幸希(ユキ)
2025-12-01 00:21:08
2124文字
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託すのは

初期刀組がむっちゃんの惚気を聞くだけ。歌仙視点。

「なぁんであがに可愛いがよ。」

また始まった。定期的に急に始まる陸奥守の惚気という名の愚痴。

「えーまたその話?叶わない恋路辿ってる俺への当てつけー?」
「やめればいいだろう。」
「そういう話してないっての。お前主の言う通り倫理観とかそういうの修行先に落としてきたわけ?まんばー。」

加州と山姥切国広の言い合いが重なる。やれやれ。今日はどうなる事やら。隣の蜂須賀に視線を送れば、蜂須賀も僕と同じような顔をしていた。

「今日は何があったんだい?」

とにかく話を進めなければ。知らぬふりをしてもいいのだが、とかくこの男は聞いてもらわないと後々奇行を起こす。肥前忠広に収めてもらうことがほとんどだが、「毎回俺に任せやがって。いつか修行行って俺がいなかったらどうすんだ」と苦言を呈されてしまったので、いい加減逃げるのをやめなければならない。

「午前中は冷えたじゃろ?足が冷たいち言うて主がわしに飛び付いてきたんじゃ。」
「日に日に冷え込んでくるね。火鉢を出したら浦島が喜んでいたよ。」
「蔵から暖房器具出さないと追いつかなくなりそうだよね。とはいっても数が限られるからまたじゃんけんになるかもだけど。」

少しずつ近づく本格的な寒さと年の瀬。僕の清掃番長としての役目が真価を発揮する頃でもある。そろそろ指揮を取るための準備をしなければ。

「それで?」
「『寒い~!』言うてわしの懐に飛び込むまではいつも通りなんじゃが、今日は足を刷り寄せて来ての。細い足がするする絡みつくんじゃ。」
「うわ発言ヤバ。」
「その上『ぎゅーして?』らぁて小首傾げて甘えてくるんじゃ。あがな可愛いもん、どがにせいっちゅうんじゃ!」

ダンッ!と陸奥守が机を叩く。傷が付くからやめないか。

「あーーーわし誓約守りきれるんかの。」
「破ろうとすれば神罰が下るんだろう?衝動でやるものではないと思うけれど。」
「分かっちゅう。分かっちゅうよ蜂須賀。わしやって主に無体働く気はないきに。」

のろのろ頭を上げる陸奥守。普段堂々と胸を張り、誰よりも強くこの本丸を引っ張り続ける初期刀が、今は想い人の事で腑抜けた顔になっている。
恋とは、誰かを想うというのは、その者の思わぬ顔を映す引き金になる。僕の元の主がそうだったように。

「幸せにしちゃりたい。ただそれだけなんじゃ。」
「その割りには思考が随分俗物的だがな。」
「ちょっとまんば黙りな?」

加州が突っ込む。本当に山姥切は配慮をどこかに落としてきたんじゃないだろうか。こんなに無神経だったろうか。

「あのお人はほんまに可愛い。焦がれてしまう。愛さずにおれん。もっともっと頼って欲しい。そう願うてしまう。」
「「それは分かる。」」

誰だい今の合いの手は。加州は確定としてもう1人は誰だ。

「そう思うちゅうに、閉じ込めて、甘やかして、なぁんも出来んようにして、わししか見んければ。そがな事を思うてしまう。約束も守れんような男にわしは成り下がってしまう。」
「陸奥守。」
「笑うてくれたら、それだけで良かったはずなんじゃがの。」

自嘲気味に笑い、持っていた杯を呷る。ほんのりと陸奥守の頬が色づいた。

「のう、おまんら。」
「なーに。」
「ん?」
「どうした、陸奥守。」
……どうしたんだい。」


ゆるりと琥珀が僕らを見据える。


「もし、わしが主との約束を違えた時は、迷わず折ってくれ。」
「またそれー?分かってるってば。」
「そうだな。」
「願わくばそんな日は来て欲しくはないが。」

蜂須賀の言葉に陸奥守はすまなそうな顔になる。

「主を泣かせる事になってしまうき、もちろん万が一の話じゃ。現実にする気はないぜよ。」
「マジであったら困るからやめろよ。」
「せんち言いゆうろう。」
「どーだが。」
「おんしゃ表出るかえ?」
「凄まれても怖くありませーん。」
「こらこら、喧嘩はおやめ。」

喧嘩になりそうな陸奥守と加州を止める。この2人を止めるのは骨が折れるんだ

「はぁ。心配せずとも、万が一その日が来たら、君を僕の37人目にしてあげるさ。」
「まはは、頼もしいのう。」
「君がすべきなのは、君が願うように主を幸せにする事だ。醜い欲を持っていようと、その心は嘘偽りではないだろう?」
あぁ。」

真っ直ぐ僕を見つめる琥珀色。彼ならきっと大丈夫。



「腹が減ったからツマミを追加していいか。」
「まんばどんだけ食べるつもり!?」
「腹が減ったんだ。仕方ないだろう。」
「お前の燃費の悪さなに!?」

山姥切の空気の読まない発言に、それまでひりついていた雰囲気が一気に和らぐ。今の彼の発言は配慮がないのか、本当に気を遣ったのか分からないな

「もう少ししたらお開きにした方がよさそうだね。」
「明日も朝早い。僕は先にお暇しよう。」

番長ではないが、厨も僕の務めるべき場所。疎かには出来ないからね。

「あぁ、そうだ陸奥守。」
「なんじゃ?」
「次はこのような湿っぽい話ではなく、楽しい惚気話にしておくれ。とびきり幸せに満ちた話をね。」



その方が、実に雅だろう?