桜崎
2021-04-14 18:37:46
1669文字
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瑠璃色に沈む月(おまけ)

最後入らなかったとこをちょっと加筆してのせてます。

 長期の仕事から戻ってきてからドランクは、この頃ね、お兄ちゃんがよく遊んでくれるのと嬉しそうに話す幼い娘と息子に首を傾げたものである。彼女たちの兄はドランクと一緒に仕事に出ていたので相手は家族ではない。疑問はすぐに氷解した。
 寝物語にドランクがいない間の話を彼女から聞いている中、該当する人物が登場したのである。
「最近、よく野菜を持ってきてくれるやつがいる」
「へえ、そうなんだ〜、たすかるね」
 彼女のこめかみに口づけながら心にもない同意をした。何となく察してどうも気のない返事になってしまう。
 それが恐らく、子どもたちの言うお兄ちゃん、だろう。よくよく聞けば若いエルーンの男でなにかと理由をつけて頻繁に家に来るらしい。もしかしなくてもスツルムに懸想している。ドランクも彼女に惹かれてまんまと夫の位置に収まった一人の男なのでその気持ちはとてもよく分かるが早急に諦めて欲しい。 
 そんな思いを込めて、こっそり首筋に痕を刻んだ。よく見なければ気づかないような位置だが彼女を好いているなら目に入ってもおかしくない。スツルムの付き合いに口出ししたくないし何かあるとは思わないが牽制くらいは隣にいる特権として使わせてもらいたい。
 スツルムも好意を寄せられていると気づかないものだろうか。気づかないだろうな。鈍いから。それに以前、彼女の実家に行ったが周りとの付き合い方がドランクが想像している以上に近かった。スツルムにとっては普通の距離感なのだろう。
 再びドランクにとって世界一かわいい顔に唇を近づけてよく見れば眉根が寄っていた。ばれてしまっただろうか。今夜は駄目かもしれない。久しぶりに帰ってきて、長男が幼い子どもたちを寝かしつけてくれているからせっかく二人きりなのに。
 惜しみながらも身を引く寸前、首筋に腕が絡んで彼女の唇がドランクの鼻先に触れた。ばつの悪そうな顔。勢い余って口づけを失敗したに違いない。
ぱちぱちと瞳を瞬いた。口元が緩みそうになるのを耐えて、憮然とした表情を眺めていれば、釦に指がかかる。はだけた胸元へ顔が埋められるものだから我慢できなくなって固めていた唇が崩れた。
「どうしたの、今日のスツルム殿は積極的だねぇ〜」
言葉の代わりに舌が這う。ぞっとした。赤い耳に触れる。彼女の肩が震えた。顔が見たいと思った。だけど続きをしてくれなくなるかもしれない。触れてくれるなんてこんな機会滅多にないだろう。胸元から腹に下へ下へと口づけていく感触にじっと耐えながらドランクは理性を必死に制してその体に腕を回すだけにとどめた。





 籠の中の野菜を仕分けしていくスツルムの背後から腕を回すドランクはその小さなつむじを見下ろしていた。蹴っても殴ってもドランクが抱きつくのをやめないのでどうやら諦めたらしい。数ヶ月離れていたせいか今、彼女はすこしだけドランクに甘い。
「あいつが持ってくるのはいつも美味い」
「うん、この野菜、美味しそうだよね……
 彼女の口に入るのはこれが最後になるだろうけど。随分、萎びていたから恐らくもう家には来ない気がする。
 肩口に頭を寄せる。首筋に色づく赤い痕。スツルムはまだ気づいていないがあの男の目には入ったに違いない。
 一回り以上若い男相手に大人気なかっただろうか。いや、既婚者に近づいてくる方が悪い。ドランクの奥さんはとても可愛いので惹かれるのも仕方ないのかもしれないが。
「何かまた礼をしないとな」
「スツルム殿は律儀だよね〜お礼って前は何したの?」
「クッキーを渡した。甘いやつ。子どもたちが好きだろ」
 すこしだけ可哀想な気持ちが湧いた。相手は期待したかもしれない。がスツルムには息子がひとり増えたようなものだったのだろう。
「おまえも好きだろ」
……まあ、好きだけど……え〜僕まで子ども扱いなの」
昨日、あんなことしたのに。
……っ、耳元で話すな!」
振り返った面も耳も赤い。可愛い。殴られる覚悟はとうにできているドランクは、その色に誘われるように唇を寄せた。