白殊皎(しらよし こう)
2025-11-29 20:12:05
5545文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

華ぬばたまの夜に眠る

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
この作品はぐだ鯖WEBオンリー『ボイラー室横より愛をこめてW 』に連動した(白殊が勝手に考えた)【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけよう】企画にてリクエストいただいたものになります。

◆リクエスト内容
「自己肯定がめためた低くて、他の再臨みたいに土方さんに愛してもらえないと思っているけれど、それでとる行動が意図せず土方さんの庇護欲をかき立てる黒の剣士」

以前白殊が呟いたツイを元にしたリクエストをいただきました!
https://x.com/ShirayoshiKou8/status/1990371005278400616
ふふふ……絹のお寝間着はとても肌触りがよくてとてもよい睡眠に導いてくれるのです。
黒剣ちゃん、もとい近藤さんの綺麗なお肌も、より綺麗に!

というか……。
これ、続き書かないといけませんか?
なんかそんな雰囲気で終わってしまったなぁ、と思うわけです。



 気がつけば、姿は黒の剣士だった。
 カルデアのライブラリで自分が起こした京での特異点の記録を見ていたからかもしれない。

──あぁ、いやだ。

 そう思っても何故か別の姿になることができなかった。
 カルデアここでは稀にそういうことも起こるらしい。
 この姿は誰もが嫌う。
──あの温和な少女あるじさえも、少しの緊張を持って接してくるし、新選組の隊士たちも同様だ。
 そう〝──〟さえも
 それはそうだろう、この姿は人理を揺るがせようとした親玉の姿なのだから。
 端末を返しに部屋を出る。
 途中数名のサーヴァントすれ違ったが、皆一瞬こちらに視線を移し、すぐに目を逸らした。
 その扱いで構わない。
 黒の剣士じぶんなど、消えてしまえばいいのだ。
 そうすればこんなに気を病む必要もなくなる。
 人目を避けた窓辺に立ち自分の姿をガラスに映す。
 白髪に漆黒、前に垂らした毛先は魔力の影響かおかしな色に変色している。
 瞳の色もそうだ。
 微笑むのさえ躊躇われる禍々しい暗紅色の冥い瞳。
 まるで、祖国の伝承に出てくる鬼女きじょそのものではないか。

──あぁ、あぁ……

 それだけで自分は真っ当な存在では無いのだと思い知らされるようで、ドンと窓を叩いた。
 こんな姿では誰にも振り向いてはもらえない。
 なぜこの姿を伴って自分は現界したのか。
 黒の着流しと、浅葱の羽織だけでよかったのに。
「うぅ……ふッ……
 涙で視界がぼやける。
 本当なら、こうして涙を零すのさえ、資格はないと思える。
──寒い、苦しい、辛い……寂しい。
 暖めてほしい相手は、今は不在だった。
 いたとしても、きっと手も触れてくれないだろう。
 自分で自分がねたましいなど、普通あり得ないが別の二つの姿の自分がどうしようもなく嫉ましかった。
 その姿を見つめる〝──〟の瞳は、どこまでも凪いで優しく、慈愛に満ちている。
 この姿の時は訝しげに、警戒をするような光を宿した厳しい目だ。
 おまえには用はない、早く別の姿になるがいい、と言われているような気分になる。
 まかり間違っても愛してはもらえない。
「──ッ」
 こんなところで泣いていても状況は変わらないので足早に部屋に戻る。
 ほとんど何もない虚ろな部屋で寝台に突っ伏して泣いた。
 隣室は〝──〟が他の姿の自分のために己の部屋だというのに暖かく整えてくれてある。
 いつでもいてくれていい、と解除キーも教わっているが、おそらく自分は対象外だ。
 サーヴァントでも疲れは感じる。
 その状態で帰ってきて、自分がいたのでは安まるものも安まらないだろう。
『近藤さん、いるか?』
 コール音がして、扉の外の声が聞こえた。
 戻ってきたのだろう。
「会いたくない」
 おそらく、自分の姿がこれと思わずに訪ねて来たのだと思うと、そう答えずにはいられなかった。
…………
 無理強いは、しないはずだ。
 こちらも解除キーは教えてあるのに、開けて入ってこないのが何よりの証拠だ。
『何かあったのか?』
「なにもない。会いたくない」
……また来る』
 そうしてくれればいい。
 姿が変えられるようになれば、自分から会いに行くから……
「うぁ…………うぅ……
 無性に涙が出た。

 早く時が過ぎればいい。
 早く、別の姿になれればいい。
 なのに、無情にも一日二日と経っても姿は変えられなかった。
 魔力補給のための食事も摂る気がしない。
 多少霊基は衰弱するだろうが、今は主からの出撃依頼も来ていないのだから気にすることもない。

『近藤さん、入るぞ──』
 閉じこもってから三日目、思ったより消耗が激しく動けなかったところにその声だった。
──いやだ。
 そう思ったが、相手が入ってくる方が早かった。
「近藤さん!?」
 妙に力が入らず、寝台の上で無様に伸びている姿を晒してしまった。
「しっかりしろ、近藤さん! えぇい、クソ!!」
 抱え起こされ頬を軽く叩かれる。
「放っておいて、くれ……
 そう答えるのがやっとだった。
 無理に触れてくれなくて構わない。
 そう思って目を閉じた。
 魔力の消耗による凄まじい睡魔が襲ってきたが意識は失えなかった。
 このまま他の霊基に溶けて消えてしまえたら、と思ったが次には何故か意識が急激に回復した。
「!?」
 驚いて目を開ける。
 男の顔が目の前にあった。
 そして唇に当たる熱い感触と鈍い鉄の味、それに伴って炎のような魔力が流れ込んでくる。
………………
「わかるか? 近藤さん」
 自分が目を開けたのを見て、相手はほっと息を吐き出す。
 その唇には紅い血の跡。
 薄く靄のかかった頭ではすぐに状況は理解出来なかったが、衰弱した自分のために相手が何かをしたことは確かだ。
「とし……
 何をしたんだ、と目で問えばぺちり、と軽く頬を叩かれた。
「あぁ……全く、あんたはバカだ! またどうせ自分なんかと思ってやがるんだろう!!」
 その目を怒りではない赤に染めて、土方は近藤に怒鳴りつけた。
「なんで……?」
 なんで自分を助けた、この姿はおまえも嫌っているはずなのに、消えてしまってもいいと思っているだろうに、との響きを持たせて問いかける。
「近藤さん、あんたなんか勘違いをしてねぇか?」
 泣きそうな瞳で近藤の顔を覗き込み、言葉を繋ぐ。
「あんたのことを、消えていいなんて思ったことは欠片もねぇ。あんたは俺の魂の片割れだ。どんなに変性しようと、それは変わらない!」
 ぽたり、と熱い涙が近藤の頬に落ちた。
「苦しいのなら、俺にその苦しみを分けてくれ。辛いなら、頼ってくれ。寂しいのなら何も言わなくてもいいから俺の傍に来てくれ。俺はあんたを、どんなに闇に蝕まれていようとも全て受け入れる」
 泣かぬはずの鬼が、狼が自分のために泣いている。
「俺は、あんたを護りたい。頼りないかもしれないが、心からそう思っている」
 言いながら口元を拭った土方の手に、血が垂れる。
 土方は近藤に魔力を渡すため、自分の口内を切り、そこから流れる血を飲ませたのだ。
 それを見て、近藤は無言のまま吸い付けられるようにそれを舐めた。
 そのまま、土方の唇に吸い付き、舌を絡め血の残り香を啜った。

──暖かい。

 土方の燃えるような魔力が身体の中を巡り、頬が上気するのがわかった。
「とし……
 唇を離し土方を見つめる。
「近藤さん」
「本当に、この俺でもか?」
「あぁ。他に誰がいるってんだ」
「こんなおぞましい、死人の影のような俺でもか?」
 それを聞いて、土方は近藤を抱きしめた。
「暖かいじゃねぇか。どこが死人だよ」
 腕を背後に回し、片手で近藤の頭を丁寧に撫で、それからぽんぽんと優しく背を叩いた。
「だって、俺は……あの特異点で……
「あんたが紡いだのは呪いじゃねぇ。新選組が呪いだというのなら、俺はその呪いのおかげであんたに巡り逢えた。あんたをこうして再び抱きしめることができた」
「俺は……
 だんだんと言葉がなくなってきた。
 どんなに自分を否定しようと、土方はそれを上回る想いを返してくる。
「──あんたに、俺が重く感じるのなら、一言言ってくれ。俺はそれ以上は言わねぇ」
「それは……ない……
 近藤の顔が涙を堪えて歪む。
…………うわぁあああっ……
 黒の剣士は泣いた。
 何かが決壊したように、子供のように、土方にしがみついて大声で泣いた。
「寂しい、辛い、苦しい……寒い……。俺を助けて……たすけて……歳!!」

 ずっと、こうして抱きしめられたかった。
 ずっと、優しい言葉をかけられたかった。
 ずっと、暖かさを注いでほしかった。

──それは手を伸ばせば、すぐそこにあったのに。

「あぁ、寂しいな、辛いな……うん、苦しいか……
 助けるといってもこうして身体を寄せ合い、全てを肯定してやることくらいしかできないのはわかっているけれど。
「寒いなら……暖めてやる。傍にいてやれなくて、すまん……
 身体を求めているわけでも、物理的な寒さでないこともわかっている。
 だから何一つ否定はしない。
 ただただ抱きしめて背を、頭を撫で続ける。
 すこしでも、近藤の心が軽くなるように祈りながら……

「とし……
 やがて、泣き声は小さくなり近藤は土方の胸に縋ってぽつりと洩らした。
「ありがとう……俺を……好いてくれて。そして……認めてくれて」
 暗い影がひとまず去った表情に、土方は安堵の息をもらす。
「いいさ、あんたは俺の星、たった一つの北辰ほくしん……
「大袈裟だ……
 北の頂点に座すしるべの星に例えられ、近藤は苦笑を洩らした。
「あぁ、でも一つ星じゃ寂しいっていうのなら──比翼の鳥でも、連理の枝でも俺は構わないぜ」
……縁起でもない」
「まぁな」
 土方の言葉に近藤は目を伏せ、それでも嬉しそうに口角を上げた。
 長恨歌の有名な一節ではあるが、それは玄宗皇帝が安史の乱で都落ちする時に楊貴妃に語ったとされる言葉だ。
 結局はその二人は別たれてしまった。
 だがその言葉自体は深い愛情で結ばれている一対という意味だ。
「あんたが決めてくれていい。俺は言葉にしなくてもあんたがいればそれで十分だ」
 近藤は改めて目を閉じると、土方の胸に頭をすり寄せた。
「俺も……今は言葉はいらない。おまえがここにいてくれればいい」
「一緒だな」
「あぁ」
 土方はその言葉を受けて近藤の髪に顔を埋め、なによりも愛しいものに頬ずりをした。

 本当に、この男の自分への愛情はどこから来るのだろう。
 星だとか対だとか、よく出てくるものだと思う。
 でもその言葉に自分は癒やされ、暖められている。
 多分自分は、この男の示してくれるものでないと癒やされも暖められもしないのだろう。
──どちらが相手を深く想っているか、なんて比べ始めればきりがないと思うが、自分もこの男に相当入れ込んでいる自信がある。

「愛してる、歳……
 現界してから書物で知った言葉を使ってみる。
 今世には便利な言葉があるものだ。
 長く和歌を連ねて想いを伝えなくても、この一言で済むというのだから。
「ありがとな、近藤さん。俺も……愛してるぜ」
 当たり前のように同じ言葉が返ってくる。
 その幸せを抱きしめて、今日は枕を並べて眠らせて欲しいと思った。
「歳……
 おずおずとその可否を問う。
 答えは──聞かずとも知れていた。

「移動、するか」
 土方はぐるりと部屋を見回してそう言った。
「あぁ、それは俺も同意だ」
 この部屋は余りに殺風景で、気温は調整されているとはいえ心まで冷えてしまう。
「食事は、いいのか?」
 閉じこもっていた三日間、何も摂っていないのを知っている土方はそう聞いたが、近藤はそっと胸に手をやり首を横に振った。
「おまえの魔力で、満たされているから大丈夫だ」
「ならいいんだが」
 土方は余人には絶対に見せないような優しい微笑みでそれを受け取る。
 二人は隣の土方の部屋に席を移した。

 しっとりとした畳敷きの部屋に丸い卓が一つ、そこにいぐさで編まれた敷物が二つ。
 行灯の置かれた部屋の奥には屏風があり、そこに大きめの寝台が隠されている。
「近藤さん、ほら」
 土方は部屋の片隅に置かれている行李の中から絹の単衣とふかふかのバスタオルを差し出した。
「?」
「三日三晩、何もせずに沈んでたんだろう? 湯浴み、しときな」
 それでもちょっとは気分は上がるぞ、と言われて頷いた。
 土方は? と聞けばもう済ませてあるとの返事だった。
 いつも自分にはもったいないほどの着物を用意してくれる土方に、感謝せずにはおれない。
 そして、ひょっとしてこの状況は……と少しどきりとした。
──場合によっては……寝所で求められるかもしれない。
 そう考えが及んでしまって、心臓が高鳴る気がした。
 いい年をした大人の、一応恋人同士なのだから、なったらなったで受け入れるだけ! と決心して浴室で身体を清め、髪も洗った。
 身支度を調え、土方の待つ寝台へ向かう。
「髪、ちゃんと乾かしたか?」
「子供じゃないんだから、大丈夫だ」
 前に流した髪をくるり、と指先に巻き付けて水分を計る土方に、ちょっとふくれてみせて寝台に腰を下ろす。
「大丈夫そうだな」
「歳。……その……なんだ……
 ちょっと身体を縮めて小さな声で問うてみる。
「もし……その……したいのなら……俺は……構わない……ぞ」
 聞いて、土方はニヤリ、と笑みを作った。
「それは嬉しいお誘いだな」
 近藤のおとがいを捉えて、唇に口吸いをする。
「だが、まずは休んでくれ。するのはその後にしよう」
 動けなくなるくらいまで魔力を消耗したのだし、血の摂取よりも効果のある魔力補給の手段とはいえ負担の大きいそれは避けたいという理由をちゃんともらった。
「わかった……じゃあ、目が覚めたら……
「楽しみにしてる」
 自分がまた曇るのではないかときちんと話してくれたことが嬉しくて、それでも恥ずかしくて近藤は赤くなって枕に顔を埋めた。
 そんな近藤を追って土方も布団に入り掛布を引き寄せると、ぽんぽんと背を叩いてやる。
「おやすみ、近藤さん」
「うん、歳も……
 ちら、と土方に視線を移す。
 優しく微笑むその赤の瞳にこの上ない安心感を得て、近藤は目を閉じた。
 目覚めれば、甘い約束が待っている──。