Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
桜崎
2025-08-11 10:05:22
4099文字
Public
Clear cache
無題
ドラスツ〜
なんで結婚してないの、この二人
「あなたたちいつ結婚するの?」
この場にはドランクとスツルムと口に出したドランクの母しかいないので当然この結婚という行為はドランクとスツルムの二人に提案された可能性しかなかった。そもそも彼女曰くただの同僚であり、恋人ですらないのであるが、あの時の誤解が解けないまま今日に至っているせいで母の前ではスツルムとは恋人という状態である。満更でもないドランクが誤解を解かないせいでもあるし、母と話すのさえ億劫な関係性で訥々とスツルム殿はただの同僚で、でもそれだけじゃなくってなんて言い出せるわけがない。
今日もたまには顔を出して欲しいという手紙を濁し続けた結果、スツルム経由で実家に帰らされている。
近況を問う手紙に元気ですとしか記さない息子よりもよっぽど充実した内容で何故か文通しているらしいスツルムに催促がきたせいだった。だけどいくらスツルムにたまには帰れ、なんて言われても二人きりで対面したところで一言二言話せば、気まずい無言が続くのが目に見えていているわけで、適当に流しては、日に日に鋭くなるスツルムの視線の厳しさに耐えかねての妥協案はスツルム殿が一緒なら、である。
案の定、この席でもドランクは間を埋めるように口数の多いスツルムの珍しさを可愛いと思うか、出されたケーキを美味しそうに口にするスツルムをひたすら眺めていただけだった。だって、何を話せばいいのかわからない。会話に応えるたびにこの答えは合っているのか、相応しいのか間違えてないのか不安で、その瞳に一片すらの失望と否定の色が浮かぶのが怖くて目を合わせるのさえ、避けている。
だからスツルムから何とかしろ、とばかり睨まれたってドランクは曖昧に笑うしかできない。母とかすかな関係の修復が行われたとはいえ、二人きりで会うのさえ、ドランク自身は勝手に気まずく思っているのに、説得のための言葉を重ねるのはさらに気が滅入る。
「そういうのはまだ考えていないので
……
」
「あら、長い付き合いなんだからそろそろいいんじゃないかしら。
それにドレスがあるのよ、きてほしいし、ねえここで結婚式を挙げればいいじゃない」
「スツルム殿にはすこし大きいのではありませんか?」
「もう直してあるの、とっても似合うと思うわ」
気が早すぎる。が正直ドランクだってみたい。隣にいるならもっと良い。いや他の男の隣なんて嫌だ。
「スツルムさんも着てもいいって手紙に書いてましたよ」
彼女を見る。目が違うと訴えていた。たぶん、服を直すから来て欲しいだとか言われたのだろうし、それがまさかウェディングドレスとは思わなかったのだろう。
ドランクの中でスツルムからの不況を買うことと見たい気持ちが競り合い、唇は開いたまま動かなくなってしまった。それによく考えてみなくてもちょっと半殺しにされるくらいでドランクに何の不利益もない。黙っていれば好きな女の子と結婚できるし、スツルムはドランクをただの同僚としか言い張らないけど、どう考えてみてもそれ以上に大事にされていることくらい知っているのでスツルムの許容をぎりぎり越えていないはずだった。なんだかんだ言ってもドランクのために恋人ふりまでしてくれるのだから楽観的にもなる。
スツルムは特に母親という種類の人間にさらに他人でもあるのだからあまり強く言えないようで苛立っているつま先がドランクの脚を突く力がどんどん強まっていく。比例して勝手に広がっている結婚式の計画が母の呼び出した使用人に伝えられたところでスツルムの抗議は手遅れになった。
どうするんだ、と白い衣装に身を包んだスツルムが言う。見るたびに心臓が軋み、息苦しくなるのでつい直視しないようにしてしまう。
さすがに今日は刺されなかったがこの日に至るまでに八つ当たりされた尻が痛いし、完璧に用意された結婚式の控室で呼ばれるのを待つだけの身としてはもうどうしようもないと思っていた。
別にこの場から二人で逃げてもいいのだけど、かろうじて繋がっている家族の縁の断絶が確定的になる。だからきっと今までスツルムがその行動を取らなかったのはドランクと母に対する優しさだろう。
「えっとぉ、ごめんなさい。その
……
あんまり強く言えないし
……
」
一応、形だけの抵抗はした、が会話もままならないのに状況が好転なんてするはずもない。今も母を前にすると何となく逃げ出したくなるし、家を出たことを後悔はしていないが痩せて老いた姿を見るたび湧き上がる微かな負目がさらにドランクの口を重くしていた。
嘆息と舌打ち。
「
…………
わかった」
諦めた口調がドランクに愛想を尽かしたわけじゃないと思いたかった。スツルムに見捨てられたら生きていけないのに。
そこでようやく彼女の姿を真っ向から見た。綺麗だった。純白に赤い瞳と髪が眩しい。薄く染まった頬に小さく動く朱を引いた唇。可愛い。触りたい。ちょっと抱きしめるくらいならだめかな。でもこの美しいものに触れるのも烏滸がましいし。
実感がじわりとわく。ほんとうに結婚、してくれるんだ。嬉しい。ずっと一緒にいるつもりだったけど契約までしてくれるなら、ドランクが破らない限りきっと永遠だ。
泣きたいほどの幸福感に陶酔してぼおっと見惚れていれば、名前を呼ばれた気がした。
「
……
おまえ、も何か言うことあるだろ」
どうしてか仇でも見るかのような目つきだった。遺言だろうか。今更、たぶん、命は取られない。
家族のことにここまで巻き込んでごめんなさい。それとも結婚してくれてありがとう。何か違う気がする。が黙っているわけにもいかない。
「ごめんね、スツルム殿、こんなことに巻き込んじゃったけどこれからもよろしくね」
言葉が返ってくるより先に呼ばれたので、ドランクが思わず差し出した手をスツルムは一瞥だけして、さっさと一人で歩いて行ってしまった。
「喧嘩でもしてるんですか」
「
…
やっぱりぃ? そう見える〜?」
談話室にはドランクと団長の二人だけだった。のにこそこそと話している。
団の手伝いをして次の目的地まで乗せてもらうことになっていて、まだすこし時間があった。
スツルムの姿はない。甲板で剣を振るっているらしい。らしいというのは付いてくるなと言われずとも態度が示していたので渋々ドランクは引き下がったのである。
スツルムがドランクに対して冷たい、と思うのは気のせいではなかったのが他者から見ても証明されてしまった。もしくはずっと怒ってるようで近頃口数も少ない。
ドランクはあの日の写真と婚姻証明を見返しては、一人口元を緩めているのだけど。
あまりにいつも通りで実感が薄くついつい気になって確認したくなったのを思い出す。
「
……
ねえ、スツルム殿〜、僕たち結婚、したよね?」
一応、軽く頷く程度の肯定が返ってきたことには安堵した。がだからなんだ、と視線が言っていた。
「せっかくだしどこか出かけない? ほら、新婚旅行的な〜」
「別にいいだろ、そんなの」
以前アロハスに誘った時の方が、まだ乗り気だった。
仕事を理由に断られるなら行く意思くらいはあったと思う。これは全く脈がなさそうだった。
あの、これ以上そのことを話題に出すなとばかりの空気にドランクは耐え切れなくなって、それ以降、結婚、については触れられていない。
思い出すんじゃなかった。
あのさ〜と幾分か、明るく切り出す。
「秘密なんだけど、実はスツルム殿と結婚したの〜」
表情は大袈裟なほど、にこやがで、だけど声がさっきよりさらに密やかになる。だってスツルムが物凄く嫌がる。実感が得たくてひとりでいいから祝って欲しいのだがこのことが漏れた時の怒りがすこし怖い。
この間も思わず馴染みの店主に言いかけて、思いっきり刺されて鋭い踵で脚を踏まれた。
照れ、とかなら浮ついたけど、本当に嫌そうだったのでドランクの心にすこし傷がついた。
なんだか結婚してからあまり良い記憶がない。半笑いになったドランクを訝しむ視線が過ぎた。
「いやいや嘘じゃないから! ほんとだからね! ほんと
……
だよね?」
「
……
どうして半信半疑なんですか
……
」
「だんだん自信がなくなってきちゃって
……
」
考えれば考えるほど気分が沈む。
ずっとこのままだったらどうしよう。
「ええっと、その
…
あ! プロポーズとかどうしたんですか」
子どもに気を使われている。さらに落ち込むがせっかく回してくれた気遣いを無碍にもできないだろう。
「プロポーズは
………
」
してない。いつの間にか体裁が整えられて、勝手に結婚式が始まった。慌ただしくて落ち着く暇もなく、せめて、あの時、控え室で話した時にでも言えばよかった。
そういえばスツルムは何か言っていた気がする。ドレス姿があまりにも綺麗だったから、何も考えられなくて、ただただ見惚れていたから耳に音が入っていなかった。いつもの彼女にしては饒舌でそれにどうしてか一部分だけすごく小さい声だった。
でも唇の動きは覚えている。
「
……
あっ!!」
いきなり立ち上がったドランクに驚く相手を置き去りにして部屋を飛び出す。
甲板に小さく姿が見えた。早く傍に行きたくて
どんどん足が早まった。ドランクに気付いたのか振るっていた剣が止まる。
「スツルム殿」
屈んで正面から見るのは眉間の皺。
明らかにドランクが来たのを歓迎していない。がドランクには何一つ恐れることはなかった。
上気した頬と痛いほど早まる心拍が戻らない。
あの時の、聴いていなかったあれは、すき、の二文字だ。絶対そうだ。
好きって言われた。スツルムはドランクのことが好きなのだ。
無敵だったので、嫌そうに何しに来たんだなんて言われたって耳から素通りしていく。
ごとりとスツルムの持っていた剣が落ちた。燃えるように熱くなる体からは焦げついた火の匂いがする。
「好き、好きですスツルム殿、僕と結婚してください」
真っ向から見える瞳の赤い色に浮かぶのが怒りでも何でもよかった。ドランクにはもうそんな些細なことどうでもよかったのだ。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内