望月 鏡翠
2025-11-29 22:25:34
1025文字
Public 日課
 

#1919 ジョアンの耐えがたい主人について9

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作


 進退極まったジョアンは抵抗を諦めた。裏門は人払いをしておいたから、朝まで誰かに見られることはないだろう。だが、もはやトルガは屋敷に向かって声を上げて人を呼ぶだけで良い。領地の主人に黙って兵を引き入れようとした。その証拠を手にし、武器も奪った。
 あとは次の家令を決めジョアンの死体を片付けるだけで、この件には片が付く。
 しかしトルガは剣を納め、一度解いた帯を腰に戻した。
「どういうつもりだ」
「どう?」
「自分の手を汚すのが怖いのか臆病者め」
 怪訝な顔は軽蔑に変わり、深い落胆の溜め息となって彼の口から漏れた。
 その態度はジョアンの矜持をひどく傷つけ、一度は消した怒りの火を再び燃やしそうになった。
 ここがリュネストの屋敷の中で、死体を片付けるのが同胞でなかったら、そうしていただろう。
 仮にも貴族の血筋として、終わりぎわであっても惨めな姿を見せたくはなかった。
「一つ、お前には心得てもらわねばならんことがある」
 再び曲剣を抜き放つ。
 自分を侮るものに話を聞き入れさせるには、結局それが一番早い。暴力には即効性がある。
「俺は玉座を持ってこいと言われてここにいる。この手の無駄に時間を取られるのは、正直に言って迷惑だ。だから、聞け」
 喉元に切先を突きつけられていれば、否と口にすることなどできるわけがない。
「お前……いや、お前らだな。お前たちは自分たちが他からどう見えるのかという視点が欠けている。その血に流れる誇り高さのせいでな」
 玉座を狙うのはリュネストだけではない。五名家の全てが平等にその椅子を欲しているなら、自分以外の全ての家と武力であれ、政治であれ、いずれは事を構えることになる。
 これは、対処する順を決める戦いと言っても良い。
「リュネストがすぐに他の四家を平らげ、ディルストーンの幼き王を弑し、バンデイアを統一しないのはなぜだ?」
 信じる神が違い、家の来歴に根ざす忠誠心もなく、血統による正当性もない。果たすべき義理や守るべき道義がないのだから、一気呵成に攻め進み全てを手に入れたら良い。
……兵力が不足している」
「そうだな」
 そこに考えが及んだのなら、どうして傭兵に港を閉ざしたのか。
「だから、軍備を増強すべきだと言っているんだ!」
「俺なら、レシーから兵が着く前にリュネストの港を攻めるな。自分に牙を向くとわかっているなら、飼っておく意味はないからな」
 トルガの声は冷ややかだった。