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kanaco
2025-11-30 17:51:35
4591文字
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【十二信】きみのもの
《十二信》ナンパ待ちをしている信一を見つけたので、とりあえずナンパっぽい言葉をかけてみた十二のおはなし。
廟街から3つほど隣の繁華街。
自然豊かな公園に隣接している、人通りの多い広道。
用事をこなしてプラプラと歩いていた十二は、木陰にある寂しそうな銀のポールの上にポツンと座って、つまらなそうに遠くを見つめる青年を目に止めた。
健康的で若くて見目も良い、十二がよく知っているその男。信一だった。ぼんやりとして十二に気がついていない。十二は(何やってんだ?アイツ)と観察していたが、見れば見るほど気にかかることが増えて次第に眉を顰めていった。
というのも、十二が知っている彼の雰囲気とは様子が違っていたのだ。
まず服装からして珍しい。柔らかく上質そうな薄手の黒カシミヤニットとライトブルーのデニムワイドパンツからなる、ゆるやかなシルエットを着こなして、ずいぶんと落ちついた様子だった。いつもの陽気そうな身なりやオーラは鳴りを潜め、シックで大人しそうな青年に見える。
そうしたシンプルなスタイルは大人びて品が良さそうに見え、十二は思わず見惚れてしまった。しかし一方で、どこか気だるげな表情と姿勢によって、色気がそこかしこから零れ落ちているのは大問題に思えた。
指先まで隠してしまう甘えたようなロングスリ一ブも、深めのUネックからのぞいている滑らかな鎖骨も、黒縁メガネの奥でしおらしく伏せられた瞳も、薄く潤うリップの桃唇も、どこか男を誘っているかのように思わせぶりなのだ。
加えて、触りたくなるようなウェーブの黒髪やニットの黒に映えた、耳飾る細身のゴールドスティック。あれは十二が一昨年にプレゼントしたものだが、耳元で主張するそのさりげない輝きは自分以外の視線さえ引き寄せるようで、なんだか苦味つぶしをした気分になる。
十二が苛立ちを覚えるのは仕方がなかった。
幼馴染で、親友で、兄弟で、そして恋人。
そんな特別な人間が、好奇かつ性的な視線に晒されるのは腹が立つに決まっていた。
十二は怒りを逃がすように大きく息をつく。それから近づいて声をかけた。
「...ヒマしてんの?彼氏、お茶しない?」
十二の誘いに顔を上げた信一は、驚いたような顔をした。
「...ナンパ待ってたら、坊ちゃんが釣れた」
そう神妙な面持ちで言った後、ムスっとした顔で「求めてませーん」と言い放った。十二は同じくムスっとした顔を返す。
「何やってんの、お前」
「男釣ってる」
「はぁ?」
「おとり捜査」
「おとり捜査ぁ
…
?」
最近、城砦に紛れ込んで臭いことやってる不法男の目撃情報がこの近辺に出ててさ。そのうえ、そいつが若い男を騙して引きこんでかなり悪い商売してるっていうから。
「一本釣りしようかな、って思ってさ」
信一は何でもないように清ました顔で言った。十二は呆れたような、胡乱げな顔で見やる。
「そりゃ、また雑な作戦なこって」
「追いかけまわすより楽じゃんか。でも、全然捕まんないんだよなぁ」
こんなにサービスして誘われやすい感じを出して待ってるのにさぁ。
信一はツンと愛らしく唇を尖らせた。頭を軽く振ってハラリと横髪を落とし、小首を傾げながら十二のことを上目遣いで見る。
反って晒された白い喉元や鎖骨までのラインは色っぽく”隙”だらけではある。長い袖によって指先以外を意図的に隠す、そんなあざとい仕草もやけに甘ったるく映り、十二は気持ちを騒めきつかせた。
そうして”隙”だらけのくせに、遠目には地味なファッションであるし、大人しくて気弱そうな雰囲気を醸し出していたのだ。信一の思惑通り、ナンパのターゲットとしては上玉かつ狙いやすそうなお得さを演出できていただろう。
十二は順当に嫌な気分になれば、なお信一が不満そうなので、本日二度目の溜息をついた。
「...ココに来るまでに、俺はもう4人ドついたけど」
「はぁ?」
「南東、北東、南南西と北の裏の方。工口い顔でお前を見てたキモいオッサン3人と若めのいかにもヤバそうな男1人。お前見て興奮してるのが腹立ったから、懇切丁寧にご退場いただいたわ」
「それじゃ意味ねーじゃん!」
信一が「えーっ」と残念がったので、十二はバックからポンポンと小物を取り出していく。
「正直、そんなことだろうと思って、とりま免許証や財布スったけど?」
「マジかよ」
さすがは架勢堂の若頭だぜ、有能オブ有能!つかこれって美人局なんじゃねぇの?と信一がコロコロと笑う。小物を漁れば「あ、こいつだ!」とすぐにターゲットをはじき出した。
「じゃあ、他はただただ工口いだけのオッサンだったか...」
「哀れな
…
俺がこんなにもイケメンであるばっかりに
…
」
同情したような声音を出すくせに、ひどく無表情である信一が「いらね!」っと小物を突き返す。
「交番に届けてやろ、今回はこの人たちは無害だったし。ま、お前が殺っちゃたからかもだけど」
「殺ってねぇよ、人聞きの悪い。つか、届けるったってお前警察に顔が割れてるじゃん」
「え?変装してるし」
信一がメガネをカタカタと揺らす。
「それ変装だったのかよ..」
何もかも雑だろ
…
。
なんだかなぁ~、と十二は思った。
信一の腕っぷしが強いのも、利発なのも知っている。なんせ龍捲風に育てられた九龍城砦のNO2だ。いくら信一に抜けたところがあるからと言って、そうそう大事はおこらないのだ。
それでも心を砕いてしまうのは惚れた惚れられたの関係だからか。何にせよ、嫉妬心だって大いに絡んでくる。信一の心移りなど微塵も心配していないが、他人を惹きつけすぎる恋人というのは時に無邪気で、時に打算的で厄介だった。
十二は自分の首に巻いていたクリームイエローのスカーフを外すと、そのまま信一の首へとフンワリ覆うように巻いてやる。
自分の何かを身に着けさせるのは独占欲が強くて見苦しいだろうか、とチラリと思いながらもせずにはいられない。マーキングできる上に素肌も隠せて一石二鳥だと、十二は思った。
所有の証はイヤリングだけでは物足りなかった。本音をいえば、今すぐにでもニットをひん剥いて、その鎖骨にガッツリと噛み痕をつけてやりたいくらいには執着の炎が揺らめいていた。
しかしそんな荒れ狂う感情は表に出さず、もう一度誘いを繰り返す。
「で、彼氏。どうすんの?お茶する、しない?」
露わだった首や胸元を優しく隠されて目を丸くさせた信一は、目の前に立つ幼馴染をジッと見つめた。ムスッとしたままの十二の顔を少しだけ観察すると、やがてフッと息を漏らすようにして笑みをこぼした。
「近くにさぁ、めっちゃ美味いって評判のプリンアラモ一ドの店があるから行きたいかな」
連れてってよ、おにーさん。
「そりゃ、甘そうだなぁ」と十二がぼやいた。
「美味しいコーヒーもあるってよ。」
「じゃぁ、お前の奢りな」
「なんで!」
「ほぼ俺の手柄じゃん」
「そうか?」
「そうだろ」
十二が「ほらよ」と手を差し伸べた。信一がその手のひらにポスンッと手のひらをのせれば、毛並みがフワフワとしたニット袖が十二をくすぐった。腕をひっぱられる信一がとても嬉しそうに笑うので「どうした?」と聞く。
「このスカーフ、お前の匂いがめっちゃする」
「......文句あんなら返せ」
「文句じゃないって」
信一が目を閉じて匂いを吸いこみ、スカーフを優しく大事そうに触った。
「好き、って言ってんの」
十二の顔がサッと朱色に染まった。スマートに言葉を返せれば良かったが、あまりにもストレートに言葉を浴びたものだから、気恥ずかしさで口をムニュムニュとまごつかせる。信一の方は十二の動揺を気にした風もなく、機嫌が良さそうな顔のまま綺麗に笑った。
「なぁ心配した?」
「
…
心配はしてねぇけど、いい気はしてない」
「だな」
ごめんな、と信一が言った。
ここが九龍城砦であったならば、と十二は思った。そしたら腕をのばして引き寄せて、触り心地のよい柔らかなニットごとその細い腰を抱きしめるのに。さすがにこの人通りの多さの中で目立つような行動をしたくない。先ほどから何が気に入らないって、この少し色っぽい信一を他人に見られることが気に入らないのだから。
黙っている十二に対してどう思ったのか、信一はポンポンと相手の肩を叩いた。そうしてグイっと十二の右腕に自分の両腕を絡ませてきた。あからさまな恋人の腕を取るような仕草に(こいつって本当に周りを気にしねぇな
…
)と十二が思っていれば、信一が場所を移動したがった。ほんの数メートル先にある小さな倉庫まで歩いていき、促されるようにしてひょいと裏手を覗き込む。信一は見せたい場所を指さした。
「でもまぁ、ホラ、マジで大丈夫なわけよ」
そういう信一の飄々とした態度について、十二は納得をせざる得なかった。倉庫の裏側に積み上がった、死屍累々の男たちを目にすれば、だ。
「え、お前まさか殺
…
」
「殺ってはねぇよ、人聞きの悪い。でもしつこく言い寄ってくるからさぁ」
信一が瞳の奥をギラリと光らせて、物騒な表情で口の端をあげた。
「俺がお前以外の男に指一本でも触らせるわけねーだろ」
ワァ、と十二がのぞければ。信一が無邪気に笑う。
「な?」
「
……
」
「どうよ、坊ちゃん。安心した?」
「おぉ
…
」
「ふふ、俺に惚れちゃうだろ」
「
…
それは、とっくのとうに惚れてる」
「それはそう!」
信一が自信満々に同意する。十二は少しだけ悔しくなって目を不機嫌そうに細めたが「でもまぁ、お互いさまだろ」と信一がこめかみにキスしてきたので、不機嫌なジト目をキープするのは成功したものの、嬉しさを隠しきれずに口元がまたムニョムニョと動いてしまった。
衝動的に倉庫の裏に2人分の体を翻して、信一を壁に押しつけてキスすれば、恋人はなおも幸せそうに笑ったままだった。唇を離しても、息が触れ合うほどの近さで顔を寄せる。十二がたまらずに信一の右頬をカプリと口に入れてしまったら、信一は嫌がらずにくすぐったそうに肩を揺らした。
「嚙みてぇ」
「噛めば?」
「痕つくじゃん」
「つければいいじゃん、顔は絶対に嫌だけど。鎖骨の下のギリギリとか
…
」
「
…
今日の服じゃ目立つだろ」
「いいじゃん。俺、お前のモンって印つけられるの何でも好きだけど?」
「例えばコレとか」と十二があげたイヤリングを揺らす信一が、十二が貸したスカーフを擦って「今日はこれもあるし」と言った。
だから好きにしたらいいじゃん。
お前のものって、分からせてよ。
「あとなぁ、件のプリンアラモードの喫茶店の裏、ラブホテル街だぞ」
「ぐっ」
「ほぉら、プリンアラモード食べたくなってきた」
十二は少し惚けた。それから「たまんね~」と言いながら信一の肩に額をグリグリと擦りつけた。柔らかい布地に十二の匂いがついて「マジでマーキングじゃん」と信一が愉快そうに言った。
「大事だろ」
「違いない」
そうして「さて、じゃぁまずはプリンアラモード~」と素早く切り替えルンルンする信一に、十二は(なんか負けた気がする
…
)と思いつつ。
半ば引きずられるようにして連れていかれながら、次はどこにどのようにマーキングをつけようかと真剣に考え始めたのだった。
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