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桜崎
2014-11-11 20:39:54
1279文字
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ポッキーの日
「日向クン、はい」
差し出されたのは一本のポッキー。茶色いチョコレートの部分が日向に向けられていて、狛枝の意図する所は今日が何の日か考えれば自ずと分かってくる。
「
……
しないからな、ポッキーゲームは。何かあってお前の喉とかに刺さったら大変だぞー」
「
……
それ、普通に食べる分にもあり得る危険だよね」
不機嫌を如実にしながら狛枝は徒に日向の唇をポッキーでつつく。もちろん日向の上唇と下唇は強固な意思で閉じられ先すら通す気もない。
「
……
どうせ恥ずかしいからやりたくないんでしょ、日向クンってば」
つまらなそうに嘆息を散らした様子に引き下がるかと安堵し、だが狛枝との距離はむしろ近くなったように思える。それは杞憂ではなく鼻先が触れるほどの位置、意識せずとも面が紅潮して熱い。ねえ、と形のよい唇がそうかたどった。たったそれだけでも心臓が跳ねる。
「ポッキーがイヤだって言うなら
……
」
陶器のような滑らかな指先で胸を突かれる。するすると下って腹を通過。危うい箇所を掠め、息を詰める日向の前に晒されるのは口端を吊り上げる狛枝の顔だ。
「他の場所、くわえてあげようか?」
「よし、ポッキーゲームするぞ、狛枝!」
これ以上呑まれては引き返せない。慌てて狛枝を引き剥がし強張った笑みを張り付ける。
「
……
キミの変わり身の早さは呆れを通り越して感服するよ、そんなにイヤ?」
「男なら喘ぐより喘がせる方がいいに決まってるだろ
……
!?」
「
……
ボクなんかの気持ち悪い声より日向クンの方がかわいいのになあ、昨日だって
……
むぐ」
狛枝が片手に持っていた箱から拝借、彼女の口封じに走る。
「
……
ポッキーゲームするんだろ
……
あと、お前の声はその、かわいいからな」
聞こえるか聞こえないかの音量で囁きながら、狛枝と同じように口に含んだ。真っ正面から灰の瞳を覗くのは何時になってもひどく緊張する。ゆるりと意地が悪そうに歪められるのは日向の頬が既に朱に染まりきっているからだろう。
日向は一口分進め、だが、そのまま重心をかけて二つに割った。咥内に残る分を咀嚼して飲み下し曖昧に笑う。
「終わったなー」
「
……
日向クン」
不服を全面に飾る狛枝は、半分になったポッキーを噛み砕いて日向を睨む。視線をそらし無言に浸る狛枝に日向は苦笑してその頬に手を伸ばす。日向と変わらない温度が心地よい。
「あのな狛枝」
「
……
なに、日向クン」
機嫌を損ねた狛枝は俯いたままだ。
もう一方を合わせて頬を両手で包む。そのまま持ち上げて強引に視線を絡め口付けた。ほんの一瞬。目を開けて触れたばかりの唇を指で柔くなぞった。
「キスしてほしいなら普通に言えよ」
「っ
……
!?」
自身の心境は狛枝に見透かされているが、日向だって同じだ。それなりの時を過ごしてきたの恋人の考えだって多少分かるようになったつもりである。
「日向クンの癖に生意気だよ」
平常だった顔が崩れ桜色に染まる頬が、ああ、かわいいと思う。
「
……
かい」
「え?」
「
……
もう一回してよ、日向クン」
小さな呟きに日向は首肯して、ゆっくりと唇を重ねた。
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