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桜崎
2025-11-29 16:23:30
4644文字
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ストロベリーパイ♡砂糖たっぷり紅茶つき
れめゆみ デートする話。私の中の想像の二人より500倍くらい甘くしたつもり
カーテンの隙間から冬の緩い日差しが覗く。昼前の時刻、広い寝台に人の形がふたつある。
電子音を響かせるスマホを毛布から伸びた手が掴んだ。
しばらくして、音が鳴り止み、また再び同じ音が部屋に響く。それを何度か繰り返しようやく
もぞりと動いた塊が布団を押し退けて起き上がり、寝ぼけた双眸のままぼんやりと手の中のスマホを眺める。数分画面をスクロールしてから思い出したように横の膨らみに視線を投げた。
「
……
ユミピコ、そろそろ起きないと間に合わないかも」
隣の剥き出しの肩を黎明は揺り動かす。のろのろと半身を起こす天堂は白い髪をかきあげて不機嫌そうな顔で黎明を睨め付ける。
「
……
眠い」
「悪かったって。夜更かしさせて」
「そう思うならさっさと神に供物を用意しろ。喉が渇いた」
「はいはい。この間、置いていったやつでいいか? 食いもんは
……
たぶんなんもねえな
……
」
そう言いながら立ち上がり、黎明はキッチンに向かう。
その間に天堂の頭もはっきりとしてきたのだろう。鈍い動作で寝台の端に畳まれた服を身につけていく。洗面台に向かって、身支度を整え、黎明が戻ってきた頃には、首まできっちり詰まった格好で近くのソファに腰を下ろしていた。
「ほら、淹れてきたぞ、文句言うなよ」
「渋い。飲めんことはないが、次同じものを出したら天罰が下るだろうな」
「文句言うなって言っただろ
……
一応これでも作り方調べたんだから」
「まあ、良い。今日行く店は神を満足させるものなのだろう」
「最近オープンして評判らしいな。ユミピコの好きなキャラメルのパンケーキが美味いって」
「早くいくぞ、黎明」
一気に紅茶を飲み干し勢いよく立ち上がった天堂に呆れた視線を向けた後、手元のスマホに移す。
「オレ、まだ着替えてもいないんだから待てって
……
ほら、メニューでも見とけよ」
よほど好きなのだろう。黎明に渡されたスマホを受け取って、画面を覗き込む天堂の表情が輝いていく。
一瞬、二人の顔が重なって離れた。
「口紅が剥げる。殺すぞ」
「いや、なんか可愛いなって
……
」
「まあ良い。今日の神は機嫌が大変良い」
天堂の面ににこりと笑みが浮かぶ。
黎明の襟首を掴んだ手が引かれ、再び同じところに顔が近づく。先ほどより長い。赤い色が移って、その唇を染めていた。
「さっさと顔を洗ってこい」
連れ立って二人が向かったのは可愛らしい外見をした店である。女性とカップルが入り乱れる行列の中、予約をしていたのか、すぐに席に案内された天堂と黎明は、向かい合ってメニューを広げる。神父という奇妙な風体へと黎明の知名度故の視線を集めひそひそと囁きが蔓延する。慣れている二人は、そのざわめきを一瞥すらしない。
しばらくして店員を呼んだ天堂は呪文のようにパンケーキの名前を幾つか唱え、最後に黎明がコーヒーとだけ付け加えた。
「
……
ユミピコ、寝起きでよくそれだけ食えるな
……
」
「これから動くのだから詰め込まねばならんだろう?」
「いや、出てくるだろ、色々
……
」
黎明がスマホでSNSの確認をしている間に山盛りのクリームが乗ったパンケーキが次々に運ばれてくる。それらを前に赤い唇を吊り上げ、ナイフとフォークを掲げる天堂は心底、幸福そうだった。
「あ、待って、ユミピコ、写真撮らせて」
「あ゛?」
空腹で機嫌が悪いのだろう。今にも手にある刃物を目前の男に突き立てる形相である。
「すぐ! 一瞬だから! またユミピコの好きそうな店探してくるからさ」
「
……
神の目でも見つからない所だぞ」
シャッター音が何度か響いて、いいぞという声と同時にナイフが入る。切り分けられ溶けるようになくなっていくパンケーキとクリーム。眺める黎明は面白そうに口元を緩めている。
「今度撮らせてくれよ。ユミピコ、食べ方綺麗だし、大食いの神父なんて絶対バズる」
「神の食事の妨げにならないなら好きにすればいい」
不意に黎明へ差し出されるフォークにはキャラメルのかかったパンケーキが突き刺さっていた。
「一口ぐらい食べろ」
「これユミピコが好きなやつじゃん。いいのか?」
「神を満足させた褒美だ。有り難く受け取れ」
開いた口の中にそれは消える。
「美味いな」
「そうだろう、与えてやった神に感謝しろ」
綺麗な所作で口元を拭い、紅茶を一口飲んでから天堂は食事を再開させた。
パンケーキを三セット食べたとは思えない足取りで次に二人が向かった先には、雑多なもので溢れた大型の量販店だった。
「ホームセンターに神父はすっごい違和感だな
……
」
先ほどの店でも浮いていたが、この店でもおそらく神父と検討付られるその黒い格好は人々からの視線を集めていた。その中に黎明を知る者もちらほら混じっていたが、いつもの服装ではないことで声をかけるの躊躇っているらしい。
選んだ商品が入ったカゴの横、その天堂は縄を握りしめて、引っ張ってはその強度を確かめているようだった。
「通販で買えば良くないか?」
「縄は実物を見なければ使い心地がわからないだろう? 以前、注文したものは細くて使い物にならなかった。安寧の中で救済されるなど業腹だがあんなもの吊り上げる間もなく切れたぞ。
不良品を売りつけた愚か者どもには神の言葉を届けてやったが
……
」
「
……
そういえばこの間、複アカで長々と何か書き込んでたよな」
「悪評が拡散するのは一瞬だ。悔い改めた頃には手遅れだろう
……
他にも色々と悪行を重ねているようだったが神が直接、救済するほどでもない。随分と恨まれているようだったからな」
これはいい。そう言ってカゴに三本ほどいれて、次の棚までカートを押す。すでにカゴの中は山積みであった。
「花壇の土とセメント、ノコギリも必要だな」
「あーすぐに切れなくなるよな〜」
「毎回洗うのは手間だ。斧でもいいが
……
」
「あれは重くてすぐ疲れるんだよな
……
ユミピコ、何かおすすめある?」
「鉈ならどうだ、細かい部分はこちらの方が使いやすい」
「お、いいな、オレも一つ買うか」
黎明の取った箱が許容を超えかけているカゴの上に追加される。それを最後に会計に向かった二人は、配送を頼んで出口に向かっていく。
「ユミピコ、次ゲーセン行こうぜ。新しいの出たから撮っておきたいんだよな〜」
「構わない。神は成長する。この間のようにいくと思うな」
「
……
壊すなよ、頼むから」
喧騒に包まれたゲームセンターでは声が聞き取りづらく、黎明と天堂は顔を寄せ合って会話していた。天堂は慣れないながらもそれなりの腕前であったが、黎明の熟練の動きにはついていけないようである。
互角だったのは音楽に合わせて踊るゲームくらいだろうか。
天堂の沸点を超える前にゲームセンターを後にした二人は、夕食を取れる店を探す。スマホで検索して、ヒットしたのか見覚えのある焼肉店で天堂と黎明は席に着く。
選ぶ必要はないとばかりにメニューの上から下まで頼んだ天堂は来た分から次々と焼き始める。
「ユミピコ、さっき食べた分は何処行ったんだよ
……
」
「先ほど走って完全に神の血肉となったぞ。中々逃げ足の早い咎人だったが神の脚力の前では無力だったな」
一瞬の出来事である。いつのまにか天堂は姿を消して、茂みから再び現れた。黎明が追いかける間もない。
「神の言葉を説いてやった。その罪に贖うなら進んで救済に向かうだろうな」
そう言った天堂は大盛りの白ごはんをかきこんで肉をひたすら食べる。それを何度か繰り返している間に黎明は配信と引き換えに延々と肉を焼く役目を承ったらしい。
「
……
なんかユミピコばっかり目立ってないか。もっとみんなオレを見るべきだろ」
「おまえが配信したいと言ったのだろう」
「そうだけどさあ〜ユミピコを見過ぎじゃね。
ユミピコはオレのなんだからオレだけが見ればいいしユミピコはオレだけ見ればいい」
「私は神のものだ。しかしデザートが来るまでなら見ていてやろう
……
いつもと違うな」
黒いひとつの瞳が黎明を見る。
「浮かれている、ずっとな」
「ふーん、さすがユミピコ、よく見てるじゃん」
「当然だ、神の目は一つになっても衰えはない」
「あーユミピコと二人で行くのって山か海ばっかじゃん? たまにはこういうデートも楽しいなって」
「神はおまえといるのはいつも楽しいが」
出てきたデザートに天堂の意識が移る。黎明が何か口にしたがその声は拾われることがなかった。
「そろそろ出るか。神は健康のため腹八分で満足できる」
「それで腹八分なのかよ。オレは焼肉食べ放題なんて明日の胃が心配なんだけど
……
」
「走るか?」
「やめろ、筋肉痛まで追加されるだろ」
店を出た後、雑談しながら薄暗い街灯の中、歩く影が夜に紛れていく。
「あーそういえばそろそろ世話しないとまずいんだよな
……
」
「三日程度なら持つだろう?」
「水やったかな
……
代わりも期待できねーし。
死んでたらどーしよ、掃除が大変なんだよ
……
ユミピコ、手伝ってくれない?」
見慣れた大通りから横道へ。冷たいコンクリートの道を踏み締めて、知っているマンションが並ぶ通りに入り、エントランスをくぐる。
エレベーターの昇降が止み、六階についたことを知らせる音。廊下を照らす電灯の下、並ぶ部屋を次々と通り過ぎていく。
外から聞こえる足音と声が。二人分。
鍵をかけたはずの扉がまるで当然のように開く。
「オマエずっと見てただろ」
目が、こちらを覗いた。
まるで自宅のように二人はずかずかと部屋に入ってくる。
「そこら辺のカメラにアクセスして見るくらいなら怪しむくらいだけどオレんちに盗聴器とカメラなんてわかるに決まってるだろ」
「まあ神は気づいていたが。明らかにいくつものカメラが不自然に黎明を追っていた」
すくむ脚、が勝手に後ずさる。
軽く周りを見た目が真っ直ぐ合った。
「ここまで見てくるなんて面白そうだし、放置してやってたのに、オマエやっぱりつまんねーな。会社を首になって妻と子どもに出て行かれたとか、よくある話すぎてこんなん飾ってもなんも魅せてくれなさそうじゃん。テラリウム放置して相手するほどでもなかったな」
何も言っていない。のにその唇から己の全て出てくる。
性格と嗜好と人生と言葉に乗せて、ひどくつまらなそうに羅列して、嘆息が最後蓋をする。
「それにオレのことが好きで見てたわけでもねーし。どうせ、たまたま目に入って脅迫のネタでも探してたんだろ。無駄にある知識と技術使ってやることそれだけかよ」
「神も黎明といる時は咎人に対する天罰をすこし控えていたというのに」
「
……
それは嘘だろ」
「直接的な救済はしていない」
突然、長い脚が動く。転倒する体。笑みが潜んだ瞳はもうこちらを見ずに隣の人形のように佇む男だけ視界に入れていた。
「ユミピコ〜どうする? オレいらねーし、赦してやんの?」
「ふん、このような咎人に恩赦を与えるわけがないだろう。パソコンの中身を見たか? 子どもの写真を使って親を脅していたらしい。もはや救済しかない」
「酒? 風呂? 吊るすか?」
「飲酒はあまりしてないようだな、年も若い。自殺願望もなさそうだ」
「んーじゃあ今夜のドライブはまた海にでも行くか。釣りでもしようぜ」
友達と恋人と仲間と笑いあったかのような顔と顔。最期に映ったのはそれだけだった。
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