【正しい道、異なる指針】

『SSS.S』『庭師は何を口遊む』
『The Backrooms』
現行未通過×

えすふぉHO2(他陣)と
庭師HO3(自探索者)の無い話

「ラズベラくんの髪って凄く綺麗だね」

「えっ」


 黄色だらけの空間を歩く中で告げられた脈絡の無い褒めに、素直な驚きの声が漏れた。自分の髪に対してそんな言葉を使われたのは初めてで、思わず少し怪訝な顔で彼を眺めてしまう。人当たりのいい微笑みを浮かべ、彼は小さく頷いてから補足してくれた。


「俺の奥さんと同じ色だ」


 大きな困惑、そして僅かな納得。彼に妻がいるのは先に聞いていた為、そこに関して驚きはない。しかし、だからと言って他人の……それも殆ど初対面の男の髪色を、こんなにも穏やかな笑顔で褒められるのは珍しい部類の人間だ。


「えっと……ありがとう、ございます……?」


 嘘偽りのない称賛に嫌悪は抱かないし、なにより奥方への愛が感じられて心地が良い。自分と彼はまだ出会って(時計や空は無いので体感)数時間だが、何となく彼は『奥さんの利益』に該当するなら文字通り何でも成し遂げられるだろうと確信していた。

 愛の為に何でも成せると言う、ありきたりで困難な証明。自分にはもう届かない狂気だと、心のなかで彼への羨望を口にした。警察という立場でありながら、市民を守るという選択を迷った自分には。彼も職は警察だと言っていた、きっと迷いなく愛を選べるのだろう。自分と違って、彼は真っ直ぐな正義の代行人だ。


「(……でも、何故だろう)」


 これは偏見と呼ばれる類のモノ。少ない情報を寄せ集め、根拠のない直感と混ぜ合わせた予感。ある意味ではとても失礼、だが同時に絶賛の意味も含む感想。

 彼と自分の正義は致命的に違う。


「(────嗚呼。貴方の昏さが、とても眩しい)」


 彼が抱える過去は知らない。彼が迎える未来も、きっと知り得ない。それでもこの先、彼が幸福であれと胸の奥底で祈った。
 神頼みなんて柄ではないけれど、それでも神に祝福されてほしいなんて非科学的な事を願う。どれだけ異質な道だとしても、どれだけ残酷な結末だとしても。このヒトが愛と、奥方と共に在れる事を望んだ。この出会いが、自分の祈祷が、二人の彩りになるようにと。




【正しい道、異なる指針】



 そしてほんの少し、その深淵を羨ましく思った。