顔がいい。それは随分と生きていく上で得だろう。全てが全てというわけにはいかないが、少なくとも現在の状況下で日向に対しそれは十二分に発揮されていた。
綺麗な顔が迫ってくる。それに比例して日向の心拍は跳ね上がっている。長椅子に押し倒されている場で目的がわからぬほど日向は愚鈍ではない。
「や、やめろって……!」
「イヤなの…日向さん……?」
悲しそうに面を歪ませないでほしい。整った相貌では罪悪感が過剰に上乗せされるのだ。思わず首を縦にふりたくなる。形の良い唇。長い睫毛。白磁じみた肌。灰を水に溶かしたかのような綺麗で大きな瞳。各部品が整った上でそれが左右対称、精巧に並んでいるのだ。日向がこのやけに端正な顔に弱いのは何も今回に限ったことではない。
狛枝を嫌いではなかった。ただ恋愛対象として見ておらず、日向にとっては友人程度のつもりであったのだ。だが狛枝は違う感情を抱かれていたようである日、告白された。結果は綺麗な面を染めて言われた故の日向の敗北であった。気づいた時には頷いていたのだからあまりに恐ろしい。
今日の自宅への訪問もまたその顔に負けたせいである。真っ直ぐ見つめられて甘えるように懇願されて断れるはずがなかった。
思い返せば現在の格好は何もかも日向が狛枝の顔面に絆されているせいで招いた事態である。幾分か自己の責任であると囁く思考を捨て置き、八つ当たりも込めて忌々しく睨み付けたが口づける為か接近してくる顔に早々、陥落した。眼前へその面が在る状態はあまりに恥ずかしくて、近づかれると瞼を閉じてしまうのだ。
それは今までのような触れるだけの口づけではなく、酸欠を催すほど長い。柔やかな舌の感触は意識を溶かす。ゆるりと離れていく唇を少し惜しんで 双眸を開かした。
細められ熱を帯びた瞳。どきりとした。何時も穏やかな微笑を飾っている様からは想像出来ぬほど余裕のない面にはむき出しの欲情があった。ひどく心臓が痛い。こんな表情を見られるなら。そう過ぎてしまった時点で結果は決まったようなものである。
「……ここじゃ嫌だ。ベッド連れてけ」
喜色の輝く笑みに止めを刺された気がした。顔が好きでさらに惚れてしまっては勝ち目なんてないのだ。赤面する顔を隠すようにその肩へ埋めた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.