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桜崎
2019-11-07 18:21:17
2046文字
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探さないで
狛日♀
探さないで
狛枝が失踪した。ここで浮上する問題は、あまりにも頻繁に起こることなので姿を消したことではなくこれが不運にも何かしらの事件に巻き込まれての故意的なものか、狛枝自身が選んで身を隠した意図的なものであるか、だった。大抵、可能性は五分五分でだが今回は明らかに後者であった。探さないでなんてあからさまに目につく場所にメモが残してあったのだから、こんなものさっさと探しにきてと挑戦しているわけで、筆跡ですぐに検討がつくのは日向くらいであり、結局、有給を消化しながら狛枝を殴りに行かなければならないのだ。毎回毎日、必死で探し回る日向の身にもなって欲しい。日向の個人的感情はともかく、有能な男を遊ばせておく余裕はないのでほぼ組織からの命令で強制力があるのが腹立たしい。そこまで狛枝は計算して姿を消しているのがまた余計に苛々する。
平凡な日向は地道に狛枝を捜索するしかない。
唯一、日向の手札である復興作業のなかで培った人脈を駆使しながらようやく辿りついたホテルのロビーで狛枝は、悠々とその一角に座っていた。地球の裏側だ。来るまで探す手間と来るまでの時間で一週間。今まででは早い方だ。慣れてきたのかもしれない。
「おい、狛枝」
振り返る瞬間、とりあえず拳を振った。
「
…
痛いんだけど。平手じゃないなんて可愛げのかけらもないね」
「平手でもう一回殴ればいいか?」
「あは、遠慮しておくよ、それより思ってたより遅かったね」
「当たり前だろ」
つまらなさそうに溜息を狛枝は吐く。日向は狛枝が望んでいることなんか絶対に叶えててやらない。
「
…
使えばいいのに。それならすぐにボクなんか見つけられるんだから」
「そんな必要、ないだろ。こうやって見つかるんだから」
「次はわからないよ?」
次は、ない。もうこれで最後にする。狛枝が立ち上がった。
日向の横を通り抜ける狛枝の腕を日向は不意に掴んだ。視線が絡む。その瞳には何も見えない。だけど確信がある。馬鹿みたいに無意味に同じことをただ繰り返す男ではないのを日向は一番知っている。ずっと見てきたから。
「お前、私のこと好きだろ」
真っ直ぐ見据えていたからその彫刻のような表情がすこし崩れたのがはっきり分かった。
「
……
はっ? 何言ってるの!? キミみたいななの好きになるわけないよね? 何にも才能のない平凡で希望ですらないキミを」
嘲笑を貼り付ける面が歪だ。あまりにも見慣れていたから動揺が日向には筒抜けだ。
「それだ、お前。認めたくないから私の才能を使って探して欲しいんだろ」
仮想世界から目覚めて残ってしまったあのカムクライズルの才能を日向は使おうとは思わない。彼女にはもう必要ないものだ。だが公にすればきっと問題になる。他の仲間を巻き込むのも厭で誰にも話していなし、狛枝の前では一度も使ったことはないのに何故か知られてしまったらしい。きっとそのせいでこんなことに巻き込まれている。狛枝は日向に恋情を抱いてしまったのが厭なんだろう。絶対に認めたくない。
そんな人間を狛枝は好きになんてなりたくないから、日向の才能を見たくなったのだ。それなら許容出来るから。自分を赦してただ崇拝出来るから。馬鹿だなあと思う。
「
……
っそんなのキミの妄想だ。バカじゃ
…
」
ネクタイを引いた。その唇は冷たい。日向はさっきからずっと熱いから丁度いい。
「私はお前が好きだぞ」
目前で朱に染まる頰。こんなにも近いのだから誤魔化すなんて出来ないのだけどそれでも狛枝はきっと強情でまだ認めようとなんてしないだろうから日向は、それを押し付ける。
「
……
何これ」
鍵。とだけ答えて。
「好きにしていいぞ」
と笑った。
「
……
は?」
狛枝が視線を向けた先にはイチイチゼロハチ、と部屋番号が付いている。このホテルの一室の鍵だった。部屋だけの話じゃないと囁くよう付け加えれば狛枝はそう鈍感ではないのでその意味を察して明らかに顔色を変えた。鉄の擦れる音がする。狛枝が鍵を握りしめたのだ。その脚は出入り口とは反対に歩き出す。日向の掴んだ手を自身から絡ませて向かうエレベーターは無人だった。点灯する十一が狛枝の顔で隠れる。
「
……
まだ、聞いてない」
日向が手で制すれば忌々しそうに狛枝は身を離して、奥歯を食む。
逡巡は長かった。
「
……
好きだよ、キミが」
まるで仇を前にするかの如く苦々しく溢されたそれがすこし可笑しくて腹立たしい。だが口にした言葉は確かで才能なんてない平凡な日向を好きだって言ったのをもう絶対に忘れてやらないし、さっきまでの日向への態度なんてなかったよう狛枝は好き勝手に唇を重ねてくるものだから意趣返しくらい赦される。ここまで来るのにも狛枝の矜恃に散々、振り回されたのだし。
「
…
譲ってもらったんだ、この鍵」
鈍く赤、が灯った。
「
…
なあ、どうやってだと思う?」
悔しそうに双眸が細められたのを目にようやく溜飲が下がった気がして、ずるいと音を吐く唇に同じものを重ねた。
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