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fmc359
2025-11-30 22:18:48
1471文字
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【風】Stay(日文)
紫はこのところ、無意識のうちに自分の身を白に預けることが多くなった。
白が書を読んでいれば、紫はその肩や胸に頭を埋め、抱かれるようにしてうたた寝をする。白が香を調合しているときは、無表情のまま肘で紫の頭を押しのけるか、足で軽く踏んで脇へ寄せ、「邪魔だ」とばかりに退かす。
記憶を失う以前の紫は、白とこれほど親密な身体の触れ合いをしたことはなかった。その頃の自分を振り返ると、まるでまだ冷めきらぬ玄武岩の空間に身を置いているかのようだった。五感は霞み、熱さも感じず、足下の大地は黙って緩やかに蠕動し、紫はよろめきながら進むほかなかった。己の足音すらはっきり聞こえず、ましてや遥か遠くからの、微かな誰かの呼び声など知る由もなかった。
今の彼はなお、噴火ののち冷え固まった災厄の遺跡を歩いている。だが遺跡が眠りに沈んだ今、しっかりと足を踏みしめられるようになった紫は、自らの足音を確かに聞き、他者の呼び声も聞き取れるようになった。その声が別の場所から届くということは、まだ自分が行ったことのない方向があるということだ。
五感が次第に明瞭になった彼は、他者の顔を見、その声を聞くと、思わず手を伸ばして確かめずにはいられなかった。目の前に在るものが、確かに別の生き物であると。
彼はもはや、日ごと夜ごと悪夢を彷徨うことはない。生ける故人と同じ時空を共にしている。
――
他者の存在は、自らの存在を証する傍証であり、幾人もの人と出会い、別れ、その縁に繋がれて紫は次第にそれを理解するようになった。
紫はその思いを白に伝えたいと思ったが、言葉にすることは不得手だった。ならば本能に任せればよい。白は幼い頃から賢く、あの混沌の中にあった自分のことですら理解してくれたのだから、今の自分の思いもきっと分かってくれる。
ただ最初の一度だけ、白は強く驚いた表情を見せた。二度目からは、まるで当然のことのような顔をした。抱き寄せると、白は時折諦めたようにため息をつくが、紫が横目で観察すると、口元がわずかにほころんでいるのを見てしまう。
紫は嬉しかった。白は分かってくれている、と。
白が榻に斜めに凭れかかって書を読んでいるとき、紫は割り込むようにして身を寄せ、白の胸に凭れかかり、首筋に顔を埋めた。白の視線はただ書簡に落ち、時折何気なく紫の髪を撫でる。その仕草はまるで膝に猫でも乗っているかのようで
――
紫にはそれが心地よかった。白の心拍は乱れず、困惑の気配もなく、紫は安心してその腕の中で眠り、目覚めたときには白の寝顔を見た。書簡は床に落ちているか、あるいは紫の体の上に載っている。
紫は息を殺して、稀にしか皺を寄せていないその顔を、長くじっと見つめた。紫は安堵した。すべては変わっていないように思えた。身を翻せば、朱もまた傍らに寝ているように思えた。
かつては三人で一つの榻に眠った。
あの頃の紫は、毎夜悪夢にのたうち、夜半に目を覚まして全身硬直し、瞼も開けられず、呼吸もできず、声帯は痺れ、沈黙の沼に沈んでいく途中で、朱と白が必ず手を握り、新しい名を何度も呼んでくれた。その声は五感を失った紫にははっきりとは届かないが、遠くから近くへと響き、空間の彼方から紫を死から掬い上げた。かくして「紫鸞」は目を開き、大きく息を吸い、再び生き返ったのだった。
あの時は、なぜ彼らが自分と床を分けなかったのか理解できなかった。
だが今は理解している。
半ば冥途に足を踏み入れた己をこの世に繋ぎ止められるもの
――
それはただ、人の温もりと、人への未練にほかならない。
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