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A4
2025-11-28 23:15:31
1654文字
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冰秋
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日常のかけら/ 冰秋
開催おめでとうございます!めちゃくちゃ短い話ですが、冰秋っていいなあと思いながら書きました
沈清秋はさらさらと書をしたためていた。
この世界にはキーボードなんてものはない。だから、筆を走らせるのだ。
幸い、魂がこの体に入るまでに、この体は術だけでなく武道も書道も修めていてくれたおかげで、墨をするのも筆を持つのも苦ではなかった。
が、どうにも手癖というのは出るようで、沈清秋の書く字は昔と違うと言われることも度々あった。
最初にそれを告げたのは洛冰河だった。それまで沈清秋は自分の字など意識したことがなかったから、ひどく動揺した。素性がバレたかとも焦った。が、彼は沈清秋の書が好きだと臆面もなく言った。このころは恋慕の情などあろうはずもないから、純粋に、彼の気持ちそのままであっただろう。
「師尊」
声をかけられるまで、沈清秋は洛冰河が部屋に入ってきたことに気づかなかった。それだけ集中していた。
「あまり根を詰められないよう」
「ああ」
「菓子を用意したので休憩されませんか」
「うむ」
沈清秋は筆を置くと、うーんと伸びをしようとして腕を中途半端に上げたところで止まった。
一人の時だけなら気にせず、ばきばきにかたくなった肩と背中をほぐすところだが、ここには洛冰河がいる。彼の伴侶になったとはいえ、まだ沈清秋は猫かぶっていて、行儀の悪いところは見せないようにしていた。まだまだ師尊面していたいのである。
「師尊?」
卓に茶器と菓子を並べていた洛冰河が首をかしげる。
「ああ、いや」
「どうされました」
「ん
……
何、たまにはそなたを抱きしめようと
……
」
なーんてな、と誤魔化そうと笑ったが、洛冰河はものすごい早さで沈清秋に近づくと、がばっと抱きしめた。いや、抱きしめたなんてものではない。沈清秋は締め上げられた。
「痛い痛い痛い痛い」
「あ、すみません。感動のあまりこの弟子は加減ができませんでした」
「複雑骨折するところだったぞ」
「骨を折るのに複雑なのですか」
「粉砕骨折よりマシだな」
「まさか、俺があなたを怪我させるわけ、ないでしょう。力は強かったかもしれませんが
……
」
洛冰河は口をとがらせた。
彼が自分を大切にしているのは知っている。が、感激して、あるいは暴走して、房事の際は毎回服を引きちぎられている。それに世が世なら(?)、自分は四肢切断のダルマになっているハズなので、沈清秋はいつだってボロ雑巾になってもおかしくないのだ。
殺されたくなくて必死になっていた頃を考えると、今の状況はなんとも感慨深い。
「はは、そうだな」
沈清秋は離れてしまった洛冰河に一歩近づくと、腕を広げて、今度こそ本当の意味で、彼の体を抱きしめた。背に手を回すと、衣の下に強靱な肉体があることがわかる。沈清秋は、あんなに華奢だったのに、という白蓮華のころの思い出と、それから今の、この衣を取り払った姿が思い起こされて、懐かしむやら恥ずかしいやらで気持ちがぐちゃぐちゃになってしまった。
「師尊。お茶が冷めてしまいますよ」
改めて沈清秋の体をそっと腕の中に収めて、洛冰河がささやく。
「そなたの煎れた茶は冷めてもうまいからな。まあ、しばらくはこのままでもいいだろう」
「ふふ」
「何がおかしい?」
「師尊がやさしいことが嬉しいのです」
「私はいつもやさしいだろう」
「ご自分で言うところがふてぶてしい」
洛冰河は沈清秋の顔をじっと見つめると、にこっと笑って額に口づけを落とした。
「さあ、休憩してください。そして、今日の作業を終わらせましょう」
「なんだ、甲斐甲斐しいな」
「この弟子は早く師尊をひとりじめして、弟子ではなく相公としてあなたに触れたいんですよ」
沈清秋の体を離し、洛冰河は卓の前の椅子に座って、澄ました顔で言った。
「
…………
」
これには沈清秋も参ってしまい、取り出した扇子を広げて口元を隠し、空咳をした。
こんな一言で舞い上がってしまうとは、自分もどうかしている。
菓子を食べた後に執筆を再開できそうもない。
「そなたはずるいな」
一言いって、沈清秋は最愛の夫謹製の菓子を口にするのだった。
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