桜崎
2025-07-27 14:36:26
2910文字
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無題

ドラスツ〜 R-15くらい。最上限解放見てドランクの印象が変わりました。一回ゆるしたら絶対逃さない気がした

 身体、大丈夫? お腹空いてない?あ、先にお風呂の方がいいかなぁ〜?
べたべたとした飴のような声色だった。
向けられている対象は当然、スツルムだ。
返答は無言。だがドランクが気を悪くしたようなこともなく、その唇は回り続ける。
寝台の上、隣の肌が触れているくらい近く。ドランクは指先を唇をどこかしら彼女に触れさせないと気が済まないらしかった。
 煩い、黙れ、触るな。いつも言っているようなことそれだけでいいはずなのにスツルムは上手く言葉を吐き出せなかった。心臓がおかしな音を立てている。
 昨夜、ただの同僚では発生しない行いがあった。酒が一滴も入っていなかったのがスツルムには致命的だった。好き。だなんて言って迫る男を受け入れる言い訳の最たるものであったのに素面だった。ドランクにもそれがわかっているに違いない。
だからこの男はこんなにも上機嫌でスツルムがどんなに険しい面と態度であっても気にせず、接してくるのだ。酒の間違いで済まされない事実がそこにはただ横たわっていた。
 いつもみたいにへらへらとして、適当で場当たり的な言い方であったならスツルムだって鼻で笑い相手にしなかっただろう。けれどその声色も瞳も厭に真剣でスツルムはそれを拒むのに失敗した。
 家族程度には大事にしているしもう隣にいるのが当然だった。いなくなった時の焦燥を今でも覚えていて、あれほど後悔したこともない。
それだけならこれほど頑なにならずにいられたし、もう少し素直に接していただろう。
 だってこれが父と母と兄妹たちに対して抱くただの家族愛ではないことを自覚はしている。自覚していてもスツルムにとってこの感情がただただ気恥ずかしく、受け入れ難いものだ。あまつさえ、昨夜のことが羞恥心に拍車をかけた。
乾いた音。ドランクの手を振り払った音である。
それでも崩れない笑みに余計頭に血が上る。なんであたしばっかり。
飛び出したのは存外、低く冷え切った声だった。
「一回寝たくらいで恋人面するな、鬱陶しい」





 あんなこと言うつもりはなかった。かすかな後悔はある。それだけは確かでしかし今更引っ込められるものではない。恥ずかしい。腹が立つ。何であいつだけ余裕ぶってるんだ。スツルムに好きだと言った唇はあんなに震えていたのに。
 同僚の範疇を超えた行いと同時に冷たい仕打ちを受けたと言うのにドランクがあまりにいつも通りなのでスツルムは話の糸口が掴めず倣って変わらない振る舞いを続けている。
 ドランクから始めたのにスツルムだけ意識しているなんて馬鹿みたいだ。苛々する。適当な理由でついドランクを刺しても、いつもの反応が返ってくるだけ。毎回、すこし嬉しそうなのが相変わらず気持ち悪い。
 何日かそんなふうに過ごした。依頼を受けて、終えて、一緒に夕食を取って、同じ部屋で眠る。今まで続けてきたことと変わり映えなく、スツルムはこのままあの時の行為も言葉も記憶の底に押し込めていればなかったことになるんじゃないかなんて思っていた。あんな羞恥心を抱くようなことを、自分では制御できない感情に晒すのは厭だったから何処かで安心していて、当然、ドランクに対する警戒などなく、だからこそ今、この状況に頭が追いつかずにいる。
 寝台の上。押し倒されているこの体勢は二度目だった。青い髪が視界を遮る中で瞳が三日月のように細められて、スツルムを見ていた。
殴ろうと思った右手に指が絡む。見透かされている。いつもそうだ。
……何」
している。考えている。続けるより先に唇が塞がって言葉が喉に沈んだ。触れるだけだったものがあの時の夜に繰り返されたような深いものに変わっていく。生ぬるい感覚が不快だと思えたら。厭だと思えたらたぶん舌くらい噛んでいる。一度ゆるして二度目だから抵抗する気は失せているのも何処か気に入らないのだけど、それ以上にただ厭に騒ぎ出す心臓の音の煩わしさが密着するのは耳の良いエルーンだから聞かれたくなかった。
そんな些細なこと、今更なのに意識しているのが腹立たしく勝手に上がっていく熱もまた苛立ちを助長させる。
 思ったんだけど。と笑うドランクがうっすら染まった頬を撫でる。冷たい。違う。スツルムが熱い。
「何回で恋人にしてくれるのかなって」
は、と不可解な問いに対する答えと息苦しさから解放された呼吸が混ざって落ちて消えた。
「だってえ、スツルム殿言ったじゃない、一回寝たくらいで恋人面するなってじゃあ何回寝たら恋人面していいのかなって思ってさあ」
頬から首、に長くて綺麗に切り揃えられた爪先が滑る。
さっきからずっとずっとその顔にわざとらしくかたどられた薄い笑みがある。スツルムはそれ、があまり好きじゃない。誤魔化すようによそよそしい笑みが何かわからないほど付き合いが短いわけじゃない。
……おまえ、怒ってるのか」
「怒るぅ? 僕がスツルム殿に? そんなわけないじゃない。ただほら、ちょっと……ね、
ずっと好きな子にいいよって言われたらさ、そりゃあ嬉しくて舞い上がってて、これからは堂々と恋人らしいことできるかなあなんてウキウキしてたわけなんだけど、そこにあんなこと言われたらやっぱりすこしはショックうけちゃうよね〜」
耳朶に触れた指先が揃いのピアスを鳴らす。気が散るから外そっか。同じ言葉をドランクと寝た夜に聞いた。返事も待たず勝手にピアスを外したドランクは自身のも纏めて置いて、軽くなった耳を何が楽しいのか飽きずに触れる。
「スツルム殿は恥ずかしがり屋さんだし、ちょっと時間を置いて落ち着きたいでしょ、だからいつも通りにしてたらいいかなって思ってたんだけど……
そのまま、なかったことにしそうだし。
嘘つき。怒ってるじゃないか。舌打ちしたらこわ〜いなんてわざとらしく言うくせに、服に手をかけはじめる動きを止める気はなくて、熱い指先が舌がむきだしになった肌を撫でていく。
迫り上がってくる羞恥心が限界を越えるのはあっという間で、長い耳を掴んで顔を上げさせる。ぞわりとした感覚がいつまでも残っていて睨むのさえうまくいかない。
っ、おい、やめろ、ドランク、殴られたいのか」
「やだなあスツルム殿ったらそんなことしないでしょ。僕もスツルム殿のこと大好きだけどスツルム殿も僕のことすご〜く好きじゃない。やだったらさっきだって舌噛んでたでしょ〜?
それに、ここもいい音だよねえ、顔も真っ赤だし」
ドランクの指が沈んだ左胸が形を変えるたびにどくどくとさらに脈打つ。何を言っても口だけで顔の熱は下がらないに決まっている。スツルムが奥歯を噛み締めるのを見て可愛いだなんて言ってくるものだから余計腹が立つのに、握りしめた手のひらが振り下ろせない。それを優しく解いて口づけるドランクは相変わらず笑っている。
「こないだはね、手加減したの。スツルム殿は初めてだったし痛い思いだってさせたくないし、優しく優しくしてたの」
腿を撫でていた手が脚を割る。入り込んできた身体が密着するといよいよ心臓が痛いほどなり始めた。
「僕のこと恋人にしたくなったら教えてね」