桜崎
2015-02-14 01:36:17
1128文字
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バレンタイン


「日向さん」
助手席に会社帰りの狛枝が乗り込んでくる。扉が閉まる音。外套を脱いで、温風に翳す狛枝の手は冷え切っているのかいつも以上に白い。
「今日、寒かったんだな、お疲れさま」
「うん、雪が降ってたくらいだからね」
「そうなのか、家から出なかったからな……
2月14日、バレンタインの当日。その為、一日かけてチョコレートを作ることに集中していた日向は、窓の外すら見ていない。今は止んでいるようだが、確かに気温は低く雪が降っていてもおかしくないだろう。
 チョコレートとふと思い、ちらりと狛枝を伺ったが仕事用の鞄を持っているだけで何も手にしていない。
……お前、貰わなかったのか?」
「何?チョコレート?ちゃんと全部断ったよ」
「ふーん、そうか……
嬉しさと同時に何だか面白くないのは断ったという事実が少なくとも狛枝に好意を持っている相手が一人でもいると分かるからだ。こんなことで胸の内でもやもやと暗雲が過ぎるのだから存外、心が狭いのかもしれない。
「狛枝」
苛立ちを隠そうとせず名を呟いて視線を引き寄せた。ネクタイを引いて唇を重ねる。ぐいぐいと押し付けて、酸素を奪えば、は、と短い息が合間に落下する。深く絡ませては、引いて、軽い口づけを繰り返す。柔らかな感触を食み、零れた唾液を舐めとって唇をゆっくりと離した。目元の赤い狛枝に気分が少し晴れる。嗚呼、こんな貌にさせられるのはきっと自身だけだ。
「ん……キミからだなんて珍しいね、どうしたの?」
……ちょっと黙ってろ」
再び唇を近づけてしかし、長い指がそれを阻む。口づけたばかりのそこを形を辿るようなぞられ、狛枝の顔には微笑が浮かぶ。
「もしかしてやきもち?くれようとしたのだけでもやいちゃった?」
……っ黙れっていって、うわっ!」
背もたれが倒れて狛枝を仰ぐ形になった。降りてくる唇が日向の声を奪って口づけを深めていく。
「そんなことでも嫉妬してくれるんだ、あは、かわいい……
………うるさい」
真っ赤になった頬と囁くような音ではきっと何の意味もない悪態だろう。見透かされている事が腹立たしくて恥ずかしくて引き結ぶそこに再度、口づけが落ちた。
舌でなぞって口端を掬う狛枝の恍惚じみた表情が目前を占める。
「は、ぁ……ねえ、日向さんから甘い味がするよ……
……お前にあげるチョコ、さっき味見したばっかりだから」
「あは、美味しいよ、日向さん……ねえ、全部、食べていい?」
頬を撫でて笑う艶っぽい面にどきりとした。端正な相貌な分、達が悪い。劣情に溶けた双眸を向けられれば逆らう事が難しくて、気が付けば頷いている。
八つ当たり気味に頭を抱き込んで拗ねるよう尖らせた唇を同じものに寄せた。