人は改めてその方向へ足を進めた。


 喧噪の中の杜は、密やかな想いを隠すように煌びやかに彩られていた。