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桜崎
2025-11-30 23:53:44
5417文字
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あいしてくれるっていったのに
れめゆみ 最後薄らR-18
「今日、アパートの一室で男性の死体が発見されました。
『神さま、救済の慈悲を』と書かれた遺書があり、同様の事件が相次いでいることから警察は宗教団体への関連を疑い
…………
」
昼下がり、獅子神が用意した食事を終え、各々リビングで寛いでいる所である。
テレビがそのニュースを流した瞬間、一人を除く全員が天堂を見た。
「貴様らの目は節穴か?」
「いや、神、ときくとつい考えちまうというか
……
」
「マヌケ神以外にこんな神がいたら迷惑極まりない」
「あれ、でも天堂さん、本当に違うんだね」
菓子袋に手を突っ込んだままそう言った真経津の言葉は天堂の否定を強固に裏付けたが、次いで口から出た台詞に結局あきれが蔓延した。
「確かにあのような救済に至った咎人たちはいるが、今の情報からしてその男は私が救ったものではない」
「
……
やってはいんのかよ」
「私は警察がきても無関係を装うからな」
「あはは、不審死のプロの天堂さんがそんなヘマしないよね~」
「つかそれならこいつは模倣犯じゃねーの」
「あーこれ、オレだな」
長い脚を投げ出して、スマホを叩いていた叶は、自身に一斉に来た注目に嬉しくなって画面から上げた顔に笑みを飾る。
「いや、ユミピコの真似してみたら面白いかなってやってみたんだけどさー」
「おい、黎明、神を騙ったのか。死にたいようだな」
眉間に皺を刻み腰を浮かす天堂を獅子神が抑え、村雨は自家製の焼き菓子を自分へと避難させた。
「ユミピコを真似したわけじゃねーって。方法だけだってば」
頻繁に天堂に同行して天罰という名の自殺教唆やら殺人やら誘拐やらを眺めていたり手伝ったり、主犯になったりしている黎明は、特に天堂を前にすると懺悔して勝手に首をくくらせるのが面白いと思った。のでつい好奇心が勝ってしまってテラリウムで何人か天堂のように唆してみたのである。
「でもな~やっぱあれユミピコのなんか、神父パワー?みたいなんが必要なんだろな。ちょっと失敗してさ~」
叶の声が突如、遮られる。玄関の方で何かを叩きつけたような響きが届いたかと思えばドアノブを執拗に回す音がした。ぺたぺたぺた。何かを引きずりながら素足で歩く人の気配が近づいてくる。不意に全てが静まり返り、廊下からリビングに続く扉がゆっくりと開いた。
ごく普通の恰好をした女。がいた。その手に斧が握られていること以外は。
ぐるりと五人を見まわした視線がぴたりと叶に合わさって、両眼が膨れ上がる。溢れだす涙と乾いた唇が震え、恍惚とした表情ともとれる面は歓喜と絶望と恋情と憎しみとぐちゃぐちゃしていて明らかに異様だった。首が折れたように傾げる仕草。ばさりと黒い髪が乱れる。
「あ、ああ、かみさま、助けてくれるんでしょう? いっしょにいっしょにね、いきましょう。わたしのことすくってくれるんでしょう。ねえねねえ。私のことすきでしょ。わたしもすきすきだから」
女が一歩、踏み出すより先に天堂が動き、首を掴んで引き倒す。喉が塞がっても吐き出される乾いた哄笑。床を滑る斧を獅子神が足で抑えつけた。
「
……
はあ、全くアナタは何をしたんだ」
かみさま、たすけて。あいしてあげるから。譫言のようにそう繰り返しながら暴れる女を縛り付けている天堂を横目に村雨は端から一歩も動く気はなかったようで、手元のオレンジジュースをのんびりと飲んでいる。
身動きしなくなっていくそれを一瞥だけして、スマホに視線を戻す叶はやっすいB級映画みたいだったなあなんて思って、その結果に唸る。
「ユミピコって相手が望む愛を理解してあげて、寄り添って優しく優しく諭してるわけじゃん、おんなじことしたんだけどなあ」
「黎明、お前の与え方は返してもらえる前提だからだろう。だからこんな求めにくるものになるのだ。神に見返りを求めるものなどいない」
鼻で笑った。与えたら返してもらわなくちゃだめだろ。一方通行じゃ見てもらえないのに。
「叶さんが唆した人たちって天堂さんと違ってきっと絶望の中死んでいくんだろうね」
なくなっちゃった、と悲し気な真経津は菓子袋をくしゃりと丸めて、ゴミ箱に投げる。外れた袋を獅子神が捨て直しながら玄関に向かっていくから、縛り終えた天堂が袋に詰めている横を通って、叶も後を追った。ぽっかり空いた穴から向こうの景色が覗く。内側と違って綺麗な空がある。玄関内は扉の破片があちらこちらに散乱して、足の踏み場がない。
隣の獅子神はその有様にため息をついて業者に連絡していた。
「あーごめんな、敬一くん。ドア弁償するから」
「んなことよりこれあと何人くらいいるんだよ」
「さっきニュースに出てたのが成功した三人目くらいでまあ何人か返り討ちにしたからあと数人くらいだと思うけど
……
」
「てことはてめーこいつらがくるのわかっててうちにきたんじゃねーか」
「だって自宅バレてるしさあ、美味い飯は食いたいし。敬一くん泊めてくんね?」
青筋が額に浮かぶ。わかっていたが、あ、だめだなと確定的になった。
「出ていけ! 始末つけてくるまでくるな!」
片が付くまで獅子神邸の出禁である。
追い出される叶を一瞥すらせず出されたケーキを食べ始めた村雨とゾンビ退治がんばってね~と笑う真経津に見送られて、叶と天堂は獅子神の家を後にする。咎人狩りを張り切っている天堂は叶の望みを聞き入れてくれたのでこのまま向かう教会で一夜を明かすことにした。
袋の中身の処理方法を話しながら人通りの少ない道を選んで歩いていれば、案の定、道中でまたひとり、男が現れ、持ちあげる袋が追加されてしまった。重く天堂でも抱えられえずひきずる羽目になる。
「これ職質されたらやばいな」
「問題ない。向こうの方で事件があったからな。そっちに人員が取られているはずだ」
「そういえばさっきネットでも噂になってたな。まあこれ一般人に見られてもやべえけど」
そういいながらも緊張感など欠片もなく、のんびりと歩みを進めてようやく居住地である教会に到着する。
二人分を解体するのは重労働で、しかし、原因の黎明に手伝わないという選択肢自体ない。当然風呂の権利も天堂が優先され、血生臭く油っぽいべたべたの体で先ほどまで死体だったものと仲良く冷たいコンクリートの上、待機する羽目になった。もちろん一緒に入ろうという提案は却下された。たぶん男が肥満体型で手こずったせいだ。苛々していた天堂は、その発言を言い終わる前に、鉈を鼻先に突きつけてきたので両手を上げてさっさと降参した。天堂宅の浴室は広く二人で入れるし、入ったこともあるのに。殺人鬼に狙われて一人が厭だと泣き落としでもしたらはいれるかな無理だな。家からも叩きだされそう。諦めに満ちた叶はごろんと固い床に寝転んで、今日撮った動画を編集する。
ようやく叶も身を清めた頃には夜も更け、天堂と獅子神邸の夕食を惜しみながら宅配で頼んだピザを口にする。今のところ、襲撃はない。結構減らしたはずだから明日には片付くかもしれない。丁度良い頃合いだろう。
SNSを更新して、寝る準備を始める。自宅にいる時、大抵、天堂の就寝時間は早いので、釣られて叶も早くなる。
髪を梳き終わった天堂が寝台の隣に座る。おんなじ匂いだった。使ったシャンプーを気に入ったら天堂がくれたのでこの家にこなくとも一緒の香りなのだが。友人二人は無関心で、随分、遅れて気づいた獅子神だけ嘘だろ、みたいな顔をしていたのを思い出す。
「それで黎明、あれは好奇心以外何が欲しかった?」
スマホから目線をあげる。神様は本当によく見ていて、自然と口角が上がった。
「まあ、大半はホントに好奇心だけどさあ、吊り橋効果ってあるじゃん? 今、複数の殺人鬼に狙われている状態なわけなんだけど、ユミピコ、どきどきしてる?」
「全く」
「だよなあ。オレもだよ」
鈍らせている恐怖心は、この程度では機能してくれない。慣れ、はよくないから忘れているわけではないが、今、必要と思えるほど逼迫した事態ではなくて、人の損壊に一切躊躇のない二人に返り討ちにするのも簡単だし普段の日常にすこし変わったイベントが追加された程度にしか叶にも天堂にも思えない。
「なんだ、心臓の高鳴りを経験したかったのか、あそこで散々してるだろう?」
「うーん、たぶんそっちじゃないんだよなあ、ユミピコと勘違いできるかなって試してみたかったし」
恋愛感情。それが果たして判別できるものなのか知らない。わからない。わかりたいのかもわからない。
例えば美味しいものを食べたらその人にも食べさせたいと考える。それは別に友人にだって思うし、それは恋ではなく愛だという人もいる。その境目すら見えず、執着も情欲も殺意も混じりあってどれが正しいなんて決められるはずもなければ、他人に指図される謂れもない。
天堂は知ってはいるかもしれないが、それを果たして相手に覚えることがあるのだろうか。ない、だろうな。愛を平等にばら撒くのが神様っぽいからそう信じてそう振舞ってる、し神様は自分で自分を強く愛しているから充分なのだろう。他者から与えられる愛だって当然なだけ。たぶんきっとそうだ。
「楽しい、で何の問題がある?」
「いいだろそれで別に。オレもユミピコと一緒にいると楽しいし、ユミピコがオレにずっと楽しいだろうなって思わせてくれるのがいい」
それ、がこの神様の間に必要だと感じたことはないが試してみるのも面白いだろうとおもったから。それだけだった。
不意に生ぬるい感触が唇を覆う。舌先が侵入してきて、咥内を撫でた。応えて絡ませる。ぞわりと背筋を這い上がる心地よさを欲して、奥を探っていく。
体温がほんのすこしあがったとき、濡れた唇が離れた。
「何。珍しいな」
もう眠る準備をしていたのに。
肩、を押すと寝台に天堂の体が傾ぐ。長い髪が白いシーツに溶けるように広がった。否だと絶対倒れてくれないから許諾の合図に等しい。
「すこし油断しようと思ってな。それは楽しい、だろう」
「ああ、いいじゃん、楽しいな。いつ襲われるかわからない状況でヤるなんて」
どきどきする。この高揚は、恋情ではないのだけど、ひどく良い気分なのは間違いない。
赤い爪先が叶の鎖骨を撫でて釦を外していく。同じように伸ばした胸元は高鳴っていて、何かに惹かれるようにそこへ口づけた。
額に汗が浮かび、上気した頬が目前にある。首に回る腕に誘われ軽く唇を合わせて、舌先で舐めた。
狭まる体内に熱が膨らむ。ゆるゆるとした緩慢な動作に耐え切れなくなってきて、挿出を早めていく。
「
……
ぁ、きたな、黎明、さっさと抜け」
「はあ? 嘘だろ。ここで?」
思わず動きを止めたが、迫る吐精感に腰が勝手に揺れる。
「いいだろ、もうこの部屋で始末すれば」
黎明にはまだ何も気配を感じないのでぎりぎりまでこの快楽を堪能してから、欲求のまま中に吐き出してしまいたかった。
「部屋が汚れるだろう。廊下で
……
っ、おい、黎明」
聞こえないふりをして一番奥を突き上げる。歯噛みする音と掴まれた骨の軋み。
天堂の反撃がくる前に寝台へと押し付けた体を強く揺さぶった。もがく動きより、与えられる快感が勝ったようで、黎明を退かす手が縋るようなものになる。天堂の怒りと快楽混じりにこちらを睨みつける表情にぞわりとする。口づけたくなったが絶対に舌を噛まれる。それでも悪くないかもしれない。
その想像と死に迫る焦燥感も後押しして、いつも以上の気持ちよさが脳の機能を溶かす。
今にも達しそうなのか掠れた声を上げる天堂も同じだったようで、ぎちぎちと締め付けてくる感覚に深く叩きつける。
白く弾ける視界は一瞬だった。中を埋めていく熱と共に強烈な快楽だけが全身を支配した。
荒い吐息が肌を濡らす。ずるずると惜しむように緩慢な動作で抜いていれば廊下につながる扉はすでに開いていた。
立ちつくす人影がすぐに襲ってこなかったのが幸運だったのだろう。どうして。いったのに。ぶつぶつと何事か呟く姿を前にとりあえず近くにあった椅子を投げる。命中はしなかったが怯ませるには充分で、その間に起き上がった天堂が引き倒して、自身の拳で殴打した。
もう黎明の出る幕はない。頬杖を付きながら眺めて、特に一方的に殴られる人間になんの面白味もないので、先ほどまでの行為をぼんやりと反芻することにした。
しばらくして満足したのか、動かなくなった人の形を放置して、戻ってきた天堂は不機嫌そうに黎明を見下ろす。
「おい、黎明、お前のせいで床が血まみれになったぞ」
「いや、そこまで殴ったユミピコのせいだろ
……
」
返答は舌打ちである。かすかに傷ついた手の甲を拭って、天堂は寝台に横たわる。
「ユミピコ~続きは?」
「神は疲れた。寝る」
「ええ~ユミピコから誘ったんじゃん」
「ああ? テメェそいつと冷たくなって並びたいのか?」
ドスの利いた声に沸点手前だと理解して、隣に滑り込む。どうやら寝台から叩き出されることはないようで、赤い痕の残る白い背中を眺めながらゆっくりと瞼を下す。
暗闇の中でふと先ほどの人間のその唇の動きが脳裏に蘇る。
そんなこと言っただろうか。一瞬、過った疑問は眠気に混じって消え、二度と考えることはないだろうと思った。
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