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とおり
2025-11-29 20:46:30
3846文字
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ダイナードフォ
だいぶモブがでしゃばります
ピッツァ!
情報屋との密会も終わり、オキーフは冷めたコーヒーで唇を湿らせる。オキーフの行きつけのダイナーは、まあ
……
この国ではよくあるタイプのダイナーだ。白いタイルの壁、日差しで色が飛びつつある赤色のパイプチェアが店内を彩る。白熱灯が爛々と白黒チェックの床を照らして、わずかに油を纏っているのがよく見えた。キッチンからはフライドポテトが溺れている声がするし、気だるげな店員はローラースケートの爪先で床をつついて車輪を空回りさせる。どこからどう見ても、普通のダイナーだ。
そんな憩いの場で無骨な高耐久ノートPCの蓋を開くのは無粋と分かっていても、仕事をこなさないわけにもいかず。キーボードの指の脂が移って白くなったディスプレイに、オキーフは密会で得た情報を軽やかに打ち込んでいく。
記憶をこぼさないように早まるキータイプの隣で、ぽすんと誰かが座った。
「チーズバーガーとフライドポテト、あとバニラシェイク」
「はーい」
隣の男の端末から、決済完了の電子音が鳴り、ローラースケートが地球を回す。オキーフはディスプレイの右下に出てきた通知のバツボタンを、いつもより強めにクリックした。矢継ぎ早にまた通知が出る。『5等おめでとう! 5%キャッシュバック!』の文字に、オキーフの眉間がわずかばかり緩んだ。
「俺もコーヒーを」
「はーい」
くるくると回るように動く店員が、作り置きのコーヒーをサーブする。オキーフはカウンターの上にあるスティックシュガーを手に取ると、中身を全てコーヒーに流し入れた。
「オキーフ、よくそんなの飲むな」
「お前と違って、俺は一仕事終えた後だ」
「ほーん」
頬杖をついた隣の男──フロイトはオキーフの顔を覗き込む。
「の割には、まだうんざりしている」
「誰のせいで目の下のクマが濃くなっているか、よく考えることだ」
「次の相手はそんなに面倒なのか。楽しみになってきた」
口角を上げるフロイトを見て、オキーフは片方の眉が引き攣った。
「そうか。なら相手がピザにパイナップルを載せても許せるのか?」
フロイトが目を見開いて、オキーフに向かって身を乗り出す。
「それは別問題だぞオキー
……
」
硝煙を纏った疾風が、フロイトの耳を掠める。
間をおかずして、カン! という音が鳴る。
「敵襲〜」
店員が掲げているジュラルミン製のお盆に穴は空くことはなく。噴火して山体が崩壊したカルデラ湖のように多少変形しているが、難なく銃弾をキャッチしていた。
「フっ!?」
フロイトがオキーフの名前を呼ぶ声を最後まで聞かずに、オキーフはフロイトの腕を右手で引っ張って地面に倒し、射線から隠す。フロイトが床に伏せたところで、オキーフは店員のお盆を左手で奪う。割れた窓ガラスの向こうに、フリスビーの要領でお盆を敵に放り投げた。
旧型とはいえ、オキーフは強化人間である。手首のスナップを効かせれば、強化筋肉によって凄まじい回転と推進力をお盆に与え、小さな殺人UFOと化したそれは襲撃者の首を刎ねた。
「ヒュウ、流石」
フロイトが呑気に口笛を吹く。
「顔出すな!」
注意しながらも、オキーフは止まらない。
先ほどまで座っていた、赤いパイプ椅子をドアに向かって蹴り飛ばす。ドアから侵入しようとした敵は、慌ててドアを閉めた。バァン! と鉄同士が激しい音を立てる。
刹那、オキーフは思案する。
敵はわざわざダイナーの中に入ろうとしている。ご丁寧なことだ。殺しが目的ならば、窓ガラスの向こうから銃弾で中を蜂の巣にすれば終わりだろうに。生捕りの命令でも出ているのか? だとすればフロイトか俺を戦力として見ている輩が敵だ。奴らはどこから情報を仕入れた?
多少の情報の漏れは仕方がない。織り込み済みだ。こんなことで目くじらを立てていては時間の無駄だ。証拠にするには弱い。
考えが逸れた。物事はもっとシンプルだ。とにかく今を乗り切る方法を考えればいい。もっとも分かりやすいキーは、既にオキーフの手元にある。
視界の端で、フロイトが腰につけたカラビナとイグニッションキーが輝いた。
敵は何故「今」を好機と判断したか。それが鍵だ。
このダイナーで呑気に飯を食っている時こそチャンスだと思った馬鹿相手なら、制圧は簡単だ。
椅子がドアにぶつかった音がしたことで、敵は攻撃が止んだと踏んだのか、またドアが開く。鉄火場がリスタートする。隙間から黒ずくめの姿と銃口が先陣を切らんと、飛び出してくる。
「いらっしゃいませお客様〜」
店員の間延びした声が、殺伐としたダイナーに響く。
「おい、来るぞ」
フロイトがテーブルの下に身を隠した瞬間、オキーフは懐から拳銃を取り出して、身を深くかがめて──
「ポテトはいかがですか〜?」
店員がオキーフの背中に飛び乗り、デスクワークで凝ったオキーフの肩を、ローラースケートに付いた車輪が抉るようにもみほぐす。骨にまで響くようなセラピーもそこそこに、店員はオキーフを踏み台にして高く飛ぶ。店員は空中で膝を曲げ、ローラースケートの踵にあるボタンを指で押す。
「うわ」
フロイトが思わず身を引くのも無理はない。ローラーが靴底に引っ込んだかと思うと、代わりに出てきたのはピザカッター4輪だ。しかもただのピザカッターではない。綺麗な同心円は知らない、まるでトルネードだ。中心に引き込む風を模したかのように刃がついている。草刈機のブレードを小さくしたものに近いかもしれない。キュイイイン! と甲高く鳴いて、ピザカッターは高速で回転し始めた。
店員は敵の一人にドロップキックをお見舞いする。強烈なピザカッターは、敵の顔面を赤く彩った。もちろんトマトソースではなくて、相手の血によって、だ。
しかし、敵集団はそれだけでは止まらなかった。敵の一人が、太ももにつけたポーチから何かを取り出した。
(スタングレネード、だろうなぁ)
オキーフは他人事のように思う。生捕り作戦なら出てこないわけがない。あまりにもベタな展開だ。サイレンサー付きの拳銃で、手首を狙ってトリガーを2回引く。
「わっ!?」
敵がスタングレネードを取り落とす。慌ててしゃがもうとしたそいつの口元に向けて、さらに1発。口腔から小脳を突き破った。
「パイナップルばかり来るじゃないか。どうせならACが来て欲しいんだが」
フロイトがぼやく。その手には、卓上に置かれていたケチャップのプラボトルが握られている。
「ピザにはペパロニ、それでじゅーぶん」
店員がそう言ったのを合図に、フロイトはケチャップをスタングレネードにむけて投げる。スタングレネードを拾おうとした敵の手に当たり、気が逸れた間隙を店員のピザカッターが割り込んで手首をカットした。
「
……
嵐は去ったようだな」
オキーフが周囲を見渡し、赤で染まった敵を見やる。一人は殺してしまったが、後のメンバーは逃げたらしい。
「ハァ〜掃除だる。あ、でもその前にフロイトくんに料理出すわ。待ってて〜」
店員がローラースケートの車輪を換装し、バックヤードに引っ込んだ。
「オキーフ。相手の練度が低すぎないか? 俺でもわかるぞ。最初にスタングレネードを投げればよかったんじゃないのか」
「そう言ってやるな。ただの日雇いシャブ中か、別に本業があるんだろ。例えば、MT乗りとか」
オキーフの人工内耳が燃焼音をキャッチした。ああ、うんざりする。大きなため息をつく。
そんなオキーフに構わず、フロイトは立ち上がって窓際に駆け寄った。
「オキーフ聞こえただろ!? このブースターの音は珍しいぞ! RaD製の型番二桁台だろうな、53ヘルツは心臓によく響くんだ。どこのジャンクを引っ張り出してきたんだ!?」
フロイトはオキーフに振り返る。
「クソッ、今日はロックスミスで来ていないんだ。手頃なAC
……
いや、MTでもいい。どこかにないか? 早く!」
「俺も今日はジープだ」
「嘘だろ!? オキーフのロケランで終わりとか、つまらないにも程がある! 戦わせろ!」
「お前命の危機って分かってる?」
フロイトが大袈裟なジェスチャーで主張していると、店員がお盆を手に戻ってきた。
「お待たせしました〜、チーズバーガーとフライドポテト、ミルクシェイク」
「作ってもらったところ悪いんだが、ここってMT貸出サービスとかやってないか?」
「フロイトくん、流石にそれは無茶だよ〜。でも」
店員はお盆をフロイトに渡すと、ベルトについたジェットパックのエンジンに火をともした。
「私はカーホップですからぁ、MTやACのコックピットへのお料理お届けもやってましてぇ」
「おいおいおい、最高だ! なら俺をロックスミスまで運んでくれ!」
「フロイトくんってお料理だっけ?」
店員が首を傾げてオキーフの方をちらりと見やる。オキーフはジトりとした目でフロイトを見て、言った。
「
……
ペパロニピザだと思ってくれ」
「よっしゃ!」
「了解、ほかほかをお届けするよ〜。あ、お料理はオキーフくんにあげる」
店員はお盆をオキーフに渡して、フロイトを抱っこする。
「じゃ、テイクオフ」
「援護頼むぞオキーフ
……
うおおおお!?」
店員にしがみついたフロイトが呑気に手を振るも束の間、店員はお店の外へ走ると、すぐにそのままフロイトごと空に飛び立った。
「シェイクだけ貰っておくか」
オキーフはシェイクを急いで飲み、PCを引っ掴むと外に停めてあるジープへ駆け出した。
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