fmc359
2025-11-30 19:59:28
1660文字
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【氷】露電痕・如是観(日文)


大火の年、彼はただ東に昇り西に沈む太陽を見つめていた。だが時間の流れは、まるで肌に触れてこなかった。すべてが昨日のようで、すべてが遠い昔のようで、自分だけが世界から切り離され、木偶のように押し流されていた——徴税、徴兵、蝗害、厳冬。群れと共に、あるいは別の群れと共に彷徨い、漂っては散り、散ってはまた漂った。
ある日、豪雨の中で転んだとき、逃げ惑う流民たちが彼の上を意図もなく、しかし確かに踏み越えていったこともあった。また別の日には、山の洞で香を焚き、気を失っていた彼を見つけた誰かが、再び彼を家へ連れ帰ったこともあった。
——まだ生きている。
どうして、自分だけがまだ生きているのか。

二年目。戸口の敷居に座り込んでぼんやりしていると、決して口に出せない二つの名前が、ふと脳裏をかすめることがあった。□が○を里へ連れてきた日のこと。○がやはりこうして敷居に座り、虚ろにしていた日のこと。□が○の顔を拭き、口に食を運び、その隣で柔らかく、穏やかに話しかけていた日のこと。
自分も傍にいたはずなのに、□の言葉が思い出せない。記憶の残光の中に立ち尽くし、にじんでぼやけた二つの姿を見つめながら、今いちばん必要としている□の声はどうしても思い出せず、そのときの○と、今の自分がどんな表情をしているのかさえも、もはや判然としなかった。
彼を匿ってくれたおばあさんは近寄らず、憐れみを帯びたやわらかな距離感だけをそっと残し、彼のわずかな尊厳を守ってくれた。

三年目。深い森を急ぐ日々、篝火は地上に燃え、彼自身はいつも梢で眠った。
篝火の中には、いつも雑然とした人の叫びや刃がぶつかり合う金属音、家々が崩れ落ちる轟き、濃い煙に追われて四方へ散っていく鳥たちの羽ばたきのざわめきが、途切れ途切れに響いてくる。火の粉は弾け、ぱちぱちと慌ただしく裂け、追われるように逃げ惑う気配さえあった。ただ一つ、谷間を流れる水の音だけが、いつもと変わらず落ち着き払って、静かにさらさらと流れている。
だが、彼は知っていた。あの水は、赤い。
彼は目を開き、香丸をいくつか火へ投じた。煙はむせ返るほど濃く、闇は四方から火光を呑み込み、ようやく彼は浅い眠りへ落ちた。

四年目。彼は覚えていた、自分が△△△△の中で最も薬への耐性が高かったことを。だが今となっては耐性というより——ただの“効かなさ”でしかない。あらゆる迷香は、もう彼の身体に作用しなかった。
ちょうどいい、やることはいくらでもある。救わねばならない人間も、殺さねばならない人間も、あまりに多い。眠れないなら眠らなければいい。彼には普通の人間の倍の時間がある、そのすべてを為すべきことに費やせばいい。肉体が限界まで擦り切れた時だけ、昏倒するように眠りに落ちる。
もはや夢の中で、□や○と過ごした日々をつくり直すことはできない。だから夢に現れる□と○は、いつも炎の中にいる。
彼は何度も詫びるが、二人はひと言も返さない。三つの銀珠を通した腰鏈を握りしめて昏睡から目を覚ますたび、何日眠っていたのか、いつもわからなかった。



白はゆっくりとまぶたを上げた。

太平の要——名は立派でも、その本質は刺客にすぎない。
迷香は暗殺のためのものだ。屋外で広範囲に効かせようとすれば、施術の中心は、人の居られぬほどの濃度になる。
張角はそうした。戦の前に味方へ解毒剤を服させ、敵軍の上風に巨大な香炉を据え、その脇には守兵すら置かなかった。

白はひとりだ。香は自らの身で焚くしかない。

もう二年、自分には香を使っていなかった。戦前の試験は念のため、計算した量に倍量を重ねて焚けば——ただ、いくつかの記憶が蘇った。
ふらつく意識で壁にもたれ、幻は見えない。漂い続けるのは、頭の底を反芻する記憶ばかり。

——ただ、それだけのことだった。







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「一切有為法、如夢幻泡影、如露亦如電、応作如是觀。」——『金剛経』