Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
紫輝
2025-11-30 15:43:07
2106文字
Public
リとヌと御仔の話
Clear cache
巣作りはスペシャルアイテムで
(リとヌと)御仔とリンデ女史と『おひるね』の話です。ご両親の服に埋まってすやすやする御仔可愛いだろうなと思って。なおスペシャルアイテムの名称とシャツの畳み方の手技の出所は空お兄ちゃんだそうです
「レヴィ様、それは?」
パレ・メルモニア、最高審判官執務室隣の小部屋。少年の日課たる『おひるね』の準備中である。
小さなリュックから出てきたものにクロリンデは首を傾げた。それは布でできた何かだ。数はニ。色は白と黒。円筒形をしている。どうもその形に畳まれて、いや、丸められている、の方が表現としては近いだろうか。丸められているようだった。
リュックの持ち主たる少年がにっこりと笑う。
「これね、ぼくのね、すぺ、すぺし、すぺちゃる、あいてむなの」
「なるほど、スペシャルアイテムですか」
拙い発音が大変可愛らしい。ここに少年の“パパ”がいたならば、凛流の監視者が宙を舞っていただろう。残念ながらここには少年とクロリンデしかいないので、大変可愛らしい『スペシャルアイテム』はクロリンデの記憶の中だけに保存されることになるのだけれど。
円筒形の何かが広げられる。それはシャツの形をしていた。明らかにモノの良さそうな艶やかな白いシャツと、つくりがしっかりとしているのがシルエットでもわかる黒いシャツ。どうやら少年の父親達のもののようだ。
「ないしょでもってきたの」
広げた二枚のシャツをぎゅっと抱きしめてくふくふと笑う少年の声は早くもとろりと溶けかけていて、クロリンデは二枚のシャツが少年の『スペシャル』たる理由を察した。
少年は毎日、昼食後のこの時間に午睡をとる。その時彼を導くのは彼の“とうさま”なのだが、かの方は多忙だ(一時期より格段に手隙の時間は増えたのだが)。今日のように少年の午睡の水先案内人になれない時もあって、そんなときは少年の護衛の栄誉を賜ったクロリンデ、もしくはメリュジーヌの誰かが少年の横につく
――
のだが、“とうさま”が傍にいない時の少年の寝つきはあまり良いとは言えなかった。
無理に昼寝をしなくとも、と、ソファの上でころんころんと寝返りを打つ少年にかけた「今日はお昼寝はやめにしましょうか」には「おひるねしないとパパのおでむかえできないから」とすでに首を振られている。
パパが帰ってくる前にねんねしちゃうから、お昼寝は絶対にしておかなきゃだめなの
――
決意のこもった返答に水の下へ果報者めと野次を飛ばして(勿論心中でだ)、ならば全力で協力しようとその時クロリンデは決めたのだ。今現在は少年が自分で読むには「少し難しい」童話の本を読み聞かせ、少年を午睡へと送り出すことに成功している。
午睡の折の少年の寝つきの悪さについては勿論両親にも報告済みだ。その際は「相当なハイテンションじゃなければおやすみ三秒なんだが」「私もその認識だった」と二人ともに首を傾げられている。では親の不在に対する警戒心とそれに付随する防衛本能が目を冴えさせているのだろうかと思ったが、どうにも眠気より寂しさが勝ってしまうらしいと知ったのはつい最近だ。
「パパととうさまがね、なにしてるかなぁってかんがえるとね、おめめパッチリしちゃうの」
「そうなのですね。では、なおさら早くお昼寝してしまいましょう。起きた頃にはヌヴィレット様も帰っていらっしゃいますよ」
早く会いたいなぁ。
『お友達』たる狼のぬいぐるみに埋まった口からぽしょぽしょと紡がれる寝つきの悪さの理由に、流石のクロリンデもそっと天を仰いでしまった。どうか“パパ”の皮肉に染まらずこのまま大きく
――
いや、“とうさま”は危うささえ感じさせる人だ。少年自身を守るためにも少しくらい“パパ”の要素も取り入れてくれた方がいいかもしれない。そんな事を考えつついつものように本を開いたのは、確か数える事二回前の、午睡の供を務めていた時だった。
そして今日。
少年はいそいそと、取り出し抱きしめていた二枚のシャツをくしゃくしゃとかき混ぜて白と黒の布の塊を作り上げると、それをぱふぱふと叩き(寝床を整える猫のようだった)、ころんとその中に身を横たえてふすんと満足げに息をつく。
「パパととうさまのにおいがするー」
シャツ達に鼻をすり寄せた少年の声はふわふわと揺蕩って、大きなアイオライトは今にも目蓋の向こう側に隠されてしまいそうだ。
「リンデちゃんもおやすみしてね」
シャツ達を握りしめた少年は、いつも御本読んでくれてありがとぉ、と舌足らずの感謝と愛らしい笑顔をくれたかと思うと夢の世界に旅立ってしまった。くぅくぅと、穏やかな寝息が微かに聞こえる。
「なるほど、確かに『おやすみ三秒』
…
」
両親の前で常にこれならば、二人が首を傾げていたのにも納得だ。お気遣いありがとうございますを言いそびれたな、なんて思いつつ写真機を取り出す。ご両親への日次報告に添える写真を撮るために。
翌日。
「
…
以上が、昨日のレヴィ様のご様子になります」
恐らくお二人のシャツに二枚ほど、皺の寄ったものが混じっているかと思われます
――
一枚にまとめた簡単な報告書と件の写真をテーブルの向こうへ差し出しつつの報告を聞き終え、「なるほど賢い」「やることがいちいち可愛くて困る」と揃って震える息をつくご両親に、クロリンデは元より上がっていた口角をさらに引き上げるのだった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内