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A4
2025-11-29 08:36:15
3330文字
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助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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どういうわけか、見栄を張りたかった/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
電気代×パエトーン兄妹を書くつもりだった…。イトアキになる前の話です。
新エリー都の中には人々から忘れられた区画がある。
それはたいてい、共生ホロウの近くで、調査員やホロウレイダーしか近づかないものだから、かつてそこに住んでいた人や通ったことがある人も記憶の片隅に追いやり、思い出さなくなり、話題からも消えてしまう場所だった。また、旧都陥落後に放棄されたところが多いため、エーテル資源もすでに採り尽くされ、近頃は公的機関もならず者もやってくることがほとんどない。
こうした場所はアキラとリンにとってはなじみのあるものだった。
プロキシならではとでもいうのか、頭の中のマップにはいくつも記録されていて、「ちょっとした」「取るに足らない」「言わなければ罪に問われにくい」ことをするのにぴったりなのだった。
「じゃあ、お兄ちゃん、頼んだからね」
「ああ。青衣や朱鳶さんが来たら誤魔化しておいてくれ」
《ご安心ください、助手二号。Fairyは立派にマスターをサポートし勤めを果たしてみせます》
妹とⅢ型総順式集成汎用人工知能に見送られ、アキラは背負ったバックパックの位置を体の負担がないように調整してから、六分街を出た。バスを使って、降りたことのないバス停で降り、それから地下鉄で数駅先に行き、またバスに乗る。目的地の最寄りより一つ前で降りて雑貨屋に入り、合い言葉を店主に告げて中を通り、裏口から出て、ホロウの入り口にたどり着いた。
バックパックが重い。早くこれを「処理」して、「回収」して、店に戻らねば。
今日はピザの気分だった。ホロウから出てからノックノックでリンに頼んでおこうと考える。家に帰ったときにちょうど熱々のピザとニトロフューエルがあれば最高ではないだろうか。よい思いつきににやにやしていると、肩を叩かれて、アキラは文字通り飛び上がった。
「わああああっ」
「お、悪い」
「は? ライトさん? どうして?」
アキラは目を疑った。郊外に拠点を置いていて用事がなければ都市部には来ない男が目の前にいる。しかも、位置的に、ホロウから出てきたように見える。
「ここは新エリー都か?」
「ああ。サンドマン線の近くだよ」
「地名を言われてもわからん」
「新エリー都で最も郊外に近いところ」
「だからここに出たのか?」
ライトは腕を組んで首をかしげた。図体のでかい男の頭の上にはてなマークがいくつも浮かんでいるようで、なんだかかわいらしく、アキラは微笑んだ。
「さあ。でもまあ、エーテルのお導きでここに出たんじゃないかな」
「プロキシともあろうものが適当なことを言うもんだ」
「小さい頃に教わらなかったかい、プロキシに近づいちゃダメって。彼らはほら吹きの人殺しだ、みたいなこと」
「ないな」
茶化したつもりが、ライトはそれを取り合わず、サングラス越しに真っ直ぐこちらを見てきた。その視線から外れて、アキラはため息をついた。
「理由はわからないけれど、うまく出てこれて何よりだ。キャロットデータはあるんだろうね?」
「
…………
」
「はあ。お願いだから、正規でも違法でもいいから、ホロウの中を探索するときはデータを持っていてほしい。もしくは、僕らに一声かけるとか。もちろんきっちりお代は取るけれど」
「忙しいあんたたちの手を煩わせるわけにはいかんさ。そして、俺のお小遣いはちと足りん」
「しかたないな。チャンピオンに限りロハと言えばあなたは僕らを頼ってくれる?」
腰に手をあてて、幼い子どもを叱るようににらむと、今度はライトの方が顔をそらした。
「そんな厚意に甘えられないだろう」
「特別サービスだよ」
「
…………
」
「ライトさん?」
「あ、いや、そうだな。考えてさせてくれ」
「今すぐ即答してほしいところだ。まあ、今日のところは僕も用事があるからこれくらいにしておこう。じゃ、この道を真っ直ぐ行ったらバレエツインズ前で、そこから地下鉄に乗れる。六分街まで行けば帰り道、わかるよね。あ、郊外までの足はある? リンに頼んで社用車で送らせよう。あなたのバイクより遅いと思うけれど」
「あんたの用事はなんなんだ?」
「秘密だ」
アキラはにこやかに答えた。これはこれ以上何も話さないと決めたときの笑顔で、アキラを知る人はこの表情を見ると諦める。まだお近づきになって日も浅いライトに効くかどうかわからなかったが、てこでも動かないと覚悟してしばらくにこにこしていた。
ライトは無言でその笑顔を見ていたが、口の端を吊り上げた。
「護衛がいるんじゃないか?」
「え?」
「ホロウに入るんだろう。しかも、人に言えないことをする。俺は口が堅いぞ。なんなら、金さえ払えばなんだってやってやる」
「へえ」
アキラはそこで感心してしまった。こちらをプロキシと知った上で交渉してくる人間は久しぶりだった。
「ライトさんってそういうタイプなんだ」
「そういうタイプ?」
「カリュドーンの子って良くも悪くも猪突猛進の言葉がぴったりだと思っていた。そこに所属するあなたもそうなのかと。なるほどなあ、いいバランスのチームだ」
「大将があれだけ真っ直ぐだったらどこかで調整役が必要だろう。俺だけじゃない、パイパーやルーシーお嬢様、バーニスだって融通は利く」
「うん。それならシーザーは安心だね」
アキラは話ながら、どう断ろうかと困ってしまった。
背中にあるのはエーテルバッテリーだ。兄妹がうち捨てられた区画のホロウの中でやっていることは、いわゆる「不法投棄」である。エーテルバッテリーは定期的に新品と交換しなければならないが、その金額が馬鹿にならない。が、ホロウの中においておくと、蓄電する力を失ってくたびれたバッテリーは再びエーテル活性化して使えるようになるのである。こういう、こすい手を使って、パエトーン兄妹はH.D.D.、ならびに大飯ぐらいのFairyの消費電力をまかない、少しでも電気代を節約しようとしているのである。
この、立っているだけに様になる男に話すのはやや恥ずかしい。が、正直に打ち明ける以外に、彼の手助けは不必要だと納得してもらうのは難しい気がした。
アキラは肩を落とした。
「あなたと一緒に六分街に戻ることにしよう。それから、僕が車で郊外まで送ってあげる。もちろん、これも特別サービスだ」
「それじゃあんたたちの負担になる」
「いいんだよ。顧客に先行投資して後から見返りを要求するつもりだ。ここぞというときにライトさんには活躍してもらう。どう?」
「あんたの用事はいいのか?」
「今日じゃなくても問題ないからね」
アキラはこれで話を終わりとし、くるりと踵を返すと、来た道を戻った。後ろからライトがついてくる。
本当なら、空のバッテリーケースを置いて、満タンになったであろう前回置いてきたバッテリーを回収するはずだったのに。
やれやれ、当てが外れたと、アキラはチャンピオンに聞こえないように小さくため息を吐いた。
その次の日、RandomPlayではバックヤードが葬儀の日の墓の前のようになっていた。
アキラもリンも顔色が悪い。もともと不摂生でバックヤードが薄暗くモニターの明かりしかない状態というのはさておき、本当に具合が悪かった。手にした、電気料金の支払い明細のせいで。
「お兄ちゃん〜〜〜」
「悪かった、リン」
「赤字だよ!?」
「わかってるよ」
「私だったら絶対、見栄、張らないのに!」
「面目ない」
昨日、どういうわけかFairyが張り切ってしまい、プロンプトを入力してもないのに出力をたくさんしていて、いわゆる「鋳造」が多く発生した結果、消費電力が月の予算オーバーになった。そして、昨日は締め日だった。
「バッテリーがあったらまだなんとかなったかもしれないのに〜〜〜」
《申し訳ありません、マスター。昨日は調子がよかったのです》
Fairyがまったく悪びれずに言う。人工知能とはそういうものだ。
アキラは昨日食べたピザのことを思い出した。ライトを招いてリンと三人で食べた。あの時は美味しかった。
どうして彼に対して虚勢を張ってしまったのだろうと、疑問が芽生える。
が、過ぎてしまったことは仕方がないし、電気代の請求も、なくならないのだった。
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