桜崎
2016-02-02 19:29:16
853文字
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唯一の


闇に散る残滓が瞼の裏に焼きついていたはずだった。
 復旧していく世界、過去となる記憶は薄れていく。あの時、七海がどんな風に笑っていたのかすらもう思い出せない。
 ある日、プログラムを起動した。深淵に落ちて落ちて、懐かしい島でその姿を見つけた。
座り込む彼女はおもむろに面を上げる。
………日向、くん?」
「七海……!」
砂浜を踏みしめて傍らに駆け寄った。
 もっと早くこうやって会いに来ればよかったのだ。たとえ七海がプログラムでも、構わない。ただ言葉を交わせるだけで十分だ。
「なあ、また、来ていいか?」
……えっと……でも、日向くん、忙しいんだよ、ね……?」
「たまにだから大丈夫だ」
伸ばした手で頭をそっと撫でた。作られたものだったとしても、暖かいと思いこむ。
 それから暇を見つけてはその世界に日向は入る。七海と並んで、仲間の事、未来機関の事、日向自身の事、話をする。
七海は変わらない少し眠たげな相貌で日向の話を訊いてくれる。
「じゃあな、七海。またくる」
……うん、……待ってるね……日向くん」
 仮想の世界から戻ると丁度、左右田がいた。
ちょっと驚いたような顔をして、それを見上げる。
「おめえ、すげーな、今度は何作ったんだよ」
「え」
組んだプログラムとその巨大な機械を目に左右田が感嘆の声を上げた。
残っていた才能を使えばそれくらい容易で。しかし、ならば七海の世界は日向が創造したものであり。それは紛い物に過ぎなくて。
嗚呼、七海は本当はあんなふうに笑っただろうか。もう分からない。
 信じたくなかった。あの時、日向を掬いあげてくれた七海は昏い闇に溶けて、消えてしまったのだと。
どんなに才能があっても、いくらプログラムを組み直したって、きっと日向の理想でしかない。微笑んで自分を信じろと言ってくれた彼女とは違う存在だ。
……左右田、これ、壊しておいてくれるか?」
「え、いいのかよ」
「ああ、もう、いいんだ」
 想像でしかない掌にある感触が何時までも残っている気がした。