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むかいえ
2025-11-30 14:30:13
3547文字
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シャアム
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この後もちろん続きをした
シャアムワンライ、お題「初めてのキス」。怪我描写あり。
突然だがテロである。
新生ネオ・ジオン軍と地球連邦政府はいろいろあって和平を結んだのだが、どうやらそれが気に入らなかったらしい。
ジオン側の一部が「こいつらは仇だったんだぞ肩を並べるなんて絶対許せん皆殺しだ!」と怒り、連邦側の一部は「たかが私設軍ごときに協定だのと馬鹿らしい皆殺しだ!」と蔑み、何故かそんな互いの過激派が結託した結果のテロだった。
よくわからないまま巻き込まれていたアムロは、前述したテロの真相を知って乾いた笑いをこぼした。笑うしかない。なにせそんな寄せ集め集団のテロが成功したところで、絶対に碌なことにはならないと目に見えているので。
「
……
で、どうする?」
「とりあえず武器が必要だな」
「ああ、こっちもあと一発だ」
じきに役目を終えそうなリボルバーをぶらりと振る。アムロの手持ちの銃器はそれだけだった。あとは仕込みナイフがひとつ。銃弾が主力の現場ではペーパーナイフ程度にしか役立たない。
武装など必要最低限だった。テロが起こるなんて思いもしなかったからだ。ここはスウィートウォーター、その一角にあるシャアの邸宅。ネオ・ジオン軍の総帥がアムロ・レイ大尉を公式に呼び出したわけでもなく、正式な式典があるわけでもない。ごく個人的な交流のためにアムロは招かれていた。そこがまさかのテロの中心部になったのだ。
豪奢な内装の邸宅は、今や無法者たちに踏み荒らされている。寄せ集めのテロリストたちは、連邦政府よりも規模が小さく、的にしやすい男を当面の標的にしたらしい。つまり、狙いは総帥であるシャアである。
突然の出来事に何事かと目を白黒させながらも応戦し、広い邸宅を駆け回り、二人揃って適当な一室に隠れてからようやく、アムロはテロについて知ったのであった。
「
……
君を巻き込むつもりはなかった」
「わかってるよ」
その顔を見れば、と言葉と共に深く息を吐く。すぐ隣で壁に寄り掛かっているシャアは血の気の失った顔で薄く笑んだ。
総帥の邸宅への特攻などあまりに杜撰な計画だが、その突拍子のなさ故に発覚が遅れた。邸宅周辺はともかく、内側の護衛は最低限だ。外の警護を買収したのか突破したのか、テロリストたちはそこそこの人数が邸宅に侵入していた。果たしてアムロがいる時を敢えて狙っていたのかは定かではない。
しかし、所詮は寄せ集めの集団である。聡い二人はテロリストたちの指揮系統が曖昧であることをすでに見抜いている。こちらは少人数でも制圧は可能だろう、と冷静に判断していた。
――
誤算だったのは、シャアが凶弾からアムロを庇ったことだろう。そしてその行動に、アムロも大きく動揺してしまったことだ。おかげで二人は庇い合い、無駄に広い邸宅内を逃げ回ることになった。
アムロの脇腹と左上腕は僅かに肉が抉れて出血している。銃弾が掠ったのだ。掠る程度でもそれなりに出血するし、当然痛みもある。
シャアは彼を庇った際に、右大腿をしっかり撃ち抜かれていた。あちこち走りまわるうちに否応なく力を込めており、出血量は多い。簡易的に止血した布ごと真紅に染まっている。
「ここから二部屋隣に書斎がある
……
そこに隠し通路といくつか銃器を仕込んでいるから、とりあえずそこまで行くぞ」
「俺が行く。貴様はここにいろ」
「何?」
「失血が多い。
……
こんなところで死ぬなんて笑い草だ。止血に専念してろ」
「この程度、」
アムロは、怪訝な表情を浮かべて反論しようとするシャアの顔を、ガッと遠慮なく掴んで固定した。
「貴様、俺のこと好きだな?」
「
……
は?」
「わかりやすいんだよ、いろいろと」
「は、なに、
…
ッ」
アムロより上背のある男の顔を、首ごと引き下げる。無理やり頭を下げることになって苦しげに歪んだ白い顔が近付く。
彼はそんな反応も気にせず、その冷たい唇に噛み付いた。かちん、と互いの歯が当たる音がする。勢いをつけすぎ、反射的にシャアが噛み締めたことでアムロの唇が裂けて血が滲む。間近で見開かれた青いまなこを、目を細めて見返した。
「ン
…
」
合わせた唇を舌先で突けば、シャアが導かれるように口を開く。血に濡れた舌先を差し込んだ。戸惑う彼の舌をあやすように舐めると、右往左往していた男の手のひらが、ぐっとアムロの後頭部を逆に逃がさないと言わんばかりに押さえつけた。
「あ、
…
っふ」
「アムロ
…
!」
一瞬離れた唇の隙間から声が漏れる。くちゅくちゅと場にそぐわぬ水音が立つ。
先程までの戸惑いなど嘘のように、シャアが性急に厚い舌をアムロのそれに絡めていく。歯列をなぞり、口蓋を擽られ、アムロの背筋をぞくぞくと熱が這い上がる。シャアの舌は長く、喉の奥まで届いて苦しい。
いつの間にやらアムロは抱え込まれる体勢だ。背中を自分の体に密着させるように押さえておきながら、シャアの上体はアムロの唇を追いかけるように沈んでいく。必然的に背中が反って、アムロは息苦しさと痛みと
……
微かな気持ち良さで呻いた。
「ん、んッ
……
は、落ち着け、シャア
…
!」
掴んでいたままだったシャアの顔をどうにか押し返す。互いの唾液が絡まって繋がれた銀糸がぷつりと切れた。
「
……
落ち着いているさ。アムロ
…
私の気持ちを知っているなら、何のつもりだ?
……
ここで死ぬかもしれない男への餞別か?」
相変わらず血の気の失せた顔の中、剣呑に細められた青い瞳だけがぎらぎらと熱を持っている。
アムロがシャアの気持ちに気付いたのは和平が成ってからである。彼との距離が物理的に近付いたこともあったためか、ひょんなことからシャアの思惟を感じ取ってしまったのがきっかけだった。妙な執着をされていた自覚はあったものの、まさかそこに情愛が絡んでいるとは思わなかったので、当時は仰天したものである。
――
向けられたその感情に戸惑いこそすれ、嫌悪や忌避感を抱かなかったことも、驚きの一端であった。
やがて自分の中で折り合いをつけて、ひっそりと受け入れた。和平の邪魔になりかねないと、感じ取った彼の心だけ宝物のように隠して、アムロ自身の気持ちは墓場まで持っていくつもりだったけれど
……
。
「人の初めてを勝手に冥土の土産にするな」
「
…………
初めて
…
だと
…
?」
「男とは初めてだよ。
……
酔狂や餞別でこんなことするか」
一生することがないはずだった、男との口付け。ある意味ファーストキスである。それが血の味とは、いっそ笑ってしまう。しかし相手がシャアであるなら、自分たち二人であるなら、これもまた似合いであろう。
シャアの唇は、まるで口紅のようにアムロの血が付着している。失った血色を上塗りしたようだった。アムロがほくそ笑む。わざとらしく、商売女の駆け引きのように、シャアの頬を指先でそっと撫でて、その耳元で囁く。
「
――
続きは、生きて帰ったらな」
この男を死なすわけにはいかない。
なによりもアムロが、死んでほしくないと願っている。
故に、これはシャアの好意を利用した喝だ。
……
そして、彼を憎からず思う、アムロ自身への喝でもある。
「
……
、
……
続き?」
「なんだ、初めてでもないだろ」
「き、君とは初めてだろう
…
」
「へえ? じゃあ、お互い初めての男ってことか。ご愁傷様だな、色男」
アムロは隠れ潜んでいる部屋の中を見回す。そして目についたテーブルクロスを引っ掴むと、手早くシャアの足に巻き付けてきつく結んだ。止血である。それすらも赤く滲み始めるのを見て、猶予はないと判断する。
「俺が欲しかったら、死ぬなよ。シャア」
「
……
そう来たか」
シャアは笑った。テロリストたちが彷徨く物騒な中心地で、失血に青褪めた顔で、しかし晴れやかな笑顔だった。
「私はまだ終わらんよ。
…
君も、死ぬなよ」
「もちろん」
二人の目が合った。どちらともなく、今度は触れるだけのキスをする。
数秒の空白の後、アムロは男の熱を振り切って、残弾一発のリボルバーを手に駆け出した。振り返りもせず、ただ男が生き残ることを信じて。
「ある意味、怪我の功名だな
…
」
なかなかに厳しい状況で、それでも口角は上がる。男を守るために駆けていく背中の、なんと頼もしいこと。
シャアもまた、残弾の少ない銃を握り直す。熱を失った己の唇を名残惜しげになぞった。
ああ、生きて帰るとも。なにせ褒美として目の前にぶら下げられたのは、あのアムロ・レイなのである。それも他ならぬ本人の手で、どうぞと手渡された。これはもはや据え膳だろう。
まったく、アムロの喝は実に的確だ。
口付けの先を思えば、易々と死ねるわけもなし。
――
冥土の土産にするなど、あまりにも勿体ない!
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